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766 鋼鉄の肉体
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「チッ・・・」
分かってはいたが、予想以上の硬さに思わず舌を打つ。
まるで鉄の塊にでも打ち付けたかのような、重く厚い痺れるような衝撃が、獲物を握る手に伝わってくる。
振り下ろされたアルバレスの右拳に合わせて、下から薙刀を振るい上げたが、イメージ通りならば手首を斬り飛ばしたはずの刃はビタリと止められていた。
「フン、斬れない事がそんなに意外か?お前も知っているだろ?俺の体がその程度で斬れない事くらいは・・・よ!」
止めているアルバレスの右腕に力が加わり、押し潰そうと体重を乗せてくる。
上から体全体で力を加えられるアルバレスに対し、黒マントの女は下から斬り上げようと力を込めているため、態勢は圧倒的に不利だった。
両腕、肩、腰、足、全身に力を入れて耐えるが、徐々にふんばりが効かなくなり膝が折れそうになる。
「ハッ!」
これ以上は持たない!
押し切られる寸前で大地を強く蹴り、私は後方に飛び退いた。
アルバレスの追撃に備え、視線は切らず薙刀も中段に構えていたが、予想に反してアルバレスはその場から動く事はなかった。
「・・・余裕のつもりか?」
アルバレスから数メートル程後方に着地し、薙刀を中段に構えたままアルバレスの狙いを探る。
するとアルバレスは口は開かずに、黙って私の一撃を受けた右手首を向けてきた。
「・・・へぇ、それで?それがどうかしたの?」
アルバレスの右手首は僅かだが皮膚が裂け、一筋の血がしたたり落ちていた。
鋼の肉体とて、決して無敵ではないという証拠だ。
アルバレス程の男がそんな弱みを見せるなんて、どういうつもりだ?
感心のないように言葉を発したが、アルバレスは私がそう思うであろう事を分かった上で傷を見せたようだ。
「身体強化の研究をしていた青魔法使い、ラルス・ネイリーを覚えているか?」
突然出てきた名前に、急に何を?と思ったが、言いたい事は分かった。
返事はしなかったが、アルバレスは私の反応を無視して言葉を続けた。
「信用ならない男だったが、ヤツの作った薬は本物だった。おかげで俺はこの鋼鉄の体を手に入れたのだからな。帝国の兵士達に試させたが、誰一人俺の体に傷をつける事はできなかった。だが、その体にお前は傷をつけた。そして俺がこの傷を見せる事がどういう意味かわかるか?」
再び拳を握り締め、アルバレスが私を鋭く睨みつける。
並みの人間なら、その視線の圧力を受けただけで動けなくなってしまうだろう。
私はアルバレスの言葉を無視するように、ヤツに向ける刃先に意識を集中した。
アルバレスの性格を考えれば、待ちではなく攻めて来るだろう。
鋼鉄の肉体に相当の自信を持っているようだが、いかに鋼鉄の肉体でも、斬る事が可能ならばいつかは勝てる。勝てる可能性があるのならば、それに勝負を賭けるまでだ。
「・・・なにが言いたい?」
相手のペースで話しになど付き合っていられない。
結論を急がせる私を睨みつけ、アルバレスは拳を握り締めて気を放出させた。
肌に突き刺さるようなビリビリとしたプレッシャーを浴びせられ、薙刀を握る手に力が入る。
「フッ、かんたんな事だ。わずかでも俺の体を傷つける事ができるお前を、決して見くびらんという事だ。お前に勝機は無いぞ」
アルバレスの重心が下がり、大地を踏みしめる足に力が入る。
たった一度の接触で、アルバレスは私に対する認識をあらためたようだ。
構えを見ただけで分かる。付け入る隙がまるでない。
だが私もまだ、アルバレスには何も見せていない。
ヤツは私が自分を傷つけられると知り、警戒を強めたがそれだけだ。
私がただ薙刀を振るうしか能が無いと思ったか?
貴様の鋼鉄の肉体に対して、かすり傷が精いっぱいだと思ったか?
右手で柄側を持ち、刃側はアルバレスに向けて左手で持ち、そして半身の体勢で構える。
アルバレスを迎撃するために、ヤツの呼吸を測り合わせた。
お前の首を飛ばす刃はあるんだよ!
チリチリと張りつめた空気が漂う。
ヤツの呼吸音を耳が捕え、僅かに上下する体の動きすら見えるほどに集中力が高まって来る。
まるで私とアルバレスの間だけ、時間の流れが遅くなっているかのような錯覚さえ起こしそうになる。
睨み合う互いの気が高まりピークに達したその時、私とアルバレスは同時に飛び出していた。
「兄ちゃん!あれ!」
前を行くリカルドが指す方に目を向ける。
「くそっ!遅かったか!」
樹々の間を走る二人の視線の先、レイジェスの前では、黒マントの女性と大柄な男が戦っているのが目に入り、アラタは言葉を吐き捨てた。
双方、手練れである事は一目で分かった。
大柄な男は見た目通りパワーで押しているが、黒マントの女性はその怒涛の攻撃を、全て捌き躱している。クリーンヒットを全く許さないその防御テクニックは、目を見張るものがあった。
「止めるぞ!リカルド!」
「はいはい!わぁーったよ!」
掛け声と共に二人は樹々を飛び出し、戦闘に割って入った。
分かってはいたが、予想以上の硬さに思わず舌を打つ。
まるで鉄の塊にでも打ち付けたかのような、重く厚い痺れるような衝撃が、獲物を握る手に伝わってくる。
振り下ろされたアルバレスの右拳に合わせて、下から薙刀を振るい上げたが、イメージ通りならば手首を斬り飛ばしたはずの刃はビタリと止められていた。
「フン、斬れない事がそんなに意外か?お前も知っているだろ?俺の体がその程度で斬れない事くらいは・・・よ!」
止めているアルバレスの右腕に力が加わり、押し潰そうと体重を乗せてくる。
上から体全体で力を加えられるアルバレスに対し、黒マントの女は下から斬り上げようと力を込めているため、態勢は圧倒的に不利だった。
両腕、肩、腰、足、全身に力を入れて耐えるが、徐々にふんばりが効かなくなり膝が折れそうになる。
「ハッ!」
これ以上は持たない!
