726 / 1,370
725 アラタとカチュアの結婚式 ③
しおりを挟む
「はい。誓います」
教会で行われた結婚式。神父の前でアラタとカチュアは愛を誓い合った。
誓いのキスを促され二人は向かい合った。
そっと手を伸ばして、アラタはゆっくりとカチュアのヴェールを上げる。
「・・・アラタ君」
自分を見つめる薄茶色の瞳、少し赤く染まった頬、ピンク色の唇から名前を呼ばれ、ふいに沢山の思い出が思い起こされた。
思えば、ずいぶん遠いところまで来た。
この世界に来てまだ一年も経っていない。けれどもうずいぶん長い時間を過ごしたように感じる。
日本にいる父と母、そして弟は今何をしているだろう。
ほんの一年前は、まさか自分が結婚をするなんて夢にも思わなかった。
そもそも自分は誰かと人生を歩んで行く事なんてできない。そうした協調性が無い人間だと思っていた。
けれどこの世界に来て、レイジェスで働いて、沢山の友人ができた。
そしてこれからの人生を一緒に生きていきたいと思える、大切の人までできた。
日本に残してきた家族の事は今も時折思い出す。
確執もあった。家族と顔を合わせる事が苦痛な時もあった。けれど今はとても懐かしい。
叶うならば一目でいいから会いたい。
そしてカチュアを、最愛の妻を紹介したい。
「・・・アラタ君、また考え事?」
「あ、えっと・・・ごめん」
カチュアがクスクス笑いながら、ジロリとアラタを見る。
「ヴェールを上げたらぼーっとするんだもん。アラタ君、こんな時まで何を考えてたの?」
「・・・うちの両親と弟にも、カチュアを紹介したかったなって」
笑って話すアラタだが、その瞳の奥が少しだけ寂しそうに見えて、カチュアはアラタの手を握った。
「アラタ君・・・これからは私がずっと一緒にいるよ。アラタ君が寂しくならないように、子供がいっぱいの楽しい家庭を作りたい。一緒に幸せになろう!」
「カチュア・・・うん、ありがとう。楽しい家庭を作ろう。俺はカチュアがいてくれて幸せだよ。カチュア・・・愛してる」
そして見つめあう二人は口づけを交わした。
誓いのキスを交わすと、盛大な拍手鳴り響き、おめでとうの言葉が飛び交った。
シャクール・バルデスも両手をたたき合わせながら、目を細めて優し気な声を出した。
「久しぶりに会ったが、アラタも良い顔つきになったな。以前も悪くはなかったが、どこか弱さが見えた。妻をめとるとこうも変わるものか」
「そうですね。とてもたくましくなられたと感じます。カチュアさんがそれだけ大切という事ですね。シャクール様、私も楽しみに待ってますね」
「フッ、もちろんだ。期待しておけ。バルデス家の当主の手の平返しをみただろう?サリーが女王陛下の養子になったと聞いて、目の色を変えて歓迎したのは笑えたな。サリーよ、私達もあの二人のように幸せを掴もう。これからも共にいてくれ」
サリーの手に自分の手を重ねて笑いかけると、サリーもその手に自分の手を重ねた。
「はい。サリーはこれからもずっと、シャクール様のお傍におります」
アンリエールの養子になり、バルデス家の当主に認められて以降、サリーはバルデスをシャクールと呼ぶようになった。
身分の違いを気にして、どうしてもその一歩が踏み込めないでいたが、周囲に認めらてようやく最後の一歩を踏み込む事ができたのである。
しばらくは恋人としての時間を楽しむため、結婚を先に延ばしているが、すでにお互いを十分に知っている二人は、まるで夫婦のようなたたずまいだった。
「いいなー・・・私もウエディングドレス着たいなぁ」
カチュアの花嫁姿を羨ましそうに見つめるミレーユは、自然と憧れが言葉に出ていた。
今日はジェロムと一緒に招待され、新調したドレスで参加した。
ライムグリーンのドレスと、それに合わせた白いボレロがとても爽やかな印象だった。
肩より下まで伸ばしたロングブラウンの髪は、あえてゆるくまとめて、抜け感を出したアップにまとめている。
「・・・あれ、着たいのか?」
ブラックスーツの襟を意味も無く正しながら、ミレーユの様子を伺うようにジェロムが問いかける。
「そりゃあ私も女だもん。一度は来てみたいよ。もらってくれる人がいればだけどね、あはは」
冗談めかして笑って見せると、ジェロムはわざとらしく咳払いをして、目を逸らしながらモゴモゴと話しだした。
「あ~、えぇっと、そ、そのよぉ・・・お、お前さえよけりゃ、その、お、俺と・・・一回、見に行ってみない?」
「・・・え?ジェロム君、どうしたの?何を見に行くの?」
きょとんとした表情でジェロムに顔を向けると、ミレーユは小首を傾げた。
「な、何をって、お前・・・ド、ドレ・・・」
「ウエディングドレス、ジェロム君が私に着せてくれるの?」
「なっ、お前!分かってんじゃねぇか!」
ニコニコした笑顔のミレーユに、ジェロムはからかわれたと知って顔を赤くする。
眉を寄せて睨み付けると、ミレーユはジェロムの膝にそっと手を置いた。
「嬉しいよ、ジェロム君。楽しみにしてるね」
「なっ!・・・あ、ああ、た、楽しみにしてろよな」
「うん!」
今着ている新調したばかりのドレスも、今朝ジェロムに褒められて嬉しかった。
けれど、自分にウエディングドレスを着せてくれると言うジェロムの気持ちは、それ以上に嬉しかった。
教会で行われた結婚式。神父の前でアラタとカチュアは愛を誓い合った。
誓いのキスを促され二人は向かい合った。
そっと手を伸ばして、アラタはゆっくりとカチュアのヴェールを上げる。
「・・・アラタ君」
自分を見つめる薄茶色の瞳、少し赤く染まった頬、ピンク色の唇から名前を呼ばれ、ふいに沢山の思い出が思い起こされた。
思えば、ずいぶん遠いところまで来た。
この世界に来てまだ一年も経っていない。けれどもうずいぶん長い時間を過ごしたように感じる。
日本にいる父と母、そして弟は今何をしているだろう。
ほんの一年前は、まさか自分が結婚をするなんて夢にも思わなかった。
そもそも自分は誰かと人生を歩んで行く事なんてできない。そうした協調性が無い人間だと思っていた。
けれどこの世界に来て、レイジェスで働いて、沢山の友人ができた。
そしてこれからの人生を一緒に生きていきたいと思える、大切の人までできた。
日本に残してきた家族の事は今も時折思い出す。
確執もあった。家族と顔を合わせる事が苦痛な時もあった。けれど今はとても懐かしい。
叶うならば一目でいいから会いたい。
そしてカチュアを、最愛の妻を紹介したい。
「・・・アラタ君、また考え事?」
「あ、えっと・・・ごめん」
カチュアがクスクス笑いながら、ジロリとアラタを見る。
「ヴェールを上げたらぼーっとするんだもん。アラタ君、こんな時まで何を考えてたの?」
「・・・うちの両親と弟にも、カチュアを紹介したかったなって」
笑って話すアラタだが、その瞳の奥が少しだけ寂しそうに見えて、カチュアはアラタの手を握った。
「アラタ君・・・これからは私がずっと一緒にいるよ。アラタ君が寂しくならないように、子供がいっぱいの楽しい家庭を作りたい。一緒に幸せになろう!」
「カチュア・・・うん、ありがとう。楽しい家庭を作ろう。俺はカチュアがいてくれて幸せだよ。カチュア・・・愛してる」
そして見つめあう二人は口づけを交わした。
誓いのキスを交わすと、盛大な拍手鳴り響き、おめでとうの言葉が飛び交った。
シャクール・バルデスも両手をたたき合わせながら、目を細めて優し気な声を出した。
「久しぶりに会ったが、アラタも良い顔つきになったな。以前も悪くはなかったが、どこか弱さが見えた。妻をめとるとこうも変わるものか」
「そうですね。とてもたくましくなられたと感じます。カチュアさんがそれだけ大切という事ですね。シャクール様、私も楽しみに待ってますね」
「フッ、もちろんだ。期待しておけ。バルデス家の当主の手の平返しをみただろう?サリーが女王陛下の養子になったと聞いて、目の色を変えて歓迎したのは笑えたな。サリーよ、私達もあの二人のように幸せを掴もう。これからも共にいてくれ」
サリーの手に自分の手を重ねて笑いかけると、サリーもその手に自分の手を重ねた。
「はい。サリーはこれからもずっと、シャクール様のお傍におります」
アンリエールの養子になり、バルデス家の当主に認められて以降、サリーはバルデスをシャクールと呼ぶようになった。
身分の違いを気にして、どうしてもその一歩が踏み込めないでいたが、周囲に認めらてようやく最後の一歩を踏み込む事ができたのである。
しばらくは恋人としての時間を楽しむため、結婚を先に延ばしているが、すでにお互いを十分に知っている二人は、まるで夫婦のようなたたずまいだった。
「いいなー・・・私もウエディングドレス着たいなぁ」
カチュアの花嫁姿を羨ましそうに見つめるミレーユは、自然と憧れが言葉に出ていた。
今日はジェロムと一緒に招待され、新調したドレスで参加した。
ライムグリーンのドレスと、それに合わせた白いボレロがとても爽やかな印象だった。
肩より下まで伸ばしたロングブラウンの髪は、あえてゆるくまとめて、抜け感を出したアップにまとめている。
「・・・あれ、着たいのか?」
ブラックスーツの襟を意味も無く正しながら、ミレーユの様子を伺うようにジェロムが問いかける。
「そりゃあ私も女だもん。一度は来てみたいよ。もらってくれる人がいればだけどね、あはは」
冗談めかして笑って見せると、ジェロムはわざとらしく咳払いをして、目を逸らしながらモゴモゴと話しだした。
「あ~、えぇっと、そ、そのよぉ・・・お、お前さえよけりゃ、その、お、俺と・・・一回、見に行ってみない?」
「・・・え?ジェロム君、どうしたの?何を見に行くの?」
きょとんとした表情でジェロムに顔を向けると、ミレーユは小首を傾げた。
「な、何をって、お前・・・ド、ドレ・・・」
「ウエディングドレス、ジェロム君が私に着せてくれるの?」
「なっ、お前!分かってんじゃねぇか!」
ニコニコした笑顔のミレーユに、ジェロムはからかわれたと知って顔を赤くする。
眉を寄せて睨み付けると、ミレーユはジェロムの膝にそっと手を置いた。
「嬉しいよ、ジェロム君。楽しみにしてるね」
「なっ!・・・あ、ああ、た、楽しみにしてろよな」
「うん!」
今着ている新調したばかりのドレスも、今朝ジェロムに褒められて嬉しかった。
けれど、自分にウエディングドレスを着せてくれると言うジェロムの気持ちは、それ以上に嬉しかった。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる