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【741 時の牢獄 ⑥】
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「ワーリントンの姓は有名過ぎるから、母親の姓を名乗っていると言っていたわ。史上最強の弓使い、ジョルジュ・ワーリントンの名前は伝説になっているからね」
ジョルジュとジャニスの一人息子、ジョセフの顔は俺も見た事がある。
ただ、ジャニスは結婚後に首都バンテージを離れて、ジョルジュ一家の住む精霊の森に移ったため、数える程度しか会った事はない。髪色がジャニスに似た、明るい栗色だったというくらいしか覚えてはいない。
それに、生後半年も経っていない赤子の時なのだから、今見ても分かるはずがない。
クインズベリー城にいるそうだが、突然訪ねて行って会えるだろうか?
会えたとして、ジョセフも俺の事など誰か分かるわけがない。
ウィッカー・バリオスという素性を明かせば、話しはできるかもしれないがそれはできない。
ジャニスの息子が生きているかもしれないと聞いて、心が動かされはしたが、会う事はできないだろう。
スージーが一緒に来てくれればあるいはと思ったが、ここから首都までそれなりに日数がかかる。
高齢のスージーに首都までの旅は厳しいだろう。
俺がそう告げると、スージーは一隣に座っている孫のミーナに顔を向けた。
ずっと黙って俺とスージーの話しを聞いていたが、退屈する様子も見せずに最後まで耳を傾けていたのは、この子の性格なのだろう。
「ミーナ、今日はもう遅いから明日でいいけど、あんたジョージの鼻タレと、アレンに声かけてきな。ジョージはあの時ジョセフに会ってるから、兄さんと一緒に行ってもらおうじゃないか」
「え、おばあちゃん、いいの?」
突然話しをふられたミーナは、驚きながら俺とスージーを交互に見た。
言いたい事は分かる。これだけの事情を抱えている俺に、そもそも会わせていいのかと思っているのだろう。
「ミーナ、何のためにあんたを同席させたと思ってんだい?これからはあんたが兄さんと世の中を繋ぐ橋渡しになるんだよ?兄さん、そういうわけだからいいかい?」
確認しているようで、これは決定事項を告げているだけだ。
ミーナも口を開けて固まっている。無理もない。今日一日で、どれだけの情報を頭に入れた事か。
その上、俺と世の中の橋渡しなんて役目も言い渡されたんだ。
スージーが、ここまで押しが強くなっていたとは思わなかった。
有無を言わさぬ迫力に、俺はつい笑いが漏れた。
「はは・・・スージーが言うのなら間違い無いとは思うけど、俺もあまり多くの人に素性を明かしたくはないんだ。その二人は本当に信用できるんだろうね?」
するとスージーは、俺の目を見て自信たっぷりに頷いた。
「もちろんだよ、兄さん。二人はね、ジョージ・ベルチェルト。アレン・ベルチェルトって言うのさ」
「ベルチェルト?まさか・・・」
「そうだよ。トロワ兄ちゃんとキャロル姉ちゃんの、孫とひ孫なんだ」
翌日、ミーナが連れて来たのは体格の良い男二人だった。
「ええっと、ミーナちゃんから話しは聞きましたが・・・あなたが、ウィッカー・バリオスさんで?」
俺に名前を確認してきたのはジョージ・ベルチェルト。見たところ40代半ば頃だろう。
山仕事をしてると聞いていたから、それも合って鍛えられた体つきをしている。
もう一人、アレン・ベルチェルトは20台前半くらいに見える。
ジョージの息子で、こっちも父親と一緒に山仕事をしているそうだ。
父親よりは細いが背は少し高い。185cmくらいはありそうだ。
二人とも黒髪の短髪で、やや目つきが鋭い。
トロワの面影が見えて、なんだかトロワに再会できたような気持ちになった。
「ああ、突然すまない。俺がウィッカー・バリオスだ。スージーとの関係性は聞いての通り。血縁関係はないがスージーの兄として生活をしてきた。そしてトロワ・ベルチェルトと、キャロル・パンターニ、あなた達にとってのお祖父さんとお祖母さんは、俺の弟と妹だ」
そう言っても、二人はまだ半信半疑というように眉を寄せて、相談するように顔を見合わせている。
「ま、まぁまぁジョージさん、アレン君もとりあえず中に入りましょうよ。ね?お茶入れますから!」
