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789 シルヴィアの不安
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「・・・行ったか、シルヴィアさん、大丈夫ですか?」
ジャームールの姿が完全に見えなくなると、アラタはシルヴィアの体調を気遣った。
竜氷縛を撃って灼炎竜を押さえた時、かなり無理をしているように見えたからである。
「ええ・・・ちょっと疲れたけど、大丈夫よ」
緊張状態が解けて安堵の息をつくが、額の汗が物語る疲労は隠せない。
もしジャームールが退かずに戦闘を続け、シルヴィアが雪の花を使った竜氷縛を撃ったとしたら、魔力が枯渇し意識を失っていたかもしれない。
「あんまり無理しないでください。でも、シルヴィアさんがいなかったら、あの炎でこの辺りがどうなっていたか・・・考えると怖いですね。あとは俺達にまかせて、シルヴィアさんはここで休んでください。リカルド、頼むぞ?」
「え、俺!?」
指名されるなど考えてもいなかったとばかりに、リカルドは自分を指差して驚きのあらわにする。
「いや、お前がシルヴィアさんのペアじゃん?なんで驚くんだよ?」
「あー・・・まぁそうだけど・・・しゃーねぇなぁー。兄ちゃんも口がうまいからなぁ、わぁたっよ。んじゃ後の事はまかせたかんな」
「なんで俺が言いくるめた感じになってんだよ?とにかく頼んだぞ」
周囲の見張りとシルヴィアの護衛をリカルドに任せると、アラタとケイトとエルウィンは、また別の場所へと走って行った。
「ふぁ~あ、なんか急に静かになったよなぁ~、もう暴徒もだいたい潰したんじゃねぇの?」
アラタ達の姿が見えなくなると、リカルドは大きな欠伸をして、背伸びをしながら独り言のように話した。
「どうかしらね。私はまだ終わってないと思うわ。あの男、前回は二人で来たんでしょ?じゃあ今回も、どこかでもう一人が動いているんじゃないかしら?そっちが気になるわ」
シルヴィアは建物の影に腰を下ろし、ゆっくりと呼吸を整えながら、リカルドの言葉に答えた。
「あ~、なるほど。確かにそうだな。けどよ、あとは兄ちゃん達にまかせときゃ大丈夫だと思うぜ。エルウィンの話しだと、レイチェルもこっちに来てんだろ?」
リカルドの話し方には危機感が無く、仲間の身を案じる様子もまるでなかった。
だがそれはリカルドが、仲間を大切に思っていないからではない。
言葉通り、まかせておけば大丈夫だという、信頼からくるものだった。
シルヴィアもそれを分かっているから、のんきに欠伸をするリカルドを咎める事はない。
「・・・そうね。私もみんなを信頼しているわ。けど・・・」
シルヴィアも仲間達の強さを知っている。
だからこそ、信頼して後を任せる事ができた。
けれど胸に一つ影を落とす嫌な予感に、シルヴィアは懸念を拭い切れないでいた。
このまま終わるのだろうか?
暴徒はほぼ押さえ込んだと思っていいだろう。
しかし、帝国がただ暴徒を放つだけで終わらせるのだろうか?
ジャームール・ディーロの撤退も、考えてみれば見切りが早過ぎる気もする。
まるで最初から、様子見程度の攻撃しか考えていないと思えるくらいに。
考えれば考える程、裏があるように思えてしまう。
杞憂だといいのだけれど・・・・・
空は青く澄み渡り、気持ちの良い夏の風が吹いている。
しかしシルヴィアには、一抹の不吉を孕んだ冷たさが感じられた。
「ふーん・・・レイチェルから聞いてたけど、本当に死なないんだね?」
ジャーマル・ディーロの髪を掴んで持ち上げる。
胴体から離れた首は、多少の重さはあったが、魔法使いのジーンでも片手で持つ事ができた。
「ぐぅぅ、テ、テメェ、何をしやがった!?なめてんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」
突然首を飛ばされた事への動揺は大きかったが、それ以上の怒りと憎しみで、ジャーマルは口から唾を飛ばしながらジーンに怒声を浴びせた。
「・・・汚いなぁ、唾を飛ばさないでくれ。怒鳴らなくても聞こえるよ」
手の甲で頬を拭うが、その目には怒りではなく呆れの色が見える。
ジーンはまるで子供に言い聞かせるかのように、物を教える口調で話しかけた。
「すました顔しやがって!ぶっ殺してやる!」
「・・・・・ぶっ殺すぶっ殺すってうるさいな・・・・・お前はもう話すな」
そう言葉を口にした途端、ジーンの目が鋭く光った。
「え?」
ジャーマルは目を見開いた。目の前の男の纏う空気が、突然冷えた事を肌で感じたからだ。
それは今さっきまで、どこか緩い雰囲気だった男と同じ人物とは、とても思えなかった。
次の瞬間、ジャーマルの頭がバラバラに斬り裂かれて地面に落ちた。
ジャームールの姿が完全に見えなくなると、アラタはシルヴィアの体調を気遣った。
竜氷縛を撃って灼炎竜を押さえた時、かなり無理をしているように見えたからである。
「ええ・・・ちょっと疲れたけど、大丈夫よ」
緊張状態が解けて安堵の息をつくが、額の汗が物語る疲労は隠せない。
もしジャームールが退かずに戦闘を続け、シルヴィアが雪の花を使った竜氷縛を撃ったとしたら、魔力が枯渇し意識を失っていたかもしれない。
「あんまり無理しないでください。でも、シルヴィアさんがいなかったら、あの炎でこの辺りがどうなっていたか・・・考えると怖いですね。あとは俺達にまかせて、シルヴィアさんはここで休んでください。リカルド、頼むぞ?」
「え、俺!?」
指名されるなど考えてもいなかったとばかりに、リカルドは自分を指差して驚きのあらわにする。
「いや、お前がシルヴィアさんのペアじゃん?なんで驚くんだよ?」
「あー・・・まぁそうだけど・・・しゃーねぇなぁー。兄ちゃんも口がうまいからなぁ、わぁたっよ。んじゃ後の事はまかせたかんな」
「なんで俺が言いくるめた感じになってんだよ?とにかく頼んだぞ」
周囲の見張りとシルヴィアの護衛をリカルドに任せると、アラタとケイトとエルウィンは、また別の場所へと走って行った。
「ふぁ~あ、なんか急に静かになったよなぁ~、もう暴徒もだいたい潰したんじゃねぇの?」
アラタ達の姿が見えなくなると、リカルドは大きな欠伸をして、背伸びをしながら独り言のように話した。
「どうかしらね。私はまだ終わってないと思うわ。あの男、前回は二人で来たんでしょ?じゃあ今回も、どこかでもう一人が動いているんじゃないかしら?そっちが気になるわ」
シルヴィアは建物の影に腰を下ろし、ゆっくりと呼吸を整えながら、リカルドの言葉に答えた。
「あ~、なるほど。確かにそうだな。けどよ、あとは兄ちゃん達にまかせときゃ大丈夫だと思うぜ。エルウィンの話しだと、レイチェルもこっちに来てんだろ?」
リカルドの話し方には危機感が無く、仲間の身を案じる様子もまるでなかった。
だがそれはリカルドが、仲間を大切に思っていないからではない。
言葉通り、まかせておけば大丈夫だという、信頼からくるものだった。
シルヴィアもそれを分かっているから、のんきに欠伸をするリカルドを咎める事はない。
「・・・そうね。私もみんなを信頼しているわ。けど・・・」
シルヴィアも仲間達の強さを知っている。
だからこそ、信頼して後を任せる事ができた。
けれど胸に一つ影を落とす嫌な予感に、シルヴィアは懸念を拭い切れないでいた。
このまま終わるのだろうか?
暴徒はほぼ押さえ込んだと思っていいだろう。
しかし、帝国がただ暴徒を放つだけで終わらせるのだろうか?
ジャームール・ディーロの撤退も、考えてみれば見切りが早過ぎる気もする。
まるで最初から、様子見程度の攻撃しか考えていないと思えるくらいに。
考えれば考える程、裏があるように思えてしまう。
杞憂だといいのだけれど・・・・・
空は青く澄み渡り、気持ちの良い夏の風が吹いている。
しかしシルヴィアには、一抹の不吉を孕んだ冷たさが感じられた。
「ふーん・・・レイチェルから聞いてたけど、本当に死なないんだね?」
ジャーマル・ディーロの髪を掴んで持ち上げる。
胴体から離れた首は、多少の重さはあったが、魔法使いのジーンでも片手で持つ事ができた。
「ぐぅぅ、テ、テメェ、何をしやがった!?なめてんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」
突然首を飛ばされた事への動揺は大きかったが、それ以上の怒りと憎しみで、ジャーマルは口から唾を飛ばしながらジーンに怒声を浴びせた。
「・・・汚いなぁ、唾を飛ばさないでくれ。怒鳴らなくても聞こえるよ」
手の甲で頬を拭うが、その目には怒りではなく呆れの色が見える。
ジーンはまるで子供に言い聞かせるかのように、物を教える口調で話しかけた。
「すました顔しやがって!ぶっ殺してやる!」
「・・・・・ぶっ殺すぶっ殺すってうるさいな・・・・・お前はもう話すな」
そう言葉を口にした途端、ジーンの目が鋭く光った。
「え?」
ジャーマルは目を見開いた。目の前の男の纏う空気が、突然冷えた事を肌で感じたからだ。
それは今さっきまで、どこか緩い雰囲気だった男と同じ人物とは、とても思えなかった。
次の瞬間、ジャーマルの頭がバラバラに斬り裂かれて地面に落ちた。
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