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806 残ったメンバーでの話し合い ②

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「営業だけど、明日から通常通りに店を開けたいと思うの。どうかしら?」

シルヴィアはまず最初にそう告げた。
しかし、すぐに分かったと返事ができるものでもなかった。

現状を考えれば、そもそも営業をすべきなのだろうか?
帝国が攻撃をしかけてきたのだから、店は閉めて戦いに備えるべきではないのだろうか?

一人一人様々な考えに頭を悩ませ、それぞれ顔を見合わせたり、腕を組んで考えるような唸ったりしている。


「えっと、さっき店長来たでしょ?店長は何か言ってなかったの?」

ケイトからの質問に、シルヴィアはバリオスから伝えられた言葉をそのまま告げた。

「店長は営業するように話していたわ。私とジャレットとミゼルの三人で、相談しながら店を回すようにって。みんなが心配してる事も、店長は分かってるのよ。でもね、町の人達の事を考えると、明日から営業をすべきだと思うわ。店長は今回の事で怪我をした人には、無償で傷薬を提供するように指示したの。レイジェスには、身を護る道具が沢山あるでしょ?傷薬も町で一番の品質よ。今それが買えなくなったら、困る人が沢山出て来るわ。だから店長は営業を望んでいるの」

シルヴィアは、バリオスの気持ちをよく理解していた。
残ったメンバーでは、ジャレットが一番リーダーシップを発揮している。
だが、周りをよく見て、一番冷静に物事を考えられるのはシルヴィアだった。
だからこそバリオスは、シルヴィアに気持ちを伝えて行ったのだ。


「・・・私はシルヴィアさんに賛成です」

シルヴィアの話しを聞いて、カチュアが顔の高さまで手を挙げた。

「カチュア、嬉しいわ。ありがとう」

シルヴィアが優しく微笑みかけると、カチュアは少し照れたように笑った。

「私、店長の気持ち分かります。店長、すごく優しいから・・・だから、こんな風に町が壊されて、すごく辛いんだと思うんです。店長いつも言ってたから・・・この町の人のために、レイジェスがあるんだって。だから、みんなでやろう!明日も明後日も、今まで通りお店を開けて町の人を助けようよ!」

力強く話すカチュアの姿は、やはり昔とは違っていた。
率先して大勢の前で話すような性格ではなかったが、自分から堂々と意見を口にするようになった。


「カチュア、変わったね。強くなった」

そんなカチュアを見て、ユーリは優しく笑いかけた。

「え、そうかな?」

「うん。前のカチュアは、こういう時自分から話さなかった。強くなった。やっぱり結婚したから?」

意味深な目でじっと見つめられて、カチュアは少し頬を赤くした。

「えっと、あの、そうなの・・・かな?自分じゃぜんぜん分かんない・・・」

「へぇ~、私は結婚前のカチュアは知らないけど、ずいぶん内気だったって事なの?なんか意外だね。結婚すると強くなるんだ?」

ユーリの話しを聞いて、アゲハは少し驚いたように言葉を口にした。
レイジェスに来てから、カチュアとは接する機会が多く、大人しく見えるけど、芯の強い女の子という印象を持っていたからだ。

「あ~、そういやアゲハは最近入ったばっかだから、前のカッちゃんは知らねぇよな。確かに変わったと思うな。内気って程じゃねぇけど、こういう話し合いで自分から意見出して、みんなに呼びかけなんてする感じじゃなかったな。やっぱ結婚したからだと思うわ」

ジャレットが頭の後ろで手を組みながら、アゲハに説明するように話しかけた。

「そうだね、協会にアラタが連れて行かれた時の事を考えると、見違えて強くなったと思うよ。やっぱり結婚するとそういうふうに変わっていくんだね」

ジーンが温かく見守るような視線を送る。

「ちょ、ちょっと!結婚結婚って、みんな・・・言い過ぎだよ~」

結婚というワードを強調して向けられ、カチュアは赤くなった顔を両手で隠した。

「ほらほら、みんなそのくらいにしなさい。途中からちょっと遊んでたでしょ?駄目よ。カチュアは私の可愛い妹なんだから、いじめたら許さないからね」

みんながカチュアをいじっていると、シルヴィアが手を叩いて止めさせる。
カチュアがレイジェスに入った時から、仕事を教えて面倒を見て来たシルヴィアにとって、カチュアは妹のような存在だった。

「う~・・・シルヴィアお姉ちゃん、ありがとう」

「ふふ、私もカチュアは強くなったと思ってるけど、こういうところはまだまだ弱いのね。照れる事ないのよ?堂々としてていいの」

優しく微笑みかけるシルヴィアに、カチュアも笑顔を返す。

「あはは、ごめんねカチュア、僕もちょっと悪ノリしちゃったね。ところで、営業だけど、僕も賛成だよ。今の話しを聞いて、レイジェスがなんのためにあるのか考えた。こういう時だからこそ、町の人達のために店を開けなきゃならないと思う」

ジーンが賛同すると、ジャレットにミゼル、他のメンバーも頷き、営業しようという声が上がっていった。


「俺も賛成です。明日からまたみんなで頑張っていきましょう!」

最後にアラタが賛成の声を上げると、シルヴィアがアラタに顔を向けて口を開いた。

「あ、アラタ君は明日はお休みよ」

「・・・え?なんでですか?」

やる気になっているところを、急に休みと言われて、アラタが目をパチパチと瞬かせると、シルヴィアは次にアゲハに目を向けた。

「アゲハもお休みよ」

「は!?なんで私も?膝ならユーリに治してもらったから、問題ないけど?」

アラタとアゲハが困惑するが、シルヴィア以外のメンバー全員が、戸惑った顔でシルヴィアを見ている。
理由も言わずに突然休みと言われれば、当然だろう。

「ふふ、いきなりそう言われたら驚くわよね。ちゃんと理由はあるのよ。明日、アラタくんとアゲハは、私と一緒にお城に行ってもらいます。実はね、みんなが事務所に来る前に、写しの鏡でアンリエール様から要請があったの。ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアンが、闇の巫女ルナって娘を保護したらしいんだけど、それについて元帝国軍のアゲハから話しが聞きたいらしいわ」


「・・・ルナの事か・・・そう言えば、スカーレットが言っていたな。ゴールド騎士が保護したって・・・」

シルヴィアが口にした闇の巫女という言葉を聞くと、アゲハは視線を落とした。
その表情には陰が落ち、沈んだ声からは、相手を気の毒に思っているようにも感じられる。


「・・・アゲハ、私達にも教えてくれないかしら?闇の巫女ってなに?」

シルヴィアにそう話しを向けられると、アゲハは顔を上げて、一人一人の顔を見回した。
全員が自分に注目をしている。


「・・・分かった。私もみんな知っておいたほうがいいと思うから、闇の巫女について話すよ」
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