微妙な空気を感じ取ったミーナが、二人の背中を押すようにして家の中に入れる。
昨日から思っていたが、ミーナは世話焼きらしい。
「ほれ、ジョージ、アレン、ぼけっと突っ立ってないでここに座りな!」
玄関から上がっても、まだ困惑気味に立っている二人を見て、俺の隣のイスに腰をかけているスージーが、やや強めに声をかける。
二人はスージーに頭が上がらないのか、強く言われると慌てたように俺達の前の席に腰を下ろした。
テーブルを挟んで俺の向かいに座るジョージは、観察するように俺を見る。
「う~ん、スージー婆さんとミーナちゃんが、嘘をつくとは思えないんですよ。でもねぇ・・・あなた108歳だっけ?・・・いやいやいや、無理でしょう?75歳とかそのくらいじゃないんですか?うちの祖父(じい)さんも、ウィッカー・バリオスの名前は口にしてましたよ。でも、普通に考えればもう亡くなってると思うんですよね?だから・・・え?」
「・・・これなら信じられるか?」
「え・・・いや、なに?どうなってんの?」
「お、親父、これって・・・?」
俺は数十年ぶりに変身を解いた。
本来の姿である、26歳のウィッカー・バリオスの姿を見せると、目の前の二人は目を見開いて驚きをあらわにしている。
そして隣に座るスージーは、老人の姿は変身したものだと伝えておいたため、大きな動揺を見せる事はなかったが、小さく息を飲んでしばらくの間、俺から目を離せないでいた。
「・・・あたしの記憶にある、兄さんそのままだね」
俺の姿を通して、孤児院での思い出も見ているのだろう。
少しだけ声が震えていた。
「歳を、取らないからな・・・」
信用させるためだったが、久しぶりに本当の姿になると解放感というものは確かにあった。
シワの無い自分の手、サラリとした金色の髪を目にすると、自分の体ながらも感慨深いものがあった。
「か、かっこいい・・・・・」
ぼそりと聞こえた声に顔を向けると、ミーナがお茶を乗せたトレーを持ったまま、俺をじっと見つめている。
「ミーナ、どうかしたのか?」
「あ!いえいえ!な、なんでもないです!」
何を言ったのかハッキリとは聞こえなかったが、ミーナは俺に声をかけられると過剰に反応して、慌てたようにそれぞれの前にお茶を置いた。
その様子をスージーが何か言いた気に見ていたが、特に何を言うでもなく、目の前の親子に話しを切り出した。
「さぁ、あんたらもこれで信じただろ?この人は正真正銘、あのウィッカー・バリオス。あたしの兄さんさ。青魔法を極めて変身魔法を覚えたんだ。事情はここに来るまでにミーナから聞いてるね?」
まだ呆気に取られた様子の二人だったが、スージーの睨みを効かせた声に反応して、姿勢を正した。
「あ、ああ、わ、分かったよ。目の前でこんなの見せられちゃ信じるしかないって。そ、それで婆さん、一体俺達に何をしてほしいんだ?」
父親のジョージはまだ目をパチパチとさせて、俺とスージーを交互に見ているが、ある程度状況は飲み込めてきたようだ。
「なぁに、簡単な事さね。ちょっくら主都に行って、兄さんがジョセフに会えるように取り次いでほしいんだ。あんた、面識あっただろ?あたしの名前も使っていいからさ」
「え・・・?ええぇぇぇぇ!?しゅ、首都まで!?な、何日かかると思ってんですか!?」
「おや、ジョージ、あたしの頼みをきいてくれないのかい?あんたが小さい頃は、そりゃあ手がかかったもんだよ?忙しい両親に代わって、あたしがご飯を作ってオシメを替えてさ。大人になってからも、奥手のあんたのために嫁さんだってあたしが世話して・・・」
「ば!婆さんー----ッツ!よ、喜んで行かせていただきますッツ!」
「あら、いいのかい?ジョージはやっぱり優しいねぇ」
スージーは両手を組み合わせると、その上に顎を乗せ、口の端を持ち上げて笑った。
ジョルジュとジャニスの一人息子、ジョセフの顔は俺も見た事がある。
ただ、ジャニスは結婚後に首都バンテージを離れて、ジョルジュ一家の住む精霊の森に移ったため、数える程度しか会った事はない。髪色がジャニスに似た、明るい栗色だったというくらいしか覚えてはいない。
それに、生後半年も経っていない赤子の時なのだから、今見ても分かるはずがない。
クインズベリー城にいるそうだが、突然訪ねて行って会えるだろうか?
