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816 ルナの話し ⑤
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「・・・はぁ~・・・もう足がパンパンよ」
イリーナは大きく息を吐くと、足を伸ばして背伸びをした。
靴にこびり付いて渇いた土、頬を伝う汗は、長時間歩き通した疲労を物語っていた。
「あはは、私もこんなに歩いたのは初めてだよ。本当に疲れたね」
イリーナの隣に腰を下ろして、私も同じように足を投げ出した。
乗り合い馬車だからいっぱいに混んでいると思ったけど、私達の他には数人の男女と、老夫婦が一組だけだった。あと5~6人は座れそうなスペースがあるだけに、足を伸ばしても迷惑をかける事はない。
昨日は曇り空だったから良かったけど、今日は夏らしく強い陽差しにさらされた。
森の中は樹々の葉が天然のカーテンとなってくれたけど、それでも暑いものは暑い。
私は長時間歩いて温まった体に、少しでも涼を求めて手で顔を扇いだ。
「・・・でも、これであとは乗っていればいいわけよね。苦労したかいはあったわ」
馬車が動き出した事を伝える振動が伝わって来た。
イリーナは町に着いた時に買った、竹筒に入った水を飲んだ。
美味しそうに喉を鳴らす姿を見て、私も竹筒に口を付けた。
冷えた水が喉を潤して流れていく。
一口だけと思っても、カラカラに乾いた喉と体は水分を求めて、つい二口三口と飲み続けてしまう。
「ふぅー・・・昨日は空き家でごろ寝だったでしょ?夕飯も食べれなかったし、今朝も川の水だけだったから、お腹も空いたわね」
「うん、私もお腹ぺこぺこ。急いでたからお水しか買えなかったしね。次の町に着いたら、何か食べようね」
「お嬢ちゃん、これ良かったら食べる?」
お腹を押さえている私達の前に、コッペパンが差し出された。
驚いて顔を向けると、老夫婦のお婆さんが私達の隣に来て、ニコニコと笑っていた。
「え?・・・で、でも・・・」
「いいからいいから、お腹空いてるんでしょ?これね、お昼の残りで悪いんだけど、私達お腹いっぱいなの。あなた達が食べてくれたら嬉しいわ」
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。お腹ペコペコだったので嬉しいです」
私が戸惑っていると、イリーナがお礼を口にしてコッペパンを受け取った。
「ほら、イリーナもお礼を言わなきゃ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「あらあら、しっかり者のお姉ちゃんね。いいのよ、おせっかいかなって思ったんだけど、本当にお腹空いてそうだったから。それに一個しかなくてごめんなさいね」
お婆さんは、どうやら私達を姉妹と勘違いしているようだ。
イリーナは金髪で私は白髪。イリーナは碧い瞳で、私は黒い瞳。瞳の色も髪の色も全然違うけど、同じ黒い修道服を着ているし、背もほとんど一緒だから、そう思われたのかもしれない。
イリーナはコッペパンを半分にすると、はい、と言って私に半分手渡した。
半分と言っても手でちぎったから、大きい方と小さい方、見た目にはっきり差が出てしまった。
「え、でもイリーナ、こっちこんなに大きいよ?」
「いいのいいの、だって私はお姉ちゃんなんだから」
「あらあら、優しいお姉ちゃんでいいわね」
「あ、えっと・・・はい。ありがとう・・・お姉ちゃん」
イリーナに目を向けると、イリーナは訂正する気は無いように、ニコニコと笑って私を見ている。
お婆さんも私に笑顔を向けているので、私もこのままでいいかなって思って、イリーナをお姉ちゃんと呼んでしまった。
「うふふ、いいのよイリーナ」
お姉ちゃんと呼ばれたイリーナはとても嬉しそうな、それでいて楽しそうに笑ってくれた。
嘘をついちゃったけど、まぁいいかな。
だってイリーナの方が一つ歳上だし、お姉ちゃんには違いがないもんね。
それから次の町に着くまで、私達は老夫婦と一緒に話しをしながら過ごした。
何でも次の町に息子夫婦が住んでいて、お孫さんが産まれたから会いに行くらしい。
楽しそうに話すお婆さんとお爺さんが一緒で、私達はあの施設を出て初めて心が安らいだ。
お婆さん達は私達の事は、あまり聞いてこなかった。
きっと私達の汚れた服装や、雰囲気から何かを察していたのだと思う。
自分達の話しをしながら、私達にはあたりさわりの無い事しか聞いてこなかった。
そんな気遣いも嬉しかった。
束の間の平穏な時間だった。
