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776 組み分け

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「二人一組で行動する事にする。前回の暴徒は、普通の人間より何倍も力があったって話しだから、絶対にあまく見るなよ。それとアラやんから聞いた話しだが、体力型と思われる男が爆発魔法を使ったって例もある。魔道具の類か、何かしらの仕掛けがあるんだと思うが、全ての暴徒が魔法を使うと思って対処するんだ」

店を出ると、横一列に並んだ俺達を前にして、ジャレットさんが暴徒鎮圧への作戦を話し始めた。

「ジャレット、二人一組だとペアはどうするんだ?」

話しの区切りを待って、ミゼルさんが腕を組みながら質問をする。

「ああ、時間がねぇから、俺の独断と偏見で決めさせてもらうぞ。まず、アラやんとケイティ」

最初に名前を呼ばれて少し驚いたが、俺は、はい、と返事をする。
ケイトもジーンにチラリと目をやった後、分かった、と言って頷いた。

「よし、次にミッチーとユーリン」

ミゼルさんは、ゲッ!と嫌そうな気持が露骨に顔に出る。
ユーリはそんなミゼルさんの態度に気付いているが、状況が状況だからかいつものように殴る事はせず、軽い溜息をついてミゼルさんに、いいからやるよ、と声をかけた。

「リカルードとシーちゃん」

シルヴィアさんとのペアを告げられたリカルドは、この世の終わりのように絶望に顔を青ざめさせた。
リカルドはシルヴィアさんが苦手なのだ。最近も毎日のようにパンを食べさせられてるから、もうシルヴィア恐怖症のようだ。
そんなリカルドの肩にシルヴィアさんは手を乗せて、頑張りましょうねリカルド、と優しく微笑んで見せるのだった。

「アーちゃんとカッチャン」

アゲハはジャレトさんにアーちゃんと呼ばれている。
アゲハも最初に呼ばれた時は、いきなりなんだ?って顔をしていたが、一週間もそう呼ばれると、慣れたのか普通に返事をするようになった。
カチュアもアゲハとは仲が良い。アゲハもカチュアの事は気にいっているようで、二人は顔を合わせて笑い合っている。


「最後に俺とジーだ」

ジャレットさんはジーンに顔を向けてそう告げると、ジーンも頷いて了承の意を見せる。

全員にペアを告げたジャレットさんは、エルウィンに向き直った。

「エル坊、俺達はこの周辺を見回りながら、暴徒を見つけ次第取り押さえて行く。お前はもう戻っていいぞ」

「ジャレットさん、俺も一緒に行動させてください。隊長からも許可はとってあります」

「え?いや、けど・・・」

突然のエルウィンの申し出に、ジャレットさんは少し驚いた顔をしたが、エルウィンの真剣な眼差しを受けて、小さく笑って頷いた。

「・・・分かった。おい、アラやん、エル坊がお前と一緒に行きたいみたいだぜ。かっこいいとこ見せてやりな」

ジャレットさんはエルウィンの肩に手を置くと、俺に顔を向けてエルウィンと一緒に行けと言葉をかけた。

「分かりました。エルウィン、よろしくな」

「は、はい!ありがとうございます!アラタさん、俺、隊長に稽古つけてもらって、毎日鍛えてるんです!足手まといにはなりません!」

「あはは、エルウィン、アタシもいるの忘れてない?あんた本当にアラタの事好きだよね?」

キラキラとした目を俺に向けるエルウィンに、ペアを組むケイトが肩をつついて存在をアピールする。

「あ、も、もちろんです!ケイトさん、よろしくお願いします!」

少し慌てて、弁解するように頭を下げるエルウィンの肩に、ケイトが手を回す。

「あははは、そんなに緊張しないでいいじゃん?ま、よろしくね!」


ペアも決まり準備ができたところで、ジャレットさんはみんなに呼びかけるように、大きく手を打ち合わせて自分に視線を集めた。

「よーし、ちゅうもーく!いいか、今回の目的は倒す事じゃなくて、取り押さえる事だ。前回の暴徒も取り押さえて城に連れて行かれた後、数日で正気を取り戻したって聞いている。何者かに精神を操られていると考えるべきだろうな。やむを得ない状況以外では、できるだけ怪我をさせないようにしてくれ。暴徒って呼んでいるが、この町の人間なんだ。店に来て俺達と話した事のある人だって、大勢いるはずだって事を忘れないでくれ」

熱の入った言葉だった。ジャレットさんがレイジェスという場所を、そこに来るお客の事を大切に想っている事が伝わってくる。
みんなも真剣な目で、ジャレットさんの話しに耳を傾けていた。

「はい、質問」

「ん、なんだ?」

手を挙げて、ジャレットさんに質問をするアゲハ。

「町の人の事は分かった。けど、町の人以外、つまりこの件の首謀者を見つけた時はどうしたらいい?殺してもいいの?」

「そうだな・・・できれば生け捕りにしてくれ。けど、逃がすくらいなら始末した方がいいだろうな」

「了解、じゃあそうするよ」

くるっと薙刀を回して肩にかけると、聞きたい事はそれだけだと言うように、アゲハは目を閉じた。

「他に質問はないようだな。じゃあ行くか!みんな、くれぐれも油断するなよ!」


最後にジャレットさんが大きく声を出す。
今回の目的は敵を倒す事ではなく、暴徒となった町の人達を取り押さえる事。
怪我をさせないようにするのは難しいと思うが、ジャレットさんの言う通り、操られているだけの町の人なんだ。できるだけ頑張ってみるしかない。

五つのペアになった俺達は、それぞれに分かれて町へと散らばった。






薄い桃色の唇、シャープな顎のライン、切れ長の瞳に長いまつ毛は、まるで女性のような印象だった。腰まである長い紫色の髪を後ろで束ねているその男は、ゴールド騎士フェリックス・ダラキアン。

身長は160cmにも満たないその小さな体は、騎士というにはあまりに頼りなく見える。
だが、その身に纏う黄金の鎧は、フェリックスが紛れもなく騎士の頂点、ゴールド騎士であると言わしめるものであった。

クインズベリー国の色である、ダークブラウンのマントを風にはためかせ、フェリックスは今、町の一角で一人の女性を護るように背にし、深紅のローブを纏う者と相対していた。


「その黄金の鎧、聞いた事があるぞ。クインズベリーの騎士には、騎士の頂点として認められた者だけが、身に纏う事を許される黄金の鎧があるとな。貴様が噂に名高いゴールド騎士だな?」

深紅のローブを身に纏っている男は、フードの中から殺気を帯びた鋭い視線を放つ。
顔は見えないが、声を聞いて男だという事は分かった。

「分かってるなら話しは早い。そうだ、僕はゴールド騎士のフェリックス・ダラキアン。死にたくなかったら退いた方がいいよと言ってあげたいけど、その深紅のローブを見ちゃったら見逃せないな。それ、帝国軍の幹部クラスだけが身に纏える深紅のローブでしょ?よく敵国に堂々と着て来れるよね?」

常人なら睨まれただけで腰を抜かす程の殺気を浴びせられるが、フェリックスは眉一つ動かさず、涼しい顔で名乗り言葉を返す。

「フッ・・・帝国の幹部が深紅の鎧やローブを纏う事は有名な話しだ。誇りに思えど隠す必要などない」

そう言って男はフードに手をかけ取り払う。

「俺は帝国軍、黒魔法兵団副団長カイロン・コルディナだ。その女を渡してもらおう」

金色の髪を後ろに撫でつけたその男は、殺意に満ちた目をフェリックスに向けた。
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