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782 夏風

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「ミゼル、次はコレね」

首根っこを掴んだ暴徒をミゼルに向かって、まるでゴミでも放るように投げ渡す。

「お、おう・・・あのさ、ユーリ」

ミゼルはしりもちをつきながらも、暴徒の男を全身でなんとか受け止める。
ズシンとした重さを感じ、つくづくユーリの腕力に驚きを感じさせられる。

「なに?」

「いや、その、一応この人達も町の人じゃん?」

「だから?」

「もうちょっと、扱い方ってのが・・・」

いくら暴徒とはいえ、本人の意志で力を振り回しているわけではない。
それなのに人を放り投げると言う行為に、ミゼルが苦言を口にするが、ユーリは眉をよせて顔をしかめた。

「・・・十分に配慮してるけど?アタシの肩を掴んで押し倒そうとしたんだよ?アバラくらいですんでラッキーだと思うべき」

ユーリは不満そうに腕を組み、ミゼルをジロリと睨み付ける。

「いや、それはこの人も操られているからで、しかもポイって放り投げるって・・・もうちょっとこう・・・」

「めんどくさい・・・けど、ミゼルの言う事も分からないわけじゃない。じゃあ、間をとってアタシを襲わなかった暴徒は丁寧に扱う。アタシを襲ってきた暴徒はぶん投げる。それでいい?」

渋々と妥協点を見つけて、これからの方針をミゼルに確認する。

「・・・え?いや、間って・・・なんか違うような」

「いい?」

「えっと・・・あ、はい」

なにか違う。ミゼルはそう感じていたが、苛立ちを言葉に乗せるユーリに気圧され、観念して頷いた。

「じゃあ暴徒狩りを続ける」

「え!?か、狩り!?お、おい!ユーリ待てよ!」

本来の目的は暴徒を取り押さえる事であり、現在のリーダーであるジャレットも、できるだけ怪我をさせないようにと伝えていた。
しかし、狩りという、およそ人間に使う言葉ではない単語に、ミゼルは慌ててユーリの背中を追った。




「・・・よいしょ。これで五人目」

足払いをかけて暴徒を転ばせ、そのまま素早く手を背中に回して拘束する。

「・・・俺の出番、あんまりないな」

ユーリについて来ているが、ほとんどユーリが一人で片づけているため、ミゼルは拘束された暴徒を、道の端に置いておくくらいしか手伝っていない。

「ミゼルは暴徒を、邪魔にならないところに置いてくれればいいから」

「いやぁ、まぁそれでいいならそうするけどよ。本当にユーリの魔道具ってすげぇよな。体力型と変わりない動きすんだもん。ジャレットもそれを考えて、俺と組ませたんだろうけどさ」

ほとんど何もやっていない事を気まずく思っているのか、ミゼルは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「・・・ふぅ」

「ん?ユーリ、大丈夫か?」

大きく息をついたユーリを見て、ミゼルは隣に腰を下ろした。
額の汗を拭い、表情からは疲れが見て取れる。

「・・・その膂力(りょりょく)のベルトってよ、魔力を筋力に変換するんだろ?一人で五人も捕縛してんだし、そろそろ疲れも出てきたんじゃないか?少し休もうぜ?目に見えるとこには、もう暴徒もいないようだし」

「・・・うん。そうする。ちょっと疲れた」

少し考えて、ユーリは疲労感からミゼルの提案に頷いた。

「あっち、日陰だぞ」

ミゼルが大きく広い屋根の下を指すと、ユーリは黙って頷いて歩いた。

足が少しだがふらついて見える。あまり無理はさせられない。
体力型と変わらない動き、いや、並の体力型以上のパワーやスピードを見せても、ユーリはあくまで魔法使い。魔力が切れてしまえば、そこまでなのだ。


「キミ達、助けてくれてありがとう。これ、飲んでくれ。回復薬を溶かしてあるから」

ユーリが建物の影に腰を下ろしたところで、暴徒に襲われていた町人の一人がカップに入った水を渡して来る。

「あ、すみません。いただきます」

「いやいや、おかげで助かったよ。けど、そっちの嬢ちゃんには無理させちまったんじゃないかな?」

「俺は黒魔法使いだから、今回はちょっと役に立てなくて・・・アイツに頼り過ぎちゃったみたいです。少し休めば大丈夫かと思います。水、ありがとうございます。まだ油断はできないので、どこか建物の中に避難しててください」

カップを受け取り、ミゼルがお礼と指示を伝えると、町人の男性も、分かった、と指示に従いその場を離れた。

「・・・ほら、ユーリ、あの人ありがとうって言ってたぞ。これ飲んで休んでなよ。回復薬も入ってるみたいだから、少しは楽になると思うぞ」

「ん、もらう」

カップを受け取ったユーリは、喉を鳴らして中身を一息に飲み干した。
よほど喉が渇いていたのだろう。

「・・・ふぅ・・・じゃあ、そろそろ・・・」

「まだ休んでろって。見張りは俺がやるから。そのくらいはさせてくれよ」

立ち上がろうとするユーリの肩をポンと叩き、ミゼルはできるだけ優しく声をかける。

「でも、町の人達が・・・」

「分かるけど、ユーリは頑張り過ぎだって。俺達だけじゃないんだぞ?みんなで動いてんだ。少し休んでも誰も文句言わないって。それにこの辺りはもういないみたいだしさ。な?」

「・・・・・分かった」

しかたなしと言った感じだが、ミゼルの説得にユーリは従い、上げかけた腰をもう一度下ろした。

「・・・悪いな、ユーリにだけ頑張らせて。ユーリが回復するまでは俺がなんとかするから、気にせず休んでてくれ」

なるべく無傷で捕縛するように言われているが、ユーリが回復するまでに次の暴徒が現れたら、多少手荒にでも取り押さえる覚悟を決めた。


「・・・ミゼル、めずらしくやる気になったの?」

「そんなんじゃねぇって。まぁ、ちょっとは働かねぇと、あとで色々言われそうだってだけだよ」

面倒くさそうに言っているが、それでも周囲を警戒する目つきは真剣だった。

「・・・ふーん、分かった。まかせる」

ユーリはそこで初めて肩の力を抜いて、壁に背を預けた。
この時期は午前中でも10時を過ぎれば、だいぶ暑くなってくる。けれど大きく広い屋根が陽を遮り、時折吹く風がユーリの体の熱を冷ましてくれる。


「ミゼル、ありがとう」

「ん?今、なんか言ったか?」

ユーリの呟きに、ミゼルが振り返る。

「空耳じゃない?それよりちゃんと周りを見て。さぼったらアバラ折るよ」

「へいへい・・・」


これが終わったら、もう少しミゼルに優しくするか
夏風がくれる涼を頬に感じ、ユーリは自分の前に立つ仲間の背中を見つめた
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