802 / 1,277
801 裏の顔
しおりを挟む
鉤山剛毅は死刑判決を下された。
リサイクルショップの店員を三名殺害した事件は、全国で大きく取り上げられた。
買い取り価格が合わなかったから。店員の態度も気に入らなかった。
このような些細な理由で未来ある若者三人を殺害したというニュースは、テレビのコメンテーター、
犯罪心理学の専門家などが連日に渡って、社会への不満が、家庭環境が、などと、どこかで聞いたような言葉を述べていた。
こうした事件は一時は大きな注目を集めるが、何か新しい出来事が起きればすぐに取って代わるものだ。だがこの事件、ある要素によって長く関心を引く事になった。
鉤山剛毅は20代の頃、レスリングで五輪の代表候補にまでなった人物だった。
しかし最終選考で、金銭的な不祥事が発覚して落選。
その後はプロレス団体に所属し、華麗な技と明るいキャラクターで確かな人気を確立するが、またしても金に関わる問題が取り上げられる。
鉤山は自分に関わる一切の容疑を否定するが、テレビで連日のように悪評を流されると、これまでの人気が嘘のようにバッシングにさらされる事になった。
そして鉤山は表舞台から姿を消した。
その後の鉤山の消息は誰も知らなかった。
リサイクルショップ従業員殺人事件が起きるまでは。
死刑判決を下されてから、鉤山の刑が執行されたのは20年後、鉤山剛毅61歳の時だった。
鉤山の弁護士だった男性が後に新聞記者に語っているが、死刑が確定してからの鉤山は毎日をとても穏やかに過ごしていたようだった。
面会に行くと笑顔で対応をしてくれて、質問にも丁寧に答えていたと言う。
ただ一度だけ・・・
話しが弾んでついプロレス時代の話題を出した時、それまでの和やかな雰囲気が嘘のように空気が凍り付いた。
突然俯いて黙り込んだ鉤山に、弁護士はどうしたのかと尋ね、顔を覗き込んで後悔した。
鉤山の目は憎悪に満ちていた。
仕事柄、精神的な異常者、凶悪な犯罪者、様々な人間と会って来た。
だが、これほどの目をする人間に会った事は初めてだった。
一度見ただけで、脳に焼き付くような印象を刻んだその目を、弁護士は一生忘れられないと語っていた。
底の見えない深く暗い谷底に呑まれるような、とてつもない恐怖を覚えた弁護士は、その後鉤山に面会する回数が極端に減った。
会わないわけにはいかないため最低限は顔を出したが、以前のように積極的に自分から関わろうとする気持ちは無くなってしまった。
鉤山を嫌っているわけではない。ただ怖かったのだ。
人の心に巣くう闇。
人間ならば誰しも表と裏の顔を持っている。
あの日見た鉤山の顔は、まさにその裏の顔だった。
この世の全てを呪っているような恐ろしい闇。
鉤山剛毅は全ての人間を憎んでいた
「ハァッツ!」
姿勢を低くし、潜るように突っ込んで来たデービスの顔を目掛けて、左から右へと得物を薙ぎ払う!
アゲハの攻撃を予想していたデービスは、刃が顔に触れる直前で足を止めて体を引いた。
鼻先をかすめるようにして刃が空を斬ると、デービスは下から上へ、アゲハの肩を押さえるように両手を前に出して飛びかかった!
今度は上か!?
だが、私も一撃目がかわされる事など想定済みだ!
薙刀は刃だけではないぞ!
「セァァァー--ッツ!」
右に捻った腰を上に伸ばす。右肘を上げて、刃の反対側にある石突を、デービスの顔面目掛けて振り上げた!
しかしそれもデービスには読まれていた。
再び腰を落として石突を躱すと、がら空きになったアゲハの腰を狙い掴みかかる!
これも躱すか?やるな。
だが、私は薙刀だけじゃないぞ。私に体術がないと思ったか!?
懐に入られた場合も想定しているんだ!
勢いを付けて左足で地面を蹴り、右足を軸にして腰を右に捻る!
自分の腰の位置まで下がったデービスの顔面目掛けて放つのは、左のミドルキック!
このタイミング、この角度で躱せるものなら躱してみろ!
「プロレスラーに足を差し出すとはな」
その言葉が耳に届いた時、まるで時が凍り付いたかのように、アゲハにはその一瞬がハッキリと目に映った。
今自分はとてつもない大きなミスをしたのではないか?
デービスはさっき未知の投げ技を使って見せた。あんな技をもっと持っているのでは?そう考えて慎重になるべきだったのでは?
少なくとも、直接体を接触させる体術は、使うべきではなかったのではないか?
デービスはアゲハの左足を両腕で掴むと、足首を脇腹に押し付けるようにして締めた。
「こいつは痛ぇぞ?」
そのまま自らを素早く内側に、きりもみ状態で倒れこんで、回転してアゲハを投げ飛ばした!
ドラゴンスクリュー!
地面に叩きつけられたその時、アゲハは自身の膝が破壊される音を聞いた。
リサイクルショップの店員を三名殺害した事件は、全国で大きく取り上げられた。
買い取り価格が合わなかったから。店員の態度も気に入らなかった。
このような些細な理由で未来ある若者三人を殺害したというニュースは、テレビのコメンテーター、
犯罪心理学の専門家などが連日に渡って、社会への不満が、家庭環境が、などと、どこかで聞いたような言葉を述べていた。
こうした事件は一時は大きな注目を集めるが、何か新しい出来事が起きればすぐに取って代わるものだ。だがこの事件、ある要素によって長く関心を引く事になった。
鉤山剛毅は20代の頃、レスリングで五輪の代表候補にまでなった人物だった。
しかし最終選考で、金銭的な不祥事が発覚して落選。
その後はプロレス団体に所属し、華麗な技と明るいキャラクターで確かな人気を確立するが、またしても金に関わる問題が取り上げられる。
鉤山は自分に関わる一切の容疑を否定するが、テレビで連日のように悪評を流されると、これまでの人気が嘘のようにバッシングにさらされる事になった。
そして鉤山は表舞台から姿を消した。
その後の鉤山の消息は誰も知らなかった。
リサイクルショップ従業員殺人事件が起きるまでは。
死刑判決を下されてから、鉤山の刑が執行されたのは20年後、鉤山剛毅61歳の時だった。
鉤山の弁護士だった男性が後に新聞記者に語っているが、死刑が確定してからの鉤山は毎日をとても穏やかに過ごしていたようだった。
面会に行くと笑顔で対応をしてくれて、質問にも丁寧に答えていたと言う。
ただ一度だけ・・・
話しが弾んでついプロレス時代の話題を出した時、それまでの和やかな雰囲気が嘘のように空気が凍り付いた。
突然俯いて黙り込んだ鉤山に、弁護士はどうしたのかと尋ね、顔を覗き込んで後悔した。
鉤山の目は憎悪に満ちていた。
仕事柄、精神的な異常者、凶悪な犯罪者、様々な人間と会って来た。
だが、これほどの目をする人間に会った事は初めてだった。
一度見ただけで、脳に焼き付くような印象を刻んだその目を、弁護士は一生忘れられないと語っていた。
底の見えない深く暗い谷底に呑まれるような、とてつもない恐怖を覚えた弁護士は、その後鉤山に面会する回数が極端に減った。
会わないわけにはいかないため最低限は顔を出したが、以前のように積極的に自分から関わろうとする気持ちは無くなってしまった。
鉤山を嫌っているわけではない。ただ怖かったのだ。
人の心に巣くう闇。
人間ならば誰しも表と裏の顔を持っている。
あの日見た鉤山の顔は、まさにその裏の顔だった。
この世の全てを呪っているような恐ろしい闇。
鉤山剛毅は全ての人間を憎んでいた
「ハァッツ!」
姿勢を低くし、潜るように突っ込んで来たデービスの顔を目掛けて、左から右へと得物を薙ぎ払う!
アゲハの攻撃を予想していたデービスは、刃が顔に触れる直前で足を止めて体を引いた。
鼻先をかすめるようにして刃が空を斬ると、デービスは下から上へ、アゲハの肩を押さえるように両手を前に出して飛びかかった!
今度は上か!?
だが、私も一撃目がかわされる事など想定済みだ!
薙刀は刃だけではないぞ!
「セァァァー--ッツ!」
右に捻った腰を上に伸ばす。右肘を上げて、刃の反対側にある石突を、デービスの顔面目掛けて振り上げた!
しかしそれもデービスには読まれていた。
再び腰を落として石突を躱すと、がら空きになったアゲハの腰を狙い掴みかかる!
これも躱すか?やるな。
だが、私は薙刀だけじゃないぞ。私に体術がないと思ったか!?
懐に入られた場合も想定しているんだ!
勢いを付けて左足で地面を蹴り、右足を軸にして腰を右に捻る!
自分の腰の位置まで下がったデービスの顔面目掛けて放つのは、左のミドルキック!
このタイミング、この角度で躱せるものなら躱してみろ!
「プロレスラーに足を差し出すとはな」
その言葉が耳に届いた時、まるで時が凍り付いたかのように、アゲハにはその一瞬がハッキリと目に映った。
今自分はとてつもない大きなミスをしたのではないか?
デービスはさっき未知の投げ技を使って見せた。あんな技をもっと持っているのでは?そう考えて慎重になるべきだったのでは?
少なくとも、直接体を接触させる体術は、使うべきではなかったのではないか?
デービスはアゲハの左足を両腕で掴むと、足首を脇腹に押し付けるようにして締めた。
「こいつは痛ぇぞ?」
そのまま自らを素早く内側に、きりもみ状態で倒れこんで、回転してアゲハを投げ飛ばした!
ドラゴンスクリュー!
地面に叩きつけられたその時、アゲハは自身の膝が破壊される音を聞いた。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる