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【863 友情が教えてくれたもの】
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ジョルジュ・・・・・
あと少し・・・あともうほんの少しだけ俺が速ければ・・・・・
「ジョルジューーーーーーーーーーーッツ!」
手を伸ばしても届かない。それでも友を助けるために手を伸ばす。
猛吹雪が全身を濡らし視界を防ぐ。だが俺にはハッキリと見えた。
友の・・・ジョルジュの姿が・・・
俺がもっと速ければ・・・俺にもっと力があれば・・・・・
200年の時が経っても、俺はこの時の光景を忘れる事ができない。いや、忘れるわけにはいかないんだ。
帝国を倒すまで。俺の心から復讐の火を消さないために、この戦いを忘れる事なんてあってはならない。
「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」
絶叫!喉が張り裂けんばかりの絶叫が響き渡る。
「ふっ・・・痛かろう・・・さすがの、貴様も・・・手の平で、爆発させた、風の、刃は・・・防げまい・・・」
ワイルダーの左手は、五本全ての指が切り飛ばされていた。手の平も皮がめくれ、肉は抉られ、噴水のように真っ赤な血をまき散らしていた。
掴まれていた体が解放されると、ジョルジュは力なく落下し、その背中を地面に打ち付けた。
ワイルダーの拳を何十発と受けた事により、全身には数えきれない程の傷跡を付け、出血も多い。
そして受け身すらとれなかった事が、ジョルジュの抱えているダメージの大きさを表していた。
「ぐぅぅぅぅぅ・・・!き、きさまぁぁぁぁぁーーーーーーッツ!」
怒りに顔を歪ませ、ワイルダーは足元で倒れているジョルジュに怒声をぶつけた。
「や、やはり・・・お・・・俺を、確実に、捉えているな・・・・・」
強風による地吹雪が、倒れているジョルジュの姿を一瞬にして消していく。
雪をかぶり白んだ視界の中、ジョルジュは黒い肌の大男を見上げ、虚ろな意識で考えた。
なぜ目が見えないワイルダーが、こうも正確にジョルジュを捉えられるのか。
いくつかの可能性を考え、そして思い至った。
「音・・・それと・・・血の匂い、だな?」
おそらく俺の息遣い、そしてこの体から流れている血の匂い・・・こいつはそれで俺を見つけているんだ。たったそれだけで、見えている時と変わらない動きをするとは・・・恐ろしい男だ。
「はぁ・・・はぁ・・・ジョルジュ・・・ワーリントン・・・俺を、ここまで追い詰めるとはな。素晴らしい力だった・・・貴様のような男と戦えた事を、誇りに思うぞ」
無尽蔵の体力を思わせたワイルダーだったが、大きく息が上がり、いよいよ限界が見えて来た。
「言い残す言葉はあるか?」
右足を上げて、ジョルジュの体に狙いをつける。
「・・・俺は・・・帰らなければ・・・ならない」
耳には入ってくる言葉が、なぜか酷い雑音混じりに聞こえてくる。
まるで耳に水でも入り膜を張っているような感覚と、熱を持ったなにかが流れているような感触がある。どうやら耳からも血が流れているようだ。
口を開くも、奥歯が折れていて話し難い。声を出すだけでかなりの力を使った。
「・・・不可能だ。貴様はここで死ぬ」
ワイルダーの右足が下ろされた。
「・・・・・っ?」
足に感じた奇妙な手応え・・・いや、違和感といった方が正しい。
踏みつけた右足には、確かに衝撃と振動が伝わって来た。だがそれと同時に感じた違和感・・・なにかおかしい、膝から下・・・ここの感覚が・・・・・!?
「な・・・・・なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッッツ!?」
見えなくても分かる。今、自分の足がズレた。そう右膝の下からの感覚が無い。
そして動かそうとして膝を上げると、自分の足がズレて離れたのだ!
右足の膝、その断面が上と下に離れると、勢いよく血が噴き出した。
左足一本で立っている状態になり、予想すらできなかった事態に動揺したワイルダーはバランスを崩し、後ろに倒れ込むようにして腰から崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!これはいったい!?なにが!?」
耐えがたい程の痛みが襲ってくるが、一瞬にして足が切り落とされた事への精神的な動揺が大きかった。
なにが起きたのか!?斬られた事さえ遅れて気付く程の早業に、ワイルダーは我を忘れ叫んだ
だが、その疑問もすぐに答えにいきついた。
今この場でこんな事ができる者は一人しかいない。
「・・・・・ジョルジュ・・・・・ワーリントン・・・・・・・・」
吹きつけてくる雪は、ワイルダーの巨大な体をもあっという間に真っ白に覆い隠していく。
右足の切断面、そして五本の指を切り落とされた左手からは、大量の血が流れ出て、倒れたワイルダーの周囲を赤く濡らしていく。
いかに強靭な体を持っていても、これだけの傷を負い血を流せば、戦う力など残っていない。
それが普通の見方であり、現実だった。だが・・・・・
荒い息遣い、そして風に乗って運ばれてくる血の匂いに、顔を上げる。
おそらく4、いや5メートル程先で、ジョルジュ・ワーリントンは立っている。
見えなくても分かる。今この男は自分に対して止めを刺そうとしているのだ。
距離を取っている事から、何をしてくるのかは予想がつく、風の矢で間違いないだろう。
ワイルダーは動かない右手で無理やり体を支え、やや前傾姿勢になると、残った左足の膝を立てて力を込めた。
まだ・・・やる気なのか?
ジョルジュは左手の平をワイルダーに向け、右手は弓を引くように顔の横で構えていた。
全身を覆っている緑色の風は、今のジョルジュの状態からはとても考えられない程に強かった。
ワイルダーの踏みつけも寸前で回避、しかも風の刃で右足を一刀両断にして見せた。
凄まじい切れ味である。
このままワイルダーに止めを刺せばそれで終わり。無事に仲間の・・・妻の元へ帰れる。
そう期待を抱いてしまいそうになる。
「ゴフッ・・・・・う・・・」
喉の奥から込み上げてくる、鉄臭いものが吐き出される。
足元の雪に飛び散った真っ赤なそれは、吐き出された血だった。
俺ももう・・・・・
ジョルジュが今纏っている風は、気力を振り絞った最後の風。
魔法使いが魔力の果てに生命力を燃やすように、ジョルジュもまたその命を懸けて、風を巻き起こしていた。
風の精霊よ・・・・・あと一射だ・・・・・あと一射だけ、俺に力を貸してくれ
構えた左手の指先に緑の風が集まり、それは鋭く研ぎ澄まされた矢となる。
これで・・・最後だ・・・俺の最後の風を・・・・・・・・・
「ジョルジュワーリントンー-----------ー-ッッッッッツツツ!」
残った左足で大地を蹴り砕き、ワイルダーが飛び掛かる!
その咆哮はジョルジュの体を強烈に打ちつけるが、今の強く活力に満ちているジョルジュの風は、その衝撃の一切を通さなかった。
「風よ・・・撃ち抜け」
冷静に標的を見定め、風のレールに乗せて矢を放つ。
とても静かだった。けれど矢を放った時に微かに耳に届いた風切り音は、美しい旋律のようだった。
風の矢は吸い込まれるようにワイルダーに飛んでいき、そして・・・・・
「カ・・・アァ・・・・ア・・・・・!」
全身を小刻みに震わせ、その口から洩れるのはか細い呻き声。
ワイルダーの左目には、今しがたジョルジュの射った風の矢が深々と突き刺さり、脳髄を抉っていた。
いかに頑丈な肉体だとしても、体の内部まではそうはいかない。
すでに左の眼球は貫かれており、穴の開いていたところへ入った風の矢は、より深く突き刺さった。
そう、脳に達する程に・・・。
その大きな手はジョルジュに届く寸前で力を失い、膝も折れると、ワイルダーは前のめりに倒れ伏した。
顔の周りに広がっていき、白く積もる雪を真っ赤に染める血は、まるでワイルダーの命が大地に吸い込まれていくかのようにも見えた。
長き死闘に今決着が付いた。
ジョルジュはしばらくの間、構えた手を下ろさずにいたが、ワイルダーが完全に動かなくなった事を確信して、ようやくその手を下げた。
そして限界を迎えた体からは風が消えて、支えを失ったジョルジュはその場に倒れ込んだ、
最後の一滴まで力を使い果たし、ジョルジュにはもう起き上がる力も残っていなかった。
随分と血を流し、もう手も足も満足に動かせない。しかし、まだ心臓は動いていた。
負傷は大きい、もう満足に戦う事はできない。
だがそれでもこの命が残っている。
「帰れるのか・・・」
ささやきのような小さな声が、口をついて出る。
この戦いの果てに自分は命を失うだろう。
そう覚悟していたが、まだこの身を動かす鼓動は止んでいない。
ならば帰れるのではないか?愛する妻と子供の元へ、そしてかけがえのない友・・・・・
「ジョルジューー----ッ!」
空耳かと思った。だが吹雪に混じって聞こえてきたのは、自分の名を呼ぶ友の声だった
指一本動かす事ができない程疲弊した体に、不思議と顔を上げる力が湧いて来る。
「ウィッカー・・・・・お前・・・」
軍はどうした?
