異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
742 / 1,370

【741 時の牢獄 ⑥】

しおりを挟む
「ワーリントンの姓は有名過ぎるから、母親の姓を名乗っていると言っていたわ。史上最強の弓使い、ジョルジュ・ワーリントンの名前は伝説になっているからね」

ジョルジュとジャニスの一人息子、ジョセフの顔は俺も見た事がある。
ただ、ジャニスは結婚後に首都バンテージを離れて、ジョルジュ一家の住む精霊の森に移ったため、数える程度しか会った事はない。髪色がジャニスに似た、明るい栗色だったというくらいしか覚えてはいない。
それに、生後半年も経っていない赤子の時なのだから、今見ても分かるはずがない。

クインズベリー城にいるそうだが、突然訪ねて行って会えるだろうか?
会えたとして、ジョセフも俺の事など誰か分かるわけがない。
ウィッカー・バリオスという素性を明かせば、話しはできるかもしれないがそれはできない。


ジャニスの息子が生きているかもしれないと聞いて、心が動かされはしたが、会う事はできないだろう。
スージーが一緒に来てくれればあるいはと思ったが、ここから首都までそれなりに日数がかかる。
高齢のスージーに首都までの旅は厳しいだろう。

俺がそう告げると、スージーは一隣に座っている孫のミーナに顔を向けた。
ずっと黙って俺とスージーの話しを聞いていたが、退屈する様子も見せずに最後まで耳を傾けていたのは、この子の性格なのだろう。


「ミーナ、今日はもう遅いから明日でいいけど、あんたジョージの鼻タレと、アレンに声かけてきな。ジョージはあの時ジョセフに会ってるから、兄さんと一緒に行ってもらおうじゃないか」

「え、おばあちゃん、いいの?」

突然話しをふられたミーナは、驚きながら俺とスージーを交互に見た。
言いたい事は分かる。これだけの事情を抱えている俺に、そもそも会わせていいのかと思っているのだろう。

「ミーナ、何のためにあんたを同席させたと思ってんだい?これからはあんたが兄さんと世の中を繋ぐ橋渡しになるんだよ?兄さん、そういうわけだからいいかい?」

確認しているようで、これは決定事項を告げているだけだ。
ミーナも口を開けて固まっている。無理もない。今日一日で、どれだけの情報を頭に入れた事か。
その上、俺と世の中の橋渡しなんて役目も言い渡されたんだ。

スージーが、ここまで押しが強くなっていたとは思わなかった。
有無を言わさぬ迫力に、俺はつい笑いが漏れた。

「はは・・・スージーが言うのなら間違い無いとは思うけど、俺もあまり多くの人に素性を明かしたくはないんだ。その二人は本当に信用できるんだろうね?」

するとスージーは、俺の目を見て自信たっぷりに頷いた。

「もちろんだよ、兄さん。二人はね、ジョージ・ベルチェルト。アレン・ベルチェルトって言うのさ」

「ベルチェルト?まさか・・・」

「そうだよ。トロワ兄ちゃんとキャロル姉ちゃんの、孫とひ孫なんだ」





翌日、ミーナが連れて来たのは体格の良い男二人だった。

「ええっと、ミーナちゃんから話しは聞きましたが・・・あなたが、ウィッカー・バリオスさんで?」

俺に名前を確認してきたのはジョージ・ベルチェルト。見たところ40代半ば頃だろう。
山仕事をしてると聞いていたから、それも合って鍛えられた体つきをしている。

もう一人、アレン・ベルチェルトは20台前半くらいに見える。
ジョージの息子で、こっちも父親と一緒に山仕事をしているそうだ。
父親よりは細いが背は少し高い。185cmくらいはありそうだ。

二人とも黒髪の短髪で、やや目つきが鋭い。
トロワの面影が見えて、なんだかトロワに再会できたような気持ちになった。

「ああ、突然すまない。俺がウィッカー・バリオスだ。スージーとの関係性は聞いての通り。血縁関係はないがスージーの兄として生活をしてきた。そしてトロワ・ベルチェルトと、キャロル・パンターニ、あなた達にとってのお祖父さんとお祖母さんは、俺の弟と妹だ」