会えたとして、ジョセフも俺の事など誰か分かるわけがない。
ウィッカー・バリオスという素性を明かせば、話しはできるかもしれないがそれはできない。
ジャニスの息子が生きているかもしれないと聞いて、心が動かされはしたが、会う事はできないだろう。
スージーが一緒に来てくれればあるいはと思ったが、ここから首都までそれなりに日数がかかる。
高齢のスージーに首都までの旅は厳しいだろう。
俺がそう告げると、スージーは一隣に座っている孫のミーナに顔を向けた。
ずっと黙って俺とスージーの話しを聞いていたが、退屈する様子も見せずに最後まで耳を傾けていたのは、この子の性格なのだろう。
「ミーナ、今日はもう遅いから明日でいいけど、あんたジョージの鼻タレと、アレンに声かけてきな。ジョージはあの時ジョセフに会ってるから、兄さんと一緒に行ってもらおうじゃないか」
「え、おばあちゃん、いいの?」
突然話しをふられたミーナは、驚きながら俺とスージーを交互に見た。
言いたい事は分かる。これだけの事情を抱えている俺に、そもそも会わせていいのかと思っているのだろう。
「ミーナ、何のためにあんたを同席させたと思ってんだい?これからはあんたが兄さんと世の中を繋ぐ橋渡しになるんだよ?兄さん、そういうわけだからいいかい?」
確認しているようで、これは決定事項を告げているだけだ。
ミーナも口を開けて固まっている。無理もない。今日一日で、どれだけの情報を頭に入れた事か。
その上、俺と世の中の橋渡しなんて役目も言い渡されたんだ。
スージーが、ここまで押しが強くなっていたとは思わなかった。
有無を言わさぬ迫力に、俺はつい笑いが漏れた。
「はは・・・スージーが言うのなら間違い無いとは思うけど、俺もあまり多くの人に素性を明かしたくはないんだ。その二人は本当に信用できるんだろうね?」
するとスージーは、俺の目を見て自信たっぷりに頷いた。
「もちろんだよ、兄さん。二人はね、ジョージ・ベルチェルト。アレン・ベルチェルトって言うのさ」
「ベルチェルト?まさか・・・」
「そうだよ。トロワ兄ちゃんとキャロル姉ちゃんの、孫とひ孫なんだ」
翌日、ミーナが連れて来たのは体格の良い男二人だった。
「ええっと、ミーナちゃんから話しは聞きましたが・・・あなたが、ウィッカー・バリオスさんで?」
俺に名前を確認してきたのはジョージ・ベルチェルト。見たところ40代半ば頃だろう。
山仕事をしてると聞いていたから、それも合って鍛えられた体つきをしている。
もう一人、アレン・ベルチェルトは20台前半くらいに見える。
ジョージの息子で、こっちも父親と一緒に山仕事をしているそうだ。
父親よりは細いが背は少し高い。185cmくらいはありそうだ。
二人とも黒髪の短髪で、やや目つきが鋭い。
トロワの面影が見えて、なんだかトロワに再会できたような気持ちになった。
「ああ、突然すまない。俺がウィッカー・バリオスだ。スージーとの関係性は聞いての通り。血縁関係はないがスージーの兄として生活をしてきた。そしてトロワ・ベルチェルトと、キャロル・パンターニ、あなた達にとってのお祖父さんとお祖母さんは、俺の弟と妹だ」
そう言っても、二人はまだ半信半疑というように眉を寄せて、相談するように顔を見合わせている。
「ま、まぁまぁジョージさん、アレン君もとりあえず中に入りましょうよ。ね?お茶入れますから!」
微妙な空気を感じ取ったミーナが、二人の背中を押すようにして家の中に入れる。
昨日から思っていたが、ミーナは世話焼きらしい。
「ほれ、ジョージ、アレン、ぼけっと突っ立ってないでここに座りな!」
