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708 また会おう

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玉座の間を出ると、後はそれぞれの都合もあり、自然と別れる流れになった。

「私とサリーは、このままベナビデス家に行く。お前達とはここでお別れだ」

「大変でしたが、皆様と一緒に旅ができて本当に楽しかったです。またお会いしましょう」

ディリアンに仕えていた侍女ジェシカが、ラルス・ネイリーの薬によって今だ寝たきりになっている。
ロンズデールでディリアンの事情を知ったサリーが、白魔法のキュアで治療できるか試す約束をしていたのだ。

「帰って来たばかりなのに、悪いな」

「ほぅ、お前もそういう気遣いができるんだな?」

「おい、バルデス、喧嘩売ってんのか?」

「ふはははは、冗談だ。ディリアン、後はサリーにまかせておけ。ほら行くぞ。ではなみんな、また会おう」

「痛てっ!引っ張んなよコラ!」

バルデスはサリーとディリアンを連れて、高笑いをしながら手を振り去って行った。
バルデスに手を掴まれているディリアンは抗議の声を上げ、サリーはそんな二人を面白そうに眺めている。



「まったく騒がしい連中だったな・・・さて、じゃあ俺も行くぞ。色々世話になった」

バルデス達が去って行くと、次にビリージョーが別れの言葉を口にした。

「ビリージョーさんはこれからどうするんですか?」

アラタに聞かれ、ビリージョーはすでに決めていた予定を答えた。

「俺は一度ナック村に帰るよ。しばらく留守にしてたから、埃もたまってんだろうし、まずは家の掃除だな。それから常連さんのために早めに営業再開だ。ところで馬車は手配したが、レイジェスに帰るんなら途中まで一緒に乗るか?」

「すみません。せっかくですが、私とアラタはまだ城に用が残ってるんです」

ビリージョーの提案をレイチェルが断ると、ビリージョーは、そうか、一言答えて頷き、アラタとレイチェルの肩に手を置いた。

「お前達と旅ができて良かった。俺はこれからどんどん忙しくなると思う。今回のような旅はもうできないだろう。死にかけたし、大変だった、でも本当に楽しかったと言える。ありがとうな!」

「ビリージョーさん、俺も同じ気持ちです。一緒に旅ができて良かったです。また絶対にナック村に行きますから!」

「そうですよ。私もレイジェスのみんなを連れて行きますから、もう会えないような言い方しないでください」

「ははは、そうだな。じゃあ、また会おうな!」

そして大きく笑うと、ビリージョーはアラタ達に背を向けて、後ろ手を振り去って行った。

小さくなっていくビリージョーの背中を見送り、二人きりになると、レイチェルはアラタに顔を向けた。

「じゃあ、店長のところに行こうか」





「へぇ・・・俺達がいない間に、けっこう修理も進んだんだ?」

「あぁ、今の大臣が復旧の陣頭指揮を執っているんだが、なかなかのやり手でね。実に効率的な支持を出すから、当初の想定より早く進んでるんだ」

倒壊していた壁も埋められ、積み上げられていた瓦礫の山も無くなっている。
レイチェルの隣に並び歩きながら、偽国王との戦いで破壊された城の復旧がずいぶん進んでいる事に、アラタは率直に驚きの声をもらした。

「今の大臣?あ、そう言えば・・・大臣変わってたよね?俺とレイチェルとヴァンで、前にマルゴンと戦った後に謁見した時の大臣じゃなかったよね?」

レイチェルの一言で気が付いた。
あの時、偽国王の隣にいた大臣と、今女王の傍にいた大臣は別人だと。

「あぁ、そうか・・・アラタは知らなくて当然だな。あの戦い後寝込んでいたし、城にも来ていないからな。実は偽国王を倒した後、あの大臣も帝国の手の者と判明してな。追い詰められて自害したよ。今の大臣は身元を調べ上げたから、まぁ大丈夫だろう」

「え・・・そんな事あったの?」

「そんな事があったんだ。そのおかげで今は一使用人まで、あらためて身辺調査をされているから、安心していいと思うぞ」

再び驚きに目を開くアラタを見て、レイチェルは楽しそうに笑った。

「キミはリアクションがいいな?素直だから、人の言う事をそのまま受け取る。驚く時はしっかり驚く。話しがいがあるよ」

「それ褒めてんの?」

「あはははは、もちろん褒めてるんだよ。おっと、ここだ。着いたぞ」

通路脇の一室の前で足を止めると、レイチェルはドアに軽く二度ノックをした。
中から応答する声が聞こえると、レイチェルに続く形でアラタも室内に足を入れる。



「やぁ、よく来てくれたね。すまないが、この書類だけ片づけたいんだ。座って待っててくれ」

広い机の上に並べられた書類にペンを走らせ、店長のバリオスはアラタとレイチェルの顔を見て、目の前のソファに指を向けた。

三人掛けの革張りのソファがテーブルを挟んで二台置かれており、アラタとレイチェルは並んで腰を下ろす。

サラリとした長い金色の髪は、青い紐で結んで肩から流している。
しばらく城に泊り続けていると聞いていたが、いつもと変わらない様子で、特に疲れが溜まっているようには見えない。

「・・・昨日、帰ってきたのか?」

仕事の邪魔にならないようにと、アラタとレイチェルが口を閉じていると、書類に目を落としたままバリオスが話しかけて来た。

「はい。昨夜は店に泊りました。みんな変わりなくて良かったです」

「ははは、レイチェルとアラタも無事で良かったよ。キミ達なら大丈夫だと思ってたけど、やっぱり心配だったからね・・・・・よし、終わったよ。待たせたね」

書類を叩いて揃えると、バリオスは席を立った。

「今、お茶を入れよう。おいしいハーブティーがあるんだ」

「あ、店長、お茶なら私が・・・」

ソファを立とうとするレイチェルに、バリオスは座っていろと、軽く手を前に出した。

「ありがとう。でも、このハーブティーは入れ方にコツもあってね。これは自分で淹れたいんだ」

この部屋でバリオスは寝泊りをしているのだろう。
小さいがキッチンが備え付けられていて、簡単な料理くらいは作れるようだ。
今でこそ執務室として使われているが、元々は使用人の住み込みの部屋だったのかもしれない。


「今日も寒いからな、体も冷えただろ?飲んでくれ」

ハーブティーのカップが、アラタとレイチェルの前に置かれると、ほっとするような優しい香りが鼻に触れた。

「いただきます。良い香りですね・・・店長、このハーブティーはどこで買ったんですか?」

レイチェルがカップを手にして、少し驚いたように呟いた。

「俺が自分でハーブから育ててるんだ。あまり数が作れないから、たまにしか飲めないけどね。そう言えば、レイチェルにも初めて出したかな。落ち着くだろ?」

「はい、美味しいです。し、とてもリラックスできます。でも、店長がハーブを育ててたなんて、初めて聞きましたよ。まだまだ私が知らない事が多いんですね」

少しだけ拗ねるような声を出すと、バリオスは笑ってハーブティーを一口飲んだ。

「さて、あらためて二人共、今回は本当によく無事に戻って来てくれたね。体は大丈夫か?」

「あ、それなんですけど・・・」


体調を聞かれたアラタは、シャツの内ポケットから樹の欠片を取り出してテーブルに置いた。

「弥生さんのおかげで助かりました」


かつて弥生が精霊の森の樹を使い作り出した薙刀、新緑。
その欠片である。
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