異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
755 / 1,352

【754 移ろい流れる時の中で】

しおりを挟む
帝国の酒場宿で一人、ウィッカー・バリオスは静かに酒を飲んでいた。

調べられる限りは調べた。この地でテリーとアンナがどんな最期をおくったのか、数十年も前の事だから、実際に見たという人は探し出せなかったし、いないと考えるべきなのだろう。

歴史書には簡潔にしか書いてなかったし、誰に聞いても大雑把な答えしか返ってこなかった。
そこから導き出した答えは、帝国にとって都合の悪い結末だったという事だ。

テリーとアンナは皇帝と戦い、おそらく善戦したのだろう。
皇帝が右腕を失ったという話しを聞いた時、俺はテリーとアンナによって負わされた傷だと察した。
あの皇帝を相手にそこまでやれたのだ。あの二人がそれほどまでに力を付けた事を誇りに思う。


目を閉じて考えを整理する。

ブロートン帝国を圧倒的な力で完全に掌握していた、絶対の存在、皇帝ローランド・ライアン。
その晩年がどんな状態だったかを知って、正直驚いた。
あの男がそこまで心を病んでいたとはな。

俺達は皇帝に勝てなかった。
テリーとアンナも敗れはしたが、そこまで追い詰めたのならば、仇を討ってくれたようなものだ。


「・・・ケビン、か」

キャラという女性がテリーの子を産んだ。
幸いにも当時のキャラを知る老人から話しを聞く事ができて、そこまではなんとか調べる事ができた。
だがそこまでだ。その後ケビンがどうなったかまでは分からない。

だが、血は続いている可能性はある。

パトリックさんとヤヨイさんの血が、今も続いている可能性が・・・・・



それから俺は、旅をしながらケビンの子孫を探した。

手がかりという手がかりは無い。
ヤヨイさんの血を継いでいるのだから、黒髪という可能性はある。
ファーマーの姓を名乗っていれば探しやすいが、帝国から身を隠すのであれば、その可能性は低いだろう。つまり普通にやっては探しようがないのだ。

けれど俺には、風の精霊がついている。
精霊はヤヨイさんの風を覚えている。可能性は低いが、ヤヨイさんと同じ風を纏っていれば、探し出せるかもしれない。


だが結局見つける事はできなかった。
そもそもいるかどうかも分からないのだ。風を頼りにしても、厳しい事は分かっていた。

100年以上、大陸を旅して歩いたが見つからないのだ。
やはり血は途切れたと、考えるべきなのかもしれない。


しかしスージーの血は、200年経っても続いていた。
スージーのひ孫のミーナも、結婚をして子を産み育てた。
ミーナは約束を守り、自分の子供には俺の話しを聞かせて育て、俺がいつ来てもいいように居場所を作ってくれていたのだ。

その子もまた命を作り、血は続いて行った。
俺の話しもまた、代々語り継いでいってくれたのだ。


そうして続いた命の一人が、アコスタという男と結ばれた。
産まれた双子の姉妹は、姉をリーザ、妹はローザと名付けられた。

リーザとローザには才能があった。
俺の話しを聞いて育った二人は、10歳を迎えた日に、俺に弟子入りを志願してきた。

リーザには生まれ持った格闘のセンスがあり、ローザにも生まれ持った大きな魔力があった。

トロワとキャロルの子孫は、戦いとは無縁の生き方をしていたし、村には二人の相手になりそうな人間はいなかった。
俺は二人の才能を埋もれさす事は惜しいと感じ、稽古を付ける事にした。
二人の意志は固かったし、幸いにも両親が子供の気持ちを尊重してくれたからだ。


リーザとローザを弟子入りさせたある日、
俺はクインズベリー国王妃、アンリエール様の呼び出しに応じて城へと出向いた。

ジョセフもまた俺との約束を守ってくれた。
俺という存在を子孫に語り継いでくれたのだ。

しかし、まさかジョセフの子孫が王妃になるとは思わなかった。

アンリエール様は幼少の頃から知っているが、聡明で気持ちが強く、思いやりもあった。
人の上に立てる才覚を確かに持っていたし、コルバート一族が代々国を支えてきたのだから、可能性はあったが、本当に王妃になるとは・・・・・自分の子孫が王妃だなんて、ジャニスがいたらきっと驚いただろう。



アンリエール様が俺を呼び出した理由は、信頼できる専属の護衛が欲しいというものだった。

テラスでお茶をしながら、自分の感じている不安と懸念を俺に伝えてきた。

結婚して十数年経つが、ここ最近の国王はどうも様子がおかしいと言うのだ。
まるで人が変ったように感じるとも言っていた。

今も護衛はついているが、それは国王が用意した護衛だった。
アンリエール様は、自分の専属として一から鍛えられた護衛を欲していた。

そこで俺はリーザとローザが適任だと考えた。
ものになるには年単位で時間がかかるが、あの二人ならば将来有望だ。

それまでは俺ができるだけ気にかけるとしよう。

俺はアンリエール様にリーザとローザの事を話し、将来的に護衛が務まるように育てると約束した。


そしてアンリエール様は、俺にもう一つ話したい事があると口にした。


「バリオス様のご事情は十分に承知しておりますが、リーザとローザが育つまでクインズベリーにいらっしゃるのでしたら、なにかされてみてはいかがでしょうか?例えば趣味とか、なにかお好きな事はありませんか?」

唐突な話しで驚いたが、今思えば俺を気遣ってくれたのだろう。
数年に一度立ち寄る程度で、あとは大陸中を旅して歩いていたのだから、ここで少しでも心を休める事ができればとお考えだったと思う。

リーザとローザを連れて旅に出ようとも考えていたが、育つまではクインズベリーを離れられなくなった。そう考えると、アンリエール様が俺にやりたい事はないかと尋ねる気持ちも分かる。

だが、趣味なんてものはもう考える気にもならない。
しかし、何かやってみるのもいいかという気持ちも少し出てきた。

俺が悩む素振りを見せると、アンリエール様は言葉を続けた。

「では、お仕事はいかがですか?バリオス様は以前は孤児院で働かれてたんですよね?子供の扱いに慣れてらっしゃるのでしたら、そういうお仕事もございますよ。仕事が生きがいという方もおりますし、興味がありましたらご用意いたします」


仕事か・・・・・


「・・・・・アンリエール様、では店をやろうと思います」

俺の言葉が意外だったようだ。
アンリエール様は、テーブルに少し身を乗り出してきた。

「あら、お店ですか?何のお店かもう決まっているのですか?」



そっと目を閉じると、あの懐かしい日々が昨日の事のように思い出せる

誰しも戻りたいと願う時があり、誰しも忘れられない時がある

しかし人はそこに戻る事はできない

思い出は思い出として記憶に残るだけだ


けれど時の流れから外れた俺は、もう一度始める事ができる


これは未練なのだろう
失ったあの日の残像を追いかけているだけかもしれない

ただ、もう一度あの時を感じる事ができるのならば・・・・・

この永遠に続く時の中で、追い求めたもの、取り戻したかった忘れられないあの場所


「はい・・・リサイクルショップを始めようと思います」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

処理中です...