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【873 カエストゥス 対 帝国 ⑦ 結界技の極意】
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幼少の頃より、父ロビンに魔法の手ほどきを受けて来た。
魔法兵団に入ってからも真面目に鍛錬は積んできた。だが、副団長ロペスと、父ロビンの壁は厚かった。
魔法兵団には所属していないが、年下のウィッカーとジャニスは、それぞれの分野で大陸一とまで言われ、一目置かれる存在にまでなっていた。
自分はいつまで経っても二番手三番手なのか・・・・・
そんな劣等感も持っていた。
だが、パトリックは腐らなかった。
根が真面目な性格という事もあったが、一番の理由は、最愛の妻が支えてくれたからだ。
ヤヨイはパトリックが劣等感を持っている事に気が付いていた。
パトリックが口に出したり、態度に出したわけではない。
夫婦にしか分からない事がある。
何気ない事、ささいな事でも、いつもと様子が違う。
敏感にそれを感じ取ったヤヨイは、パトリックに声をかけた。
原因を無理に聞き出そうとはしない。
けれど、なにがあっても自分は味方であり、自分にとっての一番は夫のパトリックである。
それだけを伝え、そして毎日声をかけ続けた。
・・・おはよう。気持ちの良い朝だよ。
・・・お昼は何が食べたい?なんでも言ってね。
・・・おかえりなさい。今日もご苦労様。
・・・疲れた時は言ってね?私、マッサージ得意なんだよ。
・・・パトリック、私、パトリックと結婚できて本当に幸せだよ。
・・・この世界に来て、あなたと会えて良かった。
特別な事をしたわけではない。
ただ、ヤヨイの言葉はパトリックにとって何よりの力になった。支えになった。
自分を愛し、信じてくれる人が一人いる。それだけで十分だった。
それだけで自分は腐らずにやっていける。
けれど戦争が始まり力が必要になった。もう自分だけの問題ではない。
護るべきものがある。力をつけなければならない。
青魔法使いの自分が今以上に力を付けるためには、同じ青魔法使いに学ぶしかない。
師と仰ぐべき人物、それはブレンダン・ランデルをおいて他にいなかった。
ブレンダン様・・・俺はウィッカーやジャニスに比べて才能が無い。
何百回、何千回やっても、一度も返しは成功しなかった。結界は受けるだけのもの、それが当たり前だった。
それを動かして魔法を撥ね返すなんて、常識外れもいいところだ。
ベン・フィングとの試合で、ブレンダン様が初めて返し見せた時、俺は本当に驚いたし、きっと自分は一生かかっても、あなたには届かない。追いつけないと諦めてしまった。
けれど・・・今は違います。
あなたは俺ならできると信じてくれた。俺の努力を見てくれた。
俺は天才ではない。
けれど、努力はしてきたつもりだ。
届かない天才達の背中を見て、それでも腐らずに努力は続けて来た。
これまで一度も成功した事はない。だったら今日ここで成功してみせる!
「ウォォォォォォォォォォォー---------ッツ!」
正面を向いたまま右足を後ろ引いて、左足は前へ一歩踏み出す。
そのまま腰と両手を右から左へ一気に振って、結界を動かした!
「なッにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーッッッツ!?」
人の体など、丸のみにしてしまうであろう巨大なエネルギーの弾。
絶対的な破壊の力。爆発の上級魔法、光源爆裂弾。
ジャミール・ディーロは驚愕した。
目を疑うどころではない。今なにが起こったのか?それをまともに理解できなかった。
自分が撃った光源爆裂弾が戻ってきた?
まったく理解できない。なぜ撃ったものが戻ってくるのだ?
目の前の死にぞこないが張っている結界を破り、そのまま周囲の敵をまとめて爆死させるはずだった。
その際に味方にも被害がでると思われるが、そんな事は気にする必要はない。戦争に犠牲は付き物だ。
ジャミール程の実力者が撃った魔法ならば、イメージ通りになって当然であり、そうなってしかるべきである。
ジャミールには理解できなかった。
なぜ結界にぶつかった魔法が自分に撥ね返ってくるのだ?
