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801 裏の顔
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鉤山剛毅は死刑判決を下された。
リサイクルショップの店員を三名殺害した事件は、全国で大きく取り上げられた。
買い取り価格が合わなかったから。店員の態度も気に入らなかった。
このような些細な理由で未来ある若者三人を殺害したというニュースは、テレビのコメンテーター、
犯罪心理学の専門家などが連日に渡って、社会への不満が、家庭環境が、などと、どこかで聞いたような言葉を述べていた。
こうした事件は一時は大きな注目を集めるが、何か新しい出来事が起きればすぐに取って代わるものだ。だがこの事件、ある要素によって長く関心を引く事になった。
鉤山剛毅は20代の頃、レスリングで五輪の代表候補にまでなった人物だった。
しかし最終選考で金銭的な不祥事を起こし落選。
その後はプロレス団体に所属し、華麗な技と明るいキャラクターで確かな人気を確立するが、またしても金に関わる問題が取り上げられる。
鉤山は自分に関わる一切の容疑を否定するが、テレビで連日のように悪評を流されると、これまでの人気が嘘のようにバッシングにさらされる事になった。
そして鉤山は表舞台から姿を消した。
その後の鉤山の消息は誰も知らなかった。
リサイクルショップ従業員暴行殺人事件が起きるまでは。
死刑判決を下されてから、鉤山の刑が執行されたのは20年後、鉤山剛毅61歳の時だった。
鉤山の弁護士だった男性が後に新聞記者に語っているが、死刑が確定してからの鉤山は毎日をとても穏やかに過ごしていたようだった。
面会に行くと笑顔で対応をしてくれて、質問にも丁寧に答えていたと言う。
ただ一度だけ・・・
話しが弾んでついプロレス時代の話題を出した時、それまでの和やかな雰囲気が嘘のように、空気が凍り付いた。
突然俯いて黙り込んだ鉤山に、弁護士はどうしたのかと顔を覗き込んで後悔した。
鉤山の目は憎悪に満ちていた。
仕事柄、精神的な異常者、凶悪な犯罪者、様々な人間と会って来た。
だが、これほどの目をする人間に会った事は初めてだった。
一度見ただけで、脳に焼き付くような印象を刻んだその目を、弁護士は一生忘れられないと語っていた。
底の見えない深く暗い谷底に呑まれるような、とてつもない恐怖を覚えた弁護士は、その後鉤山に面会する回数が極端に減った。
会わないわけにはいかないため、最低限は顔を出したが、以前のように積極的に自分から関わろうとする気持ちは無くなってしまった。
鉤山を嫌っているわけではない。ただ怖かったのだ。
人の心に巣くう闇。
人間ならば誰しも表と裏の顔を持っている。
あの日見た鉤山の顔は、まさにその裏の顔だった。
この世の全てを呪っているような恐ろしい闇。
鉤山剛毅は全ての人間を憎んでいた
「ハァッツ!」
姿勢を低くし、潜るように突っ込んで来たデービスの顔を目掛けて、左から右へと得物を薙ぎ払う!
アゲハの攻撃を予想していたデービスは、刃が顔に触れる直前で足を止めて体を引いた。
鼻先をかすめるようにして刃が空を斬ると、デービスは下から上へ、アゲハの肩を押さえるように両手を前に出して飛びかかった!
今度は上か!?
だが、私も一撃目がかわされる事など想定済みだ!
薙刀は刃だけではないぞ!
「セァァァー--ッツ!」
右に捻った腰を上に伸ばす。右肘を上げて、刃の反対側にある石突を、デービスの顔面目掛けて振り上げた!
しかしそれもデービスには読まれていた。
再び腰を落として石突を躱すと、がら空きになったアゲハの腰を狙い掴みかかる!
これも躱すか?やるな。
だが、私は薙刀だけじゃないぞ。私に体術がないと思ったか!?
懐に入られた場合も想定しているんだ!
勢いを付けて左足で地面を蹴り、右足を軸にして腰を右に捻る!
自分の腰の位置まで下がったデービスの顔面目掛けて放つのは、左のミドルキック!
このタイミング、この角度で躱せるものなら躱してみろ!
「プロレスラーに足を差し出すとはな」
その言葉が耳に届いた時、まるで時が凍り付いたかのように、アゲハにはその一瞬がハッキリと目に映った。
今自分はとてつもない大きなミスをしたのではないか?
デービスはさっき未知の投げ技を使って見せた。あんな技をもっと持っているのでは?そう考えて慎重になるべきだったのでは?
少なくとも、直接体を接触させる体術は、使うべきではなかったのではないか?
デービスはアゲハの左足を両腕で掴むと、足首を脇腹に押し付けるようにして締めた。
「こいつは痛ぇぞ?」
そのまま自らを素早く内側に、きりもみ状態で倒れこんで、回転してアゲハを投げ飛ばした!
ドラゴンスクリュー!
