異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
737 / 1,370

【736 時の牢獄 ①】

しおりを挟む
「おじいさん、ずいぶん長くお祈りされてますが、大丈夫ですか?」

そのご老人は昼前にふらりと教会の戸を開けた。

ここは山奥の小さな村にある古びた教会だ。
出入りは自由であり、誰でも気兼ねなく入る事ができる。
ただ、山奥の小さな村であるがゆえに、他所から来た人間は一目で分かる。

このおじいさんは、70・・・80歳くらいだろうか?
ほとんど白く染まった髪の中に、少しだけ金色が混じっている。
この歳頃の男性にしては毛量は多く、そして長い髪だった。
その長い髪を青い紐で、頭の後ろで一本に結んでいる。なんだかそれが可愛らしく見える。


「・・・ええ、大丈夫ですよ。ご親切にありがとう」

ゆっくり立ち上がったおじいさんは、年齢の割には足腰がとてもしっかりしていた。
背筋もしっかり伸びていて、老いを感じさせない逞しさがある。
話し方もはっきりしているし、見た目より若いのかもしれない。


「一時間はお祈りされてましたよ。とても信心深いのですね」

「・・・いいえ、私は信心深くはありませんよ。むしろその反対です」

「・・・そうなのですか?こんなに長くお祈りされてたのに?」

口元に指を当て、私は少しだけ首を傾げた。


「・・・矛盾してますが、私は神はいないと思っています。けれど大切な人の安らぎのために神に祈ってます。おかしな話しでしょう?神はいないと思っているのに、神に祈るなんて・・・自分の都合だけなんです・・・・・シスターの前で大変失礼な話しをしました。申し訳ありません」

おじいさんは私に頭を下げると、そのまま真っすぐに出口に向かって歩き出した。


「あ、あの!もしよろしければ、お茶でもいかがですか?こんなに長くお祈りをされて、お疲れでしょう?」

歩き去るおじいさん後ろ姿を見た時、私は思わず声をかけていた。


・・・・・この背中は・・・なに?


「・・・ご親切にありがとう。けれどシスターの貴重なお時間を、私などに使わせてしまっては申し訳ない。お心だけいただきます」

「大丈夫ですよ。今日の仕事はひと段落つきましたし、ここでお会いできたのも神のご縁でしょう。ぜひ、お休みになられてください」


ここは小さな田舎村で、教会に来る人はだいたいいつも同じ顔ぶれだ。
たまに何か思いつめたような顔をした旅人が来たりするけれど、そういう人を見送る時、たいてい背中が寂しそうに見える。

私はまだまだ未熟だし、人の人生について語る資格はない。
背中を見てその人を分かったつもりになるのも、おこがましいとは思う。


けれど、これは・・・・・

・・・・・うまく表現できないけど、こんな背中見たことない
・・・・・いったい、どんな人生を歩めば、こんな・・・こんな悲しみを背負えるの・・・


私はこのままこのおじいさんを帰す事ができず、教会の人間が休憩をとる部屋へと通した。

具体的に何かをしてあげようと思ったわけではない。
一介のシスターにすぎない私には、せいぜい話し相手になる事しかできない。
そしてこのおじいさんは、神を信じていないとシスターの私に面と向かって告げるくらいなので、悩みや懺悔があったとしても、とても話してもらえるとは思えない。

でも、せめてお茶を一杯飲んでほしかった。
それだけでも、ほんの少しでも心が休まればと思ったからだ。




「・・・ハーブティー、ですか・・・」

「はい。おばあちゃ、あ!この教会の司祭が好きで、いつもこのハーブティーを飲んでいるんです。ぜひ一口飲んでみてください。ほっとする味ですよ」

私のおばあちゃん、正確にはひいおばあちゃんは、この教会の司祭として今でも毎日顔を出している。もう90歳にもなるのにとても元気だ。

おばあちゃんにはずっと一緒だった妹がいて、その妹が数年前に亡くなった時は、とても悲しんでいた。
妹と二人でずっと支え合って生きてきたおばあちゃんにとって、妹の死は筆舌に尽くしがたいものだったと思う。

おばあちゃんが子供の時に帝国とカエストゥスの戦争があって、カエストゥス国の人間だったおばあちゃんと妹は、なんとか逃げ延びたらしい。

命からがらこの村に行きついて、それからずっとこの村で暮らしてきた。

この教会を建てたのはおばあちゃんだ。
教会を建てたのは、生まれ故郷のみんなの冥福を祈るためだと言っていた。



「あの、どうかされましたか?」

カップを手にしてお茶を見つめたままのおじいさんに、なにかあったのかなと思い声をかける。

「・・・いえ、とても・・・とても懐かしい香りだったもので・・・いただきます」

「・・・これ、うちの司祭が手作りしているハーブなんです。同じ物はないと思うのですが・・・似たようなお茶を飲まれた事があるのですか?」


・・・・・そうかもしれません


そう呟くと、おじいさんは目を閉じて、静かにゆっくりとお茶を口にした。



このおじいさんはどういう人なのだろう。
今日初めて会ったばかりのおじいさんが、私は不思議と気になって不躾かもしれないけれど、いろいろと尋ねてしまった。

「おじいさん、お若く見えますがおいくつなんですか?」

「・・・今年で、えぇと・・・107、いや108歳だったかな?」

「・・・ぷっ、あはははは!冗談がお上手ですね?もっとずっとお若く見えますよ?70歳くらいですか?」

「・・・では、そのくらいにしておいてください」

なんだかおかしな返答をするなと思ったけれど、歳の事はあまり聞かれたくないのかなと思い、これ以上深く追求せず私は話題を変えた。

「おじいさんはこの辺りに住んでいるのですか?」

「いえ、私はただの旅人です。決まった住まいはありません」

「そうでしたか・・・あの、夜はどうしているのですか?寝泊りできる場所がないと・・・」

「ああ、私は大丈夫なんです」

おじいさんの答え方に違和感を覚えて、私は聞き返した。

「えっと、おじいさんは夜中に外にいても大丈夫なんですか?」

「はい、私は大丈夫なんです」

なにが大丈夫なんだろう?自分から話そうとしない様子を見ると、この話しもあまりしたくないのかもしれない。そもそも自分の事はあまり話したくなさそうだ。
これ以上踏み込むのはやめておこう。そう考えた時、ドアをノックする音が聞こえた。



「はいはい、おじゃましますよ」

入って来たのは私のおばあちゃんだった。
こっちが返事をする前に入って来るのは、いつもの事だ。

体が丈夫でまだまだ一人で歩けるし、頭もハッキリしているからとても気が強い。
年寄り扱いされる事をとても嫌っている。

「あら、お客様かい?ミーナ、お茶はお出ししたの?」

「もぉ、いつも同じ事を言うんだから。ちゃんと出したよ、おばあちゃんのハーブティー」

「そうかいそうかい、それならいいんだよ。あ、こちらの方ね。おや、村では初めて見・・・」

何かを感じ取ったように言葉を止めると、おばあちゃんはおじいさんの前まで行って、いつになく真剣な表情でおじいさんの顔をじっと見つめた。



「・・・・・そ、そんな・・・まさか・・・・・」

震える声が耳に届く。
おばあちゃんはその場に膝を着くと、おじいさんの手を握りしめて涙を流した。


「ウィッカー兄さん・・・生きて・・・生きて、たんだ・・・あたしだよ、スージーだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...