結界は魔法を受けるだけだ。なぜ撥ね返って・・・・・っ!?
光源爆裂弾が結界にぶつかる瞬間、僅かに感じた違和感・・・・・そう、結界が回ったように見えた。
「ま・・・まさかッ!?」
撥ね返したというのか?
その可能性がジャミールの頭をよぎったその時、撥ね返された破壊のエネルギー弾はジャミールの目の前、回避不可能な距離まで迫っていた。
予想外どころではない。思いつきも、そもそも考える事さえした事のない反撃だった。
「し、しまッッッーーーーーー!」
「もう遅い」
パトリックの言葉は届いていないだろう。
だがジャミールは、自分がまんまと罠にはまった事は理解した。
わざと結界を破壊させ、自分の力が到底ジャミールには敵わないと思わせる事。
挑発を繰り返し、大技を使わせるように仕向けられた事。
そしてそれが意味するところは・・・・・
俺の魔力ならばこの魔吸の鎖を突破できると見込んだのか!?
轟音と共に大地が激しく揺れ動いた。爆発にともなう黒煙が立ち昇り、空を黒く染め上げていく。
完全に意表を突かれたジャミールは、己の光源爆裂弾の直撃を受けた。
その威力、凄まじさは、カエストゥスの魔法兵が放った光源爆裂弾とは、比べ物にならない威力だった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・これが、結界技の極意・・・返しだ」
練習では一度も成功しなかった技。
高鳴る心臓の鼓動。
精神の高揚から早まる呼吸。
そして遅れてやってきた達成感。
自分達の魔力で倒せないのなら、自分達より強い魔力の持ち主に倒してもらえばいい。
例えばジャミール自身の魔法ならばどうだ?
「・・・お前は強かった。だから負けたんだ」
濛々と空まで立ち昇る、黒く巨大な爆煙を見つめながら、パトリックは決着を言葉にした。
魔法兵団に入ってからも真面目に鍛錬は積んできた。だが、副団長ロペスと、父ロビンの壁は厚かった。
魔法兵団には所属していないが、年下のウィッカーとジャニスは、それぞれの分野で大陸一とまで言われ、一目置かれる存在にまでなっていた。
自分はいつまで経っても二番手三番手なのか・・・・・
そんな劣等感も持っていた。
だが、パトリックは腐らなかった。
根が真面目な性格という事もあったが、一番の理由は、最愛の妻が支えてくれたからだ。
ヤヨイはパトリックが劣等感を持っている事に気が付いていた。
パトリックが口に出したり、態度に出したわけではない。
夫婦にしか分からない事がある。
何気ない事、ささいな事でも、いつもと様子が違う。
敏感にそれを感じ取ったヤヨイは、パトリックに声をかけた。
原因を無理に聞き出そうとはしない。
けれど、なにがあっても自分は味方であり、自分にとっての一番は夫のパトリックである。
それだけを伝え、そして毎日声をかけ続けた。
・・・おはよう。気持ちの良い朝だよ。
・・・お昼は何が食べたい?なんでも言ってね。
・・・おかえりなさい。今日もご苦労様。
・・・疲れた時は言ってね?私、マッサージ得意なんだよ。
・・・パトリック、私、パトリックと結婚できて本当に幸せだよ。
・・・この世界に来て、あなたと会えて良かった。
特別な事をしたわけではない。
ただ、ヤヨイの言葉はパトリックにとって何よりの力になった。支えになった。
自分を愛し、信じてくれる人が一人いる。それだけで十分だった。
それだけで自分は腐らずにやっていける。
けれど戦争が始まり力が必要になった。もう自分だけの問題ではない。
護るべきものがある。力をつけなければならない。
青魔法使いの自分が今以上に力を付けるためには、同じ青魔法使いに学ぶしかない。
師と仰ぐべき人物、それはブレンダン・ランデルをおいて他にいなかった。
ブレンダン様・・・俺はウィッカーやジャニスに比べて才能が無い。
何百回、何千回やっても、一度も返しは成功しなかった。結界は受けるだけのもの、それが当たり前だった。
それを動かして魔法を撥ね返すなんて、常識外れもいいところだ。
ベン・フィングとの試合で、ブレンダン様が初めて返し見せた時、俺は本当に驚いたし、きっと自分は一生かかっても、あなたには届かない。追いつけないと諦めてしまった。
けれど・・・今は違います。
あなたは俺ならできると信じてくれた。俺の努力を見てくれた。
俺は天才ではない。
けれど、努力はしてきたつもりだ。
届かない天才達の背中を見て、それでも腐らずに努力は続けて来た。
これまで一度も成功した事はない。だったら今日ここで成功してみせる!
