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【882 カエストゥス 対 帝国 ⑯ エロールの力】

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無理だ!

アンソニーの熱線がさらに威力を増した時、エロールは瞬時に結界が持たないと判断した。
だがここで結界が破られれば、自分だけではない。後ろのフローラとウィッカーまで殺されてしまう。

「・・・ヤロウ・・・なめんなぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!」

水色のマフラーの左の先端を突き出し、その一点にのみ魔力を集中させる。
これまで全体を覆っていた面による結界ではなく、点による結界。力を集約させたその技は、アンソニーの熱線を見事に押さえつけた。

熱線と結界がぶつかり合う激しい音が響き渡る。
その熱量は周囲の雪を溶かし蒸発させ、吹雪さえ寄せつけなかった。

エロールの後ろで治癒にあたっているフローラは、二つの力がぶつかる衝撃を体に受けて、倒されそうになった。
身を屈めて衝撃に耐えながら、自分達を護るために体を張るエロールの背中に目を向けた。


「エロール君、負けないで!」

耳が痛くなるくらいの轟音の中、フローラの声はかき消されてエロールには届かない。

だが気持ちと祈り・・・想いは届くはずだ。

エロールは背中に感じた温かいものに、踏みとどまる力をもらった気がした。
そして気力を振り絞った叫びを上げると、僅かながらに熱線を押し返した。

「ウォォォォォォーーーーーッ!」


この熱線で決める。それだけの力をぶつけたアンソニーは、エロールの予想外のねばりに僅かに目を開いた。

力量は自分の方が圧倒的に上である。それはここまでの応酬で分かった。
だが今、自分の熱線が僅かだが押し返されている。これはどういう事だ?

「・・・この局面で私の熱線に、結界を点で合わせる度胸と集中力・・・そしてこの魔力の爆発力・・・貴様、その力はなんだ?」

精霊使いのアンソニーは、自分の魔力を消費する事なく、思うがままに精霊の力を使う事ができた。

底をつく事の無い無限のエネルギーを、好きなだけ使ってきたアンソニーにとって、限界という言葉は知っていても、経験はした事がなかった。

そのため今のエロールの状態が理解できなかった。

この魔法使いでは耐え切れない熱線を撃ちつけた。
一点に集中させた結界で防がれたが、破れるのは時間の問題だった。

それがなぜ急に持ち直し、あまつさえ熱線を押し返せる程の力を発揮できたのか?


「決まってんだろ?彼女が応援してくれたからだよ」


気合を込めて水色のマフラーを前に突き出す!
ぶつかり合う力の均衡が崩れ、アンソニーの熱線が完璧に弾かれた!

「なにッ!?」

万に一つも負けるはずがない。
絶対の自信を持っていたアンソニーは、熱線が弾かれ事に目を見開いた。

動きが止まったのはほんの短い時間だった。だが死線をくぐり抜けて来たエロールが反撃に移るには、十分過ぎる時間だった。


「もらった!」

魔法使いのエロールは、腕力、脚力、共に体力型には遠く及ばない。
それどころか、魔法使いの中で最も戦闘に向かない白魔法使いであり、体格は魔法使いの中でも小さい方である。つまり最も戦闘に向かない人間だった。

だが生来の気の強さ、負けん気ゆえに、エロールは前線に出る事をいとわなかった。

王維継承の儀では、帝国軍第三師団長、ジャック・パスカルを相手にし、その後のブローグ砦では、第二師団長のルシアン・クラスニキに対して一騎打ちまで挑んだ。

最も戦闘に向かない白魔法使いが、最も戦闘向きの性格をしている。

アンソニーの実力はエロールのはるか上である。だがエロールの秘めた爆発力、そして思い切りのよさは、計り知れないものがあった。

「オラァァァー---ーッ!」

エロールの突進に迷いはなかった。格上の相手に対しての恐れの無い一歩は、地力を埋めるに値する一歩である。それゆえにアンソニーは、自分の懐への侵入を許してしまった。

左手はマフラーの先端を握り、右手は左手より少し上の部分を握る。
そのまま魔力を流してマフラーを高質化させると、破壊の魔力に変換させて、右から左へと一気にマフラーを振り抜いた!

「ぐぁッッッ!」

アンソニーの胴に打ち付けた水色のマフラーは、耳をつんざく轟音を響かせて大爆発を起こした!
その体から黒い爆煙を引かせながら、アンソニーは空中へと吹き飛ばされた。
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