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695 30万ポイントの景品 ②
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レジカウンターの上にどさりと置かれた透明感のある白い糸を見て、アラタ、レイチェル、シャノンの三人は首を傾げた。
「・・・・・糸、ですよね?」
アラタが確認するように女性店員に顔を向けると、女性店員は笑顔で口を開いた。
「はい。こちらは大海の船団オリジナルの、海の糸です」
「え、海の糸?これが?・・・・・すごいね。市場のより質が段違いだわ」
シャノンは海の糸を手に取ると、その手触りや光沢に感心して賛美の言葉を口にした。
初見では海の糸と思わなかったようだし、それほど市場に出ている物よりクオリティが高いのだろう。
「シャノンさん、海の糸ってなんですか?」
「ん、あぁ、お兄さん達は分からなくて当然だよね。クインズベリーにはほとんど流通してないと思うから」
アラタの質問を受けて、自分が海の糸に夢中になっていた事に気付いたシャノンは、クインズベリーの二人には馴染みのない物だと気が付き説明を始めた。
「ロンズデールの海で獲れる繊維なんだけどね、簡単に言うととっても細くて薄いんだよ。それで、水の精霊の加護を特に強く受けてる一部地域でしか捕れなくて、希少価値もあるんだ。でも、ここまでの品質は私も初めて見るよ。これは素材だけの良さじゃないね。加工した職人がよほど優秀なのかな」
「さすがの分析力ですね、シャノン・アラルコンさん」
シャノンの話しを黙って聞いていた女性店員が、ニコリを微笑んで声をかけると、急に名前を呼ばれたシャノンが片眉を上げて反応を見せた。
「あれ、アタシの事知ってました?」
「それはもちろん知ってますよ。だって大海の船団が一番ライバル視している、アラルコン商会の跡取り様じゃないですか。直接お会いするのは初めてですが、お顔は前から知ってますよ」
「へぇ、それにしちゃ友好的に接してくれるんですね?アタシ、大海の船団の他の店に入った時、けっこう冷たい態度とられましたよ」
「ライバル心が強かったんでしょうね。ご不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。でも、私はアラルコン商会の方だからと言って、対応を変える事はしません。だってお客様には違いありませんから。そのシャツもご購入いただけるんですものね?」
女性店員がレジカウンターに置かれた、黒の長袖Tシャツを指すと、シャノンはクスリと笑って言葉を返した。
「うん、もちろん買いますよ。店員さん、商売上手ですね。接客も良いしうちに欲しいですよ」
「うふふ、ありがとうございます。でも、私はここの店長をまかされてますので、残念ながら他へはいけないです」
女性店員がペコリと頭を下げると、シャノンはそれで納得したように左手の平を右手で打った。
「あー、あなたが店長だったんですね。なるほどー、ここ、前に来た時よりずいぶん変わったなって思ってたんですよ。うん、うちも負けてられないな」
シャノンが女性店員と和やかな雰囲気で話していると、レイチェルが会話に入った。
「なぁ、お話しの途中で悪いが、とにかくこの海の糸とやらは良い物なんだね?」
「あ、はい。品質はとても良いですよ。でも貴族の方に優先して卸してますし、それほど量もありませんので、一般の方はなかなか目にできません。本当に特別な糸なんです。30万ポイントの何倍の価値もあるんですよ」
海の糸に対しての自信から、女性店員が力を込めて説明をする。
レイチェルは海の糸を手に取って見た。
説明の通り貴族優先という事も頷ける程、素人目にも上質の糸という事が分かる。
「・・・うん、いいじゃないか。鮫のぬいぐるみでも出てくるかと思ったが、予想外に良い物だ。私もこの糸を店で売るなら、30万以上取るな。この量なら・・・・・うん、十分作れるな」
「レイチェル、どうしたんだ?」
何か思いついたように一人で話すレイチェルに、アラタが横から声をかける。
「うん、良い事を思いついた。アラタ、この糸でドレスを作らないか?」
「ドレス?ドレスって?」
何のドレスだ?と、首を傾げるアラタに、レイチェルは笑顔で言葉を続けた。
「まったくキミは鈍いな。ウエディングドレスに決まってるだろ?カチュアとクリスさんのだよ。この量なら二着は作れるはずだ。ミゼルからもらったポイント帳だし、使い方はこっちで決めてかまわんだろ?」
「え、ウエディングドレス!?カ、カチュアの!?」
「何を驚いている?帰ったら結婚するんだろ?この糸なら申し分ないぞ。スーツを作ったモロニー・スタイルに依頼すれば、仕上がりはバッチリだ。いや、ミゼルからポイント帳をもらったのはキミだから、決定権はキミにあるが、これ以上の使い方はないと思うぞ?それともジャレットに30万分のタンクトップを作りたいのか?」
驚くアラタに糸の素晴らしさと使い道を語ると、アラタも慌ててレイチェルに意見に同意する。
「い、いやいや!30万分のタンクトップって!もちろんウエディングドレスに使うよ!二着作れるんならクリスさんのドレスを作るのも賛成だよ。ミゼルさんもプロポーズしてたから、きっと喜んでくれるさ。」
