713 / 1,277
712 種明かし
しおりを挟む
「・・・な、なんで?・・・手応えは確かに・・・」
光の力を使ったが、体当たりに近い形で右脇腹に拳を撃ちこみ、持ち上げるようにして殴り飛ばした。
肋骨が2~3本、いやいくらバリオスが強いといっても、光の拳の破壊力を考えれば、右の肋骨は全て粉砕してもおかしくない。それほどのパンチだった。
しかし視線の先のバリオスは、何事もなかったかのように両足で立ち、アラタに対して笑いかけてさえいる。
マルゴンさえ倒した光の拳を受けて、ノーダメージなどあるはずがない。
しかし現にバリオスにはダメージが見られない。
信じられないという思いと、それに反する目の前の現実に、アラタは思考の整理ができずにただ立ち尽くしていた。
「フッ・・・アラタ、そうだな。種明かしはしておこう。レイチェルはどうだ?俺が何をしたか分かったか?」
バリオスは後ろで戦いを見ていたレイチェルに顔を向けると、自分がアラタの光の拳を受けても、無傷な理由が分かるか問いかけた。
何をしたか?その言葉がヒントだった。
「・・・分かりません。アラタのパンチを受け流すように、左に体を捻ったようには見えましたが、それだけで吸収できる破壊力ではありませんでした。魔法ですか?」
だが、レイチェルでさえ、バリオスが何をしたのかを見極める事はできなかった。
左手で右の肘を抱えるように持ち、右手で顎に指を当てて考える仕草を見せる。
「魔法を使ったのは正解だ。だが、火、氷、風、爆の四属性ではない・・・」
バリオスは一度頷き、レイチェルにそこまで話すと、アラタに向き直った。
「俺が使ったのは光魔法だ。お前の光の力と同じな」
そう答えると、ローブから右手を出して見せた。
手の平から発せられる高密度の光は、アラタの光の拳とそっくりであった。
「お前の拳の軌道は見えたからな、これで受けた。俺からしても実験ではあったが、どうやら俺の光魔法なら、お前の光と同調して威力を相殺する事ができるようだ。あとは殴り飛ばそうとするお前の攻撃に逆らわず、力の流れる方向に自ら飛んでダメージを最小限に抑えた。だが、それでも右手はまだ痺れている。大したパンチだよ」
僅かながらだが、小刻みに震える右手を見せるように前に出し、バリオスは笑って見せた。
「・・・店長、拳の軌道は見えてたって言いましたけど、まさか・・・わざと俺のパンチ受けたんですか?」
「力の使い方を教えると言っただろ?そのためには遠慮のない攻撃を受ける必要があった。確かに躱そうと思えば躱せたが、あの距離で撃つパンチの威力にも興味があったからな。悪く思わないでくれ。攻撃の癖や爆発力、弱点なんかも知りたかったからこんなやり方になってしまったが、おかげで知りたい事はだいたい分かったよ」
「・・・マジか・・・・・」
バリオスの裏をかいた一発だと思っていた。
しかし全てがバリオスの手の平の上だったと知り、アラタは言葉も出なくなってしまった。
「・・・アラタ、気持ちは分かるぞ。私も店長には全く歯が立たない。どれだけ策を練ってもその上をいかれるんだ。自信を無くした事だって一度や二度じゃない。けれど、その悔しさをバネに頑張るんだ。私は少しでも店長に追いつくために、日々の訓練を欠かしていない」
ぐうの音も出ない程の完全な敗北に、アラタが茫然と立ち尽くしていると、レイチェルが後ろから肩に手をかけた。
「え?レ、レイチェルが?」
圧倒的なスピードと卓越した格闘センスを持つレイチェルでさえ、バリオスとの間にはそれほどの力量の差があるという事実に、アラタはまたも目を丸くさせられる。
「そうだ。店長は特別というしかない。これからキミは店長に鍛えてもらう立場になるんだ。師匠に負けても恥ではないぞ。だから、気持ちを切り替えろ。ここまで完膚なきまでに負けたんだから、後はひたすら頑張るだけだ」
「・・・そう、かな・・・いや、うん、そうだな・・・・・よし!」
渇いた音が一つ鳴る。
アラタは自分の頬を両手で叩いて、大きく息を吐き出した。
「ふー・・・分かったよ。ありがとうレイチェル」
吹っ切ったように、迷いを無くした顔を向けるアラタに、レイチェルは笑い声を漏らした。
「フッ、アハハハハ、うん、そういう素直のところはキミの良いところだぞ。私もまた店長に鍛え直してもらうからな、一緒に頑張ろう」
スッキリとした表情のアラタ、そして笑顔で話すレイチェルを見て、バリオスも表情を緩めた。
「さて、じゃあ二人とも、今日はもう帰って休んでくれ。訓練は明日から始めるとしよう。俺はまだしばらく城に泊り込みになるから、時間を作って店に行く事にしよう」
「え、店長が店に来るんですか!?」
てっきり城に出向いて、ここで訓練をつけてもらうのかと思っていただけに、アラタは驚きをそのまま言葉にだした。
「そうだな。お客さんの入り具合もあるだろうし、お前達が店を出てここに来るよりは、俺が行って時間をみながら教えた方がいいだろう?あぁ、それと俺は全員を鍛えるつもりだから、ミゼルとリカルドにも逃げるなと伝えておいてくれ」
少し冗談めかした言い方だったが、アラタはあの二人ならすっぱかしそうだと納得してしまった。
