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【739 時の牢獄 ④】

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トロワとキャロルはスージーとチコリを護りながら、焼け落ちるカエストゥスから脱出し、追って来る帝国兵と戦いながら、がむしゃらに逃げた。

どこに逃げればいいのか?
そんな事を考えている余裕は無かった。
ただ、今にも背中を焼きそうな炎から一歩でも遠くへ。
自分の手を握る幼い妹を守るために、少しでも遠くへ。

それだけを考えて走り続けた。


幸運だったのは、四人の属性が見事に分かれていた事だった。

体力型のトロワ。黒魔法使いのキャロル。青魔法使いのチコリ。白魔法使いのスージー。

そしてトロワはジョルジュとリンダに鍛えられていた。

その力は帝国兵をはるかにしのいでおり、2人や3人では全く寄せ付けない程のものだった。
圧倒的な力を持って、トロワはキャロル達の盾となり先頭を走った。

しかし近接戦闘に特化したトロワでは、遠距離から狙ってくる弓兵は落とせない。


キャロルの役目はトロワの取りこぼしを叩く事だった。
同じ黒魔法使いとして、ウィッカーに鍛えられたキャロルの魔力もまた、帝国兵を大きく上回っていた。
自分達に向かって、狙い撃たれた矢を一瞬で焼き尽くし、精密な魔力操作で、どれだけ離れていても次々と狙撃手を落としていった。
いかな帝国兵でも、正確無比なキャロルの魔法から逃げる事はできなかった。


そしてまだ幼いながらも、スージーとチコリの二人も立派に役目を果たした。

ブレンダンの教育を受けたチコリは、探索魔法のサーチで帝国の包囲網の穴を突き、追っ手から逃れる道を示した。
一瞬たりとも気を抜けない逃亡劇で、チコリのサーチは生命線とも言えた。


最後に、ジャニス直伝のヒールを身に着けたスージーの癒しの力は、長い逃避行で支えとなった。
いかにトロワとキャロルが優れていても、多勢に無勢。体力の限界はどうしてもある。
気を張り続ける日々での消耗は激しかった。
精神的な疲労はどうしようもないが、体力を回復させられる事は大きかった。


そうして四人は力を合わせ、追いかけてくる帝国兵を退けながら、クインズベリーの山奥の田舎村にたどり着くこととなった。




四人にとってもう一つの幸運は、村の人間が好意的な事だった。

まだ若い四人、トロワとキャロルは17歳になったばかり、スージーとチコリにいたっては8歳である。
そんな四人がボロボロになりながら、身を寄せ合って村にたどり着いた時、村人達は一目で事情を察した。

この子達は帝国とカエストゥスの戦争から逃げてきたのだと。

人口数百人程度の小さな村だったが、クインズベリー領内だった事で、帝国兵もうかつに入る事ができなかった。
そしてまだ戦火が治まらず、いつまでも子供四人にこだわっている事態ではないと、帝国兵が追跡の手を引いた事は、最大の幸運だったと言えよう。





「ここに住んだらいい。なぁ~~~んも聞かねぇから。おっちゃん家に住んで、この村の子供になったらいい。な?そうしろって」

そう言って四人を迎え入れてくれたのは、村長夫婦だった。
病で子供を早くに亡くしたという夫婦にとって、行く当てもないトロワ達は放っておけなかったのだろう。


だが、自分達がここにいては迷惑をかけるかもしれない。

そしてなにより今は、トロワとキャロルが、スージーとチコリの親代わりである。
幼い二人のためにも慎重に決断しなければならなかった。

自分達は敗北者だ。帝国兵が追跡を諦めるだろうか?

もっと遠くへ・・・全ての痕跡を消して、誰も知らない果てまで行った方がいいのではないか?


・・・そこまで思い詰めていた。

・・・追い詰められていた。


だが・・・・・


「キャロル姉ちゃん、トロワ兄ちゃん、ごはん温かくて美味しいよ!お水も綺麗なの!」


久しぶりに見たスージーとチコリの笑顔が・・・・・

ごはんを食べて涙を浮かべて喜ぶ姿が・・・・・



「こ・・・ここに、置いて、ください・・・・・な、なんでもします・・・どうか、どうか・・・」


「お、おい!お前達なにやってんだ!?子供がそんな事すんじゃねぇ!」



トロワとキャロルは床に頭を付けた


涙があふれて止まらなかった


戦争に行ったみんなはこんな気持ちだったのだろうか?


どうか生きていてほしい

笑っていてほしい

お腹を空かせないでほしい

この子達だけはどうか・・・どうか幸せになってほしい


自分達を護ってくれた大人達への抑えきれない感謝
そして共に戦えなかった悲しみが胸にあふれ、二人は嗚咽を漏らしながら頭を下げ続けた
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