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808 感謝と心配

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「レイチェル、大丈夫かな?」

「うん・・・店長が一緒みたいだから大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だよね」

夕食を終えると、アラタがテーブルを拭いて、カチュアが食器を洗い、リカルドがソファに寝そべってお菓子を食べる。サカキ家のいつもの光景だった。

「命が助かったのは本当に良かったよ。店長が任せろって言ってたから、きっと大丈夫なんだろうけど・・・・・」

「・・・アラタ君?」

テーブルを拭く手を止めて、言葉を途中で切ると、カチュアも食器を洗う手を止めてアラタに顔を向けた。

「・・・俺さ、この世界に来て、最初に会ったのがレイチェルなんだ。なんか俺、店の前で倒れてたみたいでさ・・・そんな俺をレイチェルがこの家に連れて来て、見ず知らずの俺を看病してご飯も作ってくれて・・・レイチェルがいなかったら、どうなっていたか分からない。本当に感謝してもしきれない・・・・・」

アラタの言葉を、カチュアは黙って聞いていた。
レイジェスで働く事になった経緯は聞いていたが、今アラタの口から語られているのは、アラタのレイチェルに対する想い、心そのものだった。

「だからレイチェルがこんな事になって、すごく辛い・・・・・カチュア、やっぱりお見舞いは時間を置いた方がいいのかな?」

振り返ったアラタの表情を見て、カチュアは思わず承諾しそうになったが、唇を結んで小さく首を振った。

「うん・・・私もアラタ君と同じ気持ちだよ。私もレイチェルにはいつも助けられてるし・・・・・アラタ君が協会に連れて行かれた時ね、面会に行こうって、レイチェルが私を協会に連れて行ってくれたの。結局あの時は会えなかったけど・・・嬉しかった」

カチュアは手元に視線を落とした。
レイチェルに励まされ、元気をもらった事を思い出し、目元に涙が浮かんでくる。

「でもレイチェルのご両親の事を考えると、落ち着くまで時間を置いてほしいんじゃないかな。今日店長が連れて行ったばかりだし、もう何日かしたら落ち着くと思うの。私達はその時まで待っていた方がいいと思うんだ」

「・・・うん、そうだね」

カチュアも気持ちを抑えている事を感じ取り、アラタも言葉少なにだが逸る気持ちを落ち着かせた。


「なぁ、暗くなり過ぎじゃね?」


アラタとカチュアの会話が止まったタイミングで、リカルドがソファから体を起こして話しに入った。
二人がリカルドに目を向けると、リカルドはそのまま話しを続けた。


「死んだわけじゃねぇだろ?何日かすりゃ目を覚ますってんだから、そんなこの世の終わりみたいな顔してんなよ?兄ちゃんは明日城に行くんだろ?準備終わったんかよ?カチュアはみんなで営業しようって言ったじゃん?ならクヨクヨしてねぇで、やる事しっかりやるべきじゃね?傷薬沢山必要なんだろ?レイチェルが帰って来た時に、半端な事してたら怒られんぞ?俺らは動けんだから、レイチェルの代わりにできる事をやってりゃいいんだよ」

やや呆れた口調で駄目だしをするリカルドに、アラタとカチュアは目を瞬かせた。


「・・・お前、リカルドだよな?」

「リカルド君が、なんかすごくいい事言ってる・・・」

「おい!どういう意味だよ!」

小馬鹿にされたと感じ怒るリカルドに、アラタとカチュアは慌てて両手を前に出して振った。

「あ、いやいや!悪い悪い、そう怒るなって!いや、うん、ちょっと意外だったから、お前もご飯意外の事を考えてるんだなって」

「兄ちゃんよ、俺にぶっとばされても文句言えねぇかんな?」

「リカルド君、ごめんね。だって、ご飯以外の話しをするなんてびっくりしたから・・・」

「カチュア、お前もいい加減にしとけよ?」

リカルドに睨まれて、アラタとカチュアは顔を見合わせると、表情を柔らかくしてリカルドに向き直った。


「いや、本当にごめん。リカルドの言う通りだよな。俺ちょっと気が急いたみたいでさ。うん、レイチェルが安心して休めるようにしっかりやるよ」

「私もレイチェルに心配かけないように、ちゃんと働くよ。ありがとう。リカルド君」

二人から感謝の言葉を受けると、リカルドは気をよくしたように鼻を鳴らしてソファに座り直し、となりに置いていた口の開いている紙袋に手を入れた。


「ん、あれ?・・・カチュア~、このチョコもっとねぇの?」

「え!?リカルド君、もう一袋食べちゃったの?」

ヒラヒラと中身の無くなった袋を振って、おかわりを要求するリカルドに、カチュアは目を丸くした。

「おい、リカルド!それ、キッチン・モロニーの新作で、俺もまだ食べてないんだぞ!全部食べんなよって言っておいたのになんで食べんだよ!」

「え、そこにチョコがあるからじゃね?」

「・・・えぇ~・・・なんでお前から、地球の登山家みたいな言葉出てくんの?」

「え、チキュウ?登山家?意味わかんね。兄ちゃん疲れてんじゃね?もう寝たらどうだ?」

アラタが何を言っているか分からない。
リカルドのエメラルドグリーンの瞳は純真な光をたたえ、きょとんとした顔でじっとアラタの顔を見つめて、体まで労わった。


「あはは、アラタ君怒らないで。もう一袋買ってあるから大丈夫だよ。あとで食べよう」

食器を洗い終えたカチュアがテーブルに来ると、リカルドがソファから跳ね起きた。

「え!?んだよ、やっぱりもう一袋あるんじゃねぇか!ケチケチしねぇでさっさと・・・」
「おい!お前図々しいにも程があるぞ!」

手を伸ばして早くよこせと要求するリカルドの言葉を遮るように、アラタが大きな声を被せて怒ると、リカルドは口を尖らせてソファに突っ伏した。

「あーあー!うっせーうっせー!どうせ俺が悪いんですよー!」

「リカルドお前いい加減に・・・」

アラタが眉間にシワを寄せると、カチュアがアラタの手をぎゅっと掴んで止めた。

「アラタ君、怒らない怒らない。リカルド君、悪気はないんだよ?ただ、食べる事が大好きなだけなの。今日もラザニア美味しいって、何回もお替りしたでしょ?私自分の料理を美味しいって沢山食べてくれるの嬉しいんだ。このチョコも美味しいって沢山食べてくれたから、モロニーさんきっと喜ぶよ。だから怒らないであげて」

「・・・うん、カチュアがそう言うんなら・・・」

「そうだぞ。兄ちゃんはイチイチ細けぇんだよ。声もでけぇし、ちっとは俺の気持ちを考えろ」

「おい!」

下ろした拳を再び振り上げて、アラタはリカルドを怒鳴りつけた。
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