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765 追跡者
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体力型のアラタとリカルドの二人は、先行して走っていた。
カチュアとユーリは魔法使いゆえに、二人の速さには付いていけないためである。
ユーリは魔力を筋力に変換する愛用の魔道具、膂力(りょりょく)のベルトを使えば付いて行く事は可能ではあるが、これから先何があるか分からないため、魔力はできるだけ温存しておきたかった。
アラタとリカルドは、行き交う人の波を避けながら、できるだけの速さで走った。
「リカルド!間違いないんだな!?黒マントの人はレイジェスに向かってて、その後ろを誰かが付けてたんだな!?」
焦りを隠そうともせず、切羽詰まった声を出すアラタに、リカルドも声を大にして言葉を返した。
「そう言っただろ!俺の目を疑うのかよ!?黒マントはレイジェスに行ったし、その後ろにいたヤツのあの動きは、完全に黒マント狙いだったぞ!ありゃ穏やかじゃねぇな」
全力疾走に近い走りだったが、二人は呼吸一つ乱さずに話しながら駆けていた。
元々体力のある二人だったが、毎日のバリオスのしごきも着実に実を結んでいた。
「嫌な予感がするな・・・リカルド、急ぐぞ!」
アラタがさらにスピードを上げると、リカルドは露骨に嫌そうな顔で文句を口にする。
「うへぇ~、めんどくせ!なんで俺が知らねぇ女のために走んなきゃなんねんだよ!たくっ、キッチン・モロニー奢ってもらうからな!」
「ああ!ジェロムのパスタもつけてやるよ!」
「よっしゃ!その言葉忘れんなよ!」
リカルドはぐんと加速すると、アラタを置き去りにして風のように走り抜けて行った。
「んな!?は、速ぇぇッ!?あいつこんな速かったのかよ!?」
アラタも負けじと足に力をこめると、リカルドの後を追ってレイジェスまで走った。
その黒いマントの女は、リサイクルショップ・レイジェスの前でたたずんでいた。
手にしている長物はゆうに2メートル以上あり、女の頭2つ3つ分は高く見える。
比較して見ると、身長はおそらく175cm程だろう。
フードを目深に被っているのは、太陽の陽射しが眩しいからと言うよりは、顔を隠す事が目的に見える。
そのフードの隙間から覗き見える長く黒い髪、そして髪と同じ黒い瞳は、どこか思い詰めるようにじっと目の前のレイジェスを見つめていた。
「・・・ここが、レイジェス・・・・・」
一人、ぽつりと呟く。
探していた物をやっと見つけたような安堵感はあったが、喜びは見えなかった。
ここまで来て何をしたかったのか?
分かっている。ここに来てなにがどうなるわけではない。これは自己満足に過ぎない。
だが絶対に来なくてはならないという、使命感にも似た思いも確かに持ち続けていた。
そのために払った犠牲は大きいが後悔はない。
「・・・そろそろ出てきたらどうだ?アルバレス」
黒マントの女性は前を向いたまま言葉を発した。
しかしその意識は自分の背後、樹々に身を隠している追跡者を捕えている。
「・・・完全に気配を消していたつもりだったが、さすがと言うべきかな」
隠れる意味が無いと悟ったのだろう。
樹の影から姿を現したのは、赤茶色の髪を後ろに撫でつけた、筋肉質の男だった。
背丈は黒マントの女より頭一個分は高く、2メートル近くあるだろう。
目立つことを避けるためか、半袖シャツにインディゴのデニムパンツと、一般人の装いをしている。
しかしその鋭い眼光から発せられる強い気が、この男が決して生易しい相手ではないと教えていた。
アルバレスが姿を見せると、黒マントの女は手にしている得物の布を取り、片手で器用に回して刃先をアルバレスへ突きつけた。
得物の長さだけで言えば槍と変わらない。だが刃が大きく反ったそれは槍とは似て非なるもの・・・
「確かナギナタって言ったか?帝国でもお前以外誰も使ってねぇ、変わった武器だよな。長物なら槍の方が使いやすいんじゃねぇのか?」
やや皮肉めいたアルバレスの言葉にも、黒マントの女は眉一つ動かす事はなかった。
口をつぐみ、アルバレスの隙を伺うように、じっとその一挙手一投足を見続けている。
そうした反応はアルバレスも予想していたのだろう。
刃を向けられてもまるで動揺する事なく、両の拳を握り合わせて打ち鳴らした。
「ふん、まぁいい・・・お前は皇帝の信頼を裏切り、何人もの帝国兵を殺して脱走したんだ。洗いざらい吐いてもらうぞ」
戦闘体勢に入ったアルバレスの体から、発せられる気が圧力を増していく。
樹々が騒めき、異常を察した鳥達が空へと羽ばたき逃げ出して行く。
アルバレスのプレッシャーをまともに浴びせられても、黒マントの女は表情を動かす事はなく、薙刀の刃を眼前に敵に向けて構えている。
「帝国軍第三師団長、ザビル・アルバレスがお前に引導を渡してやる!」
その蹴り足は大地を抉り、爆風を巻き起こす!
