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【842 心の変化】
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「ペトラ隊長、私も行かせてください!」
ジョルジュが走り出すと、一連の様子を見ていたエリンが、直属の上司であるペトラへ申し出た。
突然の事にペトラは眉根を寄せる。ジョルジュの単騎特攻は、外ならぬジョルジュだからこそ認められたものである。
一人で敵陣に飛び込んでなお、目的を遂げてくれると信じられるジョルジュであるから、ウィッカー達は送り出した。
「・・・エリン、どうして?」
普段ならばエリンの申し出は却下である。
だがエリンの目を見て、ペトラはその強い眼差しを生んだ理由を聞いてみたくなった。
なぜエリンは行きたいのだ?
「私の能力なら、ジョルジュ様のお役に立てるはずです!投擲の瞬間を見極め、回避のタイミングをお伝え出来ます!お願いします!私もヤヨイさんとルチルさんのように戦いたいのです!」
「エリン・・・・・」
ヤヨイもルチルも、死を恐れずに勇敢に戦った。
憧れた二人に追いつきたい、恥じぬ戦いをしたい、そして自分の力をカエストゥスのために役立てたい。
その想いがエリンを動かしていた。
「・・・ヤヨイさんもルチルも、エリンに生きていて欲しいと願っているはずだよ。いい、死ぬことを美化するんじゃない。生きて勝利を勝ち取るんだ」
言い聞かせるようにエリンの両肩を掴む。
自分の想いを真剣に聞き、そして無事を願ってくれている。掴まれた両肩からペトラの気持ちが伝わってきて、エリンの胸を強く打った。
「行ってこい、エリン。絶対に死ぬんじゃないよ」
はい!と力強く返事をすると、エリンはその身を翻し、ジョルジュの後を追って駆けた。
「・・・ペトラ、いいのか?」
二人のやりとりを見ていたウィッカーが、ペトラに歩み寄った。
決してエリンを軽視しているわけではない。だが、あの投擲を見れば、敵の戦闘力がどれほどの分かろうものだった。
ブレンダンでさえ、正面からは受けきれないと認める破壊力。
ジョルジュをもってしても、懸念がぬぐえない相手なのである。
「・・・エリンは今、殻を破ろうとしています。あれほど強い目を見てしまっては、止められません」
遠く小さくなっていくエリンの背を見つめながら、ペトラは背中から大剣を抜き取った。
「ウィッカー様、私達は私達の役目を果たしましょう」
ジョルジュもエリンも、自分達の戦うべきステージへ向かった。
「・・・ああ、そうだなペトラ。俺達は俺達の役目を・・・その通りだ」
まだ敵の姿は視認できない。だがペトラは大剣を抜いた。
まるで己を奮い立たせるかのように。
ペトラの身体から発せられる充実した気に、ウィッカーも当てられていたのだろう。
「みんな聞いてくれ!今ジョルジュとエリンが先行して敵陣に駆けた!二人は必ずこの巨槍を投げた敵を仕留める!俺はそう信じている!だからみんなも信じて付いて来てくれ!ここからの巨槍は俺とブレンダン師匠で防いで見せる!」
敵陣から放たれた巨大な槍の一撃は、カエストゥス軍の士気を削ぎ落すには十分過ぎるものだった。
たった一撃で数百人の命を奪い、引き千切られた死体から流れる流動体は、赤き海を作り出していた。
つい先刻まで隣で語り合っていた仲間が、一瞬にして無残な姿となり朽ち果てた。
動揺は広がり、恐怖にかられ、多くの兵が戦意を失いかけていた。
だが、ウィッカーの言葉は、戦意を失いかけていた兵達に力を取り戻させた。
確かな自信に満ちた力強い言葉、大陸一の黒魔法使いのウィッカーに、崩れかけていたカエストゥス軍は立ち上がった。
「そ、そうだ・・・俺達の大将はウィッカー様だ!」
「ジョルジュ様なら、どんな相手でも負けはしない!」
「俺は行くぞ!カエストゥスの強さを見せてやるんだ!」
次々と声を上げて立ち上がる兵達を見て、ペトラはウィッカーに目を向けた。
高々と拳を上げて兵達を鼓舞する姿には、もう以前のようにどこかあまい印象は感じなかった。
「・・・弱いリーダー、あなたは自分の事をそうおっしゃてましたが、そんな事はない。もう立派に強いリーダーですよ」
自分だけにしか聞こえない呟きだった。
ウィッカーの変化を好ましく見つめ、口元に小さな笑みを作ると、ペトラは空を見上げた。
髪を、頬を雪が濡らす
瞳を閉じればいつでも鮮明に思い出せる
三人で飲むコーヒーが好きだった
楽しく笑い合ったあの充実した日々は一生の宝物だ
・・・ヤヨイさん、ルチル・・・見ててね、私達は絶対に勝ってこの戦争を終わらせるから
大剣を握る手に決意を込めて、ペトラは自分達の大将に声をかけた
「ウィッカー様、行きましょう」
ジョルジュが走り出すと、一連の様子を見ていたエリンが、直属の上司であるペトラへ申し出た。
突然の事にペトラは眉根を寄せる。ジョルジュの単騎特攻は、外ならぬジョルジュだからこそ認められたものである。
一人で敵陣に飛び込んでなお、目的を遂げてくれると信じられるジョルジュであるから、ウィッカー達は送り出した。
「・・・エリン、どうして?」
普段ならばエリンの申し出は却下である。
だがエリンの目を見て、ペトラはその強い眼差しを生んだ理由を聞いてみたくなった。
なぜエリンは行きたいのだ?
