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777 フェリックスの余裕
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フェリックスを見据えるその目は、ゴールド騎士を前にしても、怯むどころか自分の方が優れているという自信さえ見えた。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国で黒魔法兵団のNO2、副団長まで上り詰めたという実績がそうさせているのだろう。
カイロン・コルディナの全身から魔力がにじみ出る。それは戦闘態勢に入った事を目の前のフェリックスに教えていた。
「き、騎士様・・・」
フェリックスの後ろに隠れるようにして、祈るように両手を握り合わせているのは、黒い修道服に身を包んだ女だった。
雪のように白い肌、そして特徴的な長く白い髪は、両耳の脇で束を作り、水色のリボンで結んで胸まで下げている。
そして白い肌とは対照的に、その黒い瞳は怯えの色を浮かべ、すがるようにフェリックスを見つめていた。
おそらく二十歳前後だろう。どこか幼さの残る顔立ちだった。
160cmにも満たない小柄なフェリックスよりも更に5~6cmは小さく、華奢言ってもいいくらいの体付きを見れば、体力型でない事は一目で分かる。
魔法使いと考えて間違いないだろう。だが、どこか気にかかった。
体力型のフェリックスは、魔力の流れを感じ取る事は不得手だ。しかし、この白い髪の女からは、魔力と言っていいのかよく分からない、なにか不思議な力を感じる。
「・・・巻き込まれたくなかったら下がってろ」
フェリックスは感じた疑問をいったん頭の片隅に寄せた。目の前の相手に集中し、意識を切らさない方がいいだろうという判断だ。
フェリックは傍らに立つ女には一瞥もくれず、目の前のコルディナを見据えながら言葉を発した。
「は、はい・・・」
遠慮がちに返事だけをすると、女は一歩二歩と後ろに下がり、建物の壁を背にして立ち止まった。
黄金の鎧に身を包む騎士が、少なくとも自分を見捨てる事は無いと分かった事への安堵はあった。
だが、自分が助けを求めてしまったために、この恐ろしい黒魔法使いと戦わせる事になってしまった罪悪感に、白い髪の女は胸を痛めた。
自分にできる事は祈る事だけである。どうか無事でと・・・・・
「悪い魔法使いに追われる、儚げお姫様を助ける騎士というところか?お前、その女が帝国の人間だって分かってるのか?」
コルディナの体からにじみ出る魔力が強さを増す。
その両手にはバチバチとエネルギーが弾ける音が鳴り、爆発の魔力が集められていた。
大人しく渡せばよし。だがこれ以上かばいだてすれば容赦しない。
コルディナの魔力はそう最後警告を発していた。
「へぇ、そうなんだ。じゃあなおさら渡せないな」
「・・・どういう意味だ?」
それがどうしたと言わんばかりに、鼻で笑うフェリックスに、コルディナは眉をピクリと反応させて、言葉の真意を問いただした。
「決まってるだろ?お前ら帝国が欲しがってるからだよ。それだけ食い下がるんだ、色々知ってそうだよね?帝国の機密とかさ」
挑発するようにフェリックスがニヤリと笑って見せると、コルディナの表情が一気に険しくなり、爆発の魔力を集めた両手をフェリックスに向けた。
「なめた事を言いやがってぇぇぇー--ッ!死ねッツ!」
叫びと共に連続して撃ち出される爆裂弾は、一発一発が初級魔法の域を超える大きな破壊力を秘めていた。
「おいおい、頭悪いのか?そんなの撃ってこの子に何かあったらどうするの?考えなよ」
フェリックスはまるで動揺を見せなかった。
それどころか、白い髪の女を返せと言っているにも関わらず、巻き添えにしかねない爆発魔法を撃ってくるコルディナに対して、呆れて溜息をつき苦言を呈する余裕さえ見せる。
「騎士様!」
フェリックスの背中に白い髪の女の声が届いた。このままでは直撃を受けてしまう。
それなのに何もせず、ただ立っているだけのフェリックスの身を案じての叫びだった。
なぜ防御をしようとしないのだろう?
白い髪の女が、そう疑問を感じた時に気が付いた。
この黄金の騎士はそもそも剣を持っていない。丸腰なのだと・・・・・
なぜ?騎士であれば当然剣を持っているはず。
それなのになぜこの騎士様は、剣を持たずに手ぶらなのだろう?
