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823 転生者の話し
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「先日、四勇士のシャクール・バルデスから聞いたのですが・・・アラタさん、あなたはアラルコン商会でデービスという男と会った時、ずいぶん敵意を剥き出しにして見せたそうですね。そして昨日の襲撃でもデービスと戦い、我を忘れる程に感情を高ぶらせたと・・・いったいこのデービスという男は、あなたとどういう関係なのですか?」
抑揚のない一定のトーンで話しているが、アンリエールの言葉には嘘偽りを許さないという響きが含まれていた。
デービスは師団長ではないようだ。だが帝国の幹部クラスだと思われる男である。
そんな人物となぜアラタが関わりがあるのか?
日本という、こことは異なる世界から来たアラタが、どうして帝国の人間を知っているのか?
これはハッキリさせておかねばならない事だった。国の命運をかけた戦いを控え、懸念をそのままにしておく事はできない。それゆえアンリエールもアラタを見る目が厳しくなる。
「え?・・・っと、その・・・」
「アラタ君、昨日の事は王妃様に報告したの。ごめんなさい、アラタ君の事情に踏み込む事もあったと思うけど、これからの戦いに関係するかもしれないし、王妃様に隠し事はできないわ」
言葉に詰まるアラタを見て、シルヴィアが事の経緯を説明した。
昨日写しの鏡で連絡をとった時に、町で起きた事や、戦った相手の特徴など、情報をまとめて報告していたのだ。
「あ・・・そうだったんですね。いえ、大丈夫です。シルヴィアさんの言う通りですし、俺も言い難い事だったけど、隠すつもりはありませんでしたから」
昨日自分が怒りに身を焦がし、闇に呑まれそうになった事まで知っていた事には驚いたが、理由が分かりアラタは納得してアンリエールに向き直った。
「アンリエール様、ご存じの通り俺は日本という別の世界から来た人間です。あの男、本名は分かりませんが、この世界ではデービスと呼ばれているあの男は・・・・・日本で俺を殺した男です」
思いもよらないアラタの告白に、アンリエールは大きく目を開いた。
アラタが日本という別の世界から来た事は知っていた。デービスと関係があるのならば、その日本が何らかの形で関係しているという予想はしていた。
だが・・・まさか日本で殺されたという言葉には、言葉を返せず押し黙るしかなかった。
「・・・黙っていてすみませんでした。何て説明すればいいのか分からなくて・・・俺は、日本であの男に殺されました。確かに死んだはずなんです・・・・・けど、目が覚めたらこの世界に来ていて、レイチェルに助けてもらったんです。それと、村戸さんと弥生さん、一緒にいた二人もあの男に殺されたそうです。弥生さんは200年も前のカエストゥスに転生し、村戸さんは10年前にこっちに来たみたいです。時間の差が起きた原因は分かりませんが・・・これが俺とあの男の因縁です」
「・・・そう、でしたか。では、なぜあの男はこちらの世界にいるのでしょうか?アラタさんの説明だと、ニホンで命を落としたから、このプライズリング大陸に転生した。しかし、デービスは命を奪う側だったのですよね?」
まだ驚きが残っていたが、アンリエールはまず疑問点を確認する事にした。
アラタの説明通りであるならば、デービスは殺す側であり、殺されてはいない。
ならばなぜこの世界に来ているのか?
「分かりません・・・昨日戦った時にあの男が言っていたんです。俺を・・・殺した後に、弥生さんと村戸さん・・・二人も、殺したって・・・・・ただ・・・」
ギリリと歯を噛みしめ、表情が険しくなる。
大切な人が殺された事は、口にするだけで大きなストレスだった。
気持ちを落ち着けながら、一つ一つの言葉をゆっくり口にする。
アンリエールもそれが理解できるから、黙ってアラタの言葉の続きを待った。
「ただ・・・・・日本では警察という組織があって、犯罪者を捕まえているんですが・・・あの男は警察に掴まって死刑になった可能性は高いです。それでこの世界に来たのかもしれません」
命を失う事が転生の条件だとすれば、考えられる中で一番可能性が高いものは死刑だった。
裁判をして刑が確定しても、すぐに系が執行される可能性は低い。
おそらく数年、あるいは十数年経って刑が執行され、そしてこの世界に来たのだろう。
時間の差は、弥生と修一の例がある。
だが、そうすると年齢の疑問は残った。
デービスはアラタが覚えているままの姿だった。
十年以上経って死刑になったのだとしたら、当時のままの姿だった事は謎だった。
謎だったが、そこまでは考えても分からず、アラタも保留にしておくしかなかった。
「・・・なるほど、それならば説明がつきますね。分かりました。アラタさん、なんだか疑うような質問をしてしまいましたが、この国を護るためです」
「はい、分かってます・・・それと、これは前にマルゴンから聞いたんですが、もう一人の転生者、村戸さんは今帝国にいるそうです。確か・・・デューク・サリバン、そう名乗っているようです」
「帝国に!?アラタさんと同じニホンから来た者が・・・・・」
アンリエールは驚きをあらわに声を大にした。
マルコス・ゴンサレスは、宿敵村戸修一の事はアンリエールには話していなかったらしく、村戸修一が帝国にいる事は初耳だったようだ。
額に手を当て目を瞑り、少しの沈黙のあと口を開いた。
「・・・・・では、その者もアラタさんと同じ、光の力を使えるのですね?」
「・・・はい、マルゴンはそう言ってました。俺と同じ光の力を使っていたと」
顔を上げて大きく溜息を付くと、アンリエールは天井を見上げた。
「・・・頭の痛い話しですね・・・分かりました」
アンリエールは二度三度小さく頷き、今聞いた話しを飲み込んだ。
「・・・今日はここまでにしましょう。情報が多すぎて少し疲れました。あ、昼食を用意させますので、レイジェスの皆さんはゆっくりしていってくださいね」
抑揚のない一定のトーンで話しているが、アンリエールの言葉には嘘偽りを許さないという響きが含まれていた。
デービスは師団長ではないようだ。だが帝国の幹部クラスだと思われる男である。
そんな人物となぜアラタが関わりがあるのか?
日本という、こことは異なる世界から来たアラタが、どうして帝国の人間を知っているのか?
これはハッキリさせておかねばならない事だった。国の命運をかけた戦いを控え、懸念をそのままにしておく事はできない。それゆえアンリエールもアラタを見る目が厳しくなる。
「え?・・・っと、その・・・」
「アラタ君、昨日の事は王妃様に報告したの。ごめんなさい、アラタ君の事情に踏み込む事もあったと思うけど、これからの戦いに関係するかもしれないし、王妃様に隠し事はできないわ」
言葉に詰まるアラタを見て、シルヴィアが事の経緯を説明した。
昨日写しの鏡で連絡をとった時に、町で起きた事や、戦った相手の特徴など、情報をまとめて報告していたのだ。
「あ・・・そうだったんですね。いえ、大丈夫です。シルヴィアさんの言う通りですし、俺も言い難い事だったけど、隠すつもりはありませんでしたから」
昨日自分が怒りに身を焦がし、闇に呑まれそうになった事まで知っていた事には驚いたが、理由が分かりアラタは納得してアンリエールに向き直った。
「アンリエール様、ご存じの通り俺は日本という別の世界から来た人間です。あの男、本名は分かりませんが、この世界ではデービスと呼ばれているあの男は・・・・・日本で俺を殺した男です」
思いもよらないアラタの告白に、アンリエールは大きく目を開いた。
アラタが日本という別の世界から来た事は知っていた。デービスと関係があるのならば、その日本が何らかの形で関係しているという予想はしていた。
だが・・・まさか日本で殺されたという言葉には、言葉を返せず押し黙るしかなかった。
「・・・黙っていてすみませんでした。何て説明すればいいのか分からなくて・・・俺は、日本であの男に殺されました。確かに死んだはずなんです・・・・・けど、目が覚めたらこの世界に来ていて、レイチェルに助けてもらったんです。それと、村戸さんと弥生さん、一緒にいた二人もあの男に殺されたそうです。弥生さんは200年も前のカエストゥスに転生し、村戸さんは10年前にこっちに来たみたいです。時間の差が起きた原因は分かりませんが・・・これが俺とあの男の因縁です」
「・・・そう、でしたか。では、なぜあの男はこちらの世界にいるのでしょうか?アラタさんの説明だと、ニホンで命を落としたから、このプライズリング大陸に転生した。しかし、デービスは命を奪う側だったのですよね?」
まだ驚きが残っていたが、アンリエールはまず疑問点を確認する事にした。
アラタの説明通りであるならば、デービスは殺す側であり、殺されてはいない。
ならばなぜこの世界に来ているのか?
「分かりません・・・昨日戦った時にあの男が言っていたんです。俺を・・・殺した後に、弥生さんと村戸さん・・・二人も、殺したって・・・・・ただ・・・」
ギリリと歯を噛みしめ、表情が険しくなる。
大切な人が殺された事は、口にするだけで大きなストレスだった。
気持ちを落ち着けながら、一つ一つの言葉をゆっくり口にする。
アンリエールもそれが理解できるから、黙ってアラタの言葉の続きを待った。
「ただ・・・・・日本では警察という組織があって、犯罪者を捕まえているんですが・・・あの男は警察に掴まって死刑になった可能性は高いです。それでこの世界に来たのかもしれません」
命を失う事が転生の条件だとすれば、考えられる中で一番可能性が高いものは死刑だった。
裁判をして刑が確定しても、すぐに系が執行される可能性は低い。
おそらく数年、あるいは十数年経って刑が執行され、そしてこの世界に来たのだろう。
時間の差は、弥生と修一の例がある。
だが、そうすると年齢の疑問は残った。
デービスはアラタが覚えているままの姿だった。
十年以上経って死刑になったのだとしたら、当時のままの姿だった事は謎だった。
謎だったが、そこまでは考えても分からず、アラタも保留にしておくしかなかった。
「・・・なるほど、それならば説明がつきますね。分かりました。アラタさん、なんだか疑うような質問をしてしまいましたが、この国を護るためです」
「はい、分かってます・・・それと、これは前にマルゴンから聞いたんですが、もう一人の転生者、村戸さんは今帝国にいるそうです。確か・・・デューク・サリバン、そう名乗っているようです」
「帝国に!?アラタさんと同じニホンから来た者が・・・・・」
アンリエールは驚きをあらわに声を大にした。
マルコス・ゴンサレスは、宿敵村戸修一の事はアンリエールには話していなかったらしく、村戸修一が帝国にいる事は初耳だったようだ。
額に手を当て目を瞑り、少しの沈黙のあと口を開いた。
「・・・・・では、その者もアラタさんと同じ、光の力を使えるのですね?」
「・・・はい、マルゴンはそう言ってました。俺と同じ光の力を使っていたと」
顔を上げて大きく溜息を付くと、アンリエールは天井を見上げた。
「・・・頭の痛い話しですね・・・分かりました」
アンリエールは二度三度小さく頷き、今聞いた話しを飲み込んだ。
「・・・今日はここまでにしましょう。情報が多すぎて少し疲れました。あ、昼食を用意させますので、レイジェスの皆さんはゆっくりしていってくださいね」
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