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774 お揃い

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「アゲハさん、だいぶ慣れてきたみたいだね」

カゴに入れた小瓶を棚に並べながら、カチュアがアラタに話しかける。

「うん、たった一週間ですっかり馴染んじゃったよね」

アラタも隣で品出しを手伝いながら、メインレジに立つ黒髪の女性を見つめる。

慣れた手つきでレジを打ち、客と談笑しながら買い取りを行う。
加えて元々持っていた知識が生かされ、武器と防具に関しての質問には完璧だった。

あの日、アゲハが俺達に一緒に帝国と戦おうと言ってくれて、レイチェルはアゲハを店に置くことに決めた。
アゲハを信じる理由は風の精霊、そしてこれまでの話しに、疑うべきところが無いと判断したからだった。それでも元帝国軍の幹部だったアゲハを、店に入れる事はリスクが大きいという話しもでたが、最終的には店長判断で決まった。

アゲハと出会った翌日、店に来た店長はアゲハを見て、しばらくの間言葉を失ったように立ちすくんでいた。

無理もない。
以前俺は店長に、弥生さんを知っているかと聞いた事があるが、その答えは、知っている、だった。
目の前に弥生さんそっくりの人が現れたのだから、その衝撃はすさまじかっただろう。

店長はレイチェルから経緯を聞くと、そうだったのか、と頷いてアゲハに顔を向け、好きなだけいていい、と優しく言葉を告げた。
懐かしさと寂しさ、そして喜びを感じる表情だった。

店長も心の整理に時間が必要だったのだろう。
アゲハを従業員として採用する事を決めると、その日はそのまま城へ戻ってしまったのだ。
めずらしく訓練が中止になり、ミゼルさんは拳を強く握りしめて喜んでいた。
ミゼルさんは能力はあるのだから、もっとやる気を出せばいいのにといつも思う。




「あの様子なら、私が抜けても大丈夫だな」

「わ、レイチェル!」

いつの間にか後ろに立っていたレイチェルが、二人の間に入る。
カチュアがややびっくりして声を出すと、レイチェルはごめんごめんと笑って謝った。

「え、レイチェル、今抜けるとか言わなかった?どういう意味?」
「え!?レイチェル辞めちゃうの!?」

アラタが焦った声を出してレイチェルに詰め寄ると、カチュアも慌ててレイチェルの手を掴む。

「・・・ぷっ、あはははは!おいおい、そんなわけないだろ?いや、私の言い方が悪かったな。抜けると言っても店を辞めるのではない。今回の一件で、また城も慌ただしくなってきたし、アラルコン商会との連携もあるだろ?あまりレイジェスにいられなくなってきたから、どうしようか考えていたんだ」

笑いながら否定するレイチェルの言葉を聞いて、アラタとカチュアもホッと息を着いて、顔を見合わせた。

「じゃあ、落ち着くまで武器担当を、アゲハとリカルドに任せるって事か?」

「そういう事だ。アゲハも弓は専門外らしいが、そっちはリカルドがいるしな。苦手なところは二人で補っていけるだろう」

「そう言えば、店長も訓練に来る以外は、ずっとお城にいるもんね。レイチェルもいなくなったら寂しくなるな・・・」

下を向いて呟くカチュアの肩に、レイチェルが優しく手を乗せる。

「おいおい、そう俯かないでくれ。辞めるとは言ってないじゃないか。なるべく顔も出すさ。私がいない時は店を頼むぞ」

「・・・うん、レイチェルもあんまり無理しないでね」

分かってる、そう言ってレイチェルは優しく微笑んだ。





メインレジ交代の時間になり、俺が引き継いで入ると、アゲハは買い取った武器類をまとめていた。

「アゲハ、交代の時間だよ」

その背中に声をかけると、はいはーい、と軽い調子で返事をしながらアゲハが振り返る。
腰まである黒く長い髪は、普段はそのまま下ろしているのだが、仕事中はポーニテールにしている。

黒のタンクトップにデニムのホットパンツなんて穿いているから、露出の多さに目のやり場に困る。
本人は暑いからという単純な理由らしいが、店に来る男性客の何割かは、すでにアゲハを見る目が怪しい。

「ん、どうしたのさ?・・・あ~、なんだアラタ、お前もか?まったくこの店の男連中は、免疫が無さすぎるんじゃないのか?ミゼルもリカルドもジーンも、みんなお前と同じ反応だったぞ」

あまり見ないように、足元に目を落とすと、アゲハはからかい半分、呆れ半分というような声で話し出した。

「い、いや、けどさ、やっぱり仕事中はそういう恰好はやめたらどうだ?男の客もじろじろ見る人いたでしょ?トラブルになったら面倒だろ?」

「そんな客は相手にしないさ。ジャレットは堂々としていたぞ。むしろ似合っていると褒めてくれたしな。そう言えばあいつ、やたらと私にタンクトップを押してたな。古着のタンクトップも色々見せてきたし・・・・・あいつタンクトップ好きなのか?」

「・・・ジャレットさん、もうアゲハにタンクトップ勧めてたんだ?」

夏になり、ジャレットさんは年中タンクトップになった。
黒、白、ヒョウ柄に、スカルの毒々しい感じのイラストが入った物など、毎日毎日違うタンクトップだ。

その熱量は、恋人のシルヴィアさんでさえ、ジャレットさんがタンクトップを着すぎるから、自分は着れなくなったと言う程だ。

俺にも相変わらずそろそろタンクトップをと言ってくるが、その都度なにかしら理由をつけて躱しているが、だんだん言い訳が厳しくなってきたところだった。

「私にも?なんだあいつ、もしかして手当たり次第にタンクトップを勧めてるのか?馬鹿なのか?」

「え!?いやいや、ジャレットさんは馬鹿なんかじゃないよ、ただタンクトップ愛が強いだけで」

「じゃあ、マニアってやつか?そう言えば私が雇ってもらって一週間だが、あいつはいつ見てもタンクトップだったな・・・そうなると私はあいつとお揃いなわけだ・・・・・ペアルック?」

アゲハは急に真顔になると、何かを考えるように少し黙り込む。

「・・・アゲハ?」

呼びかけても何も答えず、やがて黙ったままメインレジを出て行くアゲハを、俺は首を傾げながら見送った。



「なぁアラヤン、アゲハのヤツ、急に上にシャツ着てんだけどよ、もったいなくね?あんなにタンクトップ似合ってたのによ?風邪でも引いたのか?」

アゲハがメインレジを出て10分程経った頃、ジャレットさんが後ろでに頭を掻いて、不思議そうに口を曲げながら話しかけてきた時には、どう答えていいか分からなかった。
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