光の力を使ったが、体当たりに近い形で右脇腹に拳を撃ちこみ、持ち上げるようにして殴り飛ばした。
肋骨が2~3本、いやいくらバリオスが強いといっても、光の拳の破壊力を考えれば、右の肋骨は全て粉砕してもおかしくない。それほどのパンチだった。
しかし視線の先のバリオスは、何事もなかったかのように両足で立ち、アラタに対して笑いかけてさえいる。
マルゴンさえ倒した光の拳を受けて、ノーダメージなどあるはずがない。
しかし現にバリオスにはダメージが見られない。
信じられないという思いと、それに反する目の前の現実に、アラタは思考の整理ができずにただ立ち尽くしていた。
「フッ・・・アラタ、そうだな。種明かしはしておこう。レイチェルはどうだ?俺が何をしたか分かったか?」
バリオスは後ろで戦いを見ていたレイチェルに顔を向けると、自分がアラタの光の拳を受けても、無傷な理由が分かるか問いかけた。
何をしたか?その言葉がヒントだった。
「・・・分かりません。アラタのパンチを受け流すように、左に体を捻ったようには見えましたが、それだけで吸収できる破壊力ではありませんでした。魔法ですか?」
だが、レイチェルでさえ、バリオスが何をしたのかを見極める事はできなかった。
左手で右の肘を抱えるように持ち、右手で顎に指を当てて考える仕草を見せる。
「魔法を使ったのは正解だ。だが、火、氷、風、爆の四属性ではない・・・」
バリオスは一度頷き、レイチェルにそこまで話すと、アラタに向き直った。
「俺が使ったのは光魔法だ。お前の光の力と同じな」
そう答えると、ローブから右手を出して見せた。
手の平から発せられる高密度の光は、アラタの光の拳とそっくりであった。
「お前の拳の軌道は見えたからな、これで受けた。俺からしても実験ではあったが、どうやら俺の光魔法なら、お前の光と同調して威力を相殺する事ができるようだ。あとは殴り飛ばそうとするお前の攻撃に逆らわず、力の流れる方向に自ら飛んでダメージを最小限に抑えた。だが、それでも右手はまだ痺れている。大したパンチだよ」
僅かながらだが、小刻みに震える右手を見せるように前に出し、バリオスは笑って見せた。
「・・・店長、拳の軌道は見えてたって言いましたけど、まさか・・・わざと俺のパンチ受けたんですか?」
「力の使い方を教えると言っただろ?そのためには遠慮のない攻撃を受ける必要があった。確かに躱そうと思えば躱せたが、あの距離で撃つパンチの威力にも興味があったからな。悪く思わないでくれ。攻撃の癖や爆発力、弱点なんかも知りたかったからこんなやり方になってしまったが、おかげで知りたい事はだいたい分かったよ」
「・・・マジか・・・・・」
バリオスの裏をかいた一発だと思っていた。
しかし全てがバリオスの手の平の上だったと知り、アラタは言葉も出なくなってしまった。
「・・・アラタ、気持ちは分かるぞ。私も店長には全く歯が立たない。どれだけ策を練ってもその上をいかれるんだ。自信を無くした事だって一度や二度じゃない。けれど、その悔しさをバネに頑張るんだ。私は少しでも店長に追いつくために、日々の訓練を欠かしていない」
ぐうの音も出ない程の完全な敗北に、アラタが茫然と立ち尽くしていると、レイチェルが後ろから肩に手をかけた。
「え?レ、レイチェルが?」
圧倒的なスピードと卓越した格闘センスを持つレイチェルでさえ、バリオスとの間にはそれほどの力量の差があるという事実に、アラタはまたも目を丸くさせられる。
「そうだ。店長は特別というしかない。これからキミは店長に鍛えてもらう立場になるんだ。師匠に負けても恥ではないぞ。だから、気持ちを切り替えろ。ここまで完膚なきまでに負けたんだから、後はひたすら頑張るだけだ」
「・・・そう、かな・・・いや、うん、そうだな・・・・・よし!」
渇いた音が一つ鳴る。
アラタは自分の頬を両手で叩いて、大きく息を吐き出した。
「ふー・・・分かったよ。ありがとうレイチェル」
吹っ切ったように、迷いを無くした顔を向けるアラタに、レイチェルは笑い声を漏らした。
「フッ、アハハハハ、うん、そういう素直のところはキミの良いところだぞ。私もまた店長に鍛え直してもらうからな、一緒に頑張ろう」
スッキリとした表情のアラタ、そして笑顔で話すレイチェルを見て、バリオスも表情を緩めた。
「さて、じゃあ二人とも、今日はもう帰って休んでくれ。訓練は明日から始めるとしよう。俺はまだしばらく城に泊り込みになるから、時間を作って店に行く事にしよう」
「え、店長が店に来るんですか!?」
てっきり城に出向いて、ここで訓練をつけてもらうのかと思っていただけに、アラタは驚きをそのまま言葉にだした。
「そうだな。お客さんの入り具合もあるだろうし、お前達が店を出てここに来るよりは、俺が行って時間をみながら教えた方がいいだろう?あぁ、それと俺は全員を鍛えるつもりだから、ミゼルとリカルドにも逃げるなと伝えておいてくれ」
少し冗談めかした言い方だったが、アラタはあの二人ならすっぱかしそうだと納得してしまった。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる