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698 リンジーの追求
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クインズベリーから来た6人と別れて数日が経った。
ロンズデール国内は、今だ今回のクルーズ船の話しが止まない。
帝国を退けたと言っても、大陸一の軍事国家である事は誰もが知るところである。
本気で攻め込まれたら、ロンズデールに勝機がない事は火を見るより明らかだった。
「リンジー、許可が下りたぞ」
サンドリーニ城の図書室で、リンジーが本を読んでいると、ガラハドが声をかけて来た。
「あら、ガラハド、そう・・・思ったより早かったわね」
読んでいた分厚い本を閉じると、リンジーはイスから腰を上げた。
「何を読んでたんだ?」
ガラハドが本に目を向けると、リンジーは本を手渡すように差し向けて表紙を見せた。
「・・・ブロートン帝国の戦争と繁栄・・・・・こんなの読んでたのか?」
ガラハドはリンジーから本を受け取ると、パラパラとページをめくり見る。
「・・・気になる事があってね。魔道剣士四人衆のアロル・ヘイモン、あの老人が以前帝国にいた事は知ってる?」
「ん?あぁ、そう言えば聞いた事があるな。それがどうかしたのか?」
魔道剣士筆頭のアロル・ヘイモンは、クルーズ船でアラタと戦い敗れて死亡した。
今更ヘイモンの名が出て来た事が意外で、ガラハドはその理由を問いかけた。
「ラミール・カーンは、10歳の時にヘイモンと出会っているの。ヘイモンと出会うまでは、カーンは剣も握った事がなかったそうよ。でもヘイモンはカーンを見て、内に秘めた戦いの才能を見抜いて鍛える事にしたんだって。つまり、ヘイモンはカーンの師匠なのよ」
リンジーの左手で右肘を押さえると、右手の平をガラハドに向けて話し出した。
「ほぅ・・・しかし、おかしくないか?ヘイモンがカーンの師匠と言うが、カーンがヘイモンを従えていたぞ?あれはどういう事だ?」
首を傾げるガラハドだが、その疑問は最もだった。
「そう・・・それが謎なのよ。ねぇガラハド、ガラハドはヘイモンと戦ったでしょ?どうだった?カーンと比べて上かしら?」
もしカーンの実力がヘイモンより上ならば、実力が逆転したヘイモンが下につくのも、分からないではない。普通に考えれば、弟子が師匠より強くなったと言っても、師匠は師匠である。恩を忘れて顎で使うなどとてもできないが、理由として考えられなくはない。
「カーンと比べて?う~ん、どうだろうなぁ・・・俺はカーンと模擬戦をした事はあるが、あくまで模擬戦だからな。カーンも反響の剣なんてとんでもねぇ武器は使わなかったしな・・・・・だが、俺はヘイモンにまるで歯が立たなかった。悪霊なんてとんでもねぇ力まで持ってたしよ。それを踏まえて考えると・・・ヘイモンの方が強いと思うな」
カーンの反響の剣も凄まじい力があるが、リンジーが勝利してみせたように、なりふり構わなければ戦いようはある。だが、悪霊に対抗するには霊力、もしくはアラタの光の力しかない。
勝利条件どころか、戦いの舞台に上がるための条件が非常に高い。
それを考えればカーンよりもヘイモンに軍配を上げるのはしかたない事だろう。
「・・・そっか、私はヘイモンの力は知らないけど、やっぱり何かあるよね」
「リンジー、お前それでこの本を読んでたのか?」
ガラハドはリンジーから受け取った本を、裏表に見返してみた。
「うん、その本に載ってるのは題名の通り、帝国の戦争の歴史だから、カーンとヘイモンの関係なんて分かるはずないんだけどね。それでも、帝国の事は少しでも知っておきたくて」
「そうか・・・だが、どの本もバッタ以降の戦争は簡潔にしか書かれていない。それもカエストゥスが非人道的な国家だったため滅んだような内容ばかりだ。こんなの読んでもしかたなくねぇか?」
ガラハドが顔をしかめてテーブルに本を置くと、リンジーも本を一瞥して口を開いた。
「そうよね・・・私もこの歴史はおかしいと思うわ。昔から疑問はあったの、どれもこれも帝国に都合の良いようにしか書かれていないから。でも、歴史の本に嘘が書かれているなんて思わないでしょ?だから気になってたけど、深くは考えないでいたの。でも今回の一件でやっぱりおかしいって気持ちが深まったわ。この歴史は本当なのかって。ねぇガラハド、歴史は改竄されてるんじゃないかな?」
「・・・リンジー・・・」
「・・・カーンと話すわ。聞かなきゃならない事が沢山あるの」
その真っすぐで確かな意思を秘めた眼差しを受けて、ガラハドはリンジーの覚悟を見た。
