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804 緋色の髪の女
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「オォォォォォォーーーーーッツ!」
ミゼルは一瞬たりとも手を止めずに撃ち続けた。
粉微塵にしてやると言って放った、全方位爆裂弾。
だがデービスの桁違いに高い魔法防御、闇の煙を突破する事は容易ではない。
実際ウインドカッターでは、皮膚を切る程度のダメージしか与えられなかった。
百発程度の爆裂弾じゃ、到底倒せねぇだろうな。
けどよ、皮膚を切れるって事は、無傷じゃねえって事だ。
ならよ、五百でも千でも、てめぇが死ぬまで撃ってやる・・・撃ち続けてやる!
「ミゼル・・・」
鳴り止まない爆発音、それにともない濛々(もうもう)と立ち込み、沸き上がってくる土煙。
矢継ぎ早に撃たれる爆裂弾によって、デービスは完全に封じ込められていた。
ミゼルの奮闘に、ケイトは拳を握り締めていた。
アゲハがやられた時、ケイトは引斥の爪で攻撃をしかけようとした。だが自分よりも先に動いたミゼルを見て、ケイトはミゼルに賭けた。
全方位爆裂弾・・・確かに上級魔法の一発よりは、爆裂弾で削り続ける方が確実かもしれない。
四勇士との戦いの時、アタシは真っ先に倒れてしまった。我ながら足を引っ張ったと思う。
しかしミゼルは、私がいなくてもたった一人で最後まで戦い抜いたのだ。
普段は情けない姿ばかり見せているが、やる時はやる男。それがミゼル・アルバラードだ。
「ミゼル・・・頑張れ」
意外に思われるかもしれないが、ミゼルの魔力量はレイジェスで一番である。
同じ黒魔法使いのシルヴィアは攻撃力でミゼルを上回るが、持久戦であればミゼルに分がある。
それゆえこの全方位爆裂弾は、ミゼルにとって最大の勝ちパターンと言えた。
体力型のアゲハがやられた今、あんたの魔法に頼るしかない。
やっちまえミゼル!レイジェス一の魔力量を見せてやれ!
「ぐ、おぉぉぉぉぉーーーーーッツ!」
肩を、背を、腹を、足を、一瞬たりとも間を空けずに撃たれる。
デービスは両手で頭部を抱え込むようにして、体を丸めて完全防御の体勢をとった。
闇の煙によって防御力は大幅に上がっている。
初級魔法の爆裂弾など、本来物の数ではない。だが百を超える爆裂弾、嵐のように激しく撃ちつけるそれは、デービスの体に確実にダメージを蓄積させていった。
野郎・・・!しつけぇ、いつまで撃ちやがる!?
爆裂弾とはいえ、ここまでの数はそう撃てるもんじゃねぇ、並み外れた魔力を持ってやがんのか!?
くそが!ちょっとからかってやるつもりで来たが、まさかカシレロがやられて、俺にここまで食い下がるヤツがいるなんてな。
だがな・・・結局最後に勝つのは俺だ。
この茶番もいい加減に終わりにしようぜ?
デービスの目がギラリと光り、体から立ち昇る闇の煙が大きく膨れ上がった!
「・・・なっ!?野郎・・・爆裂弾が通らなくなった」
デービスの気が、闇の煙が、ここに来て一気に高まりを見せる!
僅かながらにダメージを与えていた爆裂弾が、闇の煙にほぼ完全に防がれるようになった。
瞬時にそれを感じ取ったミゼルは、両手に集中させていた破壊の魔力を、より大きく強く放出した。
「しかたねぇな・・・これはできれば使いたくなかったが、やるしかねぇか」
・・・・・やらなきゃ殺られる
「その首、ねじ切ってやる」
闇の煙で爆裂弾を防ぎつつ、重心を低くやや前傾になり、右足で強く地面を踏みしめる。
デービスはミゼルの腰に狙いを定め、タックルの構えをとった。
「できるもんならやってみろよ」
両手に集めた魔力が、これまでで最大の光を放つ。
その魔力はバチバチと大きな音を響かせ、呼応するかのように、ひび割れた地面から砂や小石が宙空に舞い上がった。
化け物が!店長との修行で得た俺の切り札!見せてやるよ!
「デービス、そこまでよ」
デービスとミゼル、二人が今まさに決着を付けようとしたその時、突然上空からかけられた言葉に、二人は動きを止めた。
「・・・・・てめぇ、スカーレット・・・いいとこなのに、なんで止めんだよ?」
踏み出そうとした足を止めて、デービスが顔を上げる。
それに合わせるように、ミゼルもケイトも、その場にいた全員が顔を上げて、上空に立つ緋色の髪の女を見た。
スカーレットと呼ばれたその女性は、帝国の幹部である事を表す、深紅のローブに身を包んでいた。
年齢はおそらく二十歳前後だろう。肩の下まである緋色の髪、切れ長の金茶色の瞳、その赤い唇から発する言葉は、上空から冷たく降り注いだ。
「コルディナが殺られた。ディーロ兄弟も敗走。カシレロまで倒された事は、完全に計算外だった。そして闇の巫女ルナは、ゴールド騎士に保護された。これ以上は被害を増やせない。撤退よ」
「あぁ!?だったらなおさらだろ?ここまでやられて、おめおめと帰っていいのか?皇帝になんて報告すんだよ?」
撤退を告げられて気色ばむデービスだが、スカーレットは眉一つ動かさずに、淡々と言葉を続けた。
「ルナには逃げられたけど、闇の巫女イリーナは捕えたわ。それに精神操作で操られた者が大暴れして、クインズベリーも混乱を来たした。痛み分けという事で話しはできる。ただ、これ以上帝国の被害を増やすわけにはいかない。今回の指揮権は私にある。撤退するわ。デービス、これは命令よ」
一定の口調で淡々と話しているが、スカーレットの瞳が否や許さぬ強さを見せると、デービスは舌を打ち肩をすくめて緊張状態を解いた。
「ちっ・・・分かったよ。俺もお前を怒らせるつもりはねぇ。まぁ、それなりに楽しめたな」
そう言うとデービスは、まずミゼルに目を向け、続いてその後ろで膝の治療をしているアゲハ、ユーリに視線を移した。
「アゲハ、ざまぁねぇな?帝国じゃ孤高を気取ってたくせに、こっちじゃお友達に助けてもらってんのかよ?笑わせるぜ」
「なんだとっ!」
さげすむようなデービスの言葉に、アゲハが腰を上げようとするが、ユーリが強い力でその肩を押さえた。
「アゲハ、駄目。まだ終わってない。今ちゃんと治さないと、後遺症が残るかもしれない」
「・・・くそ」
悔しそうに歯噛みするアゲハに対して、ユーリは顔には出さなかったが、内心は安堵していた。
アラタが倒れ、アゲハは負傷している。体力型の二人に代わり、自分が前に出たとして、果たして残ったメンバーでこの化け物を倒せるだろうか?
あの超回復力を見てしまった後では、とても勝てるとは思えなかった。
退いてくれる事は正直助かった。
ミゼルもケイトも同じ気持ちなのだろう。
これ以上デービスを刺激する気はないようで、警戒はしているが、一定の距離をとって見ているだけだ。
こちらにも戦闘続行の意思が無いことを見て取ると、デービスはフンと一度鼻を鳴らすと、後方に寝かせていたカシレロの元まで歩き、ひょいと肩に担ぎあげてこの場を離れて行った。
「・・・アゲハ」
デービスの後ろ姿を見送ると、それまで上空に浮かんでいたスカーレットがアゲハに目を向けた。
感情の籠らない瞳だったが、どこか懐かしむような響きが、その声には感じられた。
「・・・スカーレット」
それを受けてアゲハも緋色の髪の女を見上げて、その名を口にする。
その声には何か悲しむような、やりきれなさが感じられた。
二人は互いの名を口にして視線を交わすが、それ以上は言葉が続かなかった。
やがてスカーレットはアゲハから視線を外すと、そのままゆっくりと離れて行った。
「・・・・・スカーレット」
その姿が完全に見えなくなると、アゲハはもう一度だけその名を小さく呟いた。
ミゼルは一瞬たりとも手を止めずに撃ち続けた。
粉微塵にしてやると言って放った、全方位爆裂弾。
だがデービスの桁違いに高い魔法防御、闇の煙を突破する事は容易ではない。
実際ウインドカッターでは、皮膚を切る程度のダメージしか与えられなかった。
百発程度の爆裂弾じゃ、到底倒せねぇだろうな。
けどよ、皮膚を切れるって事は、無傷じゃねえって事だ。
ならよ、五百でも千でも、てめぇが死ぬまで撃ってやる・・・撃ち続けてやる!
「ミゼル・・・」
鳴り止まない爆発音、それにともない濛々(もうもう)と立ち込み、沸き上がってくる土煙。
矢継ぎ早に撃たれる爆裂弾によって、デービスは完全に封じ込められていた。
ミゼルの奮闘に、ケイトは拳を握り締めていた。
アゲハがやられた時、ケイトは引斥の爪で攻撃をしかけようとした。だが自分よりも先に動いたミゼルを見て、ケイトはミゼルに賭けた。
全方位爆裂弾・・・確かに上級魔法の一発よりは、爆裂弾で削り続ける方が確実かもしれない。
四勇士との戦いの時、アタシは真っ先に倒れてしまった。我ながら足を引っ張ったと思う。
しかしミゼルは、私がいなくてもたった一人で最後まで戦い抜いたのだ。
普段は情けない姿ばかり見せているが、やる時はやる男。それがミゼル・アルバラードだ。
「ミゼル・・・頑張れ」
意外に思われるかもしれないが、ミゼルの魔力量はレイジェスで一番である。
同じ黒魔法使いのシルヴィアは攻撃力でミゼルを上回るが、持久戦であればミゼルに分がある。
それゆえこの全方位爆裂弾は、ミゼルにとって最大の勝ちパターンと言えた。
体力型のアゲハがやられた今、あんたの魔法に頼るしかない。
やっちまえミゼル!レイジェス一の魔力量を見せてやれ!
「ぐ、おぉぉぉぉぉーーーーーッツ!」
肩を、背を、腹を、足を、一瞬たりとも間を空けずに撃たれる。
デービスは両手で頭部を抱え込むようにして、体を丸めて完全防御の体勢をとった。
闇の煙によって防御力は大幅に上がっている。
初級魔法の爆裂弾など、本来物の数ではない。だが百を超える爆裂弾、嵐のように激しく撃ちつけるそれは、デービスの体に確実にダメージを蓄積させていった。
野郎・・・!しつけぇ、いつまで撃ちやがる!?
爆裂弾とはいえ、ここまでの数はそう撃てるもんじゃねぇ、並み外れた魔力を持ってやがんのか!?
くそが!ちょっとからかってやるつもりで来たが、まさかカシレロがやられて、俺にここまで食い下がるヤツがいるなんてな。
だがな・・・結局最後に勝つのは俺だ。
この茶番もいい加減に終わりにしようぜ?
デービスの目がギラリと光り、体から立ち昇る闇の煙が大きく膨れ上がった!
「・・・なっ!?野郎・・・爆裂弾が通らなくなった」
デービスの気が、闇の煙が、ここに来て一気に高まりを見せる!
僅かながらにダメージを与えていた爆裂弾が、闇の煙にほぼ完全に防がれるようになった。
瞬時にそれを感じ取ったミゼルは、両手に集中させていた破壊の魔力を、より大きく強く放出した。
「しかたねぇな・・・これはできれば使いたくなかったが、やるしかねぇか」
・・・・・やらなきゃ殺られる
「その首、ねじ切ってやる」
闇の煙で爆裂弾を防ぎつつ、重心を低くやや前傾になり、右足で強く地面を踏みしめる。
デービスはミゼルの腰に狙いを定め、タックルの構えをとった。
「できるもんならやってみろよ」
両手に集めた魔力が、これまでで最大の光を放つ。
その魔力はバチバチと大きな音を響かせ、呼応するかのように、ひび割れた地面から砂や小石が宙空に舞い上がった。
化け物が!店長との修行で得た俺の切り札!見せてやるよ!