玄関から上がっても、まだ困惑気味に立っている二人を見て、俺の隣のイスに腰をかけているスージーが、やや強めに声をかける。
二人はスージーに頭が上がらないのか、強く言われると慌てたように俺達の前の席に腰を下ろした。
テーブルを挟んで俺の向かいに座るジョージは、観察するように俺を見る。
「う~ん、スージー婆さんとミーナちゃんが、嘘をつくとは思えないんですよ。でもねぇ・・・あなた108歳だっけ?・・・いやいやいや、無理でしょう?75歳とかそのくらいじゃないんですか?うちの祖父(じい)さんも、ウィッカー・バリオスの名前は口にしてましたよ。でも、普通に考えればもう亡くなってると思うんですよね?だから・・・え?」
「・・・これなら信じられるか?」
「え・・・いや、なに?どうなってんの?」
「お、親父、これって・・・?」
俺は数十年ぶりに変身を解いた。
本来の姿である、26歳のウィッカー・バリオスの姿を見せると、目の前の二人は目を見開いて驚きをあらわにしている。
そして隣に座るスージーは、老人の姿は変身したものだと伝えておいたため、大きな動揺を見せる事はなかったが、小さく息を飲んでしばらくの間、俺から目を離せないでいた。
「・・・あたしの記憶にある、兄さんそのままだね」
俺の姿を通して、孤児院での思い出も見ているのだろう。
少しだけ声が震えていた。
「歳を、取らないからな・・・」
信用させるためだったが、久しぶりに本当の姿になると解放感というものは確かにあった。
シワの無い自分の手、サラリとした金色の髪を目にすると、自分の体ながらも感慨深いものがあった。
「か、かっこいい・・・・・」
ぼそりと聞こえた声に顔を向けると、ミーナがお茶を乗せたトレーを持ったまま、俺をじっと見つめている。
「ミーナ、どうかしたのか?」
「あ!いえいえ!な、なんでもないです!」
何を言ったのかハッキリとは聞こえなかったが、ミーナは俺に声をかけられると過剰に反応して、慌てたようにそれぞれの前にお茶を置いた。
その様子をスージーが何か言いた気に見ていたが、特に何を言うでもなく、目の前の親子に話しを切り出した。
「さぁ、あんたらもこれで信じただろ?この人は正真正銘、あのウィッカー・バリオス。あたしの兄さんさ。青魔法を極めて変身魔法を覚えたんだ。事情はここに来るまでにミーナから聞いてるね?」
まだ呆気に取られた様子の二人だったが、スージーの睨みを効かせた声に反応して、姿勢を正した。
「あ、ああ、わ、分かったよ。目の前でこんなの見せられちゃ信じるしかないって。そ、それで婆さん、一体俺達に何をしてほしいんだ?」
父親のジョージはまだ目をパチパチとさせて、俺とスージーを交互に見ているが、ある程度状況は飲み込めてきたようだ。
「なぁに、簡単な事さね。ちょっくら主都に行って、兄さんがジョセフに会えるように取り次いでほしいんだ。あんた、面識あっただろ?あたしの名前も使っていいからさ」
「え・・・?ええぇぇぇぇ!?しゅ、首都まで!?な、何日かかると思ってんですか!?」
「おや、ジョージ、あたしの頼みをきいてくれないのかい?あんたが小さい頃は、そりゃあ手がかかったもんだよ?忙しい両親に代わって、あたしがご飯を作ってオシメを替えてさ。大人になってからも、奥手のあんたのために嫁さんだってあたしが世話して・・・」
「ば!婆さんー----ッツ!よ、喜んで行かせていただきますッツ!」
「あら、いいのかい?ジョージはやっぱり優しいねぇ」
スージーは両手を組み合わせると、その上に顎を乗せ、口の端を持ち上げて笑った。
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