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691 リンジーの提案
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ロンズデール国王との謁見は、レイチェルが驚くくらい和やかな雰囲気で進んだ。
まともになっただろうと思ってはいたが、やはりクラッカーの印象が強すぎて、心のどこかで疑ってもいたのだが、話しが進むに連れて疑っていた自分が馬鹿らしくなる程に、ロンズデール国王は理路整然とした態度で場を回していた。
そして国王の隣では、大臣のバルカルセルが穏やかな笑みを浮かべて立ち、階下のレイチェル達一行に顔を向けていた。
大臣の表情からは険がとれ、心の落ち着きが見て取れる。
それはやはり、国王との関係の修復ができたという事が要因だろう。
リンジー、ファビアナ、ガラハドの三人もこの場にいるが、国王と大臣の間の空気が見た事も無い程穏やかになっている事が感じ取れて、心の中で喜びを噛みしめていた。
「さて、それではそろそろ本題に入ろうか。大臣からはすでに話してあると聞いたが、ロンズデールとクインズベリーの同盟についてだ。其方らはどう思う?」
「はい。昨日同盟についてのお話しは伺っております。我々としましても実現すべきご提案と思っております。クインズベリー国女王の判断になりますが、我々の意見は一致しております」
一行を代表して、先頭に並んだビリージョーが言葉を返した。
年長者としての落ち着き、そして日頃から王侯貴族を相手に商売をしているため、他国の王であっても物怖じせずに意見述べる事ができるため、基本的にはビリージョーを中心に受け答えをしようと事前に決めていたのである。
最も、今回のクルーズ船での一件で、ロンズデール国王に対しては、距離感が曖昧になってしまい、誰が対応しても物怖じする事はなかったのだが、礼節を持った対応となるとやはりビリージョーが適任だった。
「うむ、それならば展望は明るいな。ロンズデールとしての意志も同じだ。もはや帝国とは戦うしか道はない。帝国の力は絶大・・・しかし、今回クルーズ船で帝国に勝利できたように、両国が力を合わせれば決して勝てない相手ではないだろう。アンリエール女王陛下へ書簡を持たせよう。よろしく頼んだぞ」
「はっ、確かに承りました。必ずや両国にとって最良の選択になるでしょう」
迷いのない確かなビリージョーの返事で、話しに一つの区切りがつくと、リンジーが一歩前に出た。
「恐れながら陛下にお伺いしたい事がございます」
言葉を添えて頭を下げると、腰まで伸びた灰色の長い髪が床に着きそうになる。
二つに分けた髪の先には、小振りの宝石のような玉、魔道具の念操玉がリボンで結ばれていた。
「ん、なんだ?申してみよ」
リンジーの申し出に、国王は少し身を乗り出すと、玉座のひじ掛けから手を離して差し向けた。
「はい。ラミール・カーンはどうなりますか?」
魔道剣士隊の長、ラミール・カーン。今回の首謀者の一人である。
大海の船団の船長、ウラジミール・セルヒコと、オーナーであるギルバート・メンドーサが死亡した今、帝国の内情を知るのは今やラミール・カーンただ一人。
「・・・カーンか、ヤツの言いなりになってしまった私にも責任はある。だが、それでもヤツの犯した罪は大きすぎる。知っている事を全て聞き出した後は・・・処刑だ」
処刑と言う言葉が出た瞬間、リンジーの体がこわばった。
分かってはいた事だ。
そして自分もカーンと命を懸けて戦った。今更カーンの命に関して何か言葉を挟むつもりはなかった。
だが・・・・・
「・・・陛下、恐れながら申し上げます。ラミール・カーンにはまだ利用価値があるかと思います。なによりカーンの犯した罪は、その死を持って償えるものではないかと・・・・・帝国と戦争になったら
最前線で戦わせてはいかがでしょうか?カーンの力量は、処刑するにはもったいないかと思います」
リンジーの話しを周りで聞いていたアラタやレイチェル、全員がその内容に目を見開いた。
敵だったとは言え、人をただ戦いの道具として利用しようと提案するなど、思いもよらなかったからだ。
いつもファビアナを護っていた、優しいリンジーの言葉とはとても思えなかった。
「・・・・・リンジー、本心か?」
「はい。本心です。今回のクルーズ船の事を考えれば、戦争の最中に裏切る心配もないかと思います。帝国が受け入れる事もないでしょうから・・・」
国王がリンジーの目をじっと見つめると、リンジーも国王の視線を正面から受け止めて言葉を返した。
「・・・分かった。今回のクルーズ船でのそなたの貢献は大変大きいものだ。できるだけ考慮しよう」
「はっ、ありがとうございます」
深く一礼をすると、リンジーは一歩後ろに下がった。
予想外のリンジーの言葉に驚かされたが、国王も含め全員がすぐに気が付いた。
カーンを生かすために、リンジーがあえて卑劣とも言える提案をした事に。
そして国王はリンジーの気持ちを汲んだ。
いつも敵対していたリンジーが、なぜカーンのためにそんな提案をしたのかは分からない。
リンジー自身も気が付いていないが、その表情に少なからず安堵の色が浮かんでいた。
まともになっただろうと思ってはいたが、やはりクラッカーの印象が強すぎて、心のどこかで疑ってもいたのだが、話しが進むに連れて疑っていた自分が馬鹿らしくなる程に、ロンズデール国王は理路整然とした態度で場を回していた。
そして国王の隣では、大臣のバルカルセルが穏やかな笑みを浮かべて立ち、階下のレイチェル達一行に顔を向けていた。
大臣の表情からは険がとれ、心の落ち着きが見て取れる。
それはやはり、国王との関係の修復ができたという事が要因だろう。
リンジー、ファビアナ、ガラハドの三人もこの場にいるが、国王と大臣の間の空気が見た事も無い程穏やかになっている事が感じ取れて、心の中で喜びを噛みしめていた。
「さて、それではそろそろ本題に入ろうか。大臣からはすでに話してあると聞いたが、ロンズデールとクインズベリーの同盟についてだ。其方らはどう思う?」
「はい。昨日同盟についてのお話しは伺っております。我々としましても実現すべきご提案と思っております。クインズベリー国女王の判断になりますが、我々の意見は一致しております」
一行を代表して、先頭に並んだビリージョーが言葉を返した。
年長者としての落ち着き、そして日頃から王侯貴族を相手に商売をしているため、他国の王であっても物怖じせずに意見述べる事ができるため、基本的にはビリージョーを中心に受け答えをしようと事前に決めていたのである。
最も、今回のクルーズ船での一件で、ロンズデール国王に対しては、距離感が曖昧になってしまい、誰が対応しても物怖じする事はなかったのだが、礼節を持った対応となるとやはりビリージョーが適任だった。
「うむ、それならば展望は明るいな。ロンズデールとしての意志も同じだ。もはや帝国とは戦うしか道はない。帝国の力は絶大・・・しかし、今回クルーズ船で帝国に勝利できたように、両国が力を合わせれば決して勝てない相手ではないだろう。アンリエール女王陛下へ書簡を持たせよう。よろしく頼んだぞ」
「はっ、確かに承りました。必ずや両国にとって最良の選択になるでしょう」
迷いのない確かなビリージョーの返事で、話しに一つの区切りがつくと、リンジーが一歩前に出た。
「恐れながら陛下にお伺いしたい事がございます」
言葉を添えて頭を下げると、腰まで伸びた灰色の長い髪が床に着きそうになる。
二つに分けた髪の先には、小振りの宝石のような玉、魔道具の念操玉がリボンで結ばれていた。
「ん、なんだ?申してみよ」
リンジーの申し出に、国王は少し身を乗り出すと、玉座のひじ掛けから手を離して差し向けた。
「はい。ラミール・カーンはどうなりますか?」
魔道剣士隊の長、ラミール・カーン。今回の首謀者の一人である。
大海の船団の船長、ウラジミール・セルヒコと、オーナーであるギルバート・メンドーサが死亡した今、帝国の内情を知るのは今やラミール・カーンただ一人。
「・・・カーンか、ヤツの言いなりになってしまった私にも責任はある。だが、それでもヤツの犯した罪は大きすぎる。知っている事を全て聞き出した後は・・・処刑だ」
処刑と言う言葉が出た瞬間、リンジーの体がこわばった。
分かってはいた事だ。
そして自分もカーンと命を懸けて戦った。今更カーンの命に関して何か言葉を挟むつもりはなかった。
だが・・・・・
「・・・陛下、恐れながら申し上げます。ラミール・カーンにはまだ利用価値があるかと思います。なによりカーンの犯した罪は、その死を持って償えるものではないかと・・・・・帝国と戦争になったら
最前線で戦わせてはいかがでしょうか?カーンの力量は、処刑するにはもったいないかと思います」
リンジーの話しを周りで聞いていたアラタやレイチェル、全員がその内容に目を見開いた。
敵だったとは言え、人をただ戦いの道具として利用しようと提案するなど、思いもよらなかったからだ。
いつもファビアナを護っていた、優しいリンジーの言葉とはとても思えなかった。
「・・・・・リンジー、本心か?」
「はい。本心です。今回のクルーズ船の事を考えれば、戦争の最中に裏切る心配もないかと思います。帝国が受け入れる事もないでしょうから・・・」
国王がリンジーの目をじっと見つめると、リンジーも国王の視線を正面から受け止めて言葉を返した。
「・・・分かった。今回のクルーズ船でのそなたの貢献は大変大きいものだ。できるだけ考慮しよう」
「はっ、ありがとうございます」
深く一礼をすると、リンジーは一歩後ろに下がった。
予想外のリンジーの言葉に驚かされたが、国王も含め全員がすぐに気が付いた。
カーンを生かすために、リンジーがあえて卑劣とも言える提案をした事に。
そして国王はリンジーの気持ちを汲んだ。
いつも敵対していたリンジーが、なぜカーンのためにそんな提案をしたのかは分からない。
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