817 / 1,298
816 ルナの話し ⑤
しおりを挟む
「・・・はぁ~・・・もう足がパンパンよ」
イリーナは大きく息を吐くと、足を伸ばして背伸びをした。
靴にこびり付いて渇いた土、頬を伝う汗は、長時間歩き通した疲労を物語っていた。
「あはは、私もこんなに歩いたのは初めてだよ。本当に疲れたね」
イリーナの隣に腰を下ろして、私も同じように足を投げ出した。
乗り合い馬車だからいっぱいに混んでいると思ったけど、私達の他には数人の男女と、老夫婦が一組だけだった。あと5~6人は座れそうなスペースがあるだけに、足を伸ばしても迷惑をかける事はない。
昨日は曇り空だったから良かったけど、今日は夏らしく強い陽差しにさらされた。
森の中は樹々の葉が天然のカーテンとなってくれたけど、それでも暑いものは暑い。
私は長時間歩いて温まった体に、少しでも涼を求めて手で顔を扇いだ。
「・・・でも、これであとは乗っていればいいわけよね。苦労したかいはあったわ」
馬車が動き出した事を伝える振動が伝わって来た。
イリーナは町に着いた時に買った、竹筒に入った水を飲んだ。
美味しそうに喉を鳴らす姿を見て、私も竹筒に口を付けた。
冷えた水が喉を潤して流れていく。
一口だけと思っても、カラカラに乾いた喉と体は水分を求めて、つい二口三口と飲み続けてしまう。
「ふぅー・・・昨日は空き家でごろ寝だったでしょ?夕飯も食べれなかったし、今朝も川の水だけだったから、お腹も空いたわね」
「うん、私もお腹ぺこぺこ。急いでたからお水しか買えなかったしね。次の町に着いたら、何か食べようね」
「お嬢ちゃん、これ良かったら食べる?」
お腹を押さえている私達の前に、コッペパンが差し出された。
驚いて顔を向けると、老夫婦のお婆さんが私達の隣に来て、ニコニコと笑っていた。
「え?・・・で、でも・・・」
「いいからいいから、お腹空いてるんでしょ?これね、お昼の残りで悪いんだけど、私達お腹いっぱいなの。あなた達が食べてくれたら嬉しいわ」
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。お腹ペコペコだったので嬉しいです」
私が戸惑っていると、イリーナがお礼を口にしてコッペパンを受け取った。
「ほら、イリーナもお礼を言わなきゃ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「あらあら、しっかり者のお姉ちゃんね。いいのよ、おせっかいかなって思ったんだけど、本当にお腹空いてそうだったから。それに一個しかなくてごめんなさいね」
お婆さんは、どうやら私達を姉妹と勘違いしているようだ。
イリーナは金髪で私は白髪。イリーナは碧い瞳で、私は黒い瞳。瞳の色も髪の色も全然違うけど、同じ黒い修道服を着ているし、背もほとんど一緒だから、そう思われたのかもしれない。
イリーナはコッペパンを半分にすると、はい、と言って私に半分手渡した。
半分と言っても手でちぎったから、大きい方と小さい方、見た目にはっきり差が出てしまった。
「え、でもイリーナ、こっちこんなに大きいよ?」
「いいのいいの、だって私はお姉ちゃんなんだから」
「あらあら、優しいお姉ちゃんでいいわね」
「あ、えっと・・・はい。ありがとう・・・お姉ちゃん」
イリーナに目を向けると、イリーナは訂正する気は無いように、ニコニコと笑って私を見ている。
お婆さんも私に笑顔を向けているので、私もこのままでいいかなって思って、イリーナをお姉ちゃんと呼んでしまった。
「うふふ、いいのよイリーナ」
お姉ちゃんと呼ばれたイリーナはとても嬉しそうな、それでいて楽しそうに笑ってくれた。
嘘をついちゃったけど、まぁいいかな。
だってイリーナの方が一つ歳上だし、お姉ちゃんには違いがないもんね。
それから次の町に着くまで、私達は老夫婦と一緒に話しをしながら過ごした。
何でも次の町に息子夫婦が住んでいて、お孫さんが産まれたから会いに行くらしい。
楽しそうに話すお婆さんとお爺さんが一緒で、私達はあの施設を出て初めて心が安らいだ。
お婆さん達は私達の事は、あまり聞いてこなかった。
きっと私達の汚れた服装や、雰囲気から何かを察していたのだと思う。
自分達の話しをしながら、私達にはあたりさわりの無い事しか聞いてこなかった。
そんな気遣いも嬉しかった。
束の間の平穏な時間だった。
次の町に着くまでの短い時・・・私達が帝国の施設を出て、すでに追っては迫っていた。
緋色の髪のあの女が・・・・・
