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802 積み重ねた信頼
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「ぐッッッッッー----ッツ!」
激しい痛みが脳に直撃する。
外からではなく、体の中を通って頭に直接響いた音は、肉を引き千切るような生々しい音だった。
「・・・へぇ~、どんな声で鳴くかと思えば、さすがはアゲハだな。悲鳴を上げないのか?」
「う、くっ・・・はぁ、はぁ・・・」
薙刀の石突を地面に突き立て、杖代わりにして体を預けながら立ち上がる。
左足を絶えず襲う強い痛みに、全身から汗が噴き出し叫び声をあげそうになる。
おそらく膝の筋肉が断裂しているのだろう。
耐え難い痛みだが、デービスを前に弱気なところは見せられない。歯を食いしばって戦意を奮い立たせる。
「・・・すげぇな。手加減無しでやったから、膝の靭帯を切ったはずだぜ?それなのに立てるのか?・・・根性あるじゃねぇか」
感心したように話すデービスに、私は精一杯の笑い顔を作って見せた。
「足一本取っただけで上からもの言ってんじゃねぇよ。あんたの技が半端なんじゃないの?・・・ちょっと捻っただけだよ・・・かかってきな」
右手の人指し指を突きつけて、かかってこいと曲げて見せる。
アラタが倒れている今、この場で体力型は私だけだ。
魔法使いのミゼル、ユーリ、ケイトじゃ一瞬で殺られてしまうだろう。
私が先頭に立って、この男を止める盾にならなければいけない!
「無理すんなよ。顔色が悪いぜ?汗もだらだらじゃねぇか?まぁ、かかって来いってんなら・・・」
デービスが一歩足を進めてきたその時、私の後ろから何かが撃ち放たれた。
それは顔の横を通って髪をなびかせると、デービスに向かって一直線に走った!
「うぉっ!?」
とっさに顔を庇って出した腕に、鋭く尖った氷が突き刺さる!
氷魔法 刺氷弾!
「アゲハ、下がってろ」
デービスの動きを止めると、アゲハの横をミゼルが走り出る!
「ちょっと、ミゼル!あんた・・・」
「いくら俺でもな、そんな状態の女を前に出す程、落ちぶれちゃいねぇよ」
魔法使いのミゼルがあのデービスを相手に前に出る。
店ではいつもいじられ、ユーリやシルヴィアに雑な扱いを受けているミゼルが見せた意外な行動に、アゲハは単純に驚いた。しかし魔法使いではデービスの運動量に対抗できない。
手を伸ばして止めようとするが、ミゼルは振り返る事なく駆けて行った。
「アゲハ、ミゼルを信じて」
「ユ、ユーリ、でもミゼルじゃ・・・」
「ミゼルは馬鹿で優柔不断でだらしない」
「・・・え?」
信じてと言った直後の辛口に、アゲハは理解できないというように眉根を寄せた。
ユーリはアゲハの左隣にしゃがむと、痛めた左膝にそっと手を触れた。
それだけでも痛みでアゲハの顔が引きつった。
「でもミゼルは、最後に頑張る人。だから信じて任せればいい。アゲハはじっとしてて」
ユーリの両手が光輝き、アゲハの膝に癒しの魔力を注ぎ込む。
「・・・信頼してるんだね。いいな・・・」
レイジェスに来たばかりのアゲハは、まだ全員の事を深く知る事はできていない。
だからユーリのミゼルに見せた信頼は、これまでの積み重ねから来ているものだと分かり、羨ましく感じていた。
自分は帝国で、そんな信頼を築く事はできなかったから
「いや・・・築こうとしなかったんだ・・・」
「アゲハ?」
ふいの呟きに、ユーリが顔を上げると、アゲハ右足に重心を置いてゆっくりと腰を下ろした。
「何でもない。悪いが、座らせてくれ。本当は立ってるのが辛かったんだ」
「うん。楽な姿勢でいい・・・大丈夫。仲間を信じて」
ユーリの言葉に含まれた優しい響きに、アゲハは黙って頷いた。
その表情は少し和らいでいた。
「ハァァァァーーーーッツ!」
両手から発した無数の風の刃が、矢継ぎ早にデービスを襲う!