「私の能力なら、ジョルジュ様のお役に立てるはずです!投擲の瞬間を見極め、回避のタイミングをお伝え出来ます!お願いします!私もヤヨイさんとルチルさんのように戦いたいのです!」
「エリン・・・・・」
ヤヨイもルチルも、死を恐れずに勇敢に戦った。
憧れた二人に追いつきたい、恥じぬ戦いをしたい、そして自分の力をカエストゥスのために役立てたい。
その想いがエリンを動かしていた。
「・・・ヤヨイさんもルチルも、エリンに生きていて欲しいと願っているはずだよ。いい、死ぬことを美化するんじゃない。生きて勝利を勝ち取るんだ」
言い聞かせるようにエリンの両肩を掴む。
自分の想いを真剣に聞き、そして無事を願ってくれている。掴まれた両肩からペトラの気持ちが伝わってきて、エリンの胸を強く打った。
「行ってこい、エリン。絶対に死ぬんじゃないよ」
はい!と力強く返事をすると、エリンはその身を翻し、ジョルジュの後を追って駆けた。
「・・・ペトラ、いいのか?」
二人のやりとりを見ていたウィッカーが、ペトラに歩み寄った。
決してエリンを軽視しているわけではない。だが、あの投擲を見れば、敵の戦闘力がどれほどの分かろうものだった。
ブレンダンでさえ、正面からは受けきれないと認める破壊力。
ジョルジュをもってしても、懸念がぬぐえない相手なのである。
「・・・エリンは今、殻を破ろうとしています。あれほど強い目を見てしまっては、止められません」
遠く小さくなっていくエリンの背を見つめながら、ペトラは背中から大剣を抜き取った。
「ウィッカー様、私達は私達の役目を果たしましょう」
ジョルジュもエリンも、自分達の戦うべきステージへ向かった。
「・・・ああ、そうだなペトラ。俺達は俺達の役目を・・・その通りだ」
まだ敵の姿は視認できない。だがペトラは大剣を抜いた。
まるで己を奮い立たせるかのように。
ペトラの身体から発せられる充実した気に、ウィッカーも当てられていたのだろう。
「みんな聞いてくれ!今ジョルジュとエリンが先行して敵陣に駆けた!二人は必ずこの巨槍を投げた敵を仕留める!俺はそう信じている!だからみんなも信じて付いて来てくれ!ここからの巨槍は俺とブレンダン師匠で防いで見せる!」
敵陣から放たれた巨大な槍の一撃は、カエストゥス軍の士気を削ぎ落すには十分過ぎるものだった。
たった一撃で数百人の命を奪い、引き千切られた死体から流れる流動体は、赤き海を作り出していた。
つい先刻まで隣で語り合っていた仲間が、一瞬にして無残な姿となり朽ち果てた。
動揺は広がり、恐怖にかられ、多くの兵が戦意を失いかけていた。
だが、ウィッカーの言葉は、戦意を失いかけていた兵達に力を取り戻させた。
確かな自信に満ちた力強い言葉、大陸一の黒魔法使いのウィッカーに、崩れかけていたカエストゥス軍は立ち上がった。
「そ、そうだ・・・俺達の大将はウィッカー様だ!」
「ジョルジュ様なら、どんな相手でも負けはしない!」
「俺は行くぞ!カエストゥスの強さを見せてやるんだ!」
次々と声を上げて立ち上がる兵達を見て、ペトラはウィッカーに目を向けた。
高々と拳を上げて兵達を鼓舞する姿には、もう以前のようにどこかあまい印象は感じなかった。
「・・・弱いリーダー、あなたは自分の事をそうおっしゃてましたが、そんな事はない。もう立派に強いリーダーですよ」
自分だけにしか聞こえない呟きだった。
ウィッカーの変化を好ましく見つめ、口元に小さな笑みを作ると、ペトラは空を見上げた。
髪を、頬を雪が濡らす
瞳を閉じればいつでも鮮明に思い出せる
三人で飲むコーヒーが好きだった
楽しく笑い合ったあの充実した日々は一生の宝物だ
・・・ヤヨイさん、ルチル・・・見ててね、私達は絶対に勝ってこの戦争を終わらせるから
大剣を握る手に決意を込めて、ペトラは自分達の大将に声をかけた
「ウィッカー様、行きましょう」
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