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【859 風の力と更なる変貌】
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吹き飛ばされて倒れた時、ジャニスの声が聞こえた気がした。
そして灰色の空を見上げて思い出したんだ・・・ジャニスが言ってくれた言葉を。
俺が帝国の風を理解しようとすれば、風も応えてくれるのではないかと。
帝国に吹く風には皇帝の野心によって汚されていた。だが俺は風に語りかけた。
皇帝に汚された表面を見るのではなく、本当の帝国の風とはどういうものなのか、それを教えて欲しいと語りかけた。
火の精霊が妨害してきたが、俺が帝国の風と心を繋げると、火の精霊を上回る力を発揮できたようだ。
火の精霊を押さえ、皇帝の汚れを吹き飛ばし、帝国の風は本来の姿を取り戻す事ができた。
「それがこの風だ。貴様ら帝国が汚し続けてきた風がどういうものだったか・・・思い知れ」
左手は目標へ向けて狙いを付ける。
カエストゥスの風と比べ、少し荒々しい感じがして、初撃は一射しかできなかった。
だが徐々に馴染んできた。これなら三射はいける。
右手を離すと、人差し指、中指、薬指の先から、三本の風の矢が飛ばされた!
「フンッ!」
顔面に三発の風の矢が向かってくるが、ワイルダーは右手の平を顔の前に出し、三本の風の矢を受けた。
風の矢は手の平を貫通はしなかったが、肉を切り裂き突き刺さった。
「シャァッ!」
矢が刺さろうとも全く怯むことなく、ワイルダーは残った左手でジョルジュに掴みかかる!
パワーの差は歴然!捕まれば逃れる手は無い!しかしジョルジュは眉一つ動かすことなく、冷静にワイルダーの動きを見ていた。
そして巨大な手がジョルジュの頭を掴もうとしたその時、ワイルダーの手は空を切っていた。
「なにっ・・・!?」
ワイルダーの残った左目が、驚きに開かれる。
「俺の動きが見えないようだな」
左耳に入った声に顔を向けると、ワイルダーの鼻っ面を固い何かが撃ち抜いた!
「ぐぁッ!」
鼻筋が潰れる感触が脳を貫く。鼻の奥から粘着性のある熱いものがボタボタと流れ落ち、足元の白い雪に赤く色をつける。
「き、貴様・・・」
左手で鼻を押さえ、目の前の自分の鼻を潰した男を睨み付ける。
頭から血を流し、顔の半分を赤く染めるアイスブルーの髪の男は、緑色の風を身に纏い空に浮いていた。口を閉じたままワイルダーに静かな目で見つめ、左手の平を向けていた。
「どうだ?これが貴様達が汚し続けた風の力だ」
「・・・・・ふっ・・・ふははははは!大したものだ・・・この俺が目で追えんとはな。そして俺の肉体を切り裂き、鼻を潰した・・・・・」
ワイルダーは笑った。ダメージを受けた事への怒りよりも、ここまでの力を持った男が自分の前に立った事に、戦いに生きる者としての喜びが勝った。
右手に目を向けると、刺さっていたはずの風の矢はいつの間にか消えていた。
三本の矢が刺さっていた事を教えるように、刺し傷だけが残り血が流れて落ちている。
「・・・なるほど、風の矢だから実体が残らないというわけだな。矢も無尽蔵に作れるのは強みだな。便利な力じゃないか。空も飛べるから足にダメージを受けても機動力は失われん。さらに俺が見失う程のスピードとは驚異的だ」
これまで力まかせに押してきていた男が、ここにきて冷静に相手の力を分析し始めた。
「ジョルジュ・ワーリントン、貴様はこれまで自分と同等の力を持った男と戦った事はあるか?」
「・・・貴様ら帝国の師団長はなかなかのものだった」
「そうか・・・俺は初めてだ。体力型で俺とここまで戦った男は貴様が初めてだ。長生きはするものだな。本当に嬉しく思うよ。だが、このままでは俺がやや不利だな・・・」
淡々と言葉を続けるワイルダーに、ジョルジュは得体の知れない不気味さを感じていた。
これまでの剥きだしのプレッシャーも消えており、黒い肌の巨躯の男は異様なくらいに静かだった。
「・・・言いたい事はそれだけか?」
なにか仕掛けて来る。直感がそう訴え、ジョルジュはワイルダーに向けた左手の平に風を集め、いつでも発射できるように右手を引いて構える。
「くっくっく・・・そう焦るな。俺は本当に嬉しいんだ。このまま皇帝にいいように使われる事は気にくわん。戦士として死に場所くらいは自分で決めたいものよ。そしてジョルジュ・ワーリントン、貴様は俺の最後の相手としてふさわしい。ここまで勝利を渇望させてくれる相手は他におらんよ」
一つだけ残ったワイルダーの左目が、狂気の光を放った。
そして大きく歪な笑いを浮かべると、ワイルダーは大声で笑い出した。
自分よりもはるかに巨大な体の男が、けたたましい笑い声を上げる姿に、ジョルジュは圧倒された。
「なっ・・・んだ?」
吹雪を体を打ち付けるが、雪の冷たさも感じられない。
ワイルダーの異様さは、ジョルジュにこれまで経験した事のない、精神を圧迫を感じさせていた。
粘着性のある嫌な体から滲み出て、血と混じり体を濡らしていく。
「俺も懸けよう、この命を・・・」
囁くようにその言葉を口にすると、ワイルダーの全身が静かに震え出した。
まるで痙攣を起こしたように不規則に、時折大きく胸や腕を跳ねさせるその異様な姿は、ジョルジュに攻撃の手を止めさせる程に狂気を孕んでいた。
「クッ!・・・な、なんだこれは!?」
すでに人外を思わせるワイルダーの身体が、更に大きく異質に変貌していった。
そして灰色の空を見上げて思い出したんだ・・・ジャニスが言ってくれた言葉を。
俺が帝国の風を理解しようとすれば、風も応えてくれるのではないかと。
帝国に吹く風には皇帝の野心によって汚されていた。だが俺は風に語りかけた。
皇帝に汚された表面を見るのではなく、本当の帝国の風とはどういうものなのか、それを教えて欲しいと語りかけた。
火の精霊が妨害してきたが、俺が帝国の風と心を繋げると、火の精霊を上回る力を発揮できたようだ。
火の精霊を押さえ、皇帝の汚れを吹き飛ばし、帝国の風は本来の姿を取り戻す事ができた。
「それがこの風だ。貴様ら帝国が汚し続けてきた風がどういうものだったか・・・思い知れ」
左手は目標へ向けて狙いを付ける。
カエストゥスの風と比べ、少し荒々しい感じがして、初撃は一射しかできなかった。
だが徐々に馴染んできた。これなら三射はいける。
右手を離すと、人差し指、中指、薬指の先から、三本の風の矢が飛ばされた!
「フンッ!」
顔面に三発の風の矢が向かってくるが、ワイルダーは右手の平を顔の前に出し、三本の風の矢を受けた。
風の矢は手の平を貫通はしなかったが、肉を切り裂き突き刺さった。
「シャァッ!」
矢が刺さろうとも全く怯むことなく、ワイルダーは残った左手でジョルジュに掴みかかる!
パワーの差は歴然!捕まれば逃れる手は無い!しかしジョルジュは眉一つ動かすことなく、冷静にワイルダーの動きを見ていた。
そして巨大な手がジョルジュの頭を掴もうとしたその時、ワイルダーの手は空を切っていた。
「なにっ・・・!?」
ワイルダーの残った左目が、驚きに開かれる。
「俺の動きが見えないようだな」
左耳に入った声に顔を向けると、ワイルダーの鼻っ面を固い何かが撃ち抜いた!
「ぐぁッ!」
鼻筋が潰れる感触が脳を貫く。鼻の奥から粘着性のある熱いものがボタボタと流れ落ち、足元の白い雪に赤く色をつける。
「き、貴様・・・」
左手で鼻を押さえ、目の前の自分の鼻を潰した男を睨み付ける。
頭から血を流し、顔の半分を赤く染めるアイスブルーの髪の男は、緑色の風を身に纏い空に浮いていた。口を閉じたままワイルダーに静かな目で見つめ、左手の平を向けていた。
「どうだ?これが貴様達が汚し続けた風の力だ」
「・・・・・ふっ・・・ふははははは!大したものだ・・・この俺が目で追えんとはな。そして俺の肉体を切り裂き、鼻を潰した・・・・・」
ワイルダーは笑った。ダメージを受けた事への怒りよりも、ここまでの力を持った男が自分の前に立った事に、戦いに生きる者としての喜びが勝った。
右手に目を向けると、刺さっていたはずの風の矢はいつの間にか消えていた。
三本の矢が刺さっていた事を教えるように、刺し傷だけが残り血が流れて落ちている。
「・・・なるほど、風の矢だから実体が残らないというわけだな。矢も無尽蔵に作れるのは強みだな。便利な力じゃないか。空も飛べるから足にダメージを受けても機動力は失われん。さらに俺が見失う程のスピードとは驚異的だ」
これまで力まかせに押してきていた男が、ここにきて冷静に相手の力を分析し始めた。
「ジョルジュ・ワーリントン、貴様はこれまで自分と同等の力を持った男と戦った事はあるか?」
「・・・貴様ら帝国の師団長はなかなかのものだった」
「そうか・・・俺は初めてだ。体力型で俺とここまで戦った男は貴様が初めてだ。長生きはするものだな。本当に嬉しく思うよ。だが、このままでは俺がやや不利だな・・・」
淡々と言葉を続けるワイルダーに、ジョルジュは得体の知れない不気味さを感じていた。
これまでの剥きだしのプレッシャーも消えており、黒い肌の巨躯の男は異様なくらいに静かだった。
「・・・言いたい事はそれだけか?」
なにか仕掛けて来る。直感がそう訴え、ジョルジュはワイルダーに向けた左手の平に風を集め、いつでも発射できるように右手を引いて構える。
「くっくっく・・・そう焦るな。俺は本当に嬉しいんだ。このまま皇帝にいいように使われる事は気にくわん。戦士として死に場所くらいは自分で決めたいものよ。そしてジョルジュ・ワーリントン、貴様は俺の最後の相手としてふさわしい。ここまで勝利を渇望させてくれる相手は他におらんよ」
一つだけ残ったワイルダーの左目が、狂気の光を放った。
そして大きく歪な笑いを浮かべると、ワイルダーは大声で笑い出した。
自分よりもはるかに巨大な体の男が、けたたましい笑い声を上げる姿に、ジョルジュは圧倒された。
「なっ・・・んだ?」
吹雪を体を打ち付けるが、雪の冷たさも感じられない。
ワイルダーの異様さは、ジョルジュにこれまで経験した事のない、精神を圧迫を感じさせていた。
粘着性のある嫌な体から滲み出て、血と混じり体を濡らしていく。
「俺も懸けよう、この命を・・・」
囁くようにその言葉を口にすると、ワイルダーの全身が静かに震え出した。
まるで痙攣を起こしたように不規則に、時折大きく胸や腕を跳ねさせるその異様な姿は、ジョルジュに攻撃の手を止めさせる程に狂気を孕んでいた。
「クッ!・・・な、なんだこれは!?」
すでに人外を思わせるワイルダーの身体が、更に大きく異質に変貌していった。
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