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【858 新しい風】
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「帝国の風ってさ、そんなに嫌な感じがするの?」
産まれたばかりのジョセフを抱いて、ジャニスは窓辺のロッキングチェアに腰を掛けていた。
前と後ろに揺れる事が心地よいのか、ジョセフはとても楽しそうに声を上げて笑っている。
俺達の家はツリーハウスだ。
自然に囲まれていて、鳥の鳴き声や風のささやきが耳に気持ちの良い歌を届けてくれる。
主都から来たジャニスには退屈かもしれないと思い、ジャニスが望むなら首都に移り住む事も考えた。
だがジャニスは、そんな事はないと言って、ここでの生活を希望してくれた。
俺の父と母も、ジャニスの気持ちを嬉しく思ってくれている。
同居もジャニスが望んだ事だった。俺の母とは特に気が合うようで、関係もとても良好だ。
この穏やかな生活が、ずっと続いて欲しい・・・心からそう願っていた。
出産を得て、ジャニスは雰囲気が変わったように思う。
温かみや思いやりが深くなり、物腰もとても柔らかくなった。
きっとこれが、母親になったという事なのだろう。
俺はそんな妻と息子を見つめながら、質問に答えた。
「帝国の風だけは好きになれない。あれ程醜悪な風はないぞ。皇帝の野心が風を汚しているのだろうな」
「・・・ん~、それってさ、風が悪いのかな?」
「ん?どういう意味だ?」
俺の言葉を聞いて、ジャニスは唇の下に一本指を当て、考えながら言葉をまとめて話し出した。
「ジョルジュはさ、いつも風を感じろって言うよね?帝国の風が悪いのも、皇帝が原因なんでしょ?それなら風が悪いんじゃなくて、皇帝が悪いって事にならない?」
「・・・・・なるほど、確かにその通りだな」
「でしょ?思うんだけどさ・・・ジョルジュは、帝国の風の表面しか見てないんじゃないかな?ちゃんと向き合ってみたら、帝国の風の本質も感じれるかもしれないよ。ううん、ジョルジュならきっと、帝国の風とも通じ合えると思うよ。だってさ・・・」
そう言ってジャニスは椅子からゆっくり立ち上がると、ジョセフを抱いたまま俺の前に立った。
右手でジョセフを抱いて、左手の指先で俺の頬をつついてくる。
なにが面白いのかクスクス笑っているが、俺はジャニスのこういうところも好きだ。
「・・・ジョルジュは誰よりも風に愛されてるんだから」
私が保障してあげる!自信もってよ!
そう言って笑うジャニスの笑顔はとても美しく、そして大きな愛情を感じさせてくれた。
陽の光が差し込み、俺達三人を優しく包み込んでくれる。
あの時の温もりはこれから先もずっと続いていく・・・・・そう信じていた。
「ジョ、ジョルジュ、ワーリントン・・・ふっふっふ、そうか・・・それが貴様の隠していた力というわけか・・・」
右目を押さえる手の指の間から、ドロリと赤い血が流れていく。
ワイルダーの額に汗がにじんだのは、眼を潰された痛みによるものか?
それとも戦場で初めて感じた、この言い難い感情によるものだろうか・・・・・
「風が戻った・・・いや、帝国の風は初めてだ。新たな風を得たと言った方が正確かもしれん」
ジョルジュは自分の身体を包む風、その感覚を確かめるように見つめる。
緑色の風はカエストゥスと変わらないように思えるが、少しだけ荒く感じるのは火の精霊の影響が残っているのかもしれない。
「この風は澄んでいるし温かみも感じる。本来の帝国の風は、人にも自然にもとても優しいんだな。それをこれまで押さえつけ、汚していたのは・・・貴様ら帝国だ」
ジョルジュの身体を覆う風が強さを増していく。
それは帝国に対する怒り。ここまで風を汚した事、そして帝国が起こした戦争に対して。
頭から血を流し、全身を強く痛めている。本来ならば戦える状態ではない。
だが戦意は衰えていなかった。
「・・・くっくっく、風か・・・・・風の事は分からんが、貴様がこの俺に届きうる男だという事は分かった。面白い・・・ガッカリさせられたが、今度こそ楽しめそうだ!」
一度は消えた闘争心に再び火が付いた!
右目を押さえていた手を離し、拳を握り締める。その表情は歓喜に満ちていた。
「・・・強い興奮状態にあると、疲れや痛みを感じなくなると聞いた事があるが、どうやら本当らしいな」
たった今まで潰された目の痛みに顔を歪めていたワイルダーだったが、その闘争心が呼び戻されると、残った左目が獲物を狙う捕食者のようにギラリと光った。
「・・・戦闘狂というヤツか?俺には理解し難いが、戦う事が喜びらしいな?」
ジョルジュがワイルダーに左手の平を向けると、指先に風が集まっていく。
その風を右手で掴むと、矢を引くように顔の横で構えた。
「ほう、それが風か?それで俺の目を潰したのか?さしずめ風の矢だな。面白い!受けて立ってやるぞ!ジョルジュ・ワーリントンー----ー--ッッッツ!」
耳をつんざく程の大声を発し、ワイルダーがジョルジュに掴みかかった!
産まれたばかりのジョセフを抱いて、ジャニスは窓辺のロッキングチェアに腰を掛けていた。
前と後ろに揺れる事が心地よいのか、ジョセフはとても楽しそうに声を上げて笑っている。
俺達の家はツリーハウスだ。
自然に囲まれていて、鳥の鳴き声や風のささやきが耳に気持ちの良い歌を届けてくれる。
主都から来たジャニスには退屈かもしれないと思い、ジャニスが望むなら首都に移り住む事も考えた。
だがジャニスは、そんな事はないと言って、ここでの生活を希望してくれた。
俺の父と母も、ジャニスの気持ちを嬉しく思ってくれている。
同居もジャニスが望んだ事だった。俺の母とは特に気が合うようで、関係もとても良好だ。
この穏やかな生活が、ずっと続いて欲しい・・・心からそう願っていた。
出産を得て、ジャニスは雰囲気が変わったように思う。
温かみや思いやりが深くなり、物腰もとても柔らかくなった。
きっとこれが、母親になったという事なのだろう。
俺はそんな妻と息子を見つめながら、質問に答えた。
「帝国の風だけは好きになれない。あれ程醜悪な風はないぞ。皇帝の野心が風を汚しているのだろうな」
「・・・ん~、それってさ、風が悪いのかな?」
「ん?どういう意味だ?」
俺の言葉を聞いて、ジャニスは唇の下に一本指を当て、考えながら言葉をまとめて話し出した。
「ジョルジュはさ、いつも風を感じろって言うよね?帝国の風が悪いのも、皇帝が原因なんでしょ?それなら風が悪いんじゃなくて、皇帝が悪いって事にならない?」
「・・・・・なるほど、確かにその通りだな」
「でしょ?思うんだけどさ・・・ジョルジュは、帝国の風の表面しか見てないんじゃないかな?ちゃんと向き合ってみたら、帝国の風の本質も感じれるかもしれないよ。ううん、ジョルジュならきっと、帝国の風とも通じ合えると思うよ。だってさ・・・」
そう言ってジャニスは椅子からゆっくり立ち上がると、ジョセフを抱いたまま俺の前に立った。
右手でジョセフを抱いて、左手の指先で俺の頬をつついてくる。
なにが面白いのかクスクス笑っているが、俺はジャニスのこういうところも好きだ。
「・・・ジョルジュは誰よりも風に愛されてるんだから」
私が保障してあげる!自信もってよ!
そう言って笑うジャニスの笑顔はとても美しく、そして大きな愛情を感じさせてくれた。
陽の光が差し込み、俺達三人を優しく包み込んでくれる。
あの時の温もりはこれから先もずっと続いていく・・・・・そう信じていた。
「ジョ、ジョルジュ、ワーリントン・・・ふっふっふ、そうか・・・それが貴様の隠していた力というわけか・・・」
右目を押さえる手の指の間から、ドロリと赤い血が流れていく。
ワイルダーの額に汗がにじんだのは、眼を潰された痛みによるものか?
それとも戦場で初めて感じた、この言い難い感情によるものだろうか・・・・・
「風が戻った・・・いや、帝国の風は初めてだ。新たな風を得たと言った方が正確かもしれん」
ジョルジュは自分の身体を包む風、その感覚を確かめるように見つめる。
緑色の風はカエストゥスと変わらないように思えるが、少しだけ荒く感じるのは火の精霊の影響が残っているのかもしれない。
「この風は澄んでいるし温かみも感じる。本来の帝国の風は、人にも自然にもとても優しいんだな。それをこれまで押さえつけ、汚していたのは・・・貴様ら帝国だ」
ジョルジュの身体を覆う風が強さを増していく。
それは帝国に対する怒り。ここまで風を汚した事、そして帝国が起こした戦争に対して。
頭から血を流し、全身を強く痛めている。本来ならば戦える状態ではない。
だが戦意は衰えていなかった。
「・・・くっくっく、風か・・・・・風の事は分からんが、貴様がこの俺に届きうる男だという事は分かった。面白い・・・ガッカリさせられたが、今度こそ楽しめそうだ!」
一度は消えた闘争心に再び火が付いた!
右目を押さえていた手を離し、拳を握り締める。その表情は歓喜に満ちていた。
「・・・強い興奮状態にあると、疲れや痛みを感じなくなると聞いた事があるが、どうやら本当らしいな」
たった今まで潰された目の痛みに顔を歪めていたワイルダーだったが、その闘争心が呼び戻されると、残った左目が獲物を狙う捕食者のようにギラリと光った。
「・・・戦闘狂というヤツか?俺には理解し難いが、戦う事が喜びらしいな?」
ジョルジュがワイルダーに左手の平を向けると、指先に風が集まっていく。
その風を右手で掴むと、矢を引くように顔の横で構えた。
「ほう、それが風か?それで俺の目を潰したのか?さしずめ風の矢だな。面白い!受けて立ってやるぞ!ジョルジュ・ワーリントンー----ー--ッッッツ!」
耳をつんざく程の大声を発し、ワイルダーがジョルジュに掴みかかった!
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