上 下
780 / 1,263

779 返り血

しおりを挟む
「オォォォォォー--ー-ッツ!」

コルディナの胸を刺し貫き、そのまま体重をかけて地面に打ち付けるように突き刺す。

「グバァッッツ!」

コルディナの口から血が吐き散らかされ、フェリックスの頬に赤い色が付けられる。

「う、ぐ・・・こ、この・・・!」

致命傷だが、コルディナはまだ意識を保っていた。
歯を食いしばり、フェリックスを睨みつけて手を伸ばす。

体の表側の触手はほとんど焼き切られていたが、背中側から伸びる触手が、フェリックスに狙いを付けて突き出された。

「騎士様!」

白い髪の女が叫ぶが、フェリックスは落ち着いていた。

「ハァァァァー----ッツ!」

気合と共に、フェリックスの体から七色のオーラが発せられ、コルディナの黒い触手を消し飛ばす。

「ぐぅ・・・う・・・そ、そんな」

「もう死ねよ」

口から血を吐きこぼしながら、口惜しさを滲ませるコルディナ。
フェリックスはその胸に突き刺した幻想の剣を、そのまま上に引き上げるようにして斬り裂いた。


「・・・やっと死んだか。面倒なヤツだったぜ」

コルディナが完全に息絶えた事を確認して、フェリックスは傍らに立つ女に顔を向けた。

コルディナを斬り裂いた時に、飛び散った血の一部がかかってしまったのだろう。
女の髪や頬に赤い色が付いている。

初めて血を浴びたのであれば、悲鳴を上げて倒れてしまっても不思議ではない。
しかし女は一切取り乱す事無く、フェリックスを真っすぐに見つめている。

「・・・ふーん、血を被っても平常心を保ってるのは感心できるね。最初はあんなに必死だったのにさ。まぁうるさくないから助かるけどね」

品定めをするかのように、白い髪の女に目線を送るフェリックスだったが、そう言われて女は言葉を返した。

「騎士様、助けていただいて本当にありがとうございました。そして先ほどはお見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません」

白い髪の女は腰の前で手を重ね合わせ、腰を曲げて頭を下げた。

「いや、気にしないでいい。僕も危なかったからね、あの黒い炎には驚かされたけど、おかげで助かった」

「ですが、私が騎士様に助けを求めたから、コルディナと戦闘になったのではありませんか。巻き込んでしまって本当に・・・」

「気にするなと言ってるだろ?元々この辺りの暴徒を鎮圧するために、ここに来ていたんだ。キミがいてもいなくても、帝国軍を見つけたら戦闘になっていたんだ。しかしあんな魔道具があったなんてな・・・結果的にキミがいて助かったってわけだ。だからもう謝るな」


暴徒を鎮圧するために騎士団は町に散らばっていたが、そこでフェリックスはこの白い髪の女と出会った。

息を切らしながら必死に逃げていた女は、すぐ後ろまで迫っていたコルディナに捕まる寸前で、フェリックスを見つけ縋りついたのだった。
フェリックスがゴールド騎士だったという事は、話しの流れで分かった事だった。

ゴールド騎士の噂は帝国にいても耳にした事があったが、実際に自分の目で見たわけではない。
コルディナの恐ろしさを知っているだけに、果たして勝てるかどうかは祈るしかなかった。

そして危険な場面もあったが、黒い炎の力も使いなんとかコルディナを倒す事ができた。
なんとか追い返す事ができればと考えていただけに、倒す事ができたのは女の予想を上回る結果だった。


「・・・はい、分かりました。騎士様はお優しいのですね」

白い髪の女はそこで初めて微笑んだ。
雪のように白い肌。そこに少しだけ赤みを帯びた、形の良い唇が笑みを湛える。

「そうでもないけどね。まぁ、この国を護る事が僕の役目だから・・・それだけさ」

フェリックスは女に近づくと、親指を頬に当てて赤い血を拭い取った。

「ハンカチなんてシャレた物は持ってないんだ。あとで騎士団の宿舎に連れて行ってあげるから、そこで血と汚れを落とすといい。僕はフェリックス・ダラキアンだ」

「フェリックス様ですね。私はルナ・フローレンスと申します」

白い髪の女、ルナがもう一度丁寧に頭を下げる。
そして続けて発せられた言葉に、フェリックスは眉間にシワを寄せる事になった。

「私は、闇の巫女です」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...