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684 夜の侵入者
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「・・・へぇー、悪くないじゃん?」
アラルコン商会が経営する宿のロビーで、ディリアンが内装を見回しながら値定めするように呟いた。
「いやいや、何言ってんだよディリアン?この絨毯めっちゃフカフカだぞ?ロビーに敷いていいヤツなの?この壺とか、あの絵とか、よく分かんないけど高いんだろ?本当は俺らが泊まれないくらい高いとこなんじゃないのか?」
天井には煌びやかで大きなシャンデリア、ファビアナやサリーが腰を下ろしているソファも、革を見ただけで違いが分かる。時折ロビーを歩く他の宿泊客を見かけるが、一目で富裕層だと分かる身なりだった。そんな豪華絢爛な宿だったが、それを上から目線で評価するディリアンに、アラタが宿の凄さを説明しながら話しかけると、ディリアンは小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ふん、アラタお前、俺が公爵家だって事忘れたのか?確かに悪くはないが、この程度の建物は公爵家の所有する物件にいくらでもある。お前ら貧乏人と一緒にするな」
「お、おいおい、お前そんな失礼な事ここで言うなよ!シャノンさんに聞こえたらどうすんだよ?」
慌ててディリアンの口を押えると、ディリアンは顔をしかめてアラタの手を掴んだ。
「ぷはっ!お前いきなりなんだよ!苦しいじゃねぇ・・・」
アラタに文句を言おうとしてディリアンは固まった。
アラタの後ろで鋭く自分を睨みつける、赤い髪の女戦士に気圧されたからだ。
「ディリアン、キミさ・・・そういうとこ直せって私教えたよね?」
「あ、姉さん、別に俺は・・・」
「シャノンが受付で話してて聞こえてなかったからいいけど、そういう高慢なところは私は嫌いだ」
「・・・・・」
「ディリアン、ロンズデールに来て、キミの良いところも私は沢山見つけたんだ。ビリージョーさんも言ってたぞ。ディリアンは本当は誰よりも優しいって。だから、もう二度と何かを見下すような事は言わないでくれ」
レイチェルの手が優しくディリアンの肩に置かれると、顔を背けながらだがディリアンは、分かったと返事をして、小さく頷いた。
それから受付けに話しを通したシャノンが戻って来ると、係員からそれぞれが部屋へと案内された。
一人一部屋を使う事もできたが、サリーはバルデスの看病をすると言って譲らず、結局バルデスの部屋から出る事はなかった。
ファビアナとガラハドも、リンジーが起きた時に誰かが傍にいないとという理由で、三人で一部屋を使う事になった。
ディリアンはビリージョーと、今回の戦いの事など色々話したいと言って、男二人で部屋を取った。
レイチェルとシャノンも、クインズベリーとロンズデール、両国の事や、アラルコン商会のクインベリー支店の事を話したいと言って、二人で一部屋を取った。
そしてアラタは一人部屋に入り、ベットに横になっていた。
夜は深まり外は暗闇に包まれている。
夜中に外を出歩く人はいないため、話し声はおろか、足音一つ聞こえる事がない。
枕横に付けられた小さな発光石の明かりだけが、アラタの存在を薄く照らしていた。
「・・・ふぅ・・・やっぱり、けっこう、キツイ、な・・・・・・・・」
ラルス・ネイリーと戦い、リコ・ヴァリンには死んでもおかしくない傷を負わされた。
アロル・ヘイモンとは相打ちにちかい形での薄氷の勝利、更に失血死寸前にまで追い込まれた。
そしてダリル・パープルズとの戦いでは、倒れるギリギリのところまで光の力を使う事になった。
限界もいいところだった。
ここまで自分の足で立って歩いて来た事が、信じられない程の精神力である。
ベットに横になり、やっと緊張を解いた。
するとこれまで隠していた疲労が一気に溢れだし、アラタの意識は深い眠り海へと引きずり込まれた。
金縛りというものは、疲れが溜まっている時におきるとも言われている。
それが条件ならば、今のアラタの状態は疲労の限界であり、金縛りにあってもおかしくはない。
だが体を締め付ける強烈な圧迫感に、意識が呼び起こされて瞼を開けると、アラタは自分を見下ろすその男を目にして頭が覚醒した。
中分けで整えられたシルバーグレーの髪、目鼻立ちは高く、シャープ顎のライン、まるでハリウッド俳優のようなその男を忘れるはずもない。
