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【848 同化】
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周囲の景色と同化できる魔道具、白衣の染色。
これがキャシー・タンデルズの魔道具である。
深紅のローブを脱ぐと、その下には柄も何もない、その名の通り白無地のシャツが一枚だった。
だがキャシーが魔力を放出すると、白いシャツは周囲の風景に溶け込むように消えていった。
そしてそれは白いシャツだけではなく、着用者の体も、身に着けている物も同様であった。
身に着けている物も有効であるならば、なぜキャシーは深紅のローブを脱いだのか。
白衣の染色は周囲の景色に同化するため、上にコートなりローブなり、何かしらを羽織った状態では発動できないためである。
そしてこの魔道具の優れたところは、白衣の染色が発動している間は、使用者の魔力さえも隠す事ができるのである。
キャシーはこの魔道具を使い、先のセインソルボ山の戦いでウィッカーから逃れ、軍を撤退させる事ができた。本来は偵察用の魔道具だが、戦闘にも生かせる万能な魔道具である。
エリンの腹に左手を当てた状態で、キャシーの放った魔法は爆裂弾である。
初級魔法とはいえ、手を当てた状態で放たれた爆裂弾は、エリンを空中へと吹き飛ばした。
爆発による灰色の煙が地上から尾を引き、雪の空に一筋の放射線を描いた。
「うっ・・・がはっ!」
意識していないところに受けた爆発魔法は、エリンに大きなダメージを与えていた。
喉の奥から込み上げてくる、鉄の匂いのするそれを吐き出すと、胸元が真っ赤に濡れ染まる。
無防備にその体を宙に投げ出される。
意識はあるがダメージの大きさに、すぐに体を動かす事ができなかった。
勝った!これで終わりだ!
エリンがすぐには態勢を立て直せない事を見て、キャシーの目がギラリと光る!
その両手が光輝き、強い破壊のエネルギーに包まれる!
今の状態のエリンがまともに食らえば、まず生き残れないだろう。
爆裂空破弾!
この一撃で決める!
その気迫で繰り出された巨大な破壊のエネルギー弾が、上空のエリンへと撃ち放たれた!
「・・・なにっ!?」
勝利を確信した瞬間だった。
青い髪の女剣士を吹き飛ばしたと思ったその時、突然空を横切る影がエリンを抱えて降り立った。
「・・・危なかった」
間一髪で爆裂空破弾は空へと消えていく。
ジョルジュは横目で巨大な光弾を見送ると、腕に抱くエリンの腹部に視線を落とした。
「・・・・・深いな」
エリンやペトラ、剣士隊の女性は胸当てや肩当ては付けているが、身軽さを優先し、動きの妨げになるため腹には防具を付けていない。
「う、ぐぅ・・・も、申し訳、ありません・・・」
「傷は深い。あとは俺がやる。休んでいろ」
エリンを下ろすと、ジョルジュは弓に手をかけた。
白衣の染色で姿を消しているため、ジョルジュにキャシーを視認する事はできない。
だがジョルジュは、白く積もった雪の上で、そこにキャシーが立っていると確信しているかのように、その方向だけをじっと見据えていた。
「・・・・ジョルジュ・ワーリントン、貴様、見えているのか?」
姿は完璧に周囲の景色と同化させている。魔力も消えているし見えるはずがない。
だが、ジョルジュの迷いなく自分を見る目に、キャシーは白衣の染色の魔力を解きその姿を現した。
「ほう、そうやって姿を消していたのか。なかなか便利な魔道具だな。だが無駄だ。そんな小細工は俺には通用せん」
「・・・ジョルジュ・ワーリントン・・・言ってくれたな」
キャシーの身体から炎が立ち昇る。
怒りを孕んだ炎は竜を形作り、荒ぶる業火による熱波は、呼吸を苦しく感じさせるほどだった。
「そうだな。俺の矢を弾いたのだ。ここは灼炎竜が正解だろう」
ジョルジュは弓を構えると、キャシーに狙いをつけた。
「・・・しょうこりもなく私に矢を向けるのか?たった今貴様が言ったばかりだろう?私の炎に貴様の矢は通用しないぞ」
「そうだな、何本射っても貴様には届かんだろう。だが、矢を弾くためには魔力を使う必要があるだろ?」
「なっ、ジョ、ジョルジュ・ワーリントン・・・き、貴様、まさか・・・!」
ジョルジュの狙いに気付き、キャシーの目が大きく開かれる。
「貴様の魔力が尽きるまで、何本の矢が必要か試してやろう」
これがキャシー・タンデルズの魔道具である。
深紅のローブを脱ぐと、その下には柄も何もない、その名の通り白無地のシャツが一枚だった。
だがキャシーが魔力を放出すると、白いシャツは周囲の風景に溶け込むように消えていった。
そしてそれは白いシャツだけではなく、着用者の体も、身に着けている物も同様であった。
身に着けている物も有効であるならば、なぜキャシーは深紅のローブを脱いだのか。
白衣の染色は周囲の景色に同化するため、上にコートなりローブなり、何かしらを羽織った状態では発動できないためである。
そしてこの魔道具の優れたところは、白衣の染色が発動している間は、使用者の魔力さえも隠す事ができるのである。
キャシーはこの魔道具を使い、先のセインソルボ山の戦いでウィッカーから逃れ、軍を撤退させる事ができた。本来は偵察用の魔道具だが、戦闘にも生かせる万能な魔道具である。
エリンの腹に左手を当てた状態で、キャシーの放った魔法は爆裂弾である。
初級魔法とはいえ、手を当てた状態で放たれた爆裂弾は、エリンを空中へと吹き飛ばした。
爆発による灰色の煙が地上から尾を引き、雪の空に一筋の放射線を描いた。
「うっ・・・がはっ!」
意識していないところに受けた爆発魔法は、エリンに大きなダメージを与えていた。
喉の奥から込み上げてくる、鉄の匂いのするそれを吐き出すと、胸元が真っ赤に濡れ染まる。
無防備にその体を宙に投げ出される。
意識はあるがダメージの大きさに、すぐに体を動かす事ができなかった。
勝った!これで終わりだ!
エリンがすぐには態勢を立て直せない事を見て、キャシーの目がギラリと光る!
その両手が光輝き、強い破壊のエネルギーに包まれる!
今の状態のエリンがまともに食らえば、まず生き残れないだろう。
爆裂空破弾!
この一撃で決める!
その気迫で繰り出された巨大な破壊のエネルギー弾が、上空のエリンへと撃ち放たれた!
「・・・なにっ!?」
勝利を確信した瞬間だった。
青い髪の女剣士を吹き飛ばしたと思ったその時、突然空を横切る影がエリンを抱えて降り立った。
「・・・危なかった」
間一髪で爆裂空破弾は空へと消えていく。
ジョルジュは横目で巨大な光弾を見送ると、腕に抱くエリンの腹部に視線を落とした。
「・・・・・深いな」
エリンやペトラ、剣士隊の女性は胸当てや肩当ては付けているが、身軽さを優先し、動きの妨げになるため腹には防具を付けていない。
「う、ぐぅ・・・も、申し訳、ありません・・・」
「傷は深い。あとは俺がやる。休んでいろ」
エリンを下ろすと、ジョルジュは弓に手をかけた。
白衣の染色で姿を消しているため、ジョルジュにキャシーを視認する事はできない。
だがジョルジュは、白く積もった雪の上で、そこにキャシーが立っていると確信しているかのように、その方向だけをじっと見据えていた。
「・・・・ジョルジュ・ワーリントン、貴様、見えているのか?」
姿は完璧に周囲の景色と同化させている。魔力も消えているし見えるはずがない。
だが、ジョルジュの迷いなく自分を見る目に、キャシーは白衣の染色の魔力を解きその姿を現した。
「ほう、そうやって姿を消していたのか。なかなか便利な魔道具だな。だが無駄だ。そんな小細工は俺には通用せん」
「・・・ジョルジュ・ワーリントン・・・言ってくれたな」
キャシーの身体から炎が立ち昇る。
怒りを孕んだ炎は竜を形作り、荒ぶる業火による熱波は、呼吸を苦しく感じさせるほどだった。
「そうだな。俺の矢を弾いたのだ。ここは灼炎竜が正解だろう」
ジョルジュは弓を構えると、キャシーに狙いをつけた。
「・・・しょうこりもなく私に矢を向けるのか?たった今貴様が言ったばかりだろう?私の炎に貴様の矢は通用しないぞ」
「そうだな、何本射っても貴様には届かんだろう。だが、矢を弾くためには魔力を使う必要があるだろ?」
「なっ、ジョ、ジョルジュ・ワーリントン・・・き、貴様、まさか・・・!」
ジョルジュの狙いに気付き、キャシーの目が大きく開かれる。
「貴様の魔力が尽きるまで、何本の矢が必要か試してやろう」
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