「ウォォォォォォォォォォォー---------ッツ!」
正面を向いたまま右足を後ろ引いて、左足は前へ一歩踏み出す。
そのまま腰と両手を右から左へ一気に振って、結界を動かした!
「なッにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーッッッツ!?」
人の体など、丸のみにしてしまうであろう巨大なエネルギーの弾。
絶対的な破壊の力。爆発の上級魔法、光源爆裂弾。
ジャミール・ディーロは驚愕した。
目を疑うどころではない。今なにが起こったのか?それをまともに理解できなかった。
自分が撃った光源爆裂弾が戻ってきた?
まったく理解できない。なぜ撃ったものが戻ってくるのだ?
目の前の死にぞこないが張っている結界を破り、そのまま周囲の敵をまとめて爆死させるはずだった。
その際に味方にも被害がでると思われるが、そんな事は気にする必要はない。戦争に犠牲は付き物だ。
ジャミール程の実力者が撃った魔法ならば、イメージ通りになって当然であり、そうなってしかるべきである。
ジャミールには理解できなかった。
なぜ結界にぶつかった魔法が自分に撥ね返ってくるのだ?
結界は魔法を受けるだけだ。なぜ撥ね返って・・・・・っ!?
光源爆裂弾が結界にぶつかる瞬間、僅かに感じた違和感・・・・・そう、結界が回ったように見えた。
「ま・・・まさかッ!?」
撥ね返したというのか?
その可能性がジャミールの頭をよぎったその時、撥ね返された破壊のエネルギー弾はジャミールの目の前、回避不可能な距離まで迫っていた。
予想外どころではない。思いつきも、そもそも考える事さえした事のない反撃だった。
「し、しまッッッーーーーーー!」
「もう遅い」
パトリックの言葉は届いていないだろう。
だがジャミールは、自分がまんまと罠にはまった事は理解した。
わざと結界を破壊させ、自分の力が到底ジャミールには敵わないと思わせる事。
挑発を繰り返し、大技を使わせるように仕向けられた事。
そしてそれが意味するところは・・・・・
俺の魔力ならばこの魔吸の鎖を突破できると見込んだのか!?
轟音と共に大地が激しく揺れ動いた。爆発にともなう黒煙が立ち昇り、空を黒く染め上げていく。
完全に意表を突かれたジャミールは、己の光源爆裂弾の直撃を受けた。
その威力、凄まじさは、カエストゥスの魔法兵が放った光源爆裂弾とは、比べ物にならない威力だった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・これが、結界技の極意・・・返しだ」
練習では一度も成功しなかった技。
高鳴る心臓の鼓動。
精神の高揚から早まる呼吸。
そして遅れてやってきた達成感。
自分達の魔力で倒せないのなら、自分達より強い魔力の持ち主に倒してもらえばいい。
例えばジャミール自身の魔法ならばどうだ?
「・・・お前は強かった。だから負けたんだ」
濛々と空まで立ち昇る、黒く巨大な爆煙を見つめながら、パトリックは決着を言葉にした。
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