上 下
808 / 1,277

807 残ったメンバーでの話し合い ③

しおりを挟む
「帝国には闇の巫女と呼ばれる女性がいるんだけど、数がとても少ないんだ。感覚的なものだけど、5~10年に2~3人産まれるくらいかな。そしてとても短命なんだ。私の知ってる限りでも全員三十歳を前に亡くなってるから。そして今代の闇の巫女が、ルナとイリーナの二人よ」

アゲハは長い髪を頭の後ろで一本にまとめると、テーブルに両手を乗せて、闇の巫女について話し出した。

「短命?」

全ての闇の巫女が、三十歳までに命を落としているという言葉に、ケイトが眉を寄せる。

「そう、短命と言っても寿命じゃなく、殺されるっていうのが正しいかな。闇の巫女はね、トバリに食われても死にはしないの。でもね、代わりに正気を失うの。そしてトバリに食われた闇の巫女は、闇の力を人に与える事ができるようになるんだ」

「なんだって!?闇の力を与える!?」

ジャレットがテーブルに身を乗り出した。
ジャレットだけではない、衝撃的な話しにミゼルもジーンも、この場の全員の顔つきが厳しくなる。

「・・・そう、そして闇の巫女は、力の限りを与え続けるんだ。全て無くなるまで・・・。ルナとイリーナが逃げ出したって事は、先代の巫女が亡くなったんだろう。スカーレットがイリーナは捕まえたと言っていたが、ルナだけでも助かったのは・・・いや、イリーナの事を考えれば、よかったと言うのは不謹慎だな。」

闇の巫女の境遇を想い、アゲハは目を閉じた。
悔しそうに、やりきれなさそうに唇を引き結び、帝国への怒りは拳に込めて握り締めた。

「・・・そう、帝国がどうやって闇の力を使えるようになったのか気になってたけど、そういう事だったのね。闇の巫女・・・生贄のようにトバリに捧げて力を・・・帝国はそんな恐ろしい方法を使っていたのね」

闇の巫女の話しを聞き、シルヴィアの声にも怒りが滲んで聞こえた。


「なぁ、そのスカーレットってのは誰だ?」

初めて聞く名前に、ジャレットが口を挟んで来た。

「ん、ああ・・・そう言えば、説明してなかったな。スカーレット・シャリフは帝国軍黒魔法兵団団長にして、第四師団長だ。21歳で先代の団長を倒して、実力で今の座を掴み取った実力者だ。帝国の歴代黒魔法兵団団長の中でも、最強ではないかと言われている・・・・・私は、実力主義の帝国では誰も信用しなかったが、スカーレットは嫌いじゃなかった」

視線を窓の外に向け、懐かしむように遠くを見る。
心なしか、口調も少し柔らかいものだった。

「・・・確かにな。あのデカブツを脅すように睨んだ時、少しだけ漏れ出た魔力だが相当なものだってのは感じ取れた。あそこでアイツも戦闘に加わってきたら、どうなってただろうな・・・」

ミゼルはデービスとの戦闘が中断した時、風魔法で空中に立つスカーレットの、底の見えない魔力を感じ取っていた。デービス一人であれほど苦戦していたのに、同等かそれ以上の力を持つ者がもう一人入られたら、勝てる見込みはほとんどなかっただろう。

「スカーレットの目的は、逃走した闇の巫女の確保、そしてクインズベリーに暴徒を放ち、国力を削ぐ事だった。黒魔法兵団副団長のコルディナと、第二師団副団長のレジス、この二人が殺られて、カシレロまで戦闘不能に追い込まれたら、撤退は当然の判断だったよ」

弱気になるミゼルに、アゲハは体を向けて、ちょんと指を差した。

「ミゼル、あんたの魔法をスカーレットは警戒してた。最後になんか大技出そうとしてたでしょ?確かに私達は押されてたけど、スカーレットに撤退を決断させた最後の一押しは、あんたの魔法だったよ。意外とやるじゃん?だから、もうちょっと自信もちなよ」

「お、おお・・・そうか?いや、あの時は必死だったからよ」

持ち上げられるとは思っていなかったのか、ミゼルが意外そうに眉を上げた。


「ま、スカーレットと闇の巫女についてはそんなとこだね。だんだん暗くなってきたし、今日はこのくらいにしない?私も今日は疲れたよ。みんなも今日は休んだ方がいいんじゃない?」

座ったまま背伸びをするとアゲハ。
窓の外は陽が落ちて来た事を教えるように、夕焼けの赤に染まっていた。
時計の針も18時30分を指している。夏の陽は長いと言っても、後一時間もしないうちに暗くなるだろう。


「そう言えば、もうこんな時間か。じゃあ俺とアゲハは、明日シルヴィアさんと三人で城ですね。いつも通り店に来て、朝礼やったら行く感じですか?」

アラタが時計に目を向けた後、シルヴィアに明日の予定を確認すると、シルヴィアはニコリと微笑んだ。

「ええ、それでいいわ。アラタ君はカチュアがいるから寝坊しないわよね?アゲハも今日は早めに休んでね。服装は普段着でいいけど、清潔感のあるものにしてね。本当ならスーツを着るべきなんだけど、私達は国のために色々と頑張ったから、特例なの」

「ん、あ~、大丈夫大丈夫。分かってるから。私も元は立場のある地位にいたから、そのくらい分かるさ」

暑いからと言って、アゲハはタンクトップやらホットパンツやら、露出の多い服装で店に立つため、シルヴィアに釘を刺された。
頬を掻いて、ごまかすように笑うと、アゲハは席を立った。

「じゃあ、今日はもうこのへんでお開きでいいかな?」

「そうね。じゃあ、みんな、今日も一日お疲れ様。暗くならないうちに帰るのよ」

座ったままそれぞれの顔を見て、シルヴィアが一日の締めの挨拶をすると、お疲れ様でした、と全員が声を出してお開きになった。



「アラタ君、本当にもう体は大丈夫?痛いところはない?」

「ああ、少しだるい感じはあるけど、このくらいなら平気だよ」

「それなら早く帰ろうぜ。今日のメシはなんだよ?」

「えっと、今日はラザニア・・・うわっ!?び、びっくりしたー!」


アラタとカチュアが荷物を持って外に出ようとすると、当然のように二人の後ろに立っているリカルドに、カチュアが驚いて体をビクリと反応させる。

「あ~、リカルド・・・つまり今日も来るのな?」

「あ?何水くせぇ事言ってんだよ?今日はいっぱい動いて腹減ってんだよ。もたもたすんなよ」

アラタのカチュアの背中を押して、とにかく早く帰るぞという強い意思を見せるリカルドに、二人は顔を見合わせて、しかたないなというふう笑った。

「分かった分かった。分かったから押すなって」

「リカルド君、家はすぐそこなんだから、そんなに焦らなくて大丈夫だよ」

「お、なんだよ。歩けんじゃねぇか?ほら、行こうぜ」

二人が自分で歩き始めると、リカルドは駆け足気味に前に出て、どんどん先に行ってしまう。
そんな緑色の髪の少年の背中を見て、カチュアはおかしそうに笑った。

「あはは、なんだかリカルド君も、すっかりうちにいついちゃったよね」

「う~ん、二日に一回は来るからな。でも、まさか今日も来るとはなぁ~、帰る時まで何も言われなかったから、今日はないと思ったんだけど・・・ま、あいつの事はもうしかたないと思うようにしてるよ」

話しながら二人でゆっくり歩いていると、すでに家についたらしいリカルドの、さっさと来いよー!、と言う大きな声が、樹々を抜けて耳に届いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...