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町の大通りを抜けて2~3分程歩くと、石畳みの道も砂利に代わって来る。
そのまま砂利道を進むと、少し坂の開けた場所に出ると、目的のパスタ屋が見える。

「あ、確かあの三角屋根の建物だったよな?」

少し先に、三角屋根の赤レンガの建物を見て、アラタが指を差した。

「うん、あそこがジェロムさんのお店だよ」

アラタの質問にカチュアが顔を向けて返事をした。

ジェロムの店は二階建てで、いくつかある窓から店内に何組かの客が入っている事が見れた。
街外れで落ち着いた雰囲気の店なので、客の年齢層は少し高いようだ。
結婚して子供にも手がかからなくなった夫婦や、裕福な身なりの婦人達がランチを楽しんでいる。

「良かった、繁盛してるみたいだな」

「うん、あれからしばらく来てなかったもんね。ジェロムさん、頑張ってるんだね」

アラタとカチュアは顔を見合わせて、ジェロムのパスタ屋が順調に営業を続けている事を喜んだ。
そして、営業中、と書かれた札が下げられている木製のドアを開ける。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」


通りの良い声で出迎えてくれたのは、白いシャツに明る茶色のエプロン姿の、清潔感のある女性だった。化粧は最低限の薄化粧で、飾り気もなく素朴な顔立ちだが、目鼻立ちは整っており、おしとやかな印象を受ける。肩より長い茶色の髪は、首の後ろでバレッタで留めている。
前回来た時はジェロムが一人でホールも厨房も行っていたため、初めて見る顔だった。

「あ、すみません。今日は食事ではなくて、予約をしに来たんです。29日の夜なんですが・・・」

カチュアが前に出て話しをすると、女性店員はレジカウンターからノートを取り出して、空きの確認をする。

「29日ですね・・・はい、何名様でしょうか?」

「えっと、12人です」

「12人ですか・・・確認してまいりますね。お待ちください」


女性店員は一度店内を見回した後、会釈をして厨房へと入って行った。
ジェロムのパスタ屋は12人くらいは入れるが、他にも予約客がいるのかもしれない。

「前に来た時はいなかった人だよね?」

「そうだね。前はジェロムが一人で全部やってたし・・・でも、見たところお客さんけっこう入ってるし、あれから忙しくなって雇ったんじゃないかな?」

ここでの食事を心から楽しんでいるような人達を見て、ジェロムがあれから店をどう営業していたのか感じ取れた。


「いらっしゃいませ、えっと12人でご予約・・・って、アラタにカチュア?」

厨房から出て来たのは、白いシャツに明るいブラウンのエプロン、エプロンと同じ色のキャップを被った長身の男性が現れた。

「あ、ジェロム。久しぶりだな」

数か月ぶりに見たジェロムは、以前よりずっと健康的に見えた。

ジェロムは二人の顔を見ると、キャップを外して人なつっこそうな笑顔を見せた。

「お久しぶりですジェロムさん、なんだか明るくなりましたね?」

パーマをかけたようにうねった明るい茶色の髪は、前髪だけやけに長く右から左にかき分けられていて、スッキリした襟足が特徴的だった。
そして少し鋭い目をしているが、そこには親愛の情を浮かべていた。

「ん?そう、か?いや、俺は変わったつもりはないが・・・」

「あ、ジェロム君の知り合いだったの?」

アラタ達と親し気に話すジェロムに、隣に立つ女性店員が少し好奇心を覗かせた。

「ああ、前に店に来てくれた事があってそれで・・・まぁちょっとな」

言い難そうに、ジェロムが少し眉をよせる。
どうやら、この女性店員には以前ジェロムがアラタ達を罠にはめた事を知らないようだ。
そして、この女性店員が雇われただけの関係であるならば、口調や態度がどうにも気安く感じられる。

「ああ、俺達は前にジェロムの店で食事をして、あんまり美味いから色々話して仲良くなったんです」

「そうなんです!だから、今回も友達の誕生日パーティーの会場を、ジェロムさんのお店でって思ったんです!」

アラタとカチュアが口々にジェロムの料理を褒めると、女性店員はなにやら誇らしげな表情でジェロムを見つめた。

「ほらね!ジェロム君の料理はやっぱりすごいんだよ!私の言った通りでしょ?もっと自信持ちなよ!ね?」

「そ、そうか?いや、色々あったからちょっとな・・・まぁ、ミレーユの言う通りかもな」

ミレーユと呼ばれた女性店員は、そうでしょ!と大きな笑顔を見せた。
まるで自分の事のように喜ぶミレーユに、ジェロムは頭をポリポリとかいて、照れたように少しだけ笑った。

「あの、失礼かもしれませんが、お二人はどういう・・・?」

親しい事は見ていて分かったが、恋人とは違う。そんな雰囲気の二人を見て、カチュアが少し遠慮がちにたずねた。

「あ、申し遅れました。私はミレーユ・ハーパーといいます。ジェロム君の幼馴染です」

ミレーユは名乗っていない事に気が付き、口元に手を当ててペコリとお辞儀をした。

「あ、そうだっだんですね。私はカチュア・バレンタインです」

「俺はサカキ・アラタです。そっか、幼馴染だったんですね。忙しそうだし、手伝ってもらってるんだ?」

アラタがジェロムに話しを向ける。

「ん、あぁ、まぁな。あれから、俺も料理に集中したんだ。そんで、口コミで少しづつお客さんも増えてきてさ、親父はまだ体調が完全じゃないから店にはあまり出れないし、誰か雇うかって話しになって・・・」

「それで私に相談したんだよね、ジェロム君。私も丁度仕事を辞めた時だったので、タイミングが良かったんです。この仕事は楽しいし、口は悪いけどジェロム君は気にかけてくれるので、楽しく仕事ができてます」

ジェロムの言葉を引き取るように、ミレーユが話しを続ける。
楽しそうに笑うその表情を見ると、ミレーユが心からこの仕事を楽しんでいる事が感じ取れる。


「あー、まぁそのくらいでな。ところで29日だったな?大丈夫だ。16時半からなら空いてるが、それでいいか?貸し切りにしておくよ」

照れ隠しなのか、ジェロムは少し強引に話しを変えた。
アラタとカチュアは、ジェロムの微妙な雰囲気を察して顔を見合わせると、少し笑って頷いた。

「うん、それで大丈夫だ」

「よろしくお願いしますね。ジェロムさん」
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