サンドリーニ城の地下牢、罪人が収監されている牢の中でも、特に重い罪を犯した者が入れられる独房に魔道剣士ラミール・カーンはいた。
「・・・リンジー、来たか」
たった数日だが、カーンの風貌はずいぶん変わったように見えた。
髪は乱れ無精髭が目立ち、目の下には隈ができて、少し痩せたようにも見える。
「カーン、ずいぶん良い男になったね」
両手両足には重い枷をはめられ、みすぼらしいボロの囚人服を着せられている。
「・・・お前が来る事は分かっていた。俺を生かすように掛け合ったそうじゃないか?何が聞きたい?」
そう話すカーンの表情には、リンジーに対しての敵意も見えない。
だが、生かされた事に対しての感謝も無く、ただ言葉を発しているだけだった。
リンジーが国王に提案した内容は、帝国との戦いに備えカーンを戦力として生かす事。
有事の際には最前線で戦わせる。この提案が聞き入れられたため、独房に入れられ尋問されても、カーンには暴行された痕は少なかった。
「話しが早いのね。カーン、あなたが今も無事でいられるのは私のおかげなんだから、素直に答えてもらえると嬉しいわ」
「聞いていると思うが、帝国について知っている事は全て話した。こうなっては俺が帝国のために隠す必要は何もないからな」
「ええ、あなたがあっさりと口を割った事は聞いてるわ。確かに、帝国に裏切られたあなたが口を閉ざす必要はないしね。でも、私が聞きたいのはもっと別の事よ。あなたとヘイモンの関係について聞きたいの」
ヘイモンの名前が出ると、それまで無表情だったカーンが眉間にシワを寄せてリンジーを見た。
「・・・なんでそんな事を気にする?ヘイモンは俺の部下で、魔道剣士四人衆の筆頭だ。お前達も知っているだろう?」
「そうじゃないわ。私がそんな事を聞いているんじゃないのは分かってるわよね?ガラハドから聞いたけど、ヘイモンは悪霊という力を使ったそうよ。そんな力初めて聞くわ。あなた、ヘイモンとはどうやって出会ったの?ヘイモン程の男が部下になるなんて、あなた一体何者なの?」
リンジーの強い視線を正面から受け、カーンもまたリンジーを見返した。
狭い独房にしばしの沈黙が降りる。
ピリピリとした緊張感、冷たい空気を破りカーンが口を開いた。
「・・・ヘイモンと出会ったのは、俺が10歳の時だった・・・」
どこか昔話しを懐かしむように、カーンは目を閉じた。
ロンズデール国内は、今だ今回のクルーズ船の話しが止まない。
帝国を退けたと言っても、大陸一の軍事国家である事は誰もが知るところである。
本気で攻め込まれたら、ロンズデールに勝機がない事は火を見るより明らかだった。
「リンジー、許可が下りたぞ」
サンドリーニ城の図書室で、リンジーが本を読んでいると、ガラハドが声をかけて来た。
「あら、ガラハド、そう・・・思ったより早かったわね」
読んでいた分厚い本を閉じると、リンジーはイスから腰を上げた。
「何を読んでたんだ?」
ガラハドが本に目を向けると、リンジーは本を手渡すように差し向けて表紙を見せた。
「・・・ブロートン帝国の戦争と繁栄・・・・・こんなの読んでたのか?」
ガラハドはリンジーから本を受け取ると、パラパラとページをめくり見る。
「・・・気になる事があってね。魔道剣士四人衆のアロル・ヘイモン、あの老人が以前帝国にいた事は知ってる?」
「ん?あぁ、そう言えば聞いた事があるな。それがどうかしたのか?」
魔道剣士筆頭のアロル・ヘイモンは、クルーズ船でアラタと戦い敗れて死亡した。
今更ヘイモンの名が出て来た事が意外で、ガラハドはその理由を問いかけた。
「ラミール・カーンは、10歳の時にヘイモンと出会っているの。ヘイモンと出会うまでは、カーンは剣も握った事がなかったそうよ。でもヘイモンはカーンを見て、内に秘めた戦いの才能を見抜いて鍛える事にしたんだって。つまり、ヘイモンはカーンの師匠なのよ」
リンジーの左手で右肘を押さえると、右手の平をガラハドに向けて話し出した。
「ほぅ・・・しかし、おかしくないか?ヘイモンがカーンの師匠と言うが、カーンがヘイモンを従えていたぞ?あれはどういう事だ?」
首を傾げるガラハドだが、その疑問は最もだった。
「そう・・・それが謎なのよ。ねぇガラハド、ガラハドはヘイモンと戦ったでしょ?どうだった?カーンと比べて上かしら?」
もしカーンの実力がヘイモンより上ならば、実力が逆転したヘイモンが下につくのも、分からないではない。普通に考えれば、弟子が師匠より強くなったと言っても、師匠は師匠である。恩を忘れて顎で使うなどとてもできないが、理由として考えられなくはない。