しかしその疑問はすぐに解けた。
「・・・よっと!」
まるで小石でも放るような軽い調子の声だった。
フェリックスが目にも止まらぬ速さで右手を振るうと、着弾寸前だった爆裂弾は一発も残らず、まるで蒸発するような音を上げてかき消されてしまった。
「な、なんだと!?」
目を見開いて驚愕の声を出したコルディナは、フェリックスの右手に握らている、まるで虹のように七色の光で形作られた剣に目を止める。
「き、貴様・・・それは・・・!?」
「土の精霊から授かりし唯一無二の武器、幻想の剣だ。お前、その程度の魔力で僕に勝つつもりか?」
コルディナを嘲笑い、フェリックスの幻想の剣が七色の輝きを放つ。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国で黒魔法兵団のNO2、副団長まで上り詰めたという実績がそうさせているのだろう。
カイロン・コルディナの全身から魔力がにじみ出る。それは戦闘態勢に入った事を目の前のフェリックスに教えていた。
「き、騎士様・・・」
フェリックスの後ろに隠れるようにして、祈るように両手を握り合わせているのは、黒い修道服に身を包んだ女だった。
雪のように白い肌、そして特徴的な長く白い髪は、両耳の脇で束を作り、水色のリボンで結んで胸まで下げている。
そして白い肌とは対照的に、その黒い瞳は怯えの色を浮かべ、すがるようにフェリックスを見つめていた。
おそらく二十歳前後だろう。どこか幼さの残る顔立ちだった。
160cmにも満たない小柄なフェリックスよりも更に5~6cmは小さく、華奢言ってもいいくらいの体付きを見れば、体力型でない事は一目で分かる。
魔法使いと考えて間違いないだろう。だが、どこか気にかかった。
体力型のフェリックスは、魔力の流れを感じ取る事は不得手だ。しかし、この白い髪の女からは、魔力と言っていいのかよく分からない、なにか不思議な力を感じる。
「・・・巻き込まれたくなかったら下がってろ」
フェリックスは感じた疑問をいったん頭の片隅に寄せた。目の前の相手に集中し、意識を切らさない方がいいだろうという判断だ。
フェリックは傍らに立つ女には一瞥もくれず、目の前のコルディナを見据えながら言葉を発した。
「は、はい・・・」
遠慮がちに返事だけをすると、女は一歩二歩と後ろに下がり、建物の壁を背にして立ち止まった。
黄金の鎧に身を包む騎士が、少なくとも自分を見捨てる事は無いと分かった事への安堵はあった。
だが、自分が助けを求めてしまったために、この恐ろしい黒魔法使いと戦わせる事になってしまった罪悪感に、白い髪の女は胸を痛めた。
自分にできる事は祈る事だけである。どうか無事でと・・・・・
「悪い魔法使いに追われる、儚げお姫様を助ける騎士というところか?お前、その女が帝国の人間だって分かってるのか?」
コルディナの体からにじみ出る魔力が強さを増す。
その両手にはバチバチとエネルギーが弾ける音が鳴り、爆発の魔力が集められていた。
大人しく渡せばよし。だがこれ以上かばいだてすれば容赦しない。
コルディナの魔力はそう最後警告を発していた。
「へぇ、そうなんだ。じゃあなおさら渡せないな」
「・・・どういう意味だ?」
それがどうしたと言わんばかりに、鼻で笑うフェリックスに、コルディナは眉をピクリと反応させて、言葉の真意を問いただした。
「決まってるだろ?お前ら帝国が欲しがってるからだよ。それだけ食い下がるんだ、色々知ってそうだよね?帝国の機密とかさ」
挑発するようにフェリックスがニヤリと笑って見せると、コルディナの表情が一気に険しくなり、爆発の魔力を集めた両手をフェリックスに向けた。
「なめた事を言いやがってぇぇぇー--ッ!死ねッツ!」
叫びと共に連続して撃ち出される爆裂弾は、一発一発が初級魔法の域を超える大きな破壊力を秘めていた。
「おいおい、頭悪いのか?そんなの撃ってこの子に何かあったらどうするの?考えなよ」
フェリックスはまるで動揺を見せなかった。
それどころか、白い髪の女を返せと言っているにも関わらず、巻き添えにしかねない爆発魔法を撃ってくるコルディナに対して、呆れて溜息をつき苦言を呈する余裕さえ見せる。
「騎士様!」
フェリックスの背中に白い髪の女の声が届いた。このままでは直撃を受けてしまう。
それなのに何もせず、ただ立っているだけのフェリックスの身を案じての叫びだった。
なぜ防御をしようとしないのだろう?
白い髪の女が、そう疑問を感じた時に気が付いた。
この黄金の騎士はそもそも剣を持っていない。丸腰なのだと・・・・・
なぜ?騎士であれば当然剣を持っているはず。
それなのになぜこの騎士様は、剣を持たずに手ぶらなのだろう?
しかしその疑問はすぐに解けた。
「・・・よっと!」
まるで小石でも放るような軽い調子の声だった。
フェリックスが目にも止まらぬ速さで右手を振るうと、着弾寸前だった爆裂弾は一発も残らず、まるで蒸発するような音を上げてかき消されてしまった。
「な、なんだと!?」
目を見開いて驚愕の声を出したコルディナは、フェリックスの右手に握らている、まるで虹のように七色の光で形作られた剣に目を止める。
「き、貴様・・・それは・・・!?」
「土の精霊から授かりし唯一無二の武器、幻想の剣だ。お前、その程度の魔力で僕に勝つつもりか?」
コルディナを嘲笑い、フェリックスの幻想の剣が七色の輝きを放つ。
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