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687 長い一日の終わり

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迫りくる闇の波動に、アラタは迷いなく右ストレートを繰り出した。
最初の一撃より明らかに大きな波動だったが、アラタには絶対に負けないという確信があった。

そして光の拳と闇の波動がぶつかったと思った次の瞬間、ダリルの闇の波動はあっさりと打ち消された。

その拳に纏う光は、これまでよりもずっと強く大きく輝き、アラタに力を与えていた。

「ぐっ!ば、馬鹿な!こ、こんな事が・・・!」

もはや打つ手のなくなったダリルを見て、アラタは再び右半身を引いて、拳を脇の下で握り構えた。

意識していたわけではない。
だが、それができるとアラタは確信していた。風が拳に渦巻き、光は強く輝く。

「こんな事があるはずないんだぁぁぁーーーッ!」

もはや人間としての面影はない。ダリルだった闇は大きく口を開けると、この世のものとは思えない絶叫を響かせた。
ビリビリと肌に突き刺さる程の威圧は空気を震わせる。
部屋中に充満した闇の瘴気は数多の人の手を形作り、頭上から、足元から、背中から、そして正面から、四方八方隙間の無い程にアラタへと掴みかかった。


「ハァッ!」


無数の闇の手がアラタに掴みかかったその瞬間、気合と共にアラタの全身から発せられた光は、闇の手を一瞬で打ち消した。

「なぁッ!?」

まるで蒸発するように消された闇の手に、ダリルにはもはや言葉さえなかった。

「終わりだ。ダリル・パープルズ」

腰を回し、右腕を頭上高く振り上げた。右アッパーである。
しかし標的は拳の射程圏から大きく離れている。

だが、驚くべきは次の瞬間だった。

アラタが拳を振り抜くと、軌道の先へと緑の風を纏った光の球が撃ち放たれた!


「う、オァァァァァーーーーーーッツ!」


緑の風を纏った光の球はダリルを呑みこみ、そのまま天井を貫くと、夜の闇へと消えていった。

後には何も残らなかった。
その身を闇へと変えたダリルだが、光の球はダリルの肉も骨も髪の毛一本残さず、消滅させたのである。

拳と薙刀の違いはあったが、それは200年前の戦争で、弥生がセシリア・シールズを倒した風と光の融合技と同じであった。

ダリルを消滅させたからだろう。
部屋中を覆っていた闇は風に溶けるように消え、天井から差し込む星の明かりが室内を薄く照らした。


「・・・弥生さん・・・・・」

姿は見えない、声も聞こえない、だが確かに感じる温かさがあった。
全身に漲る力は自分のものではない。今自分が放った風と光の球も自分の技ではない。

「弥生さんが助けてくれたんですね・・・・・」

手にした新緑の欠片、その緑色の光が少しづつ小さくなっていく。
当然言葉を返してはくれないが、弥生が見守ってくれているように感じ、アラタの目から涙が零れ落ちた。



その後アラタは、騒ぎに駆け付けた仲間達に、闇の化身となったダリルと戦闘があった事を説明した。

逃がしたと思ったダリルが闇に乗じて舞い戻った事、それに気づかず奇襲を許した事に、レイチェル達は反省の弁を述べたが、結果的にここでダリルを倒せた事、クルーズ船での戦いの情報を帝国に渡さずに済んだ事は、大きなアドバンテージを持ったと考えた。

クルーズ船の戦いは、帝国の計画を潰したアラタ達、ロンズデールの勝利に終わった。


そして長かった一日が終わり、ロンズデールにとって帝国と決別した新しい朝が来た。
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