そう言っても、二人はまだ半信半疑というように眉を寄せて、相談するように顔を見合わせている。

「ま、まぁまぁジョージさん、アレン君もとりあえず中に入りましょうよ。ね?お茶入れますから!」

微妙な空気を感じ取ったミーナが、二人の背中を押すようにして家の中に入れる。
昨日から思っていたが、ミーナは世話焼きらしい。

「ほれ、ジョージ、アレン、ぼけっと突っ立ってないでここに座りな!」

玄関から上がっても、まだ困惑気味に立っている二人を見て、俺の隣のイスに腰をかけているスージーが、やや強めに声をかける。

二人はスージーに頭が上がらないのか、強く言われると慌てたように俺達の前の席に腰を下ろした。
テーブルを挟んで俺の向かいに座るジョージは、観察するように俺を見る。

「う~ん、スージー婆さんとミーナちゃんが、嘘をつくとは思えないんですよ。でもねぇ・・・あなた108歳だっけ?・・・いやいやいや、無理でしょう?75歳とかそのくらいじゃないんですか?うちの祖父(じい)さんも、ウィッカー・バリオスの名前は口にしてましたよ。でも、普通に考えればもう亡くなってると思うんですよね?だから・・・え?」


「・・・これなら信じられるか?」


「え・・・いや、なに?どうなってんの?」
「お、親父、これって・・・?」


俺は数十年ぶりに変身を解いた。
本来の姿である、26歳のウィッカー・バリオスの姿を見せると、目の前の二人は目を見開いて驚きをあらわにしている。

そして隣に座るスージーは、老人の姿は変身したものだと伝えておいたため、大きな動揺を見せる事はなかったが、小さく息を飲んでしばらくの間、俺から目を離せないでいた。

「・・・あたしの記憶にある、兄さんそのままだね」

俺の姿を通して、孤児院での思い出も見ているのだろう。
少しだけ声が震えていた。

「歳を、取らないからな・・・」

信用させるためだったが、久しぶりに本当の姿になると解放感というものは確かにあった。
シワの無い自分の手、サラリとした金色の髪を目にすると、自分の体ながらも感慨深いものがあった。

「か、かっこいい・・・・・」

ぼそりと聞こえた声に顔を向けると、ミーナがお茶を乗せたトレーを持ったまま、俺をじっと見つめている。


「ミーナ、どうかしたのか?」

「あ!いえいえ!な、なんでもないです!」

何を言ったのかハッキリとは聞こえなかったが、ミーナは俺に声をかけられると過剰に反応して、慌てたようにそれぞれの前にお茶を置いた。

その様子をスージーが何か言いた気に見ていたが、特に何を言うでもなく、目の前の親子に話しを切り出した。

「さぁ、あんたらもこれで信じただろ?この人は正真正銘、あのウィッカー・バリオス。あたしの兄さんさ。青魔法を極めて変身魔法を覚えたんだ。事情はここに来るまでにミーナから聞いてるね?」

まだ呆気に取られた様子の二人だったが、スージーの睨みを効かせた声に反応して、姿勢を正した。

「あ、ああ、わ、分かったよ。目の前でこんなの見せられちゃ信じるしかないって。そ、それで婆さん、一体俺達に何をしてほしいんだ?」

父親のジョージはまだ目をパチパチとさせて、俺とスージーを交互に見ているが、ある程度状況は飲み込めてきたようだ。

「なぁに、簡単な事さね。ちょっくら主都に行って、兄さんがジョセフに会えるように取り次いでほしいんだ。あんた、面識あっただろ?あたしの名前も使っていいからさ」

「え・・・?ええぇぇぇぇ!?しゅ、首都まで!?な、何日かかると思ってんですか!?」

「おや、ジョージ、あたしの頼みをきいてくれないのかい?あんたが小さい頃は、そりゃあ手がかかったもんだよ?忙しい両親に代わって、あたしがご飯を作ってオシメを替えてさ。大人になってからも、奥手のあんたのために嫁さんだってあたしが世話して・・・」

「ば!婆さんー----ッツ!よ、喜んで行かせていただきますッツ!」

「あら、いいのかい?ジョージはやっぱり優しいねぇ」

スージーは両手を組み合わせると、その上に顎を乗せ、口の端を持ち上げて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...