イリーナは大きく息を吐くと、足を伸ばして背伸びをした。
靴にこびり付いて渇いた土、頬を伝う汗は、長時間歩き通した疲労を物語っていた。
「あはは、私もこんなに歩いたのは初めてだよ。本当に疲れたね」
イリーナの隣に腰を下ろして、私も同じように足を投げ出した。
乗り合い馬車だからいっぱいに混んでいると思ったけど、私達の他には数人の男女と、老夫婦が一組だけだった。あと5~6人は座れそうなスペースがあるだけに、足を伸ばしても迷惑をかける事はない。
昨日は曇り空だったから良かったけど、今日は夏らしく強い陽差しにさらされた。
森の中は樹々の葉が天然のカーテンとなってくれたけど、それでも暑いものは暑い。
私は長時間歩いて温まった体に、少しでも涼を求めて手で顔を扇いだ。
「・・・でも、これであとは乗っていればいいわけよね。苦労したかいはあったわ」
馬車が動き出した事を伝える振動が伝わって来た。
イリーナは町に着いた時に買った、竹筒に入った水を飲んだ。
美味しそうに喉を鳴らす姿を見て、私も竹筒に口を付けた。
冷えた水が喉を潤して流れていく。
一口だけと思っても、カラカラに乾いた喉と体は水分を求めて、つい二口三口と飲み続けてしまう。
「ふぅー・・・昨日は空き家でごろ寝だったでしょ?夕飯も食べれなかったし、今朝も川の水だけだったから、お腹も空いたわね」
「うん、私もお腹ぺこぺこ。急いでたからお水しか買えなかったしね。次の町に着いたら、何か食べようね」
「お嬢ちゃん、これ良かったら食べる?」
お腹を押さえている私達の前に、コッペパンが差し出された。
驚いて顔を向けると、老夫婦のお婆さんが私達の隣に来て、ニコニコと笑っていた。
「え?・・・で、でも・・・」
「いいからいいから、お腹空いてるんでしょ?これね、お昼の残りで悪いんだけど、私達お腹いっぱいなの。あなた達が食べてくれたら嬉しいわ」
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。お腹ペコペコだったので嬉しいです」
私が戸惑っていると、イリーナがお礼を口にしてコッペパンを受け取った。
「ほら、イリーナもお礼を言わなきゃ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「あらあら、しっかり者のお姉ちゃんね。いいのよ、おせっかいかなって思ったんだけど、本当にお腹空いてそうだったから。それに一個しかなくてごめんなさいね」
お婆さんは、どうやら私達を姉妹と勘違いしているようだ。
イリーナは金髪で私は白髪。イリーナは碧い瞳で、私は黒い瞳。瞳の色も髪の色も全然違うけど、同じ黒い修道服を着ているし、背もほとんど一緒だから、そう思われたのかもしれない。
イリーナはコッペパンを半分にすると、はい、と言って私に半分手渡した。
半分と言っても手でちぎったから、大きい方と小さい方、見た目にはっきり差が出てしまった。
「え、でもイリーナ、こっちこんなに大きいよ?」
「いいのいいの、だって私はお姉ちゃんなんだから」
「あらあら、優しいお姉ちゃんでいいわね」
「あ、えっと・・・はい。ありがとう・・・お姉ちゃん」
イリーナに目を向けると、イリーナは訂正する気は無いように、ニコニコと笑って私を見ている。
お婆さんも私に笑顔を向けているので、私もこのままでいいかなって思って、イリーナをお姉ちゃんと呼んでしまった。
「うふふ、いいのよイリーナ」
お姉ちゃんと呼ばれたイリーナはとても嬉しそうな、それでいて楽しそうに笑ってくれた。
嘘をついちゃったけど、まぁいいかな。
だってイリーナの方が一つ歳上だし、お姉ちゃんには違いがないもんね。
それから次の町に着くまで、私達は老夫婦と一緒に話しをしながら過ごした。
何でも次の町に息子夫婦が住んでいて、お孫さんが産まれたから会いに行くらしい。
楽しそうに話すお婆さんとお爺さんが一緒で、私達はあの施設を出て初めて心が安らいだ。
お婆さん達は私達の事は、あまり聞いてこなかった。
きっと私達の汚れた服装や、雰囲気から何かを察していたのだと思う。
自分達の話しをしながら、私達にはあたりさわりの無い事しか聞いてこなかった。
そんな気遣いも嬉しかった。
束の間の平穏な時間だった。
次の町に着くまでの短い時・・・私達が帝国の施設を出て、すでに追っては迫っていた。
緋色の髪のあの女が・・・・・
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる