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726 アラタとカチュアの結婚式 ④
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「エリザ、もう大丈夫みたいね?」
教会を出て行くアラタ達を見送りながら、アンリエールは隣に座る娘のエリザベートに小声で話しかけた。
「・・・お母様は鋭いですよね。はい、もう大丈夫です。ご心配なさらないでください」
エリザベートがチラリとアンリエールに目を向けると、アンリエールはクスリと笑ってエリザベートに声をかける。
アラタとカチュアの結婚式に参列した二人は、王族としては控えめなドレス姿だった。
アンリエールはやや暗めのネイビーのドレスで、エリザベートはレースの付いたサックスブルーのドレス。二人とも装飾品はパールのネックレスのみ。髪型もアップにしてまとめているだけである。
着飾ろうと思えばいくらでも着飾れるが、王族が貴族でもない一個人の結婚式に参加するのは非常に目立つため、できるだけ大人しいドレスを選び、装飾品も最低限にした。
そしてなにより、主役より目立ってはいけないという気持ちである。
早朝にお忍びの馬車で出発し、時間まで教会の一室で休んでいたため、無事に国民の目に触れる事もなく出席する事ができたのだった。
それでも万一の不測の事態に備えて、教会の外では双子の護衛、リーザとローザのアコスタ姉妹と、シルバー騎士が数人警護にあたっていた。
「うふふ、そう拗ねないで・・・・・あなたが先にアラタさんと出会っていたら・・・いえ、もう言わないわ」
さっきより強い目で睨まれ、アンリエールは口を閉じた。
偽国王との戦いで、アラタはエリザベートと行動を共にして、体を張って護り続けた。
それ以来エリザベートの胸の内には、淡い想いが生まれていた。
それが命の危機に瀕したという、特殊な状況ゆえに生まれたものなのか?
それは分からない。
けれど王女として、自由な恋愛を考える事も許されずに育ってきたエリザベートにとって、初めて感じた異性への純粋な気持ちだった事は確かだった。
「私は本当に大丈夫です。ここには友人を祝福するためにきたのです。お母様もおかしな事は言わずに、お二人を祝福してください」
「・・・そうね。あなたの言う通りだわ。余計な事を言ってしまったわね」
アンリエールも顔を上げてアラタとカチュアの後ろ姿を見送った。
できる事なら、好きな男性と自由に恋愛をさせて上げたかった。
娘の恋心が儚く散った事は親として残念に思う。
けれどこれからも出会いはある。
立場上どうしても政治的な面が絡んで来る事はあるだろうが、可能な限りの希望はきいてあげよう。
少し寂し気にアラタとカチュアを見つめる娘の背中を、アンリエールはそっと撫でた。
「フェンテス、結婚ってのも良いもんかもな」
治安部隊隊長、ヴァンエストラーダは、沢山の祝福を受け、幸せそうに笑い合うアラタとカチュアを見て、気持ちの入った言葉を口にした。
「隊長もいい歳ですからね。誰か紹介しましょうか?」
ヴァンの隣に座る治安部隊のフェンテスは、表情を変えずに淡々と言葉を返した。
しかしその言葉は、ヴァンにとって大きな衝撃を与えていた。
「え・・・?フェンテス、お前にそんな当てがあんの?」
寡黙で愛想が悪く、およそ女性とは無縁のようなフェンテスの口から、誰か紹介しようか?
などという言葉が出て、ヴァンは目を見開いてフェンテスを凝視した。
ヴァンがあまりに大きく驚くので、フェンテスは少し得意になったのか僅かに口角を上げた。
「ええ、当てくらいありますよ。隊長、考えてみてください。治安部隊の事務員は女性が多いじゃないですか?厨房の料理人も女性がほとんどです。それに備品の取引先だって、窓口や配送は女性が多いんです。そりゃ知り合う機会なんて・・・・・いくらでもありますよね?」
「・・・なんかすげぇイラっとくんな」
完全に上手からの物言いに、ヴァンはこめかみがヒクヒクとしたが、ここでフェンテスの機嫌を損ねるのはまずいと判断し、それ以上の言葉はぐっと堪えた。
「まぁ、おしゃべりな男より、口数が少ないクールな男がモテるって事じゃないんですかね?おっと、話しがそれましたね。そういうわけで当てはあるんですよ。隊長がどうしてもと言うのでしたらセッティングをしてもいいですが・・・・・どうしますか?」
「・・・口数少ないって、お前今すげぇ饒舌じゃねぇかよ」
ヴァンのツッコミも右から左のフェンテスは、相変わらず口角を上げたまま余裕の笑みを浮かべている。長身のフェンテスは座っていてもヴァンを見下ろす形になるため、それが余計にヴァンをイラつかせた。
「・・・・・できれば治安部隊の外の人がいい」
イラつかせたが、ヴァンは利を取った。
今年33歳になったヴァンの、色々と考えた末の結論である。
「・・・なるほど、何かあった時に同じ仕事場だと気まずいと?隊長は守りに入るタイプのようですね。それでは気の強い女性より、おおらかで面倒見の良い人が合いそうですね・・・はい、それではこのモルグ・フェンテス、隊長のご依頼を確かに承りました」
慇懃無礼。
胸に手を当てて腰を折って頭を下げるフェンテスに、ヴァンはものすごくイラっとしたが、やはりここでフェンテスの機嫌を損ねるわけにはいかないから、ぐっと耐えて口を閉じた。
教会を出て行くアラタ達を見送りながら、アンリエールは隣に座る娘のエリザベートに小声で話しかけた。
「・・・お母様は鋭いですよね。はい、もう大丈夫です。ご心配なさらないでください」
エリザベートがチラリとアンリエールに目を向けると、アンリエールはクスリと笑ってエリザベートに声をかける。
アラタとカチュアの結婚式に参列した二人は、王族としては控えめなドレス姿だった。
アンリエールはやや暗めのネイビーのドレスで、エリザベートはレースの付いたサックスブルーのドレス。二人とも装飾品はパールのネックレスのみ。髪型もアップにしてまとめているだけである。
着飾ろうと思えばいくらでも着飾れるが、王族が貴族でもない一個人の結婚式に参加するのは非常に目立つため、できるだけ大人しいドレスを選び、装飾品も最低限にした。
そしてなにより、主役より目立ってはいけないという気持ちである。
早朝にお忍びの馬車で出発し、時間まで教会の一室で休んでいたため、無事に国民の目に触れる事もなく出席する事ができたのだった。
それでも万一の不測の事態に備えて、教会の外では双子の護衛、リーザとローザのアコスタ姉妹と、シルバー騎士が数人警護にあたっていた。
「うふふ、そう拗ねないで・・・・・あなたが先にアラタさんと出会っていたら・・・いえ、もう言わないわ」
さっきより強い目で睨まれ、アンリエールは口を閉じた。
偽国王との戦いで、アラタはエリザベートと行動を共にして、体を張って護り続けた。
それ以来エリザベートの胸の内には、淡い想いが生まれていた。
それが命の危機に瀕したという、特殊な状況ゆえに生まれたものなのか?
それは分からない。
けれど王女として、自由な恋愛を考える事も許されずに育ってきたエリザベートにとって、初めて感じた異性への純粋な気持ちだった事は確かだった。
「私は本当に大丈夫です。ここには友人を祝福するためにきたのです。お母様もおかしな事は言わずに、お二人を祝福してください」
「・・・そうね。あなたの言う通りだわ。余計な事を言ってしまったわね」
アンリエールも顔を上げてアラタとカチュアの後ろ姿を見送った。
できる事なら、好きな男性と自由に恋愛をさせて上げたかった。
娘の恋心が儚く散った事は親として残念に思う。
けれどこれからも出会いはある。
立場上どうしても政治的な面が絡んで来る事はあるだろうが、可能な限りの希望はきいてあげよう。
少し寂し気にアラタとカチュアを見つめる娘の背中を、アンリエールはそっと撫でた。
「フェンテス、結婚ってのも良いもんかもな」
治安部隊隊長、ヴァンエストラーダは、沢山の祝福を受け、幸せそうに笑い合うアラタとカチュアを見て、気持ちの入った言葉を口にした。
「隊長もいい歳ですからね。誰か紹介しましょうか?」
ヴァンの隣に座る治安部隊のフェンテスは、表情を変えずに淡々と言葉を返した。
しかしその言葉は、ヴァンにとって大きな衝撃を与えていた。
「え・・・?フェンテス、お前にそんな当てがあんの?」
寡黙で愛想が悪く、およそ女性とは無縁のようなフェンテスの口から、誰か紹介しようか?
などという言葉が出て、ヴァンは目を見開いてフェンテスを凝視した。
ヴァンがあまりに大きく驚くので、フェンテスは少し得意になったのか僅かに口角を上げた。
「ええ、当てくらいありますよ。隊長、考えてみてください。治安部隊の事務員は女性が多いじゃないですか?厨房の料理人も女性がほとんどです。それに備品の取引先だって、窓口や配送は女性が多いんです。そりゃ知り合う機会なんて・・・・・いくらでもありますよね?」
「・・・なんかすげぇイラっとくんな」
完全に上手からの物言いに、ヴァンはこめかみがヒクヒクとしたが、ここでフェンテスの機嫌を損ねるのはまずいと判断し、それ以上の言葉はぐっと堪えた。
「まぁ、おしゃべりな男より、口数が少ないクールな男がモテるって事じゃないんですかね?おっと、話しがそれましたね。そういうわけで当てはあるんですよ。隊長がどうしてもと言うのでしたらセッティングをしてもいいですが・・・・・どうしますか?」
「・・・口数少ないって、お前今すげぇ饒舌じゃねぇかよ」
ヴァンのツッコミも右から左のフェンテスは、相変わらず口角を上げたまま余裕の笑みを浮かべている。長身のフェンテスは座っていてもヴァンを見下ろす形になるため、それが余計にヴァンをイラつかせた。
「・・・・・できれば治安部隊の外の人がいい」
イラつかせたが、ヴァンは利を取った。
今年33歳になったヴァンの、色々と考えた末の結論である。
「・・・なるほど、何かあった時に同じ仕事場だと気まずいと?隊長は守りに入るタイプのようですね。それでは気の強い女性より、おおらかで面倒見の良い人が合いそうですね・・・はい、それではこのモルグ・フェンテス、隊長のご依頼を確かに承りました」
慇懃無礼。
胸に手を当てて腰を折って頭を下げるフェンテスに、ヴァンはものすごくイラっとしたが、やはりここでフェンテスの機嫌を損ねるわけにはいかないから、ぐっと耐えて口を閉じた。
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