なんのために俺が先行したと思ってる?
総大将のくせに軍を置いて俺を・・・・・・・・
「俺を助けるために来たのか・・・・・」
まだ姿は見えない
だが自分の名前を呼ぶ友の声は、ちゃんとこの耳に届いている
友情を知らなかった
友達を知らなかった
そもそも不要だと思っていた
だけど・・・そんな俺にお前が・・・お前達が教えてくれたんだ
「・・・相変わらずのバカだな・・・・・総大将が一人で、ここに来ていいと思ってるのか?・・・ウィッカー!ここだ・・・ッ!?」
上半身を起こし、自分を呼ぶウィッカーの声に答えたその時だった。
ジョルジュの背後で何かが起き上がる気配がした。
それは誰にも予期できぬ事だった。
振り返ったジョルジュは目を見開いて絶句した。
風の矢が脳を突き刺した事も、ワイルダーの生態活動が停止した事も、風を使って確認した。
デズモンデイ・ワイルダーは完全に死んだはずだった。
戦いを見ていた帝国兵達でさえ、自軍の指揮官が息絶えたと見ていた。
そう判断せざるをえない状態だった。
だがワイルダーは両腕を付きながら体を起こすと、残った足一本で大地を蹴った!
もはや人とは思えない獣のような咆哮、潰された両目からは血を撒き散らし、3メートルを超える黒い肌の巨獣はジョルジュに襲い掛かった!
「ッ!?ジョルジュー------------ッツ!」
俺がもう少し速ければ・・・・・
あと少し・・・あともうほんの少しだけ俺が速ければ・・・・・
「ジョルジューーーーーーーーーーーッツ!」
手を伸ばしても届かない。それでも友を助けるために手を伸ばす。
猛吹雪が全身を濡らし視界を防ぐ。だが俺にはハッキリと見えた。
友の・・・ジョルジュの姿が・・・
俺がもっと速ければ・・・俺にもっと力があれば・・・・・
200年の時が経っても、俺はこの時の光景を忘れる事ができない。いや、忘れるわけにはいかないんだ。
帝国を倒すまで。俺の心から復讐の火を消さないために、この戦いを忘れる事なんてあってはならない。
「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」
絶叫!喉が張り裂けんばかりの絶叫が響き渡る。
「ふっ・・・痛かろう・・・さすがの、貴様も・・・手の平で、爆発させた、風の、刃は・・・防げまい・・・」
ワイルダーの左手は、五本全ての指が切り飛ばされていた。手の平も皮がめくれ、肉は抉られ、噴水のように真っ赤な血をまき散らしていた。
掴まれていた体が解放されると、ジョルジュは力なく落下し、その背中を地面に打ち付けた。
ワイルダーの拳を何十発と受けた事により、全身には数えきれない程の傷跡を付け、出血も多い。
そして受け身すらとれなかった事が、ジョルジュの抱えているダメージの大きさを表していた。
「ぐぅぅぅぅぅ・・・!き、きさまぁぁぁぁぁーーーーーーッツ!」
怒りに顔を歪ませ、ワイルダーは足元で倒れているジョルジュに怒声をぶつけた。
「や、やはり・・・お・・・俺を、確実に、捉えているな・・・・・」
強風による地吹雪が、倒れているジョルジュの姿を一瞬にして消していく。
雪をかぶり白んだ視界の中、ジョルジュは黒い肌の大男を見上げ、虚ろな意識で考えた。
なぜ目が見えないワイルダーが、こうも正確にジョルジュを捉えられるのか。
いくつかの可能性を考え、そして思い至った。
「音・・・それと・・・血の匂い、だな?」
おそらく俺の息遣い、そしてこの体から流れている血の匂い・・・こいつはそれで俺を見つけているんだ。たったそれだけで、見えている時と変わらない動きをするとは・・・恐ろしい男だ。
「はぁ・・・はぁ・・・ジョルジュ・・・ワーリントン・・・俺を、ここまで追い詰めるとはな。素晴らしい力だった・・・貴様のような男と戦えた事を、誇りに思うぞ」
無尽蔵の体力を思わせたワイルダーだったが、大きく息が上がり、いよいよ限界が見えて来た。
「言い残す言葉はあるか?」
右足を上げて、ジョルジュの体に狙いをつける。
