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820 ルナの話し ⑨
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闇に呑まれる直前まで、命を失う寸前まで追い詰められて、私とイリーナは疲れ果てていた。
けれどいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
陽が登ればスカーレットは追いかけて来る。
「・・・・・ルナ、行こう」
しゃがんでいる私の目の前に、差し出された手を見つめて、そして顔を上げる。
「・・・イリーナ」
自分だって辛いはずなのに、イリーナは笑っていた。
私を勇気づけるために笑ってくれた。
淡い月の光が私達を優しく照らしてくれる。
少しだけ力をもらえた気がして、私はイリーナの手をとって立ち上がった。
「歩こう、イリーナ」
まっすぐにイリーナの蒼い瞳を見る私に、イリーナは意外そうに少しだけ目を丸くした。
多分、私がぐずると思ってたんだろうな。長い付き合いだから、こういう時私がどういう反応をするか知っているんだ。
私だって頑張る時は頑張るんだよ?
そう目で訴えると、イリーナは笑って頷いた。
「・・・うん!歩こう、ルナ」
私達の精神はもうギリギリだったけど、それでも足を動かし進まなければならなかった。
一人だったらくじけていたかもしれない。
でも私には、イリーナがいる。イリーナがいてくれるから・・・・・
二人で手を繋いで歩いた。
東へ・・・とにかく東へ・・・
どれくらい歩けば着くのか分からない。先の見えないゴールはとても遠く感じる。
けれど二人で・・・二人一緒なら頑張れる。
ねぇイリーナ・・・私ね、あなたに出会えて本当に良かった
お父さんとお母さんから離れ離れになった時は、自分がこれからどうなるんだろうって、不安でしかたなかった
でもね、あの日あなたが笑ってくれたから・・・・・
笑って私に話しかけてくれたから・・・・・
それがどれだけ嬉しくて心強かったか・・・イリーナは分かるかな?
冷たくて暗い部屋でも、あなたと一緒なら温かった
硬いパンでも冷めたスープでも、あなたと一緒ならとても美味しく感じられた
寂しい時、不安な時、どんなに辛い時でも、イリーナ・・・・・あなたがいてくれたから・・・・・
イリーナ・・・私あなたが大好き
やがて陽が登り始めて空が白んできた。
もう、どれくらい歩いただろう。
一睡もしていない上に、ずっと緊張しているからか、頭もぼんやりしてきた。
足は痛いし体も重い。体力はとっくに限界だった。
いったいいつまで歩けば着くんだろう・・・・・もう倒れそうだ。
そう思った時、森を抜けて開けた場所に出た。
「・・・うわぁ・・・綺麗」
思わず呟いていた。
辺り一面に広がる色とりどりの草花は、私達の膝の高さくらいまで満たされていて、そよ風に乗って運ばれる花の匂いが微かに感じられた。
美しい景色に目を奪われていると、イリーナが興奮した声で私の名前を呼んだ。
「ル、ルナ!あれ、あれ見て!」
「え!?・・・あ!お、お城だ!」
前方を指すイリーナの指を追うと、小さく見えるそれは確かにお城だった。
あれがクインズベリー城だ。
まだ少し距離があるけれど、目的地が目に見えた事は、切れかかった私達の気力をつなぐには十分だった。
草花に挟まれるように、馬車ですれ違えるくらいの幅がある道が作られている。
この道に沿って行けばお城に着くだろう。
「・・・ルナ、もうすぐだね・・・」
イリーナはお城を目にして、感動したのか唇を震わせている。
「うん・・・イリーナ、行こう」
イリーナは黙って頷いた。
私達はどちらかともなく、自然に手を繋いで歩き出した。
決して離れる事のないように・・・二人で一緒にクリンズベリーに行くために・・・
歩き疲れた足はとても痛む。けれど一歩進むごとに、少しづつお城が近くなって来る。
あそこに行けば助かる。
目に見える確かな光景を励みに、私とイリーナは励ましあって歩いた。
クインズベリーはどんな国だろう?
不安はあるけれど、こんなに綺麗な草花が育つ国なら、きっと誰もが笑って暮らせる国だと思う。
だんだんと近づいて来るお城に、私の胸は不安よりも大きな期待で高鳴った。
「イリーナ、もうすぐ・・・!」
お城まであと少し・・・入国のための門もはっきりと目に見える。
やっとここまで来た!逃げ切った!