押し切られる寸前で大地を強く蹴り、私は後方に飛び退いた。
アルバレスの追撃に備え、視線は切らず薙刀も中段に構えていたが、予想に反してアルバレスはその場から動く事はなかった。
「・・・余裕のつもりか?」
アルバレスから数メートル程後方に着地し、薙刀を中段に構えたままアルバレスの狙いを探る。
するとアルバレスは口は開かずに、黙って私の一撃を受けた右手首を向けてきた。
「・・・へぇ、それで?それがどうかしたの?」
アルバレスの右手首は僅かだが皮膚が裂け、一筋の血がしたたり落ちていた。
鋼の肉体とて、決して無敵ではないという証拠だ。
アルバレス程の男がそんな弱みを見せるなんて、どういうつもりだ?
感心のないように言葉を発したが、アルバレスは私がそう思うであろう事を分かった上で傷を見せたようだ。
「身体強化の研究をしていた青魔法使い、ラルス・ネイリーを覚えているか?」
突然出てきた名前に、急に何を?と思ったが、言いたい事は分かった。
返事はしなかったが、アルバレスは私の反応を無視して言葉を続けた。
「信用ならない男だったが、ヤツの作った薬は本物だった。おかげで俺はこの鋼鉄の体を手に入れたのだからな。帝国の兵士達に試させたが、誰一人俺の体に傷をつける事はできなかった。だが、その体にお前は傷をつけた。そして俺がこの傷を見せる事がどういう意味かわかるか?」
再び拳を握り締め、アルバレスが私を鋭く睨みつける。
並みの人間なら、その視線の圧力を受けただけで動けなくなってしまうだろう。
私はアルバレスの言葉を無視するように、ヤツに向ける刃先に意識を集中した。
アルバレスの性格を考えれば、待ちではなく攻めて来るだろう。
鋼鉄の肉体に相当の自信を持っているようだが、いかに鋼鉄の肉体でも、斬る事が可能ならばいつかは勝てる。勝てる可能性があるのならば、それに勝負を賭けるまでだ。
「・・・なにが言いたい?」
相手のペースで話しになど付き合っていられない。
結論を急がせる私を睨みつけ、アルバレスは拳を握り締めて気を放出させた。
肌に突き刺さるようなビリビリとしたプレッシャーを浴びせられ、薙刀を握る手に力が入る。
「フッ、かんたんな事だ。わずかでも俺の体を傷つける事ができるお前を、決して見くびらんという事だ。お前に勝機は無いぞ」
アルバレスの重心が下がり、大地を踏みしめる足に力が入る。
たった一度の接触で、アルバレスは私に対する認識をあらためたようだ。
構えを見ただけで分かる。付け入る隙がまるでない。
だが私もまだ、アルバレスには何も見せていない。
ヤツは私が自分を傷つけられると知り、警戒を強めたがそれだけだ。
私がただ薙刀を振るうしか能が無いと思ったか?
貴様の鋼鉄の肉体に対して、かすり傷が精いっぱいだと思ったか?
右手で柄側を持ち、刃側はアルバレスに向けて左手で持ち、そして半身の体勢で構える。
アルバレスを迎撃するために、ヤツの呼吸を測り合わせた。
お前の首を飛ばす刃はあるんだよ!
チリチリと張りつめた空気が漂う。
ヤツの呼吸音を耳が捕え、僅かに上下する体の動きすら見えるほどに集中力が高まって来る。
まるで私とアルバレスの間だけ、時間の流れが遅くなっているかのような錯覚さえ起こしそうになる。
睨み合う互いの気が高まりピークに達したその時、私とアルバレスは同時に飛び出していた。
「兄ちゃん!あれ!」
前を行くリカルドが指す方に目を向ける。
「くそっ!遅かったか!」
樹々の間を走る二人の視線の先、レイジェスの前では、黒マントの女性と大柄な男が戦っているのが目に入り、アラタは言葉を吐き捨てた。
双方、手練れである事は一目で分かった。
大柄な男は見た目通りパワーで押しているが、黒マントの女性はその怒涛の攻撃を、全て捌き躱している。クリーンヒットを全く許さないその防御テクニックは、目を見張るものがあった。
「止めるぞ!リカルド!」
「はいはい!わぁーったよ!」
掛け声と共に二人は樹々を飛び出し、戦闘に割って入った。
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