上 下
688 / 1,263

687 長い一日の終わり

しおりを挟む
迫りくる闇の波動に、アラタは迷いなく右ストレートを繰り出した。
最初の一撃より明らかに大きな波動だったが、アラタには絶対に負けないという確信があった。

そして光の拳と闇の波動がぶつかったと思った次の瞬間、ダリルの闇の波動はあっさりと打ち消された。

その拳に纏う光は、これまでよりもずっと強く大きく輝き、アラタに力を与えていた。

「ぐっ!ば、馬鹿な!こ、こんな事が・・・!」

もはや打つ手のなくなったダリルを見て、アラタは再び右半身を引いて、拳を脇の下で握り構えた。

意識していたわけではない。
だが、それができるとアラタは確信していた。風が拳に渦巻き、光は強く輝く。

「こんな事があるはずないんだぁぁぁーーーッ!」

もはや人間としての面影はない。ダリルだった闇は大きく口を開けると、この世のものとは思えない絶叫を響かせた。
ビリビリと肌に突き刺さる程の威圧は空気を震わせる。
部屋中に充満した闇の瘴気は数多の人の手を形作り、頭上から、足元から、背中から、そして正面から、四方八方隙間の無い程にアラタへと掴みかかった。


「ハァッ!」


無数の闇の手がアラタに掴みかかったその瞬間、気合と共にアラタの全身から発せられた光は、闇の手を一瞬で打ち消した。

「なぁッ!?」

まるで蒸発するように消された闇の手に、ダリルにはもはや言葉さえなかった。

「終わりだ。ダリル・パープルズ」

腰を回し、右腕を頭上高く振り上げた。右アッパーである。
しかし標的は拳の射程圏から大きく離れている。

だが、驚くべきは次の瞬間だった。

アラタが拳を振り抜くと、軌道の先へと緑の風を纏った光の球が撃ち放たれた!


「う、オァァァァァーーーーーーッツ!」


緑の風を纏った光の球はダリルを呑みこみ、そのまま天井を貫くと、夜の闇へと消えていった。

後には何も残らなかった。
その身を闇へと変えたダリルだが、光の球はダリルの肉も骨も髪の毛一本残さず、消滅させたのである。

拳と薙刀の違いはあったが、それは200年前の戦争で、弥生がセシリア・シールズを倒した風と光の融合技と同じであった。

ダリルを消滅させたからだろう。
部屋中を覆っていた闇は風に溶けるように消え、天井から差し込む星の明かりが室内を薄く照らした。


「・・・弥生さん・・・・・」

姿は見えない、声も聞こえない、だが確かに感じる温かさがあった。
全身に漲る力は自分のものではない。今自分が放った風と光の球も自分の技ではない。

「弥生さんが助けてくれたんですね・・・・・」

手にした新緑の欠片、その緑色の光が少しづつ小さくなっていく。
当然言葉を返してはくれないが、弥生が見守ってくれているように感じ、アラタの目から涙が零れ落ちた。



その後アラタは、騒ぎに駆け付けた仲間達に、闇の化身となったダリルと戦闘があった事を説明した。

逃がしたと思ったダリルが闇に乗じて舞い戻った事、それに気づかず奇襲を許した事に、レイチェル達は反省の弁を述べたが、結果的にここでダリルを倒せた事、クルーズ船での戦いの情報を帝国に渡さずに済んだ事は、大きなアドバンテージを持ったと考えた。

クルーズ船の戦いは、帝国の計画を潰したアラタ達、ロンズデールの勝利に終わった。


そして長かった一日が終わり、ロンズデールにとって帝国と決別した新しい朝が来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...