次の町に着くまでの短い時・・・私達が帝国の施設を出て、すでに追っては迫っていた。
緋色の髪のあの女が・・・・・
イリーナは大きく息を吐くと、足を伸ばして背伸びをした。
靴にこびり付いて渇いた土、頬を伝う汗は、長時間歩き通した疲労を物語っていた。
「あはは、私もこんなに歩いたのは初めてだよ。本当に疲れたね」
イリーナの隣に腰を下ろして、私も同じように足を投げ出した。
乗り合い馬車だからいっぱいに混んでいると思ったけど、私達の他には数人の男女と、老夫婦が一組だけだった。あと5~6人は座れそうなスペースがあるだけに、足を伸ばしても迷惑をかける事はない。
昨日は曇り空だったから良かったけど、今日は夏らしく強い陽差しにさらされた。
森の中は樹々の葉が天然のカーテンとなってくれたけど、それでも暑いものは暑い。
私は長時間歩いて温まった体に、少しでも涼を求めて手で顔を扇いだ。
「・・・でも、これであとは乗っていればいいわけよね。苦労したかいはあったわ」
馬車が動き出した事を伝える振動が伝わって来た。
イリーナは町に着いた時に買った、竹筒に入った水を飲んだ。
美味しそうに喉を鳴らす姿を見て、私も竹筒に口を付けた。
冷えた水が喉を潤して流れていく。
一口だけと思っても、カラカラに乾いた喉と体は水分を求めて、つい二口三口と飲み続けてしまう。
「ふぅー・・・昨日は空き家でごろ寝だったでしょ?夕飯も食べれなかったし、今朝も川の水だけだったから、お腹も空いたわね」
「うん、私もお腹ぺこぺこ。急いでたからお水しか買えなかったしね。次の町に着いたら、何か食べようね」
「お嬢ちゃん、これ良かったら食べる?」
お腹を押さえている私達の前に、コッペパンが差し出された。
驚いて顔を向けると、老夫婦のお婆さんが私達の隣に来て、ニコニコと笑っていた。
「え?・・・で、でも・・・」
「いいからいいから、お腹空いてるんでしょ?これね、お昼の残りで悪いんだけど、私達お腹いっぱいなの。あなた達が食べてくれたら嬉しいわ」
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。お腹ペコペコだったので嬉しいです」
私が戸惑っていると、イリーナがお礼を口にしてコッペパンを受け取った。
「ほら、イリーナもお礼を言わなきゃ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「あらあら、しっかり者のお姉ちゃんね。いいのよ、おせっかいかなって思ったんだけど、本当にお腹空いてそうだったから。それに一個しかなくてごめんなさいね」
お婆さんは、どうやら私達を姉妹と勘違いしているようだ。
イリーナは金髪で私は白髪。イリーナは碧い瞳で、私は黒い瞳。瞳の色も髪の色も全然違うけど、同じ黒い修道服を着ているし、背もほとんど一緒だから、そう思われたのかもしれない。
イリーナはコッペパンを半分にすると、はい、と言って私に半分手渡した。
半分と言っても手でちぎったから、大きい方と小さい方、見た目にはっきり差が出てしまった。
「え、でもイリーナ、こっちこんなに大きいよ?」
「いいのいいの、だって私はお姉ちゃんなんだから」
「あらあら、優しいお姉ちゃんでいいわね」
「あ、えっと・・・はい。ありがとう・・・お姉ちゃん」
イリーナに目を向けると、イリーナは訂正する気は無いように、ニコニコと笑って私を見ている。
お婆さんも私に笑顔を向けているので、私もこのままでいいかなって思って、イリーナをお姉ちゃんと呼んでしまった。
「うふふ、いいのよイリーナ」
お姉ちゃんと呼ばれたイリーナはとても嬉しそうな、それでいて楽しそうに笑ってくれた。
嘘をついちゃったけど、まぁいいかな。
だってイリーナの方が一つ歳上だし、お姉ちゃんには違いがないもんね。
それから次の町に着くまで、私達は老夫婦と一緒に話しをしながら過ごした。
何でも次の町に息子夫婦が住んでいて、お孫さんが産まれたから会いに行くらしい。
楽しそうに話すお婆さんとお爺さんが一緒で、私達はあの施設を出て初めて心が安らいだ。
お婆さん達は私達の事は、あまり聞いてこなかった。
きっと私達の汚れた服装や、雰囲気から何かを察していたのだと思う。
自分達の話しをしながら、私達にはあたりさわりの無い事しか聞いてこなかった。
そんな気遣いも嬉しかった。
束の間の平穏な時間だった。
次の町に着くまでの短い時・・・私達が帝国の施設を出て、すでに追っては迫っていた。
緋色の髪のあの女が・・・・・
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