上 下
821 / 1,263

820 ルナの話し ⑨

しおりを挟む
闇に呑まれる直前まで、命を失う寸前まで追い詰められて、私とイリーナは疲れ果てていた。
けれどいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
陽が登ればスカーレットは追いかけて来る。


「・・・・・ルナ、行こう」

しゃがんでいる私の目の前に、差し出された手を見つめて、そして顔を上げる。

「・・・イリーナ」

自分だって辛いはずなのに、イリーナは笑っていた。
私を勇気づけるために笑ってくれた。

淡い月の光が私達を優しく照らしてくれる。
少しだけ力をもらえた気がして、私はイリーナの手をとって立ち上がった。

「歩こう、イリーナ」

まっすぐにイリーナの蒼い瞳を見る私に、イリーナは意外そうに少しだけ目を丸くした。
多分、私がぐずると思ってたんだろうな。長い付き合いだから、こういう時私がどういう反応をするか知っているんだ。

私だって頑張る時は頑張るんだよ?
そう目で訴えると、イリーナは笑って頷いた。

「・・・うん!歩こう、ルナ」

私達の精神はもうギリギリだったけど、それでも足を動かし進まなければならなかった。
一人だったらくじけていたかもしれない。

でも私には、イリーナがいる。イリーナがいてくれるから・・・・・



二人で手を繋いで歩いた。

東へ・・・とにかく東へ・・・

どれくらい歩けば着くのか分からない。先の見えないゴールはとても遠く感じる。
けれど二人で・・・二人一緒なら頑張れる。




ねぇイリーナ・・・私ね、あなたに出会えて本当に良かった

お父さんとお母さんから離れ離れになった時は、自分がこれからどうなるんだろうって、不安でしかたなかった

でもね、あの日あなたが笑ってくれたから・・・・・
笑って私に話しかけてくれたから・・・・・

それがどれだけ嬉しくて心強かったか・・・イリーナは分かるかな?

冷たくて暗い部屋でも、あなたと一緒なら温かった
硬いパンでも冷めたスープでも、あなたと一緒ならとても美味しく感じられた

寂しい時、不安な時、どんなに辛い時でも、イリーナ・・・・・あなたがいてくれたから・・・・・



イリーナ・・・私あなたが大好き




やがて陽が登り始めて空が白んできた。

もう、どれくらい歩いただろう。
一睡もしていない上に、ずっと緊張しているからか、頭もぼんやりしてきた。
足は痛いし体も重い。体力はとっくに限界だった。

いったいいつまで歩けば着くんだろう・・・・・もう倒れそうだ。
そう思った時、森を抜けて開けた場所に出た。


「・・・うわぁ・・・綺麗」

思わず呟いていた。

辺り一面に広がる色とりどりの草花は、私達の膝の高さくらいまで満たされていて、そよ風に乗って運ばれる花の匂いが微かに感じられた。
美しい景色に目を奪われていると、イリーナが興奮した声で私の名前を呼んだ。

「ル、ルナ!あれ、あれ見て!」

「え!?・・・あ!お、お城だ!」

前方を指すイリーナの指を追うと、小さく見えるそれは確かにお城だった。
あれがクインズベリー城だ。
まだ少し距離があるけれど、目的地が目に見えた事は、切れかかった私達の気力をつなぐには十分だった。

草花に挟まれるように、馬車ですれ違えるくらいの幅がある道が作られている。
この道に沿って行けばお城に着くだろう。


「・・・ルナ、もうすぐだね・・・」

イリーナはお城を目にして、感動したのか唇を震わせている。

「うん・・・イリーナ、行こう」

イリーナは黙って頷いた。
私達はどちらかともなく、自然に手を繋いで歩き出した。

決して離れる事のないように・・・二人で一緒にクリンズベリーに行くために・・・


歩き疲れた足はとても痛む。けれど一歩進むごとに、少しづつお城が近くなって来る。
あそこに行けば助かる。

目に見える確かな光景を励みに、私とイリーナは励ましあって歩いた。


クインズベリーはどんな国だろう?

不安はあるけれど、こんなに綺麗な草花が育つ国なら、きっと誰もが笑って暮らせる国だと思う。
だんだんと近づいて来るお城に、私の胸は不安よりも大きな期待で高鳴った。


「イリーナ、もうすぐ・・・!」


お城まであと少し・・・入国のための門もはっきりと目に見える。

やっとここまで来た!逃げ切った!

そう確信して喜びが体中に溢れたその時・・・・・
空から降りて来た赤い影が、私達の前に立ちはだかった。


深紅のローブを纏った、緋色の髪の女、スカーレット・シャリフが・・・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...