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778 フェリックス 対 コルディナ

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「がはぁぁぁーーーーーッ!」

フェリックスの幻想の剣から発せられる七色の波動が、コルディナを空高く吹き飛ばす。

「どうしたの?威勢のいいのは口だけなのかな?」

無防備に空中にその体をさらすコルディナを追って、フェリックスは大地を蹴った。

「つまらないな。魔法兵団の副団長なんて言ってたけど、たいした事ないね?もう死ぬかい?」

一瞬でコルディナに追いつくと、フェリックスは右手に持つ幻想の剣を掲げ、コルディナの首に振り下ろした。

「ぐ、な、なめるなぁーーーッツ!」

怒声を発し、幻想の剣を持つフェリックスの右手に向かって、両手から風の魔力を撃ち放つ。

「おっ!?」

フェリックスの振り下ろした右手が後ろに返される。
そして風圧に押されるように、コルディナは地上に飛ばされた。

風魔法で体勢を安定させて着地するが、反撃の体勢を整える余裕はなかった。
フェリックスの幻想の剣による波動を浴びて、深紅のローブはボロボロに裂かれている。
決定的な一撃は受けていないが、肩や胸には決して浅くはない傷も負っている。

「うまく逃げたね。けど、力の差は分かったよね?その程度じゃ僕には勝てないよ」

フェリックスは軽やかに地上に降りると、コルディナに向かって足を進めた。
幻想の剣を持つ右手に力が入り、この一太刀で決めるという意志が伝わってくる。


「・・・・・ふぅ~、しかたねぇな」

追い詰められているはずのコルディナだが、なにかを諦めたように一度息をつくと、一歩一歩近づいてくるフェリックスに目を向けて薄い笑いを見せた。

「あれ?どうしたのかな?まだ何かあるのかな?」

それは追い詰められた者の顔ではなかった。
コルディナの目には、勝ち筋を持つ者の自信が見える。フェリックスは足を止めて、コルディナに対して身構えた。口調こそ軽いが、コルディナの自信が虚栄ではないと感じ取り、うかつに近づく事は危険だと判断した。

「ふん・・・まさか、これほどとはな。何を撃ってもその剣で消滅させられちゃ、魔法使いでは絶対に勝てないだろうよ。普通の魔法使いならな・・・」

破壊力の強すぎる上級魔法こそ使っていないが、地氷走りも、爆裂空破弾も、幻想の剣の一振りで撃ち消された。
もはやコルディナに残された手段は、白い髪の女を巻き込み殺しかねないが、上級魔法を撃つ覚悟を決められるかどうかに思われた。
だがコルディナにはまだ手が残されていた。


「あっ!い、いけない、騎士様気を付けてください!コルディナの魔道具に捕まったら・・・!」

「うっせぇーーーーーッ!」

コルディナが何をしようとしているか察し、白い髪の女が声を上げた瞬間、コルディナは氷魔法、刺氷弾を撃ち放った。

「おっと、危ない・・・!?」
「馬鹿め!」

白い髪の女をかばうように刺氷弾の前に飛び出し、幻想の剣を振るい消滅させると、コルディナは自分から視線が切れたその一瞬を見逃さなかった。

コルディナの目がギラリと光ると、体の内側から肉を突き破り、コルディナの全身から、幾つもの先の尖った細く黒い触手が飛び出し、フェリックスの体を縛り上げた。

「ぐっ!?な、なん、だ・・・こいつ、は!?」

両手、両足、肩、胸と、首と、体中の骨が軋む程に締め上げられる。
そのまま空中に持ち上げると、コルディナはフェリックスを見上げて高らかに笑った。


「ふははははは!油断したなぁ!?これが俺の魔道具、蛭(ひる)だ!てめぇは体力型でもスピードタイプのようだな?その触手はてめぇの腕力じゃ外せねぇよ!」

「ぐ、くそっ・・・がぁ!」

黒い触手を外そうともがくが、もがけばもがく程にキツく締め上げられる。

「さぁ~て、そろそろ蛭の恐ろしさを教えてやるよ」

コルディナがニヤリと笑うと、触手の先端がフェリックの体に突き刺さった。

「ぐッ!」

鋭い痛みにフェリックスはうめき声をもらした。
鎧の隙間を狙い、腕や腿、腰回りに刺さった触手は、一本一本が独立した動きをして、フェリックスの体内を食い破ろうとするようにめり込んでいく。

「ん・・・?ほぅ、さすがゴールド騎士ってヤツか?たいていのヤツはこれで体の中をかき回されてもがき苦しんで死んでいくんだが、先端がこれ以上進まねぇのは、そのオーラのせいか?」

フェリックスの体を纏っているのは、虹を連想させる七色のオーラだった。
オーラが触手の動きを押さえ、これ以上体内へ侵入させないように防いでいた。

「ぐぅっ、こんな触手、僕のオーラで消し飛ばして・・・」
「させるかよッツ!」

フェリックスのオーラが強まり、爆発させようとしたその時、突然フェリックスの全身をこれまで経験した事のない激痛が襲った。


「う、ぐぁぁぁぁぁぁー----ッツ!」


まるで体の内側から筋肉を引き裂かれるような強烈な痛みに、フェリックスは悲鳴を上げずにはいられなかった。

そして耐えがたい苦痛とともに、フェリックスは自分の体から急速に力が抜け落ちていく事を感じていた。それはまるで、命そのものが抜き取られるような、とてつもない恐怖であった。


「ふははははは!どうだ?これが蛭の真骨頂だ!蛭は相手の体に侵入すれば、そいつのエネルギーを吸い取るんだ!しかも強烈な痛みを与えながらな!この凶悪な魔道具は使用者の体内で飼う必要がある。でもみんな毛嫌いしたよ。そりゃそうだ、蛭は魔道具と言っても、寄生虫みたいなもんだからな。だがこれを見ろ!どうだ!?ゴールド騎士さえ圧倒するこの力をどう見る!?蛭の力があれば、俺は団長だって目指せる!あーはははははは!」

狂気すら感じる程の野心に染まった目だった。
腕からも胸からも頬からも、コルディナの全身から伸びる黒い触手は、まるで生き血を飲むかのように、管を鳴らしながらフェリックスのエネルギーを吸収していく。

「うあぁぁぁぁぁぁぁー----ッツ!」

「このまま干からびて死ぬがいい!ゴールド騎士さんよ・・・なにッ!?」

このままフェリックスのエネルギーを、吸収し尽くさんとしたその時、突如、巨大な黒い炎がフェリックスに向かって放たれた!

炎は一瞬でフェリックスを飲みこみ、空中で黒々と燃え盛る!
そしてコルディナの魔道具、蛭も瞬く間に焼け落ちて、灰となり風にながされていく。


「こ、これはッ!まさか!?」

コルディナは、黒い炎が放たれた場所、つまり白い髪の女に勢いよく顔を振り向かせた。

「お、おのれ貴様ァァァー--ッ!」

怒りに顔を赤くさせ、青い筋を浮かべたコルディナが魔力を放出させて詰め寄ろうとすると、白い髪の女は空に向かって叫んだ!

「騎士様!今です!」
「なッ!?」

その声にコルディナも反応して空を見上げると、七色に光る剣を振りかぶった黄金の騎士が空から降りてきた。

「もらったぁー--ツ!」
「し、しまっ・・・!」


幻想の剣がコルディナの胸を刺し貫いた。
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