「・・・俺は・・・帰らなければ・・・ならない」
耳には入ってくる言葉が、なぜか酷い雑音混じりに聞こえてくる。
まるで耳に水でも入り膜を張っているような感覚と、熱を持ったなにかが流れているような感触がある。どうやら耳からも血が流れているようだ。
口を開くも、奥歯が折れていて話し難い。声を出すだけでかなりの力を使った。
「・・・不可能だ。貴様はここで死ぬ」
ワイルダーの右足が下ろされた。
「・・・・・っ?」
足に感じた奇妙な手応え・・・いや、違和感といった方が正しい。
踏みつけた右足には、確かに衝撃と振動が伝わって来た。だがそれと同時に感じた違和感・・・なにかおかしい、膝から下・・・ここの感覚が・・・・・!?
「な・・・・・なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッッッツ!?」
見えなくても分かる。今、自分の足がズレた。そう右膝の下からの感覚が無い。
そして動かそうとして膝を上げると、自分の足がズレて離れたのだ!
右足の膝、その断面が上と下に離れると、勢いよく血が噴き出した。
左足一本で立っている状態になり、予想すらできなかった事態に動揺したワイルダーはバランスを崩し、後ろに倒れ込むようにして腰から崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!これはいったい!?なにが!?」
耐えがたい程の痛みが襲ってくるが、一瞬にして足が切り落とされた事への精神的な動揺が大きかった。
なにが起きたのか!?斬られた事さえ遅れて気付く程の早業に、ワイルダーは我を忘れ叫んだ
だが、その疑問もすぐに答えにいきついた。
今この場でこんな事ができる者は一人しかいない。
「・・・・・ジョルジュ・・・・・ワーリントン・・・・・・・・」
吹きつけてくる雪は、ワイルダーの巨大な体をもあっという間に真っ白に覆い隠していく。
右足の切断面、そして五本の指を切り落とされた左手からは、大量の血が流れ出て、倒れたワイルダーの周囲を赤く濡らしていく。
いかに強靭な体を持っていても、これだけの傷を負い血を流せば、戦う力など残っていない。
それが普通の見方であり、現実だった。だが・・・・・
荒い息遣い、そして風に乗って運ばれてくる血の匂いに、顔を上げる。
おそらく4、いや5メートル程先で、ジョルジュ・ワーリントンは立っている。
見えなくても分かる。今この男は自分に対して止めを刺そうとしているのだ。
距離を取っている事から、何をしてくるのかは予想がつく、風の矢で間違いないだろう。
ワイルダーは動かない右手で無理やり体を支え、やや前傾姿勢になると、残った左足の膝を立てて力を込めた。
まだ・・・やる気なのか?
ジョルジュは左手の平をワイルダーに向け、右手は弓を引くように顔の横で構えていた。
全身を覆っている緑色の風は、今のジョルジュの状態からはとても考えられない程に強かった。
ワイルダーの踏みつけも寸前で回避、しかも風の刃で右足を一刀両断にして見せた。
凄まじい切れ味である。
このままワイルダーに止めを刺せばそれで終わり。無事に仲間の・・・妻の元へ帰れる。
そう期待を抱いてしまいそうになる。
「ゴフッ・・・・・う・・・」
喉の奥から込み上げてくる、鉄臭いものが吐き出される。
足元の雪に飛び散った真っ赤なそれは、吐き出された血だった。
俺ももう・・・・・
ジョルジュが今纏っている風は、気力を振り絞った最後の風。
魔法使いが魔力の果てに生命力を燃やすように、ジョルジュもまたその命を懸けて、風を巻き起こしていた。
風の精霊よ・・・・・あと一射だ・・・・・あと一射だけ、俺に力を貸してくれ
構えた左手の指先に緑の風が集まり、それは鋭く研ぎ澄まされた矢となる。
これで・・・最後だ・・・俺の最後の風を・・・・・・・・・
「ジョルジュワーリントンー-----------ー-ッッッッッツツツ!」
残った左足で大地を蹴り砕き、ワイルダーが飛び掛かる!