ギラリとした目、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべてアルバレスが襲い掛かった!
カチュアとユーリは魔法使いゆえに、二人の速さには付いていけないためである。
ユーリは魔力を筋力に変換する愛用の魔道具、膂力(りょりょく)のベルトを使えば付いて行く事は可能ではあるが、これから先何があるか分からないため、魔力はできるだけ温存しておきたかった。
アラタとリカルドは、行き交う人の波を避けながら、できるだけの速さで走った。
「リカルド!間違いないんだな!?黒マントの人はレイジェスに向かってて、その後ろを誰かが付けてたんだな!?」
焦りを隠そうともせず、切羽詰まった声を出すアラタに、リカルドも声を大にして言葉を返した。
「そう言っただろ!俺の目を疑うのかよ!?黒マントはレイジェスに行ったし、その後ろにいたヤツのあの動きは、完全に黒マント狙いだったぞ!ありゃ穏やかじゃねぇな」
全力疾走に近い走りだったが、二人は呼吸一つ乱さずに話しながら駆けていた。
元々体力のある二人だったが、毎日のバリオスのしごきも着実に実を結んでいた。
「嫌な予感がするな・・・リカルド、急ぐぞ!」
アラタがさらにスピードを上げると、リカルドは露骨に嫌そうな顔で文句を口にする。
「うへぇ~、めんどくせ!なんで俺が知らねぇ女のために走んなきゃなんねんだよ!たくっ、キッチン・モロニー奢ってもらうからな!」
「ああ!ジェロムのパスタもつけてやるよ!」
「よっしゃ!その言葉忘れんなよ!」
リカルドはぐんと加速すると、アラタを置き去りにして風のように走り抜けて行った。
「んな!?は、速ぇぇッ!?あいつこんな速かったのかよ!?」
アラタも負けじと足に力をこめると、リカルドの後を追ってレイジェスまで走った。
その黒いマントの女は、リサイクルショップ・レイジェスの前でたたずんでいた。
手にしている長物はゆうに2メートル以上あり、女の頭2つ3つ分は高く見える。
比較して見ると、身長はおそらく175cm程だろう。
フードを目深に被っているのは、太陽の陽射しが眩しいからと言うよりは、顔を隠す事が目的に見える。
そのフードの隙間から覗き見える長く黒い髪、そして髪と同じ黒い瞳は、どこか思い詰めるようにじっと目の前のレイジェスを見つめていた。
「・・・ここが、レイジェス・・・・・」
一人、ぽつりと呟く。
探していた物をやっと見つけたような安堵感はあったが、喜びは見えなかった。
ここまで来て何をしたかったのか?
分かっている。ここに来てなにがどうなるわけではない。これは自己満足に過ぎない。
だが絶対に来なくてはならないという、使命感にも似た思いも確かに持ち続けていた。
そのために払った犠牲は大きいが後悔はない。
「・・・そろそろ出てきたらどうだ?アルバレス」
黒マントの女性は前を向いたまま言葉を発した。
しかしその意識は自分の背後、樹々に身を隠している追跡者を捕えている。
「・・・完全に気配を消していたつもりだったが、さすがと言うべきかな」
隠れる意味が無いと悟ったのだろう。
樹の影から姿を現したのは、赤茶色の髪を後ろに撫でつけた、筋肉質の男だった。
背丈は黒マントの女より頭一個分は高く、2メートル近くあるだろう。
目立つことを避けるためか、半袖シャツにインディゴのデニムパンツと、一般人の装いをしている。
しかしその鋭い眼光から発せられる強い気が、この男が決して生易しい相手ではないと教えていた。
アルバレスが姿を見せると、黒マントの女は手にしている得物の布を取り、片手で器用に回して刃先をアルバレスへ突きつけた。
得物の長さだけで言えば槍と変わらない。だが刃が大きく反ったそれは槍とは似て非なるもの・・・
「確かナギナタって言ったか?帝国でもお前以外誰も使ってねぇ、変わった武器だよな。長物なら槍の方が使いやすいんじゃねぇのか?」
やや皮肉めいたアルバレスの言葉にも、黒マントの女は眉一つ動かす事はなかった。
口をつぐみ、アルバレスの隙を伺うように、じっとその一挙手一投足を見続けている。
そうした反応はアルバレスも予想していたのだろう。
刃を向けられてもまるで動揺する事なく、両の拳を握り合わせて打ち鳴らした。
「ふん、まぁいい・・・お前は皇帝の信頼を裏切り、何人もの帝国兵を殺して脱走したんだ。洗いざらい吐いてもらうぞ」
戦闘体勢に入ったアルバレスの体から、発せられる気が圧力を増していく。
樹々が騒めき、異常を察した鳥達が空へと羽ばたき逃げ出して行く。
アルバレスのプレッシャーをまともに浴びせられても、黒マントの女は表情を動かす事はなく、薙刀の刃を眼前に敵に向けて構えている。
「帝国軍第三師団長、ザビル・アルバレスがお前に引導を渡してやる!」
その蹴り足は大地を抉り、爆風を巻き起こす!
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