地面に叩きつけられたその時、アゲハは自身の膝が破壊される音を聞いた。
リサイクルショップの店員を三名殺害した事件は、全国で大きく取り上げられた。
買い取り価格が合わなかったから。店員の態度も気に入らなかった。
このような些細な理由で未来ある若者三人を殺害したというニュースは、テレビのコメンテーター、
犯罪心理学の専門家などが連日に渡って、社会への不満が、家庭環境が、などと、どこかで聞いたような言葉を述べていた。
こうした事件は一時は大きな注目を集めるが、何か新しい出来事が起きればすぐに取って代わるものだ。だがこの事件、ある要素によって長く関心を引く事になった。
鉤山剛毅は20代の頃、レスリングで五輪の代表候補にまでなった人物だった。
しかし最終選考で金銭的な不祥事を起こし落選。
その後はプロレス団体に所属し、華麗な技と明るいキャラクターで確かな人気を確立するが、またしても金に関わる問題が取り上げられる。
鉤山は自分に関わる一切の容疑を否定するが、テレビで連日のように悪評を流されると、これまでの人気が嘘のようにバッシングにさらされる事になった。
そして鉤山は表舞台から姿を消した。
その後の鉤山の消息は誰も知らなかった。
リサイクルショップ従業員暴行殺人事件が起きるまでは。
死刑判決を下されてから、鉤山の刑が執行されたのは20年後、鉤山剛毅61歳の時だった。
鉤山の弁護士だった男性が後に新聞記者に語っているが、死刑が確定してからの鉤山は毎日をとても穏やかに過ごしていたようだった。
面会に行くと笑顔で対応をしてくれて、質問にも丁寧に答えていたと言う。
ただ一度だけ・・・
話しが弾んでついプロレス時代の話題を出した時、それまでの和やかな雰囲気が嘘のように、空気が凍り付いた。
突然俯いて黙り込んだ鉤山に、弁護士はどうしたのかと顔を覗き込んで後悔した。
鉤山の目は憎悪に満ちていた。
仕事柄、精神的な異常者、凶悪な犯罪者、様々な人間と会って来た。
だが、これほどの目をする人間に会った事は初めてだった。
一度見ただけで、脳に焼き付くような印象を刻んだその目を、弁護士は一生忘れられないと語っていた。
底の見えない深く暗い谷底に呑まれるような、とてつもない恐怖を覚えた弁護士は、その後鉤山に面会する回数が極端に減った。
会わないわけにはいかないため、最低限は顔を出したが、以前のように積極的に自分から関わろうとする気持ちは無くなってしまった。
鉤山を嫌っているわけではない。ただ怖かったのだ。
人の心に巣くう闇。
人間ならば誰しも表と裏の顔を持っている。
あの日見た鉤山の顔は、まさにその裏の顔だった。
この世の全てを呪っているような恐ろしい闇。
鉤山剛毅は全ての人間を憎んでいた
「ハァッツ!」
姿勢を低くし、潜るように突っ込んで来たデービスの顔を目掛けて、左から右へと得物を薙ぎ払う!
アゲハの攻撃を予想していたデービスは、刃が顔に触れる直前で足を止めて体を引いた。
鼻先をかすめるようにして刃が空を斬ると、デービスは下から上へ、アゲハの肩を押さえるように両手を前に出して飛びかかった!
今度は上か!?
だが、私も一撃目がかわされる事など想定済みだ!
薙刀は刃だけではないぞ!
「セァァァー--ッツ!」
右に捻った腰を上に伸ばす。右肘を上げて、刃の反対側にある石突を、デービスの顔面目掛けて振り上げた!
しかしそれもデービスには読まれていた。
再び腰を落として石突を躱すと、がら空きになったアゲハの腰を狙い掴みかかる!
これも躱すか?やるな。
だが、私は薙刀だけじゃないぞ。私に体術がないと思ったか!?
懐に入られた場合も想定しているんだ!
勢いを付けて左足で地面を蹴り、右足を軸にして腰を右に捻る!
自分の腰の位置まで下がったデービスの顔面目掛けて放つのは、左のミドルキック!
このタイミング、この角度で躱せるものなら躱してみろ!
「プロレスラーに足を差し出すとはな」
その言葉が耳に届いた時、まるで時が凍り付いたかのように、アゲハにはその一瞬がハッキリと目に映った。
今自分はとてつもない大きなミスをしたのではないか?
デービスはさっき未知の投げ技を使って見せた。あんな技をもっと持っているのでは?そう考えて慎重になるべきだったのでは?
少なくとも、直接体を接触させる体術は、使うべきではなかったのではないか?
デービスはアゲハの左足を両腕で掴むと、足首を脇腹に押し付けるようにして締めた。
「こいつは痛ぇぞ?」
そのまま自らを素早く内側に、きりもみ状態で倒れこんで、回転してアゲハを投げ飛ばした!
ドラゴンスクリュー!
地面に叩きつけられたその時、アゲハは自身の膝が破壊される音を聞いた。
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