「そうか、賛成してくれて良かった。アラタがウエディングドレスを用意してたと知ったら、カチュアはきっと泣いて喜ぶぞ」
大切な友人の喜ぶ姿を想像して、レイチェルは嬉しそうに微笑んだ。
「・・・・・糸、ですよね?」
アラタが確認するように女性店員に顔を向けると、女性店員は笑顔で口を開いた。
「はい。こちらは大海の船団オリジナルの、海の糸です」
「え、海の糸?これが?・・・・・すごいね。市場のより質が段違いだわ」
シャノンは海の糸を手に取ると、その手触りや光沢に感心して賛美の言葉を口にした。
初見では海の糸と思わなかったようだし、それほど市場に出ている物よりクオリティが高いのだろう。
「シャノンさん、海の糸ってなんですか?」
「ん、あぁ、お兄さん達は分からなくて当然だよね。クインズベリーにはほとんど流通してないと思うから」
アラタの質問を受けて、自分が海の糸に夢中になっていた事に気付いたシャノンは、クインズベリーの二人には馴染みのない物だと気が付き説明を始めた。
「ロンズデールの海で獲れる繊維なんだけどね、簡単に言うととっても細くて薄いんだよ。それで、水の精霊の加護を特に強く受けてる一部地域でしか捕れなくて、希少価値もあるんだ。でも、ここまでの品質は私も初めて見るよ。これは素材だけの良さじゃないね。加工した職人がよほど優秀なのかな」
「さすがの分析力ですね、シャノン・アラルコンさん」
シャノンの話しを黙って聞いていた女性店員が、ニコリを微笑んで声をかけると、急に名前を呼ばれたシャノンが片眉を上げて反応を見せた。
「あれ、アタシの事知ってました?」
「それはもちろん知ってますよ。だって大海の船団が一番ライバル視している、アラルコン商会の跡取り様じゃないですか。直接お会いするのは初めてですが、お顔は前から知ってますよ」
「へぇ、それにしちゃ友好的に接してくれるんですね?アタシ、大海の船団の他の店に入った時、けっこう冷たい態度とられましたよ」
「ライバル心が強かったんでしょうね。ご不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。でも、私はアラルコン商会の方だからと言って、対応を変える事はしません。だってお客様には違いありませんから。そのシャツもご購入いただけるんですものね?」
女性店員がレジカウンターに置かれた、黒の長袖Tシャツを指すと、シャノンはクスリと笑って言葉を返した。
「うん、もちろん買いますよ。店員さん、商売上手ですね。接客も良いしうちに欲しいですよ」
「うふふ、ありがとうございます。でも、私はここの店長をまかされてますので、残念ながら他へはいけないです」
女性店員がペコリと頭を下げると、シャノンはそれで納得したように左手の平を右手で打った。
「あー、あなたが店長だったんですね。なるほどー、ここ、前に来た時よりずいぶん変わったなって思ってたんですよ。うん、うちも負けてられないな」
シャノンが女性店員と和やかな雰囲気で話していると、レイチェルが会話に入った。
「なぁ、お話しの途中で悪いが、とにかくこの海の糸とやらは良い物なんだね?」
「あ、はい。品質はとても良いですよ。でも貴族の方に優先して卸してますし、それほど量もありませんので、一般の方はなかなか目にできません。本当に特別な糸なんです。30万ポイントの何倍の価値もあるんですよ」
海の糸に対しての自信から、女性店員が力を込めて説明をする。
レイチェルは海の糸を手に取って見た。
説明の通り貴族優先という事も頷ける程、素人目にも上質の糸という事が分かる。
「・・・うん、いいじゃないか。鮫のぬいぐるみでも出てくるかと思ったが、予想外に良い物だ。私もこの糸を店で売るなら、30万以上取るな。この量なら・・・・・うん、十分作れるな」
「レイチェル、どうしたんだ?」
何か思いついたように一人で話すレイチェルに、アラタが横から声をかける。
「うん、良い事を思いついた。アラタ、この糸でドレスを作らないか?」
「ドレス?ドレスって?」
何のドレスだ?と、首を傾げるアラタに、レイチェルは笑顔で言葉を続けた。
「まったくキミは鈍いな。ウエディングドレスに決まってるだろ?カチュアとクリスさんのだよ。この量なら二着は作れるはずだ。ミゼルからもらったポイント帳だし、使い方はこっちで決めてかまわんだろ?」
「え、ウエディングドレス!?カ、カチュアの!?」
「何を驚いている?帰ったら結婚するんだろ?この糸なら申し分ないぞ。スーツを作ったモロニー・スタイルに依頼すれば、仕上がりはバッチリだ。いや、ミゼルからポイント帳をもらったのはキミだから、決定権はキミにあるが、これ以上の使い方はないと思うぞ?それともジャレットに30万分のタンクトップを作りたいのか?」
驚くアラタに糸の素晴らしさと使い道を語ると、アラタも慌ててレイチェルに意見に同意する。
「い、いやいや!30万分のタンクトップって!もちろんウエディングドレスに使うよ!二着作れるんならクリスさんのドレスを作るのも賛成だよ。ミゼルさんもプロポーズしてたから、きっと喜んでくれるさ。」
「そうか、賛成してくれて良かった。アラタがウエディングドレスを用意してたと知ったら、カチュアはきっと泣いて喜ぶぞ」
大切な友人の喜ぶ姿を想像して、レイチェルは嬉しそうに微笑んだ。
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