「おっ、ぬぅ、このっ!」
デービスは両腕を盾にして、上半身を丸めてガードに徹する。
「チッ、これだけ撃っても表面しか切れねぇのかよ?嫌んなるねぇ・・・」
巨木でさえ斬り落とすミゼルのウインドカッターだが、生身のデービスにせいぜい皮膚を切る程度の傷しか付けられず、溜息と苦笑いが出る。
その理由は察しがついた。
デービスの体から立ち昇る黒い煙、おそらくこれがデービスを護っているのだ。
「異常な回復力、桁違いな魔法防御、そんで馬鹿力か・・・こんなのにどうやって勝てってんだよ?」
ミゼルの両手が光輝く。
破壊の魔力が集中し周囲の空気を弾き、耳が痛くなるような音が響く。
魔法が止まった?いや、両手に魔力が集まっている、あれは爆発魔法だな。
初級魔法では、この闇の煙に歯が立たん事は分かったはずだ。
ならば、爆裂空破弾か?まさか自分の町で光源爆裂弾は撃たんだろう。
「馬鹿が、この闇の煙はその程度じゃ突破できねぇよ!」
「そいつぁどうかな?」
デービスがミゼルに突っ込もうと、足に力を入れて前のめりになった時、ミゼルが一早く両手から何発もの爆裂弾を撃ち放った。
爆裂弾だと?この期に及んでなぜそんな初級魔法・・・なに!?
「爆裂弾は確かに初級魔法だが、こいつは上級魔法に数えられる応用技だ」
ミゼルの顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「て、てめぇ・・・こいつは!?」
デービスの周りを囲む破壊のエネルギー弾、その数は百を数える。
「全方位爆裂弾だ。てめぇを粉微塵にするまで止む事はねぇ・・・」
両手を交差すると、上下左右、デービスを囲む爆裂弾が一斉に襲い掛かった!
「お・・・おぉぉぉぉぉーーーーーッ!」
絶叫するデービス。
「塵(ちり)になりやがれ」
数えきれない爆音が重なり大地が揺れる。空気が震える程の衝撃の波動が響き渡った。
激しい痛みが脳に直撃する。
外からではなく、体の中を通って頭に直接響いた音は、肉を引き千切るような生々しい音だった。
「・・・へぇ~、どんな声で鳴くかと思えば、さすがはアゲハだな。悲鳴を上げないのか?」
「う、くっ・・・はぁ、はぁ・・・」
薙刀の石突を地面に突き立て、杖代わりにして体を預けながら立ち上がる。
左足を絶えず襲う強い痛みに、全身から汗が噴き出し叫び声をあげそうになる。
おそらく膝の筋肉が断裂しているのだろう。
耐え難い痛みだが、デービスを前に弱気なところは見せられない。歯を食いしばって戦意を奮い立たせる。
「・・・すげぇな。手加減無しでやったから、膝の靭帯を切ったはずだぜ?それなのに立てるのか?・・・根性あるじゃねぇか」
感心したように話すデービスに、私は精一杯の笑い顔を作って見せた。
「足一本取っただけで上からもの言ってんじゃねぇよ。あんたの技が半端なんじゃないの?・・・ちょっと捻っただけだよ・・・かかってきな」
右手の人指し指を突きつけて、かかってこいと曲げて見せる。
アラタが倒れている今、この場で体力型は私だけだ。
魔法使いのミゼル、ユーリ、ケイトじゃ一瞬で殺られてしまうだろう。
私が先頭に立って、この男を止める盾にならなければいけない!
「無理すんなよ。顔色が悪いぜ?汗もだらだらじゃねぇか?まぁ、かかって来いってんなら・・・」
デービスが一歩足を進めてきたその時、私の後ろから何かが撃ち放たれた。
それは顔の横を通って髪をなびかせると、デービスに向かって一直線に走った!
「うぉっ!?」
とっさに顔を庇って出した腕に、鋭く尖った氷が突き刺さる!
氷魔法 刺氷弾!
「アゲハ、下がってろ」
デービスの動きを止めると、アゲハの横をミゼルが走り出る!
「ちょっと、ミゼル!あんた・・・」
「いくら俺でもな、そんな状態の女を前に出す程、落ちぶれちゃいねぇよ」
魔法使いのミゼルがあのデービスを相手に前に出る。
店ではいつもいじられ、ユーリやシルヴィアに雑な扱いを受けているミゼルが見せた意外な行動に、アゲハは単純に驚いた。しかし魔法使いではデービスの運動量に対抗できない。
手を伸ばして止めようとするが、ミゼルは振り返る事なく駆けて行った。
「アゲハ、ミゼルを信じて」
「ユ、ユーリ、でもミゼルじゃ・・・」
「ミゼルは馬鹿で優柔不断でだらしない」
「・・・え?」
信じてと言った直後の辛口に、アゲハは理解できないというように眉根を寄せた。
ユーリはアゲハの左隣にしゃがむと、痛めた左膝にそっと手を触れた。
それだけでも痛みでアゲハの顔が引きつった。
「でもミゼルは、最後に頑張る人。だから信じて任せればいい。アゲハはじっとしてて」
ユーリの両手が光輝き、アゲハの膝に癒しの魔力を注ぎ込む。
「・・・信頼してるんだね。いいな・・・」
レイジェスに来たばかりのアゲハは、まだ全員の事を深く知る事はできていない。
だからユーリのミゼルに見せた信頼は、これまでの積み重ねから来ているものだと分かり、羨ましく感じていた。
自分は帝国で、そんな信頼を築く事はできなかったから
「いや・・・築こうとしなかったんだ・・・」
「アゲハ?」
ふいの呟きに、ユーリが顔を上げると、アゲハ右足に重心を置いてゆっくりと腰を下ろした。
「何でもない。悪いが、座らせてくれ。本当は立ってるのが辛かったんだ」
「うん。楽な姿勢でいい・・・大丈夫。仲間を信じて」
ユーリの言葉に含まれた優しい響きに、アゲハは黙って頷いた。
その表情は少し和らいでいた。
「ハァァァァーーーーッツ!」
両手から発した無数の風の刃が、矢継ぎ早にデービスを襲う!
「おっ、ぬぅ、このっ!」
デービスは両腕を盾にして、上半身を丸めてガードに徹する。
「チッ、これだけ撃っても表面しか切れねぇのかよ?嫌んなるねぇ・・・」
巨木でさえ斬り落とすミゼルのウインドカッターだが、生身のデービスにせいぜい皮膚を切る程度の傷しか付けられず、溜息と苦笑いが出る。
その理由は察しがついた。
デービスの体から立ち昇る黒い煙、おそらくこれがデービスを護っているのだ。
「異常な回復力、桁違いな魔法防御、そんで馬鹿力か・・・こんなのにどうやって勝てってんだよ?」
ミゼルの両手が光輝く。
破壊の魔力が集中し周囲の空気を弾き、耳が痛くなるような音が響く。
魔法が止まった?いや、両手に魔力が集まっている、あれは爆発魔法だな。
初級魔法では、この闇の煙に歯が立たん事は分かったはずだ。
ならば、爆裂空破弾か?まさか自分の町で光源爆裂弾は撃たんだろう。
「馬鹿が、この闇の煙はその程度じゃ突破できねぇよ!」
「そいつぁどうかな?」
デービスがミゼルに突っ込もうと、足に力を入れて前のめりになった時、ミゼルが一早く両手から何発もの爆裂弾を撃ち放った。
爆裂弾だと?この期に及んでなぜそんな初級魔法・・・なに!?
「爆裂弾は確かに初級魔法だが、こいつは上級魔法に数えられる応用技だ」
ミゼルの顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「て、てめぇ・・・こいつは!?」
デービスの周りを囲む破壊のエネルギー弾、その数は百を数える。
「全方位爆裂弾だ。てめぇを粉微塵にするまで止む事はねぇ・・・」
両手を交差すると、上下左右、デービスを囲む爆裂弾が一斉に襲い掛かった!
「お・・・おぉぉぉぉぉーーーーーッ!」
絶叫するデービス。
「塵(ちり)になりやがれ」
数えきれない爆音が重なり大地が揺れる。空気が震える程の衝撃の波動が響き渡った。
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