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【877 カエストゥス 対 帝国 ⑪ 火の精霊使い】

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「ラァァァーーーッ!」

ペトラの振るう一撃は、帝国兵に受け太刀を許さなかった。
上段からの振り下ろしは、受ける剣を真っ二つに斬り砕き、そのまま鉄の兜ごと帝国兵の頭を叩き割った。

自分に向けて撃ち放たれる魔法の数々、剣の腹で刺氷弾を受け切り、両手で剣を振るい爆裂弾を撃ち落とす。

「その程度で私を殺れると思うな!」

大剣を足元から天に向かって振り上げる!その剣圧は、正面から来るウインドカッターを消し飛ばした。

「くっ!な、なんだこの女!?」
「つ、強い!」
「怯むな!一斉にかかれ!」

たった一人の女によって瞬く間に数を減らしていく。剣も魔法も攻撃の一切が通用しない。
金髪の大剣使いペトラを相手に、帝国は圧倒されていた。


・・・ウィッカー様、ここは私が食い止めます。ネズミ一匹そちらへは行かせません!!


「貴様らごとき私一人で十分だ!ここを帝国の血で染めてやる!」


気力を漲らせて振るう剣は、一太刀のもとに帝国兵の命を刈り取っていく。

数十、数百の帝国兵に囲まれていても、ペトラはまったく意に介さない。
その戦いぶり・・・返り血を浴びながら剣を振るい、髪を、頬を、鎧を赤く染めていくペトラの気迫は、ある種の狂気すら感じさせるものだった。

「う、うわぁぁぁー----・・・ぐっ!」

剣を振り上げて向かってきた兵士の胴を、横一線、真っ二つに斬り飛ばす。

「あ、ありえねぇッ!」
「お、女の腕力で鎧ごと真っ二つなんて、どういう事だよ!?魔道具か!?」

「い、いや、違う、あの女の動きを・・・よく見てみろ・・・」

ペトラを囲む兵士達が動揺している中、それに気が付いた兵士が固唾を飲んで指を差した。


「ハァァァァァァー----ー-ッ!」


それはまるで嵐のような凄まじさだった。
上半身を大きく回し、全身を使って大剣を横薙ぎに一線する。回転を緩めずにそのまま後ろの帝国兵へと突っ込んでいくと、先の回転の勢いを生かして屈強な兵士達を一撃で叩き斬る。
ペトラの足は決して止まる事がなく、動きながら斬り続けていた。

「・・・っ!そ、そうか!」

帝国兵の一人がペトラの攻撃力の正体に気付くと、最初にペトラを指差した兵士が、そうだ、と言葉を口にして頷いた。


「そう、遠心力だ。あの女・・・一度も止まってないんだ。まるで全身バネだ。クルクル回転しながら飛び跳ねて走って、全ての動きが攻撃につながってやがる。あの速さに回転力も加わって、おまけにあの大剣だ・・・鎧ごとぶった斬られてもおかしくねぇよ」

その兵士は冷静に分析した。自分にあの動きができるだろうか?答えは否。

体力型として鍛えに鍛えた精鋭の一人と自負しているが、金髪の女剣士と同じ動きをしていては、数分も持たないだろう。
自分達が囲んでいる女の戦力は、数百人で囲んでいてもまったく勝てる気がしない。

相手との戦闘力の差を、冷静に分析できたからこそ、今の状況がどれだけ絶望的だか理解できた。


「チッ・・・おい!お前達!びびってんじゃねぇぞ!相手は女一人だ!全員でかかれば勝てる!」

このままではこの女一人にやられてしまう。十分にそれが理解できたからこそ、今ここで総攻撃をしかけなければならない。何百人殺られようと、せめて相打ちには持ち込んでみせる!

