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721 大掃除
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「アラタ、ちょっといいか?」
正面出入口の窓を拭いているアラタに、レイチェルが声をかけた。
12月30日はレイジェスの大掃除だ。前日の29日で年内の営業は終わり、30日は午前中だけ出勤して店内を掃除するのだ。
昨日はジェロムの店でケイトの誕生日&婚約パーテイーを開き、今朝は全員で店に出勤する形になっていた。
「あ、レイチェル、どうしたの?」
窓を拭く手を止めて、アラタがレイチェルに体を向ける。
レイチェルはモップの柄を杖代わりにして、体重を預ける様に両手を乗せている。
「モロニー・スタイルから連絡があってな、ウエディングドレスを作るための採寸だが、1月の上旬で時間を作ってくれるそうだ。カチュアの都合も聞いて、二人で行ってきなよ」
「そっか、ありがとう。じゃあ、あとでカチュアと話してみるよ。あ、クリスさん達はどうするのかな?」
ロンズデールで海の糸という上質な繊維を手に入れたのだが、それはミゼルからもらったポイント帳と引き換えにした物だったので、アラタとレイチェルはミゼルにも海の糸を分ける事に決めたのだ。
そして海の糸を半分ミゼルに渡して、ウエディングドレスにしてはどうかと提案したところ、ミゼルも乗り気になったのだ。
「ああ、それがな、ミゼルとクリスさんの結婚は、もう少し先にするそうだ。アラタとカチュアが四月だろ?ジーンとケイトが夏以降、おそらく9~10月で考えてるはずだ。一年で二組が結婚するわけだから、忙しくなると思ったんだろうな。冬でもいいと言っていたから、早くても来年の12月、もしくは更に先になるかもしれないぞ」
「え、ミゼルさんはそれでいいの?だって、クリスさんの宿屋で飲み会やった時、ミゼルさんけっこうカッコ良くプロポーズしてたじゃん?」
プロポーズをしたのだから、あとはすぐにでも結婚式を挙げたいのではないか?
そう思っていたアラタには、一年以上も先延ばしにして我慢できるのか?と首を傾げた。
「順番を譲っているわけだからな、私も大丈夫なのか聞いたんだ。だが話しを聞いてみると、ミゼルは我慢しているわけじゃないんだ。あいつな、家を買う金を貯める時間も欲しいから、丁度良いって言ったんだよ。ほら、思い出さないか?クリスさんにプロポーズしてた時、家を買うって言ってたろ?」
レイチェルに指を向けられ、アラタは記憶を辿って思いだした。
ミゼルは酒もギャンブルも止めて、そして家を買うと確かに宣言していたのだ。
「あ!言ってた!そうだよ、ミゼルさん家買うって言ってたな。ちゃんと金貯めて買うって」
左手の平を右の拳でポンと打つ。
あの時のミゼルは、確かにお金を貯めて家を買うとクリスに約束していたのだ。
「そうだ。だから丁度いいって言ってたぞ。この際一年くらい頑張って倹約して、家の購入代を貯めて見せるってな。だから、アラタが気にする必要はないんだ」
レイチェルがそう言って笑うと、アラタも得心がいったように頷いた。
それから二時間程掃除をして大掃除が終わると、事務所でジャレットが全員の前に立って、締めの挨拶を始めた。
バリオスとレイチェルもいるが、現在店の責任者を務めているのがジャレットという事である。
「あー、それじゃあ大掃除も終わったな。みんな今年も一年おつかれっした。今年は店が襲撃されたり、治安部隊と戦ったり、国王が偽者だったり、ロンズデールで戦ってきたり・・・まぁロンズデールに行ったのはアラやんとレイチーだけだけど、とにかく目まぐるしかったな。でもよ、一年の終わりにこうしてみんな揃って大掃除できて、俺はすげぇ嬉しく思ってんだぜ。今年も一年あざっした!また来年もよろしくな!」
ジャレットの挨拶に、みんなが手を叩いて笑顔を向けると、ジャレットはバリオスに顔を向けた。
「んじゃ、店長からも一言どうぞ」
そう言って手を差し向けると、バリオスはここで振られるとは思っていなかったらしく、一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに笑って前に出た。
「・・・みんな、今年は俺があまり店にいなかったから、沢山苦労をかけたな。そしてさっきジャレットも話していたが、いくつもの戦いをよく乗り越えてくれた。お前達を誇りに思うよ」
一人一人の顔を見て、バリオスがゆっくりと言葉を続ける。
「今は帝国にも動きが見られない。ロンズデールでの敗戦が大きかったんだろう。しかし、このまま大人しく終わるはずもない。クインズベリーとロンズデールの動向を見極め、いずれ仕掛けて来る。俺達はそれに備えなければならない。けれど今はゆっくり休んでくれ。おめでたい話しも色々聞いているしな」
アラタとカチュア、ジーンとケイト、そしてミゼルに目を向けて、バリオスは口元に笑みを浮かべた。それが意味するところを察して、アラタ達も照れたように頭をポリポリと掻く。
「それじゃあ今年もお疲れ様。また年明けにな」
正面出入口の窓を拭いているアラタに、レイチェルが声をかけた。
12月30日はレイジェスの大掃除だ。前日の29日で年内の営業は終わり、30日は午前中だけ出勤して店内を掃除するのだ。
昨日はジェロムの店でケイトの誕生日&婚約パーテイーを開き、今朝は全員で店に出勤する形になっていた。
「あ、レイチェル、どうしたの?」
窓を拭く手を止めて、アラタがレイチェルに体を向ける。
レイチェルはモップの柄を杖代わりにして、体重を預ける様に両手を乗せている。
「モロニー・スタイルから連絡があってな、ウエディングドレスを作るための採寸だが、1月の上旬で時間を作ってくれるそうだ。カチュアの都合も聞いて、二人で行ってきなよ」
「そっか、ありがとう。じゃあ、あとでカチュアと話してみるよ。あ、クリスさん達はどうするのかな?」
ロンズデールで海の糸という上質な繊維を手に入れたのだが、それはミゼルからもらったポイント帳と引き換えにした物だったので、アラタとレイチェルはミゼルにも海の糸を分ける事に決めたのだ。
そして海の糸を半分ミゼルに渡して、ウエディングドレスにしてはどうかと提案したところ、ミゼルも乗り気になったのだ。
「ああ、それがな、ミゼルとクリスさんの結婚は、もう少し先にするそうだ。アラタとカチュアが四月だろ?ジーンとケイトが夏以降、おそらく9~10月で考えてるはずだ。一年で二組が結婚するわけだから、忙しくなると思ったんだろうな。冬でもいいと言っていたから、早くても来年の12月、もしくは更に先になるかもしれないぞ」
「え、ミゼルさんはそれでいいの?だって、クリスさんの宿屋で飲み会やった時、ミゼルさんけっこうカッコ良くプロポーズしてたじゃん?」
プロポーズをしたのだから、あとはすぐにでも結婚式を挙げたいのではないか?
そう思っていたアラタには、一年以上も先延ばしにして我慢できるのか?と首を傾げた。
「順番を譲っているわけだからな、私も大丈夫なのか聞いたんだ。だが話しを聞いてみると、ミゼルは我慢しているわけじゃないんだ。あいつな、家を買う金を貯める時間も欲しいから、丁度良いって言ったんだよ。ほら、思い出さないか?クリスさんにプロポーズしてた時、家を買うって言ってたろ?」
レイチェルに指を向けられ、アラタは記憶を辿って思いだした。
ミゼルは酒もギャンブルも止めて、そして家を買うと確かに宣言していたのだ。
「あ!言ってた!そうだよ、ミゼルさん家買うって言ってたな。ちゃんと金貯めて買うって」
左手の平を右の拳でポンと打つ。
あの時のミゼルは、確かにお金を貯めて家を買うとクリスに約束していたのだ。
「そうだ。だから丁度いいって言ってたぞ。この際一年くらい頑張って倹約して、家の購入代を貯めて見せるってな。だから、アラタが気にする必要はないんだ」
レイチェルがそう言って笑うと、アラタも得心がいったように頷いた。
それから二時間程掃除をして大掃除が終わると、事務所でジャレットが全員の前に立って、締めの挨拶を始めた。
バリオスとレイチェルもいるが、現在店の責任者を務めているのがジャレットという事である。
「あー、それじゃあ大掃除も終わったな。みんな今年も一年おつかれっした。今年は店が襲撃されたり、治安部隊と戦ったり、国王が偽者だったり、ロンズデールで戦ってきたり・・・まぁロンズデールに行ったのはアラやんとレイチーだけだけど、とにかく目まぐるしかったな。でもよ、一年の終わりにこうしてみんな揃って大掃除できて、俺はすげぇ嬉しく思ってんだぜ。今年も一年あざっした!また来年もよろしくな!」
ジャレットの挨拶に、みんなが手を叩いて笑顔を向けると、ジャレットはバリオスに顔を向けた。
「んじゃ、店長からも一言どうぞ」
そう言って手を差し向けると、バリオスはここで振られるとは思っていなかったらしく、一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに笑って前に出た。
「・・・みんな、今年は俺があまり店にいなかったから、沢山苦労をかけたな。そしてさっきジャレットも話していたが、いくつもの戦いをよく乗り越えてくれた。お前達を誇りに思うよ」
一人一人の顔を見て、バリオスがゆっくりと言葉を続ける。
「今は帝国にも動きが見られない。ロンズデールでの敗戦が大きかったんだろう。しかし、このまま大人しく終わるはずもない。クインズベリーとロンズデールの動向を見極め、いずれ仕掛けて来る。俺達はそれに備えなければならない。けれど今はゆっくり休んでくれ。おめでたい話しも色々聞いているしな」
アラタとカチュア、ジーンとケイト、そしてミゼルに目を向けて、バリオスは口元に笑みを浮かべた。それが意味するところを察して、アラタ達も照れたように頭をポリポリと掻く。
「それじゃあ今年もお疲れ様。また年明けにな」
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