異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
822 / 1,370

821 ルナの話し ⑩ 慈愛

しおりを挟む
「あ・・・・ス、スカーレッ・・・・・うッ!」

目の前に立つその女の名を口にしかけたその時、緋色の髪の女は一切の言葉を発する事なく、右手を伸ばし私の首を掴んだ。

あまりに突然だった。

ただの一言もなかった。
顔を合わせた瞬間に首を掴まれるなんて、夢にも思わなかった。
私達は闇の巫女だ。帝国にとって失ってはならない重要な存在のはず・・・それなのに、まさかこんな事をしてくるなんて・・・・・

あまかった。
自分達の利用価値を高く見て、手荒な真似はできないだろうって慢心していた。


「うっ、ぐっ・・・!」

両手でスカーレットの腕を掴み、引き離そうと力を入れるけど、私の首を掴むスカーレットの右腕はびくともせず、とても引き離せそうにないくらい強かった。


「・・・・・覚悟はできてるんだよね?」

スカーレットの金茶色の瞳が、刃のように鋭く私を見据える。
背筋が凍るような、恐ろしいくらいに研ぎ澄まされた殺意。

本気だ・・・・・スカーレットは本気で私を殺す気だ。

帝国に連れて帰る事も頭にはあるだろう。だけど抵抗されてまた逃げられるくらいなら、殺してもかまわないと思っている。

握り潰されると思う程、スカーレットが私の首を掴む力は強い。
ギリギリ・・・そう、あと少し、もうほんの少しだけ力を入れれば、私の首を潰せるギリギリのところでスカーレットは止めていた。

「・・・ねぇ?聞いてるんだけど?あの時私の手を取らなかった。つまり覚悟はできてるって事だよね?ねぇ?返事くらいしてよ?」

「あぐっ!・・・う・・・・あ・・・・」

スカーレットの腕に更に力が入り、呼吸が全くできない程に絞めつけられた。

息が・・・でき、ない・・・・・
意識が・・・・・


気が遠くなって、視界が真っ赤に染まった・・・・・



「やめろーーーッツ!」

かすかに聞こえる叫び声・・・

私の意識が暗い穴倉に落ちそうになったその時、首を圧迫していたスカーレットの手が突然外れた。
腰が抜けるように地面に落ちて、私はそのまま倒れ込んだ。

「ウッ・・・ゲホッ!ゲホッ!・・・ハァッ!ゼェッ!うぅ、はぁ、はぁ・・・げほっ!」

解放された喉に供給を止められていた空気が入るが、激しい咳とともにすぐに吐き出される。


「ルナっ!起きて!ルナ!」

咳が止まらず強く圧迫されていた喉の痛みに、私が倒れ込んでいると、私を呼ぶイリーナの声が聞こえて顔を上げた。


「ルナ!逃げて!早く逃げて!」

「げほっ・・・うぅ、え・・・イ、イリー・・・ナ?・・・・・・・」

目の前の光景が信じられなくて、私は言葉を失った。


「ルナ!逃げてー-ー-----ッツ!」


イリーナはスカーレットの体にしがみついて、地面に押し倒していた。
さっき私の喉からスカーレットの手が外れたのは、イリーナがスカーレットにぶつかって行ったからだったんだ。

「イ、イリーナ・・・・・」

「行って!私がこいつを抑えている間に逃げて!」

怖いくらい必死な顔で私に声を飛ばすイリーナに、私は一瞬ビクリと体をこわばらせた。

こんなイリーナは初めて見た。スカーレットの上に覆いかぶさり、両腕を脇の下に入れて自由にさせないように押さえ込んでいる。


「くっ、このっ、離せイリーナ。私はお前達を生かして連れ帰ればいいだけだ。別に五体満足でなくてもいいんだぞ?」

押し倒されたスカーレットの声には、僅かな苛立ちが感じられた。
スカーレットの右手に風が集まり、空気を斬り裂く鋭い音が持続的に鳴り出した。

「それで私の手なり足なり斬るつもり?やってみなよ?失血死、ううん、私みたいなか弱い女は、痛みで死んじゃうね。白魔法使いは連れて来てないんでしょ?」

スカーレットの右手を見ても、イリーナは怯むことはなかった。
その蒼い瞳で、スカーレットの金茶色の瞳と正面から睨み合う。

「・・・私に正面から言葉を返すか・・・か弱いが聞いて呆れる」

脅しだったのだろう。スカーレットの右手の風が散る。淡々としているが、僅かな言葉の抑揚が、イリーナが自分にぶつかってきた事、そして自分に向かって臆せず言葉を発している事への驚きが感じられる。

「ルナ!何してるの!さぁ今のうちに行って!クインズベリーはすぐそこよ!」

再び私に向かって声を張り上げるイリーナ。
でも、私だけ逃げるなんてできない。

「イ、イリーナも一緒に・・・」
「行って!私は大丈夫だから!早く行きなさい!」

私が近づこうとすると、イリーナは一層厳しい顔で、より高い声を私に飛ばした。

「い、イリーナ・・・や、やだよ・・・い、一緒に・・・」

自分でも気づかないうちに、私の目には涙が溜まり声が震えていた。

私一人だけクインズベリーに?そんな事できない。私とイリーナはずっと一緒だったんだ。
これからも一緒じゃなきゃ嫌だ・・・・・


「ルナ!思い出して!私は大丈夫!でも私達二人が捕まったら本当にお終いかもしれないんだよ!あなただけでも逃げなきゃ駄目なの!お願いだから行って!」

「イ・・・イリー・・・ナ・・・・・」


堪えきれずに、ボロボロと涙があふれ出した。
どうして?あと少しだったのに・・・あともう少しでイリーナと二人でにげられたのに・・・・・
ううん、そうじゃない・・・・・どうして私とイリーナが、こんな闇の巫女なんてものに選ばれなきゃならないの?どうして・・・・・


私達は、ただ普通に生きたかっただけなのに・・・・・



「・・・ルナ、大丈夫・・・きっとまた会えるから・・・・・お願い、行って・・・」


「うっ・・・うう・・・イリーナ・・・・・・う、うう・・・うわぁぁぁぁぁー-----!」


私は背を向けて逃げ出した。

最後に見たイリーナは笑顔だった。私が心配しないようにって、少しでも私の気持ちを楽にするために・・・・・笑顔で・・・・・笑顔で送り出してくれた。


【思い出して】・・・・・イリーナの言ったこの言葉は、多分昨晩の事だ。

トバリは私達に言っていた、オマエタチハマダダ・・・と。
それなら大丈夫かもしれない。
イリーナが捕まって闇に捧げられても、闇がイリーナを拒むんだ。
帝国だって、それ以上どうしようもないはずだ。

私にできる事を考えるんだ。
今の私には逃げる事しかできない、だったら逃げ切るんだ!
クインズベリーに行って助けを求めるんだ!絶対にイリーナを助けるんだ!


私は走った。溢れる涙を噛み締めて走った。
私を助けるために残ったイリーナを想うと、胸が張り裂けそうになる。

「う、うぅ・・・・・イ、イリーナ・・・・・・」

涙が溢れて止まらなかった。
けれど唇を噛み締めて私は走った。


イリーナ・・・・・絶対に、絶対に助けるから!







「・・・イリーナ、お前はルナが本当に助かると思ってるのか?」

「・・・どういう意味?」

「追ってが私一人ではない事は知ってるだろ?コルディナにレジス、カシレロにデービスまで来ているんだ。ヤツらはすでにクインズベリーに入っている。ルナは捕まりに行ったようなものだよ」


スカーレットの言葉は、イリーナを絶望させるだけの力があった。
自分が身を挺して助けたはずのルナが、わざわざ敵の待つ場所へと逃げて行った。
それはイリーナの気力をもぎ取るには十分なはずだった。

だが・・・・・


「・・・そう、だから何?ルナは捕まらないわ」

予想外の反応だった。
絶望に顔を青く染めるどころか、逆にスカーレットを挑発する。
イリーナの毅然とした態度に、スカーレットの瞳が僅かに揺れる。

「あんた、ルナの事何も知らないでしょ?ルナはね、少し気弱なところはあるけど、自分をしっかり持ってるの。こうと決めたらしっかりやりぬく強い心を持ってるの。だから絶対に捕まらないわ」

「・・・何を言うかと思えばただの根性論か?馬鹿らしい。けどその目・・・お前のその目は気に入らないね。どうにもならない現実がある事を教えてやろう」

次の瞬間イリーナは、腹の下から突如吹いた強烈な風に飛ばされ、数メートル程後ろに転がされた。

「うぐっ!う・・・痛っ・・・」

何度か体を回してようやく止まるが、あちこちが痛み、すぐには起き上がれなかった。
一瞬でボロボロになったイリーナは、地面に手を着いて気力を振り絞って顔を上げる。


「イリーナ・・・これだけ私を挑発したんだ、覚悟はできてるんだよね?ねぇ?殺しはしないよ。けど、ちょっと痛い目はみてもらうからね?」

目の前には、氷のように冷たい目をしたスカーレットが、イリーナを見下ろして立っていた。

桁違いの魔力が威圧するように、イリーナに向けて発せられている。
その魔力を浴びせられただけで、イリーナの全身は震えあがりそうだった。


「・・・ふふ・・・・・」

「・・・何がおかしい?」

絶望的なこの状況でイリーナは笑った。




ねぇ、ルナ・・・本当はね、私も寂しかったんだ

フィリス様がいなくなって、私はあの冷たくて暗い部屋でいつも一人だった

だからね、ルナ・・・あなたと初めて会った時、私は本当に嬉しかったの

もう一人じゃないんだって、お友達ができたって

あの部屋に連れて来られて、あなたはとても心細かったと思う
私もそうだったから分かるわ・・・・・

でも私にはフィリス様がいた
初めてあそこに連れて行かれた日、フィリス様が私を慰めてくれたの
私の心はフィリス様に救われたの


だから今度は私が・・・・・・
あなたが笑えるように、あなたが私と一緒で良かったって、そう思ってもらえるように・・・



「ルナ・・・・・大好きだよ」


風に揺れる絹糸のような金色の髪
大切な人を想う慈愛に満ちた青い瞳


ルナが逃げられて良かった・・・・・・


かけがえのない大切な友達を想い、イリーナは微笑んだ

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」 多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。 ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。 その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。 彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。 これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。 ~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...