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812 ルナの話し ①
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アンリエールから話しを引き継いだレイマートは、暴徒鎮圧のために出撃し、内通者を見つけた時の事までを語った。
「最初からおかしいとは思ってたんだ。今は帝国と戦争になるって時だから、入国管理がガチガチに厳しいんだ。見回りに行かせてるブロンズ共も、今はレミューがしごいてるから、最近はどいつも顔つきが変わってきた。そんな中で誰にも気づかれず、町の中心であれだけ暴れられる程、仕掛けられるもんなのかってな」
レイマートは顎に手を当て、天井にその透明感のある青い目を向けた。頭の中で当時の状況を整理しながら話しているようだ。
「・・・町の正門の番兵だ。三人いるうち二人が帝国に寝返っていた。交代制で入国を管理して、その二人が門前に立った時に、帝国の連中を通してやがったようだ。騒ぎを起こす事に成功して、油断したんだろうな。残りの寝返ってない一人にバレたようで、斬り合いをしてたところを俺が押さえたんだ」
「そんな事が・・・今は帝国の脅威にみんなで備えなきゃならないのに・・・」
国の中に敵がいた。帝国の息のかかった裏切り者がいるという話しに、アラタは怒りと失望を同時に感じていた。
頭を押さえて目を伏せると、シルヴィアがアラタの背中をポンポンと叩いた。
「あ、シルヴィアさん・・・」
アラタが顔を向けると、シルヴィアは目を細めて優しく語りかけた。
「アラタ君は本当に真面目ね。私も気持ちは分かるわ。けど、あんまり思い詰めないで。多分、これからはこういう事がもっと出て来ると思うわ。それが戦争よ・・・・・レイマートさん、その内通者は?」
言葉の最後は、少しだけ悲しい含みが感じられた。シルヴィアもやるせなさを感じているのだろう。
そして捕えた内通者が現在どうなっているか?レイマートにそう問いかける。
「ああ、騎士団の牢に繋いでおいたよ。できるだけ情報を引き出さなきゃならないからな。レミューとシルバー騎士が相手をしてるから、すぐに吐くとは思うけどな」
そこまで話すと、レイマートはアンリエールに顔を向けた。
「陛下、俺からは以上です」
話す事は話した。そう告げるようにレイマートは一礼をして、一歩下がった。
「そういう事です。内通者がいた事は遺憾ですが、捕えてしまえば帝国の情報も得られるわけです。当然他にもいないか現在調査をしております。二度と同じ事態を起こさない。それが大事なのです。さて、それでは闇の巫女ルナ、前へ・・・」
内通者についての話しが終わると、アンリエールはフェリックスの隣に立っている、白い髪の女性に言葉をかけた。
声をかけられた闇の巫女ルナは、緊張した面持ちでゆっくりと前に進み出た。
硬い表情は慣れない環境にいるからだろう。クインズベリーで保護してもらったまではいいが、帝国にいた自分が、果たしてこれからどのような処遇になるのか?不安でたまらないはずだ。
ルナはアラタ達の前に回ると、両手を前に揃え、腰を曲げて頭を下げた。
「・・・初めまして。私は闇の巫女のルナと申します」
顔を上げると、やや控えめな声で自分の名前を口にする。淀みの無い口調だったが、アラタ達を見る黒い瞳は不安そうに揺れている。緊張は隠しきれていない。
保護をされたと言っても、味方を変えれば捕虜とも言える。敵地に一人という立場では、相手の顔色を伺う事はしかたのない事だと言えよう。
「すでに聞いている通り、闇の巫女ルナはゴールド騎士のフェリックスが保護しました。なんでも、帝国軍に追われているところを助けたようですね。闇の巫女がどんな力を持っているのか?なぜこの国に逃げてきたのか?どうやって帝国からここまで来たのか?昨日報告は受けましたが、もう一度話してもらえますか?」
段上からかけられるアンリエールの声は、感情のこもらないものであった。
それは帝国のいた者への責めもないければ、命からがら逃げて来た者への情も無い。心のこもらない淡泊なものだった。
同じく帝国にいたアゲハとの態度の差は、全幅の信頼を置くバリオスが口を聞いていたかどうかである。
アンリエールは今見極めている。この闇の巫女という異質な者が、果たして本当に信用に足るのかどうかを。
ルナはアンリエールの言葉に従い、闇の巫女という存在がなんなのかを話し出した。
それは昨日アゲハが説明した内容と変わらず、アラタもシルヴィアも、口を挟む事なくルナの話しを黙って聞いていた。
「・・・先代の闇の巫女が亡くなった時、私ともう一人の闇の巫女イリーナは、次は自分達の番だと察してとても怖くなりました。いくら炎を使えても、たった二人で帝国から逃げ切る事なんてできません。私とイリーナはお互いを慰め合って、いつ自分達が呼ばれるのかを、ただ待つ事しかできませんでした・・・・・」
話しが闇の巫女の能力と役目から、自分達の置かれた境遇へと変わっていくにしたがい、ルナの表情には陰が落ち、話す声は小さくなっていった。ここからの話しは、できれば口にしたくない辛いものなのかもしれない。
ルナは一度言葉を止めると、フェリックスに顔を向けた。
黙ってルナを見つめていたフェリックスだが、目を合わせてると小さく頷いた。
言葉をかけられたわけではない。だがたった一人でこの場に立つルナにとって、その小さな頷きだけでも、励まされるように力となった。
自分を落ち着かせるように、大きく息を吸って吐くと、ルナは話しの続きを口にした。
