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762 今の自分を見てくれる仲間

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「・・・なるほど、にわかには信じがたいが、貴様はこういう事で嘘はつかんだろうし、嘘をつく理由もない。そういう事なら貴様のあの行動も理解できる。目の前に憎い仇がいるのだからな」

「ああ・・・悪いな、隠していたわけじゃないんだが、その、なかなか言うタイミングが無くて・・・」

ロンズデールにいた時に、出身の話しなど雑談をする機会は沢山あった。
だが俺は日本という地名は話しても、殺されてこの世界に来たという事は伏せた。
普通に考えればとても信じられない話しであり、頭がおかしいと思われかねないからだ。

生死を共にした仲間に、隠し事をしていた後ろめたさを感じて下を向くと、シャクールは軽い調子で笑い出した。

「ふはははは!何を固まっている?私達がそれで責めるとでも思ったか?まったく見くびられたものだ。そんなわけなかろう?なぁサリー?」

バルデスが肩をすくめて隣に座るサリーに目を向けると、サリーもクスリと笑ってアラタを見つめた。

「はい。シャクール様のおっしゃる通りです。アラタさん、誰だって言い難い事の一つや二つありますよ?アラタさんのご事情でしたら猶更だと思いました。そんなに気にしないでください。誰も怒ってませんし、怒る理由もありません」

「シャクール、サリーさん・・・」

優しく声をかけられて顔を上げると、シャノンも腕を組みながら、しかたないなというように軽い息をついてアラタを見た。

「お兄さん、話しの内容はさすがに驚いたけど、私もそれはなかなか言い出せないと思うよ。別に悪い事を隠してたんじゃないんだし、今話してくれたんだからそれでいいじゃん、ね?」

レイチェルも口元に少しの笑みを作り、アラタに声をかける。

「そうだな、私は知っていたが、死んだら違う世界に来てしまった、なんて普通は信じないだろう。だからそう気に病むな。まったく、キミは色々と気にし過ぎるところがあるな。リカルドを見習ったらどうだ?」

「うん、みんなの言う通りだよ。アラタ君、大丈夫だからあんまり気にしないでね」

そう言ってカチュアは笑顔で俺の手を握ってくれた。

「・・・みんな、ありがとう」

そうだな、みんな俺がどこでどう生きて来たかなんて気にしない。今の俺を見てくれているんだ。
そういう人達だって、分かっていたじゃないか。

俺が勝手に壁を作っていただけなんだ。



「うん、どうやら分かってくれたようだな。では私は今日のうちに女王に報告してくるとしよう。それでレイチェル、明日にでも時間を作れないか?」

話しの区切りがついたところで、バルデスはレイチェルに顔を向けた。

「ああ、そうだな・・・早い方がいいだろう。分かった。午前中にレイジェスでいいか?」

バルデスに予定を聞かれたレイチェルは、予定を確認するように顎先に指を当てながら話した。

「かまわん。では我々はそろそろ行くとしよう。シャノンも開店早々忙しいと思うが、できれば来てくれ」

そう言ってバルデスは席を立ちながら、シャノンにも話しに参加するよう告げる。

「そうだね。今の話しを聞いたら、私も出た方がいいかなって思ったよ。調整して顔を出すようにするよ」

ロンズデールの一戦から、シャノンは国のために戦った勇敢な女商人として、ロンズデールで一躍時の人となっていた。国王からの信頼も厚く、クインズベリーに支店を出すという事もあって、両国のパイプ役のような立場にもなっている。
帝国の幹部がクインズベリーに入ったという話しを聞いて、我関せずとできるはずもなかった。


「それでは皆さん、私達はこれで失礼させていただきます」

バルデスが背を向けると、サリーも一礼をしてその後ろに付いて歩き去って行った。





「・・・マイペースって言うのかな。言いたい事言って決めてく感じだけど、なかなか良い仕切りするよね」

二人が部屋を出て行くと、シャノンが感心するように声を出した。

「そうだな。そう言えばロンズデールでも、最後に船を沈めたのはシャクールだったな。黙っていても沈没していたが、あそこで躊躇いなく止めの爆裂魔法をかますのは、なかなかの気概だ。さすが四勇士を任せられる男という事だな」

レイチェルが同意して頷くと、シャノンが思い出したというように、指を一本立てた。

「あ、そうそう、聞きたかったんだけど、その四勇士ってさ、簡単に言えば四人の精鋭って事でしょ?残りの三人は何してるの?」

「ん、ああ、四勇士か。実は私もシャクール以外は会った事がないんだ。クインズベリー城を護る四つの塔があってな、基本的にはそこで待機していて、有事の際にだけ動くんだ」

「え?・・・でも、バルデスは・・・」

シャノンの言いたい事を察して、レイチェルは笑って肩をすくめる。

「あいつだけ特別なんだ。女王のアンリエール様が認めている。まったく、四勇士の自覚はあるようだが、自由気ままな男なんだよ」

「へぇ、じゃあバルデスって、けっこうすごいヤツなんだね。あ、もうこんな時間だ!レイチェル、そろそろ売り場のチェック行かないと」

シャノンがふと時計を目にして、やや慌てた様子で席を立つと、レイチェルもそれに続いて腰を上げた。

「ん、ああ、そうだな。アラタ、カチュア、悪いが私とシャノンはそろそろ行かないといけない。後の話しはまた明日店でしよう。キミ達も色々あって大変だったろうが、残りの休日を楽しんで帰ってくれ」

「分かった。俺達は大丈夫だよ。レイチェル達が働いてるとこ悪いな。ジャレットさん達には、今日の事を話しておくよ」

「うん、レイチェル、じゃあ私達は帰るね。シャノンさん、ここ素敵なお店ですね。また遊びに来ます」

「ああ、気に入ってくれて嬉しいよ。カチュアちゃん、今日はお手伝いありがとうね。今度ご飯奢るよ」


アラタとカチュアは、二人に手を振ってその場を後にした。

部屋に残ったのがレイチェルとシャノンの二人だけになると、レイチェルはテーブルの上の書類をまとめて部屋を出ようとする。
だが、シャノンが難しい顔をして腕を組んでるのを見て、首をかしげて声をかけた。

「・・・シャノン、どうした?行かないのか?」


「・・・レイチェル、さっきバルデスが言っていた、帝国のカシレロって魔法使いだけど・・・私一度見た事があるんだ」

シャノンは顔を上げると、レイチェルの目を見て話しを続けた。
その目からは帝国の青魔法兵団団長に対しての、不安や心配、恐れよりも、強い嫌悪感が見て取れた。

「・・・うん」

レイチェルは短く返事をすると、話しの続きを待った。

口にするのも躊躇われるのか、シャノンはなかなか続きを話そうとしないが、話そうとしているのは分かる。だからレイチェルは、シャノンの準備ができるまで待つつもりだった。

なぜさっき、全員が揃っている時にその話しをしなかったのか、それは話し手が話したくないと思う程、不快なものだからだろうと、レイチェルはシャノンは心中を察していた。

そしてそれでも自分に話してくれるという事は、シャノンのレイチェルに対する信頼の厚さであった。


「・・・・・カシレロって男はね、精神を操る魔法使いなの」


やがて決心したようにシャノンは話し出した。

そしてそれは、レイジェスにも、クインズベリーにとっても、因縁の深い話しだった。
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