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715 家に帰って来た実感

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その日の営業終了後、ケイトがジーンからプロポーズを受けた事を発表すると、みんなが手を叩いてお祝いの言葉をかけた。
今まではジーンとケイトの事情を知っているだけに、みんな静かに見守っていたが、それが晴れて実を結んだ事に喜びは大きかった。
パスタ屋の事も話すと、29日は閉店後に全員でパスタ屋へ行こうという話しになった。



陽が沈みかけた薄暗い樹々の中、足首まで沈む積雪の中を歩き、アラタとカチュアは手を繋いで自宅へと帰っていた。
しとしとと降る雪を見て、アラタは夜の間にまた積もりそうだと思う。

アラタが日本にいた時に住んでいた地域は、雪とはあまり縁が無かった。5センチでも積もれば交通に影響が出る程である。
ところがこの世界では雪が当たり前に振る場所に住む事になった。
それがなんだかおもしろくて、寒空の下を歩きながら、アラタの口元が少しだけ緩んだ。

家に着きアラタが玄関を開けようとすると、カチュアがパッと玄関ノブに手をかけた。

「アラタ君、ちょっと待ってて!今日は私が先に入るから」

「え?あ、うん」

意図が読めず、アラタがあいまいに頷いて体を引くと、カチュアは、ごめんね、と口にして家に入った。

「アラタ君、いいよ」

玄関内に入ってアラタと向き合う形で振り返る。

「あ、うん、ただいま」

いったい何がしたいのだろう?と気になるが、カチュアから許可が出たので、アラタもとりあえず玄関の中に足を入れる。

「アラタ君、おかえりなさい!」

ただいま、とアラタが口にすると、カチュアが笑顔で抱き着いて来た。

「うわっ、カ、カチュア!?」

「アラタ君が家に帰って来たら、おかえりなさいって言いたかったの。ほら、お店と家じゃ違うでしょ?」

「え、あ、そう、かな?」

「そうなの!だってロンズデールから家に帰ってきたのは初めてでしょ?」

アラタの背中に両手を回しながら、カチュアは顔を上げて微笑んだ。
薄茶色の瞳は愛情と喜びに満ち、アラタをじっと見つめている。

「あはは、うん・・・確かにそうだね。なんだかほっとするよ」

「うん!やっぱり家が一番だよね。アラタ君、おかえりなさい」

「うん、カチュア、ただいま」


アラタもカチュアを見つめた。
胸に感じる愛しい人の温もりに、自分がやっと家に帰って来たと実感を持つ。

抱き合うお互いの腕に力が入る。
二人はそのまましばらく抱きしめ合った。





翌日の正午過ぎ、ジャレットが事務所で仕事をしていると、外と繋がる従業員用の出入口のノブが回った。今日はユーリとエルが一番に休憩に入っている。二人ともキッチン・モロニーに昼食に行ったが、まだ外に出て30分も経っていない。食事をして帰って来るには早すぎる。

では誰だ?ジャレットが出入口に目を向けると、ドアが開いて金色の長髪の男が事務所に入って来た。

「ジャレットがいたのか。おはよう」

「あ、店長じゃないスか?おざっス、今日はこっちに来ていいんスか?」

イスから腰を上げて頭を下げると、バリオスは気にするなと左手を上げる。

「ああ、仕事中だろ?そのままでいい。必要な分は午前中に仕上げて来た。時間を作ってきたんだ」

話しながら、着ていた黒いファー付きのコートを脱ぐ。
城にいる時には、フード付きのローブ姿が多いが、今日は白いシャツに黒いロングパンツだ。

「なにか用事ですか?」

「アラタとレイチェルから聞いてないか?お前達に稽古をつけに来たんだ」

そう言われてジャレットは思い出した。
昨日レイチェルから、店長がみんなをしごくと言ってたぞ。と聞かされていた事を。

「え・・・マジだったんですか?」

「マジだから来たんだ。ジャレット、お前から見てやろう。区切りをつけたら外に出ろ」

ヤカンに火を付けてお茶の用意をしながら、バリオスは散歩にでも誘うような軽い口調で話した。


「おーい、ジャレット、手空いたわ。俺も休憩入っていい・・・え、店長?」

ボサボサの頭を掻きながら事務所に入って来たミゼルは、イスに座ってお茶を飲んでいるバリオスを見て、目を瞬かせた。

「ミゼル、おはよう」

「あ、おはようございます。今日はどうしたんですか?カエストゥスから帰って来てから、ずっと城に入ってたじゃないですか?いきなりいるんで驚きましたよ」

ミゼルもイスに腰を下ろしてカップにお茶を入れる。

「あ~、ミゼル、店長はな・・・」

のん気にお茶を飲むミゼルに、ジャレットがバリオスの目的を説明しようと口を開くと、バリオスが自分で話すと言うように、左手を少し前に出した。

「ミゼル、手が空いたんだって?」

「あ、はい。なので、今二人休憩入ってんですけど、俺もさっさと入っちまおうかと思って」

「じゃあその前に、お前がどのくらい力を付けたか見てやろう。外に出ろ」


「・・・・・え?」


大きく目を見開いて、ミゼルはバリオスを凝視した。
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