「カーンと比べて?う~ん、どうだろうなぁ・・・俺はカーンと模擬戦をした事はあるが、あくまで模擬戦だからな。カーンも反響の剣なんてとんでもねぇ武器は使わなかったしな・・・・・だが、俺はヘイモンにまるで歯が立たなかった。悪霊なんてとんでもねぇ力まで持ってたしよ。それを踏まえて考えると・・・ヘイモンの方が強いと思うな」
カーンの反響の剣も凄まじい力があるが、リンジーが勝利してみせたように、なりふり構わなければ戦いようはある。だが、悪霊に対抗するには霊力、もしくはアラタの光の力しかない。
勝利条件どころか、戦いの舞台に上がるための条件が非常に高い。
それを考えればカーンよりもヘイモンに軍配を上げるのはしかたない事だろう。
「・・・そっか、私はヘイモンの力は知らないけど、やっぱり何かあるよね」
「リンジー、お前それでこの本を読んでたのか?」
ガラハドはリンジーから受け取った本を、裏表に見返してみた。
「うん、その本に載ってるのは題名の通り、帝国の戦争の歴史だから、カーンとヘイモンの関係なんて分かるはずないんだけどね。それでも、帝国の事は少しでも知っておきたくて」
「そうか・・・だが、どの本もバッタ以降の戦争は簡潔にしか書かれていない。それもカエストゥスが非人道的な国家だったため滅んだような内容ばかりだ。こんなの読んでもしかたなくねぇか?」
ガラハドが顔をしかめてテーブルに本を置くと、リンジーも本を一瞥して口を開いた。
「そうよね・・・私もこの歴史はおかしいと思うわ。昔から疑問はあったの、どれもこれも帝国に都合の良いようにしか書かれていないから。でも、歴史の本に嘘が書かれているなんて思わないでしょ?だから気になってたけど、深くは考えないでいたの。でも今回の一件でやっぱりおかしいって気持ちが深まったわ。この歴史は本当なのかって。ねぇガラハド、歴史は改竄されてるんじゃないかな?」
「・・・リンジー・・・」
「・・・カーンと話すわ。聞かなきゃならない事が沢山あるの」
その真っすぐで確かな意思を秘めた眼差しを受けて、ガラハドはリンジーの覚悟を見た。
サンドリーニ城の地下牢、罪人が収監されている牢の中でも、特に重い罪を犯した者が入れられる独房に魔道剣士ラミール・カーンはいた。
「・・・リンジー、来たか」
たった数日だが、カーンの風貌はずいぶん変わったように見えた。
髪は乱れ無精髭が目立ち、目の下には隈ができて、少し痩せたようにも見える。
「カーン、ずいぶん良い男になったね」
両手両足には重い枷をはめられ、みすぼらしいボロの囚人服を着せられている。
「・・・お前が来る事は分かっていた。俺を生かすように掛け合ったそうじゃないか?何が聞きたい?」
そう話すカーンの表情には、リンジーに対しての敵意も見えない。
だが、生かされた事に対しての感謝も無く、ただ言葉を発しているだけだった。
リンジーが国王に提案した内容は、帝国との戦いに備えカーンを戦力として生かす事。
有事の際には最前線で戦わせる。この提案が聞き入れられたため、独房に入れられ尋問されても、カーンには暴行された痕は少なかった。
「話しが早いのね。カーン、あなたが今も無事でいられるのは私のおかげなんだから、素直に答えてもらえると嬉しいわ」
「聞いていると思うが、帝国について知っている事は全て話した。こうなっては俺が帝国のために隠す必要は何もないからな」
「ええ、あなたがあっさりと口を割った事は聞いてるわ。確かに、帝国に裏切られたあなたが口を閉ざす必要はないしね。でも、私が聞きたいのはもっと別の事よ。あなたとヘイモンの関係について聞きたいの」
ヘイモンの名前が出ると、それまで無表情だったカーンが眉間にシワを寄せてリンジーを見た。
「・・・なんでそんな事を気にする?ヘイモンは俺の部下で、魔道剣士四人衆の筆頭だ。お前達も知っているだろう?」
「そうじゃないわ。私がそんな事を聞いているんじゃないのは分かってるわよね?ガラハドから聞いたけど、ヘイモンは悪霊という力を使ったそうよ。そんな力初めて聞くわ。あなた、ヘイモンとはどうやって出会ったの?ヘイモン程の男が部下になるなんて、あなた一体何者なの?」
リンジーの強い視線を正面から受け、カーンもまたリンジーを見返した。
狭い独房にしばしの沈黙が降りる。
ピリピリとした緊張感、冷たい空気を破りカーンが口を開いた。
「・・・ヘイモンと出会ったのは、俺が10歳の時だった・・・」
どこか昔話しを懐かしむように、カーンは目を閉じた。
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