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785 悪意再び

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空気を震わせる程の大きな爆発音が響き渡り、それに伴う爆風に足元をすくわれそうになる。

「ジー!」

ジャレットは暴徒鎮圧のために組んだ、青魔法使いの身を案じて名前を叫んだ。
複数人の暴徒が一度に襲い掛かってきたため、ジャレットだけでは全てを止めきれず、暴徒の一人がジーンに向かって行ってしまったのだ。

そしてジーンが迎え撃とうとしたその時、暴徒の手に突然魔力が満ち、そのままジーンに接触し爆発を起こしたのだった。


「グァァァー--ッツ!」

結界が間に合っていなければ、危ないかもしれない。そう思い、ジャレットは爆発が起こった中心に急ぎ駆け寄ろうとしたが、突然の悲鳴が爆発による土煙を裂いて、ジャレットの耳にまで届いた。

土煙のせいで視界を塞がれ、まだその姿を見る事はできないが、ジーンではない違う男の声、おそらく爆発魔法を使った暴徒だという事はすぐに分かった。


「・・・全く危ないなぁ、今の爆裂空破弾だよね?こんな街中で使う魔法じゃないよ。他に人がいなくてよかったよ」

爆風を掻き分けるようにして姿を現したのは、肩よりも長く青い髪の男だった。

「ジー!良かった、結界が間に合ったんだな?大丈夫・・・ん?お前、それ」

ジャレットがジーンの後ろを指さすと、ジーンは眉を寄せて、思い悩むような難しい顔をして見せた。

「うん、できればやりたくなかったんだけど・・・僕も危なかったから、動きは封じさせてもらったよ」

ジーンの手首にはめてあるシルバーのバングルから、目に見えない程に細い糸が伸びていて、暴徒の男の体をグルグルと縛り付けて動けないようにしていた。
抵抗して皮膚が切れたのか、体のところどころから血が滴り、糸に赤い色を付けている。

「うわ~・・・お前の魔道具、研(と)ぎ糸(いと)ってよ、めっちゃ鋭いよな?これで縛りつけるって・・・」

触れれば切れる。それほどの鋭さを持つ研ぎ糸に縛られるという事は、刃物で拘束されるようなものである。
想像もしなかった拘束方法、いや拷問と言っていいかもしれない。
そんな手段をとったジーンに、ジャレットは苦笑いを通り越して引いている。

ジャレットの言いたい事を理解して、ジーンはバツが悪そうに口を開いた。

「うん、分かってる。けど、爆裂空破弾を使ってくるんだよ?ギリギリ結界が間に合ったけど、もしこれを手あたり次第に撃ちまくられたらすごい被害になる。青魔法使いの僕には、腕力で動きを封じる事もできないし、他に方法は無かったんだ」

本意ではない。それが伝わってきて、ジャレットは頭をボリボリ掻いた。
気持ちを落ち着けるように大きく息をつくと、ジャレットは拘束用の魔道具の縄を取り出した。

「・・・悪い。なんか責めるような事言っちまったな。ジーの言う通りだ。ほら、これで縛るから、研ぎ糸を外してくれよ」

「・・・うん、分かった。じゃあ、頼むよジャレット」

ジャレットが理解を示した事に安堵して、ジーンはホッとして表情を緩めた。
研ぎ糸を外しても、暴徒はまだ警戒しているのか、身動き一つせずじっとしている。

「・・・楽で助かるけどよ、なんだか人間らしくねぇよな。こんなふうに人の尊厳を馬鹿にする帝国は、ちょっと許せねぇわ」

ジャレットは暴徒の手首を魔道具の縄で拘束しながら、苦々しい思いを口にする。

「同感だね。去年も思ったけど、この攻撃をしかけるヤツは本当に許せない。ジャレット、必ず捕まえて後悔させてやろう」

「・・・ジーってよ、たまにすげぇ怖いよな」

自分の言葉に相槌を打つジーンの目は、恐ろしいまでに冷たさを湛えていた。
それを横目に見たジャレットは、夏の暑さを忘れる程に背筋に冷たさを感じた。

「そうかな?町の平和を乱し、人々を恐怖に陥れる帝国兵なんか、痛い思いした方がいいんだよ」

「・・・俺、前から思ってたんだけど、店の男の中で一番怖いのってお前だと思うわ」

ジャレットは思い出した。
温厚で優しく、誰にでも礼節を持って接し、誰とでも親しくなれるジーンは、争いごととは無縁な人間に思われがちだ。

だがその一方で、敵に対しては一切の容赦がない冷酷さを合わせ持っていた。

「ジャレット・・・僕はね、自分の大切な人が最優先なだけだよ。だからそれを脅かす輩には手心はくわえない。当然の事だと思うよ」

「まぁ、それは分かるんだけどよ・・・やっぱジーだけは敵に回したくないわ」

真顔で言い切るジーンに、ジャレットは少し頬を引きつらせながら、自分に言い聞かせるように呟いた。

「ははは、そんな事あるわけないだろ?僕はレイジェスのみんなが大好きだよ・・・さて、おしゃべりはここまでみたいだね」

軽く笑った後ジーンは言葉を切って、後ろにある大きな建物の屋根の上に顔を向けた。

「ああ、探す手間が省けたぜ」

ジャレットもジーンの視線を追うように、顔を上げて目を向ける。
二人の目が映したものは、レイジェスにとって因縁深く、忘れもしない男だった。


黒い肌。眉は太く、落ちくぼんだ目はギラギラとした殺意を宿している。
口元には不敵な笑みを浮かべ、特徴的なチリチリとした短い髪の毛のその男は、帝国軍の幹部である事を表す深紅のマントには、黒い太陽を思わせる模様があった。


「くはははは、復讐の時は来たぜぇ~、今度こそぶっ殺してやる」

狂気を孕んだ魔力を滲ませながら、ジャーマル・ディーロは二人を見下ろし、歪んだ笑みを浮かべた。
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