異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
850 / 1,370

【849 剣士の覚悟】

しおりを挟む
腹部のダメージは大きかった。
肉を抉られ、傷口から流れ出る血が止まらない。爆裂弾とはいえ、密着状態でまともに受けて即死しなかったのは、物理と魔法に耐性のある、特殊な糸で編んだシャツを着ていたからだろう。


「結局・・・私は、何の役にも・・・たてない、の・・・かな」

短く浅い呼吸を繰り返す。自分の不甲斐なさが悔しくて、唇を噛み締める。

ブローグ砦の戦いでは、敵将のディーン・モズリーに敗れた。
セシリア・シールズが攻めてきた時には、時間稼ぎすら満足にできなかった。

そして今、この女にも不覚をとってしまった。少しは強くなったという自信があった。
けれど勇ましい言葉を口にして出て来たのに、結果はご覧のあり様だ。

私は・・・・・何の役にも立てない。

勇敢に戦ったヤヨイさんとルチルさんに、申し訳なくて自己嫌悪すら感じる。


立ち上がろうとしても、身じろぎ一つで、激しい痛みが腹部から脳へ響く。
自分の気持ちとは裏腹に、体が動く事を拒否して膝を着いてしまう。

痛みに歯を食いしばりながら顔を上げると、目の前には自分を護るように立つジョルジュ様が、炎の竜を纏った帝国の女と対峙している。


「ジ、ジョルジュ・・・様・・・」

「・・・エリン、動くな。いずれカエストゥス軍も追いつく。ジャニスにヒールをしてもらえば助かる。それまで休んでいろ」

掠れた小さな声だったけど、ジョルジュ様には届いたようだ。
前を向いたまま言葉を返してくれる。



そうだ・・・どうせ私では勝てない・・・だから、ジョルジュ様の言う通り、お任せしよう



諦めて目を閉じたその時、私達のすぐ近くを巨槍が突き抜けていった。
槍と呼ぶには重すぎる鋼鉄の塊、目で追う事さえ困難な速さによって発生した、凄まじい突風が体にぶつかり私の体を揺さぶる。そして一瞬遅れて、ビリビリと肌にぶつかるような轟音が耳を打った。

私達がこうしている間にも、帝国からの投擲は続いている。
ブレンダン様の結界もいつまでもつか分からない。


「くっ、巨槍・・・なにっ!?」

ほんの瞬き程の一瞬で、遠くに飛ばされていく巨槍を目で追うと、続けざまにもう一本の巨槍が同じ軌道を飛んで来た。
殴りつけられるような大風と、耳が痛くなるような音に、体を丸めて防御の態勢をとる。

「う、ぐぅ・・・こ、こんな・・・たて、続けに・・・!?」

私は声を失った。二投目が通り過ぎた次の瞬間には、もう三投目の巨槍が迫って来ていたのだ。
槍が私のすぐ横を通過する時、そのすさまじい勢いで発生した突風を正面から浴びて、私は後ろに倒されてしまった。


・・・・・ペトラ、隊長


雪の冷たさを背中に感じる


・・・・・ヤヨイさん・・・ルチルさん・・・・・・


空から降り注ぐ雪が頬を濡らす


私は・・・・・






ジョルジュもまたこの連投には驚かされた。
三連続の投擲と、それによって発生する突風に動きを止められ、防御のためにキャシーに向けて構えた弓も、下ろさざるをえなかった。

「くっ、三発だと!?」

顔をしかめるジョルジュを見て、キャシーが嗤った。

「フッ・・・ワイルダー様が仕留めにかかったようだな。カエストゥスがどうやってあの巨槍を防いでいるか分からないが、単発で無理なら連投というわけだ」

「ワイルダー?・・・そうか、それがこの攻撃の主の名か。ならばさっさとお前を片付けて、そのワイルダーとやらも倒さなければな」

「フン!できるものならやってみな!焼き殺してやるよ!」

サラリと言ってのけるジョルジュに、キャシーの目が鋭くなる。
睨みあう二人。空気が張りつめる程の緊張状態を破ったのは、エリンの一声だった。


「ジョルジュ様、ここは私に任せて先へ行ってください」

「・・・エリン?」

腹の傷を押さえながら、ジョルジュの横に並び立った青い髪の剣士は、剣を片手に炎の竜を纏う帝国の女を真っすぐに睨み付けた。

「・・・行ってください。ブレンダン様の魔力が尽きる前に、巨槍の敵を倒さなければなりません。この女は・・・私が倒します」

額に浮かんだ汗の粒が流れ、顎先から滴り落ちる。左手で押さえる腹部からは、血が流れ落ちている。
どう見ても戦える状態ではなかった。

ジョルジュもエリンを戦わせようとは思っていなかった。
持久戦になるが、キャシーの魔力が切れるまで矢を放ち、灼炎竜を躱す事はできるという自信があったからだ。

だが、エリンの言う通り、あの投擲にいつまでブレダンが持つかは分からない。
連投が続けば、それだけブレンダンの魔力の消費も多くなる。そしてあの返しという技は、高い集中力が求められる。この巨槍に対しては猶更だろう。神経をすり減らして防いでいるのだ。
カエストゥスの勝利を最優先するならば、この場をエリンに任せて、自分は一秒でも早く先へ行くべきであり、そうしなければならないのだ。


それでも迷いはあった。
ここでエリンを一人残して戦わせれば、おそらくエリンは・・・・・

だがエリンの目・・・ある種の覚悟を決めたこの目を見て、ジョルジュは頷くしかなかった。
この体で立ち上がり、一人で戦うと口にするエリンを、ジョルジュは止められなかった。

なぜならジョルジュも同じ覚悟を持っていたからだ。エリンの決意は痛いくらいによく分かる。


「・・・エリン、目に見えるものだけに捕らわれるな。足で土を、肌で風の動きを感じるんだ。お前なら勝てる・・・・・任せたぞ、エリン・スペンス」

この場をエリンに託し、史上最強の弓使いは、巨槍の敵が待つ決戦の場へと駆けた。





自分の身体は自分が一番よく分かっている。無理を言っているというのもよく分かっている。
それでも私を信じて、この場を託してもらった事が嬉しかった。

「お任せください!カエストゥスに勝利を!」

背を向けるジョルジュ様に顔を向ける事はしなかった。
真っすぐに目の前の敵を見据えたまま、私は私の覚悟を声に出して叫んだ。

カエストゥスに勝利を!

この戦争での私の戦いはここだ。ジョルジュ様が巨槍の敵に集中できるようにする。
後に続くカエストゥス軍の妨げを取り除く。

この復讐に捕らわれた女は、ここで私が倒す!


「私はエリン・スペンス。カエストゥス軍、剣士隊副隊長だ・・・」

両手で剣を握り構える。気を張っていないと痛みで倒れそうになる。

長くは持たない・・・・・
だから、私に残った最後の力を・・・ここに全てをぶつける!


「・・・キャシー・タンデルズ。ブロートン帝国黒魔法兵団副団長だ」

名乗りに付き合う必要はなかった。
だが重症を負いながらも、その気力は衰える事なく、鋭い目を送って来る青い髪の女に、キャシーもまた復讐心を越えて応えたくなった。


「・・・キャシー・タンデルズ、その名は忘れない・・・参る!」


エリン・スペンス、手負いの剣士は大地を強く蹴った!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...