大剣を振り回し、帝国兵を斬り殺して暴れまわる女に向かって、突撃の号令を出した。

恐怖はあった。だが、この女は危険過ぎる。帝国兵達もまた、祖国のために命を懸けてこの場に立っているのだ。

恐怖を超えた使命を胸に、帝国兵達は剣を持って立ち向かって行った。






風を纏い空を飛んで、その場を離れた。向かう先は城の前に立つ、あの火の精霊使い。

俺の魔力を温存させるため、ペトラが代わりにあの場に留まってくれた。あれだけの数に囲まれても、ペトラの表情は自信に満ちていた。

もう並みの兵士では、何百人集まってもとうてい敵わない。
それほどペトラの戦闘力は高いのだ。だから俺もペトラになら安心して後をまかせられた。


ペトラもあいつには気が付いていた。城の前に立つ火の精霊使い。
皇帝にたどり着くための最大の難所が、おそらくあいつだ。

俺のトルネードバーストを弾き飛ばし、城壁の前で燃え盛る業火、光源爆裂弾によって起きたこの爆炎が、城の中に入らないように見えない何かで防いでいる。これもおそらく火の精霊の力なのだろう。

この力だけでも脅威だが、もう一つ懸念があった。

パトリックさんの遺体は、左胸に穴が開いていた。それも何か熱を発するもので貫かれて、焼かれたような跡だった。そばで倒れていた魔法兵達にも、同様の穴が胸や頭に開いていた。

これも火の精霊による攻撃の一種なのだろう。
傷跡を見る限り、遠距離から炎を飛ばしたのだ。それも力を集約するように、圧縮して貫通力を高めた一発だ。並の結界ではあっさりと破壊されるだろう。単純だが、それだけに厄介で恐ろしい攻撃だ。
防ぐことは不可能と考えた方がいい。

防御は全て回避しかない。火魔法も爆発魔法も通用しないだろう。かなり制限された戦いになる。

精霊使いを相手に、俺は勝てるだろうか・・・・・




・・・・・そして俺はたどり着いた。

足元の風を弱め、ゆっくりと地面に降り立つ。お互いの距離は数メートル程開いている。

「・・・お前が精霊使いか・・・」


長い金色の髪、髪と同じ金色の目をした男だった。
線が細く、一見戦いなどできない優男という印象も受けるが、その認識はこいつの目を見て、すぐにあらためさせられた。

こいつの目は、不気味なくらい静かで冷たかった。
何を考えているかまったく読めない。読めないが一つだけ分かった。

こいつは俺を何とも思っていない。

戦争をしてい敵国の人間に対して、怒りも憎しみも何もない。
ただ、目の前に現れたから排除する。せいぜいその程度にしか思われていない。


「・・・・・」

「だんまりかよ?まぁいいさ、敵とおしゃべりする気は俺も・・・ッうぐぁぁぁー----ーッ!」

無言のまま俺を見ていた火の精霊使いだったが、その目が光ったと思った瞬間、俺は体の中、血管という血管が焼かれるような、凄まじい熱に襲われてその場に倒れ込んだ。


「あ・・・ぐ、あぁ・・・こ、これ・・・は・・・!?」


両手と両膝を着き、なんとか体を支えているが、これまで味わった事のない、体の中を焼かれるような耐え難い苦痛。全身から汗が吹き出し、眩暈さえもおぼえた。
呼吸もうまくできず、ただその場で浅い息を吐いて吸って、意識を保つ事だけが精いっぱいだった。




雪を踏む足音が近づいて来る。

一歩一歩・・・ゆっくりと、だが俺に向かって足音は近づいて来た。


そして目の前にそいつの靴が見えた時、俺はゆっくりと視線を上げてそいつの顔を見た。

そしてゾッとした。



「・・・・・焼かれて死ね」



まるで感情のこもらない無機質な声が耳に入った。
飽きて興味の無くなった玩具を捨てるような、そんな眼差しと冷たい声。


「・・・お、お前・・・いったい・・・・・」


しかし、それより何より・・・こいつはいったい・・・・・なんだ?


さっきまで金色の目だった。

だが今は真っ赤に・・・まるで紅蓮の炎のように、赤々とした目が俺を見下ろしていた。
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