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【871 カエストゥス 対 帝国 ⑤ 防御力】

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「いいな!これは一度しか通用しない!気合を入れていけ!」

パトリックの策を聞き、魔法兵達は、はい!と力強く返事をし、残った魔力を漲らせ戦闘体勢に入った。


「オラァァァァァーーーーーッ!」

ジャミールが止めとばかりに力を入れると、灼炎竜が唸り声を上げた!
一段と大きさを増し、その体長は10メートルを超えてパトリックの結界にぶつかった。

自分の魔力では防ぎきれない。それを感じ取ったパトリックの表情には、絶望ではなく好機!
策を成功させるための第一段階が、想定より速く訪れた事に対して、その心中には実行に移る緊張はあった。だが自分を信じ、命を預けてくれた部下に対して、応えなければならない!


「オォォォォォォーーーーーーッ!」

あえて踏ん張らずに結界を破壊させる。

パトリックはジャミールの灼炎竜を、抵抗せずにそのまま受け入れた。
その結果、青く輝く結界は粉々に粉砕され、自身の命を奪える距離まで灼炎竜の侵入を許す事になる。

演技と加減が必要だった。

わざと結界を破壊させるにしても、それを敵に悟らせてはいけない。
そのためパトリックは、自分から地面に倒れ込んだ。足の踏ん張りがきかず、押し負けたと見せるように。

結界も自分から力を抜く分けにはいかなかった。
押し合いをしているのだから、パトリックの抵抗はジャミールにも感覚で伝わっている。
今以上の魔力を出して抵抗はしないが、露骨に力を抜いて破らせるわけにもいかない。
現状を維持したままあえて破壊させ、その上で倒れて隙を見せる。灼炎竜の前に無防備にその身をさらす事になるため、勇気と覚悟も必要だった。


見上げると、ほんの数メートルだけ空けて、炎の竜が火の粉を散らしながら自分に目を向けている。
パトリックの心臓は跳ね上がり、全身から汗が噴き出した。今すぐに結界を張りたかったが、ジャミールを策にはめるため、意思の力で無理やり恐怖を抑え込んだ。

「ハッ!頑張ったが・・・ここまでだったな!」

この状況でパトリックが結界を張らないのは、たった今天衣結界を破られたから。
もう一度張っても無駄だと悟っている。ジャミールはそう解釈し、疑う事もなく掲げた右手を、死を告げるように振り下ろした!

炎の竜がその巨大な顎を開けて、パトリックの頭に喰らいつこうとしたその瞬間!

「トルネードバースト!」

横から撃ち放たれた三つの竜巻が、灼炎竜の顎を撥ね上げた!

「あぁッ!?」

へし折ったと思った魔法兵達の反撃に、ジャミールが苛立ちを見せる。
三人がかりのトルネードバーストでも、灼炎竜の顎を撥ねるだけで精一杯だった。
それで稼げる時間は僅かなものである。だが、それで十分だった。

「竜氷縛!」

残りの魔法兵の二人の内一人が撃った氷の竜は、灼炎竜をかいくぐり、本体のジャミールの足元に喰らいついた!

「ぐぉッ!この、てめッ!」

攻防一体の灼炎竜だが、すでに撃っている以上、ジャミールの体を護っている炎は薄くなる。
そして狙いが体の中心ではなく、一番炎の薄い足元であるならば、実力的に劣っていても不可能ではない。

下に見ていた相手に足元を氷漬けにされ、ジャミールに僅かながら動揺が走る。
その一瞬の隙を狙い撃ち放たれたのは、爆発の上級魔法。

「光源爆裂弾!」

「なにィッ!?」

ジャミールに生まれた一瞬の隙を突いて、最後の魔法兵が光輝く破壊のエネルギー弾を撃ち放った!

トルネードバーストで灼炎竜を撥ねつけ、竜氷縛で動きを止める。
そして最後の一人がジャミールに最強の爆発魔法をぶちかます。



申し分のないタイミングだった。灼炎竜も離れており、足元も氷で固められている。
避ける事はできなかった。

光源爆裂弾の直撃は凄まじい爆発を起こした。
その破壊力は大地を抉り、割り、揺らし、爆風は周囲で戦っている両軍が、一時的に剣を止めて防御に回る程だった。



「はぁっ・・・はぁっ・・・きまった!・・・どうだ?」

光源爆裂弾がまともに入った。この魔法は別格と言っていい程、破壊力が強い。
いかに相手が格上であっても、まともに受けて耐えられるものではない。
喰らえば死ぬ。そう言い切っていい程の魔法だった。

濛々と立ち昇る黒煙を前にして、光源爆裂弾を放った魔法兵は、息を切らして身構えていた。

光源爆裂弾を受けて、生きているはずがない。
そう考える事が普通であり、常識と言ってもいい。だが、団長のパトリックの言葉を信じるのならば、これでは終わらない。

「はぁ・・・はぁ・・・っ!?」


爆炎を吹き飛ばし姿を現したのは、浅黒い肌のチリチリとした髪を編み込んだ男、ジャミール・ディーロだった。

「まさかよぉ・・・光源爆裂弾まで撃ってくるとはなぁ・・・やってくれたぜ」

深紅のローブはボロボロに破れ、繊維の切れ端が体に引っかかっている状態だった。
頬や肩、胸からも血が流れているが、傷そのものは浅く、皮一枚を切った程度に過ぎない。
その目を見れば分かる。ジャミールは光源爆裂弾の直撃を受けて、ほとんどダメージを負っていない。

しかし一番目を引いたのは、ボロボロのなったローブの下から現れた、鎖帷子(くさりかたびら)だった。

「・・・やはりな、俺の雷の指輪を受けてもダメージが無かったんだ。光源爆裂弾でも一発では倒せない可能性もあると思っていた。その異常な防御力、それが魔道具か?」

パトリックが鎖帷子を指す。確信を持った口調に、ジャミールはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「勘が良いな。そうだ、これは、魔吸の鎖、俺の魔道具だ。魔法とそれに準じる力を、この鎖一つ一つが吸収して無効化できる。つまり、俺を倒すには魔法では不可能だ」

「・・・本当にそうか?」

「・・・あ?」

パトリックの指摘に、ジャミールの表情が笑いが消えた。

「完全に無効化できるのなら、その傷はどう説明する?僅かなものだが、傷を負っているという事は、ダメージが通っているという事だ。つまり、その帷子には限界があるという事だ。絶対防御ではない」

「・・・ふ~ん、まぁ気付くか・・・あ~あ、てめぇらと遊ぶのも、そろそろ飽きたなぁ・・・」

切れた頬から流れる血を拭い、ジャミールの眼が鋭さを帯びた。
全身から放出される強烈な魔力が、ジャミールが本気を出した事を告げていた。



・・・・・くる!

ここからが勝負だ!

パトリックが構えると、魔法兵達も残りの魔力を振り絞り戦闘体勢に入った。


「そろそろ・・・・・ぶっ殺してやるぜぇぇぇぇーーーーーッ!」


ジャミール・ディーロの両手から、破壊のエネルギー球が撃ち出された。
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