「デービス、そこまでよ」
デービスとミゼル、二人が今まさに決着を付けようとしたその時、突然上空からかけられた言葉に、二人は動きを止めた。
「・・・・・てめぇ、スカーレット・・・いいとこなのに、なんで止めんだよ?」
踏み出そうとした足を止めて、デービスが顔を上げる。
それに合わせるように、ミゼルもケイトも、その場にいた全員が顔を上げて、上空に立つ緋色の髪の女を見た。
スカーレットと呼ばれたその女性は、帝国の幹部である事を表す、深紅のローブに身を包んでいた。
年齢はおそらく二十歳前後だろう。肩の下まである緋色の髪、切れ長の金茶色の瞳、その赤い唇から発する言葉は、上空から冷たく降り注いだ。
「コルディナが殺られた。ディーロ兄弟も敗走。カシレロまで倒された事は、完全に計算外だった。そして闇の巫女ルナは、ゴールド騎士に保護された。これ以上は被害を増やせない。撤退よ」
「あぁ!?だったらなおさらだろ?ここまでやられて、おめおめと帰っていいのか?皇帝になんて報告すんだよ?」
撤退を告げられて気色ばむデービスだが、スカーレットは眉一つ動かさずに、淡々と言葉を続けた。
「ルナには逃げられたけど、闇の巫女イリーナは捕えたわ。それに精神操作で操られた者が大暴れして、クインズベリーも混乱を来たした。痛み分けという事で話しはできる。ただ、これ以上帝国の被害を増やすわけにはいかない。今回の指揮権は私にある。撤退するわ。デービス、これは命令よ」
一定の口調で淡々と話しているが、スカーレットの瞳が否や許さぬ強さを見せると、デービスは舌を打ち肩をすくめて緊張状態を解いた。
「ちっ・・・分かったよ。俺もお前を怒らせるつもりはねぇ。まぁ、それなりに楽しめたな」
そう言うとデービスは、まずミゼルに目を向け、続いてその後ろで膝の治療をしているアゲハ、ユーリに視線を移した。
「アゲハ、ざまぁねぇな?帝国じゃ孤高を気取ってたくせに、こっちじゃお友達に助けてもらってんのかよ?笑わせるぜ」
「なんだとっ!」
さげすむようなデービスの言葉に、アゲハが腰を上げようとするが、ユーリが強い力でその肩を押さえた。
「アゲハ、駄目。まだ終わってない。今ちゃんと治さないと、後遺症が残るかもしれない」
「・・・くそ」
悔しそうに歯噛みするアゲハに対して、ユーリは顔には出さなかったが、内心は安堵していた。
アラタが倒れ、アゲハは負傷している。体力型の二人に代わり、自分が前に出たとして、果たして残ったメンバーでこの化け物を倒せるだろうか?
あの超回復力を見てしまった後では、とても勝てるとは思えなかった。
退いてくれる事は正直助かった。
ミゼルもケイトも同じ気持ちなのだろう。
これ以上デービスを刺激する気はないようで、警戒はしているが、一定の距離をとって見ているだけだ。
こちらにも戦闘続行の意思が無いことを見て取ると、デービスはフンと一度鼻を鳴らすと、後方に寝かせていたカシレロの元まで歩き、ひょいと肩に担ぎあげてこの場を離れて行った。
「・・・アゲハ」
デービスの後ろ姿を見送ると、それまで上空に浮かんでいたスカーレットがアゲハに目を向けた。
感情の籠らない瞳だったが、どこか懐かしむような響きが、その声には感じられた。
「・・・スカーレット」
それを受けてアゲハも緋色の髪の女を見上げて、その名を口にする。
その声には何か悲しむような、やりきれなさが感じられた。
二人は互いの名を口にして視線を交わすが、それ以上は言葉が続かなかった。
やがてスカーレットはアゲハから視線を外すと、そのままゆっくりと離れて行った。
「・・・・・スカーレット」
その姿が完全に見えなくなると、アゲハはもう一度だけその名を小さく呟いた。
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