その咆哮はジョルジュの体を強烈に打ちつけるが、今の強く活力に満ちているジョルジュの風は、その衝撃の一切を通さなかった。
「風よ・・・撃ち抜け」
冷静に標的を見定め、風のレールに乗せて矢を放つ。
とても静かだった。けれど矢を放った時に微かに耳に届いた風切り音は、美しい旋律のようだった。
風の矢は吸い込まれるようにワイルダーに飛んでいき、そして・・・・・
「カ・・・アァ・・・・ア・・・・・!」
全身を小刻みに震わせ、その口から洩れるのはか細い呻き声。
ワイルダーの左目には、今しがたジョルジュの射った風の矢が深々と突き刺さり、脳髄を抉っていた。
いかに頑丈な肉体だとしても、体の内部まではそうはいかない。
すでに左の眼球は貫かれており、穴の開いていたところへ入った風の矢は、より深く突き刺さった。
そう、脳に達する程に・・・。
その大きな手はジョルジュに届く寸前で力を失い、膝も折れると、ワイルダーは前のめりに倒れ伏した。
顔の周りに広がっていき、白く積もる雪を真っ赤に染める血は、まるでワイルダーの命が大地に吸い込まれていくかのようにも見えた。
長き死闘に今決着が付いた。
ジョルジュはしばらくの間、構えた手を下ろさずにいたが、ワイルダーが完全に動かなくなった事を確信して、ようやくその手を下げた。
そして限界を迎えた体からは風が消えて、支えを失ったジョルジュはその場に倒れ込んだ、
最後の一滴まで力を使い果たし、ジョルジュにはもう起き上がる力も残っていなかった。
随分と血を流し、もう手も足も満足に動かせない。しかし、まだ心臓は動いていた。
負傷は大きい、もう満足に戦う事はできない。
だがそれでもこの命が残っている。
「帰れるのか・・・」
ささやきのような小さな声が、口をついて出る。
この戦いの果てに自分は命を失うだろう。
そう覚悟していたが、まだこの身を動かす鼓動は止んでいない。
ならば帰れるのではないか?愛する妻と子供の元へ、そしてかけがえのない友・・・・・
「ジョルジューー----ッ!」
空耳かと思った。だが吹雪に混じって聞こえてきたのは、自分の名を呼ぶ友の声だった
指一本動かす事ができない程疲弊した体に、不思議と顔を上げる力が湧いて来る。
「ウィッカー・・・・・お前・・・」
軍はどうした?
なんのために俺が先行したと思ってる?
総大将のくせに軍を置いて俺を・・・・・・・・
「俺を助けるために来たのか・・・・・」
まだ姿は見えない
だが自分の名前を呼ぶ友の声は、ちゃんとこの耳に届いている
友情を知らなかった
友達を知らなかった
そもそも不要だと思っていた
だけど・・・そんな俺にお前が・・・お前達が教えてくれたんだ
「・・・相変わらずのバカだな・・・・・総大将が一人で、ここに来ていいと思ってるのか?・・・ウィッカー!ここだ・・・ッ!?」
上半身を起こし、自分を呼ぶウィッカーの声に答えたその時だった。
ジョルジュの背後で何かが起き上がる気配がした。
それは誰にも予期できぬ事だった。
振り返ったジョルジュは目を見開いて絶句した。
風の矢が脳を突き刺した事も、ワイルダーの生態活動が停止した事も、風を使って確認した。
デズモンデイ・ワイルダーは完全に死んだはずだった。
戦いを見ていた帝国兵達でさえ、自軍の指揮官が息絶えたと見ていた。
そう判断せざるをえない状態だった。
だがワイルダーは両腕を付きながら体を起こすと、残った足一本で大地を蹴った!
もはや人とは思えない獣のような咆哮、潰された両目からは血を撒き散らし、3メートルを超える黒い肌の巨獣はジョルジュに襲い掛かった!
「ッ!?ジョルジュー------------ッツ!」
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