「・・・生贄として闇に捧げられる事を待つだけだった私とイリーナを、あの暗い部屋から助け出してくれたのは、帝国の歴史研究者、ミゲール・ロット様でした」
「最初からおかしいとは思ってたんだ。今は帝国と戦争になるって時だから、入国管理がガチガチに厳しいんだ。見回りに行かせてるブロンズ共も、今はレミューがしごいてるから、最近はどいつも顔つきが変わってきた。そんな中で誰にも気づかれず、町の中心であれだけ暴れられる程、仕掛けられるもんなのかってな」
レイマートは顎に手を当て、天井にその透明感のある青い目を向けた。頭の中で当時の状況を整理しながら話しているようだ。
「・・・町の正門の番兵だ。三人いるうち二人が帝国に寝返っていた。交代制で入国を管理して、その二人が門前に立った時に、帝国の連中を通してやがったようだ。騒ぎを起こす事に成功して、油断したんだろうな。残りの寝返ってない一人にバレたようで、斬り合いをしてたところを俺が押さえたんだ」
「そんな事が・・・今は帝国の脅威にみんなで備えなきゃならないのに・・・」
国の中に敵がいた。帝国の息のかかった裏切り者がいるという話しに、アラタは怒りと失望を同時に感じていた。
頭を押さえて目を伏せると、シルヴィアがアラタの背中をポンポンと叩いた。
「あ、シルヴィアさん・・・」
アラタが顔を向けると、シルヴィアは目を細めて優しく語りかけた。
「アラタ君は本当に真面目ね。私も気持ちは分かるわ。けど、あんまり思い詰めないで。多分、これからはこういう事がもっと出て来ると思うわ。それが戦争よ・・・・・レイマートさん、その内通者は?」
言葉の最後は、少しだけ悲しい含みが感じられた。シルヴィアもやるせなさを感じているのだろう。
そして捕えた内通者が現在どうなっているか?レイマートにそう問いかける。
「ああ、騎士団の牢に繋いでおいたよ。できるだけ情報を引き出さなきゃならないからな。レミューとシルバー騎士が相手をしてるから、すぐに吐くとは思うけどな」
そこまで話すと、レイマートはアンリエールに顔を向けた。
「陛下、俺からは以上です」
話す事は話した。そう告げるようにレイマートは一礼をして、一歩下がった。
「そういう事です。内通者がいた事は遺憾ですが、捕えてしまえば帝国の情報も得られるわけです。当然他にもいないか現在調査をしております。二度と同じ事態を起こさない。それが大事なのです。さて、それでは闇の巫女ルナ、前へ・・・」
内通者についての話しが終わると、アンリエールはフェリックスの隣に立っている、白い髪の女性に言葉をかけた。
声をかけられた闇の巫女ルナは、緊張した面持ちでゆっくりと前に進み出た。
硬い表情は慣れない環境にいるからだろう。クインズベリーで保護してもらったまではいいが、帝国にいた自分が、果たしてこれからどのような処遇になるのか?不安でたまらないはずだ。
ルナはアラタ達の前に回ると、両手を前に揃え、腰を曲げて頭を下げた。
「・・・初めまして。私は闇の巫女のルナと申します」
顔を上げると、やや控えめな声で自分の名前を口にする。淀みの無い口調だったが、アラタ達を見る黒い瞳は不安そうに揺れている。緊張は隠しきれていない。
保護をされたと言っても、味方を変えれば捕虜とも言える。敵地に一人という立場では、相手の顔色を伺う事はしかたのない事だと言えよう。
「すでに聞いている通り、闇の巫女ルナはゴールド騎士のフェリックスが保護しました。なんでも、帝国軍に追われているところを助けたようですね。闇の巫女がどんな力を持っているのか?なぜこの国に逃げてきたのか?どうやって帝国からここまで来たのか?昨日報告は受けましたが、もう一度話してもらえますか?」
段上からかけられるアンリエールの声は、感情のこもらないものであった。
それは帝国のいた者への責めもないければ、命からがら逃げて来た者への情も無い。心のこもらない淡泊なものだった。
同じく帝国にいたアゲハとの態度の差は、全幅の信頼を置くバリオスが口を聞いていたかどうかである。
アンリエールは今見極めている。この闇の巫女という異質な者が、果たして本当に信用に足るのかどうかを。
ルナはアンリエールの言葉に従い、闇の巫女という存在がなんなのかを話し出した。
それは昨日アゲハが説明した内容と変わらず、アラタもシルヴィアも、口を挟む事なくルナの話しを黙って聞いていた。
「・・・先代の闇の巫女が亡くなった時、私ともう一人の闇の巫女イリーナは、次は自分達の番だと察してとても怖くなりました。いくら炎を使えても、たった二人で帝国から逃げ切る事なんてできません。私とイリーナはお互いを慰め合って、いつ自分達が呼ばれるのかを、ただ待つ事しかできませんでした・・・・・」
話しが闇の巫女の能力と役目から、自分達の置かれた境遇へと変わっていくにしたがい、ルナの表情には陰が落ち、話す声は小さくなっていった。ここからの話しは、できれば口にしたくない辛いものなのかもしれない。
ルナは一度言葉を止めると、フェリックスに顔を向けた。
黙ってルナを見つめていたフェリックスだが、目を合わせてると小さく頷いた。
言葉をかけられたわけではない。だがたった一人でこの場に立つルナにとって、その小さな頷きだけでも、励まされるように力となった。
自分を落ち着かせるように、大きく息を吸って吐くと、ルナは話しの続きを口にした。
「・・・生贄として闇に捧げられる事を待つだけだった私とイリーナを、あの暗い部屋から助け出してくれたのは、帝国の歴史研究者、ミゲール・ロット様でした」
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