そう確信して喜びが体中に溢れたその時・・・・・
空から降りて来た赤い影が、私達の前に立ちはだかった。
深紅のローブを纏った、緋色の髪の女、スカーレット・シャリフが・・・・・
けれどいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
陽が登ればスカーレットは追いかけて来る。
「・・・・・ルナ、行こう」
しゃがんでいる私の目の前に、差し出された手を見つめて、そして顔を上げる。
「・・・イリーナ」
自分だって辛いはずなのに、イリーナは笑っていた。
私を勇気づけるために笑ってくれた。
淡い月の光が私達を優しく照らしてくれる。
少しだけ力をもらえた気がして、私はイリーナの手をとって立ち上がった。
「歩こう、イリーナ」
まっすぐにイリーナの蒼い瞳を見る私に、イリーナは意外そうに少しだけ目を丸くした。
多分、私がぐずると思ってたんだろうな。長い付き合いだから、こういう時私がどういう反応をするか知っているんだ。
私だって頑張る時は頑張るんだよ?
そう目で訴えると、イリーナは笑って頷いた。
「・・・うん!歩こう、ルナ」
私達の精神はもうギリギリだったけど、それでも足を動かし進まなければならなかった。
一人だったらくじけていたかもしれない。
でも私には、イリーナがいる。イリーナがいてくれるから・・・・・
二人で手を繋いで歩いた。
東へ・・・とにかく東へ・・・
どれくらい歩けば着くのか分からない。先の見えないゴールはとても遠く感じる。
けれど二人で・・・二人一緒なら頑張れる。
ねぇイリーナ・・・私ね、あなたに出会えて本当に良かった
お父さんとお母さんから離れ離れになった時は、自分がこれからどうなるんだろうって、不安でしかたなかった
でもね、あの日あなたが笑ってくれたから・・・・・
笑って私に話しかけてくれたから・・・・・
それがどれだけ嬉しくて心強かったか・・・イリーナは分かるかな?
冷たくて暗い部屋でも、あなたと一緒なら温かった
硬いパンでも冷めたスープでも、あなたと一緒ならとても美味しく感じられた
寂しい時、不安な時、どんなに辛い時でも、イリーナ・・・・・あなたがいてくれたから・・・・・
イリーナ・・・私あなたが大好き
やがて陽が登り始めて空が白んできた。
もう、どれくらい歩いただろう。
一睡もしていない上に、ずっと緊張しているからか、頭もぼんやりしてきた。
足は痛いし体も重い。体力はとっくに限界だった。
いったいいつまで歩けば着くんだろう・・・・・もう倒れそうだ。
そう思った時、森を抜けて開けた場所に出た。
「・・・うわぁ・・・綺麗」
思わず呟いていた。
辺り一面に広がる色とりどりの草花は、私達の膝の高さくらいまで満たされていて、そよ風に乗って運ばれる花の匂いが微かに感じられた。
美しい景色に目を奪われていると、イリーナが興奮した声で私の名前を呼んだ。
「ル、ルナ!あれ、あれ見て!」
「え!?・・・あ!お、お城だ!」
前方を指すイリーナの指を追うと、小さく見えるそれは確かにお城だった。
あれがクインズベリー城だ。
まだ少し距離があるけれど、目的地が目に見えた事は、切れかかった私達の気力をつなぐには十分だった。
草花に挟まれるように、馬車ですれ違えるくらいの幅がある道が作られている。
この道に沿って行けばお城に着くだろう。
「・・・ルナ、もうすぐだね・・・」
イリーナはお城を目にして、感動したのか唇を震わせている。
「うん・・・イリーナ、行こう」
イリーナは黙って頷いた。
私達はどちらかともなく、自然に手を繋いで歩き出した。
決して離れる事のないように・・・二人で一緒にクリンズベリーに行くために・・・
歩き疲れた足はとても痛む。けれど一歩進むごとに、少しづつお城が近くなって来る。
あそこに行けば助かる。
目に見える確かな光景を励みに、私とイリーナは励ましあって歩いた。
クインズベリーはどんな国だろう?
不安はあるけれど、こんなに綺麗な草花が育つ国なら、きっと誰もが笑って暮らせる国だと思う。
だんだんと近づいて来るお城に、私の胸は不安よりも大きな期待で高鳴った。
「イリーナ、もうすぐ・・・!」
お城まであと少し・・・入国のための門もはっきりと目に見える。
やっとここまで来た!逃げ切った!
そう確信して喜びが体中に溢れたその時・・・・・
空から降りて来た赤い影が、私達の前に立ちはだかった。
深紅のローブを纏った、緋色の髪の女、スカーレット・シャリフが・・・・・
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