「ダ、ダリル、パープルズ!」
「フハハハハ、また会ったな?」
肩から下は闇の瘴気へと変わっており、その存在はまるで幽鬼のようにも見えた。
その瘴気は部屋全体に広がり、アラタの体を締め付けていた。
「船ではやられたが、夜こそ私の時間だ。真の闇の力を見せてやろう」
顔だけを黒く暗い宙に浮かべ、闇に染まったダリル・パープルズはアラタを見下ろして笑った。
アラルコン商会が経営する宿のロビーで、ディリアンが内装を見回しながら値定めするように呟いた。
「いやいや、何言ってんだよディリアン?この絨毯めっちゃフカフカだぞ?ロビーに敷いていいヤツなの?この壺とか、あの絵とか、よく分かんないけど高いんだろ?本当は俺らが泊まれないくらい高いとこなんじゃないのか?」
天井には煌びやかで大きなシャンデリア、ファビアナやサリーが腰を下ろしているソファも、革を見ただけで違いが分かる。時折ロビーを歩く他の宿泊客を見かけるが、一目で富裕層だと分かる身なりだった。そんな豪華絢爛な宿だったが、それを上から目線で評価するディリアンに、アラタが宿の凄さを説明しながら話しかけると、ディリアンは小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ふん、アラタお前、俺が公爵家だって事忘れたのか?確かに悪くはないが、この程度の建物は公爵家の所有する物件にいくらでもある。お前ら貧乏人と一緒にするな」
「お、おいおい、お前そんな失礼な事ここで言うなよ!シャノンさんに聞こえたらどうすんだよ?」
慌ててディリアンの口を押えると、ディリアンは顔をしかめてアラタの手を掴んだ。
「ぷはっ!お前いきなりなんだよ!苦しいじゃねぇ・・・」
アラタに文句を言おうとしてディリアンは固まった。
アラタの後ろで鋭く自分を睨みつける、赤い髪の女戦士に気圧されたからだ。
「ディリアン、キミさ・・・そういうとこ直せって私教えたよね?」
「あ、姉さん、別に俺は・・・」
「シャノンが受付で話してて聞こえてなかったからいいけど、そういう高慢なところは私は嫌いだ」
「・・・・・」
「ディリアン、ロンズデールに来て、キミの良いところも私は沢山見つけたんだ。ビリージョーさんも言ってたぞ。ディリアンは本当は誰よりも優しいって。だから、もう二度と何かを見下すような事は言わないでくれ」
レイチェルの手が優しくディリアンの肩に置かれると、顔を背けながらだがディリアンは、分かったと返事をして、小さく頷いた。
それから受付けに話しを通したシャノンが戻って来ると、係員からそれぞれが部屋へと案内された。
一人一部屋を使う事もできたが、サリーはバルデスの看病をすると言って譲らず、結局バルデスの部屋から出る事はなかった。
ファビアナとガラハドも、リンジーが起きた時に誰かが傍にいないとという理由で、三人で一部屋を使う事になった。
ディリアンはビリージョーと、今回の戦いの事など色々話したいと言って、男二人で部屋を取った。
レイチェルとシャノンも、クインズベリーとロンズデール、両国の事や、アラルコン商会のクインベリー支店の事を話したいと言って、二人で一部屋を取った。
そしてアラタは一人部屋に入り、ベットに横になっていた。
夜は深まり外は暗闇に包まれている。
夜中に外を出歩く人はいないため、話し声はおろか、足音一つ聞こえる事がない。
枕横に付けられた小さな発光石の明かりだけが、アラタの存在を薄く照らしていた。
「・・・ふぅ・・・やっぱり、けっこう、キツイ、な・・・・・・・・」
ラルス・ネイリーと戦い、リコ・ヴァリンには死んでもおかしくない傷を負わされた。
アロル・ヘイモンとは相打ちにちかい形での薄氷の勝利、更に失血死寸前にまで追い込まれた。
そしてダリル・パープルズとの戦いでは、倒れるギリギリのところまで光の力を使う事になった。
限界もいいところだった。
ここまで自分の足で立って歩いて来た事が、信じられない程の精神力である。
ベットに横になり、やっと緊張を解いた。
するとこれまで隠していた疲労が一気に溢れだし、アラタの意識は深い眠り海へと引きずり込まれた。
金縛りというものは、疲れが溜まっている時におきるとも言われている。
それが条件ならば、今のアラタの状態は疲労の限界であり、金縛りにあってもおかしくはない。
だが体を締め付ける強烈な圧迫感に、意識が呼び起こされて瞼を開けると、アラタは自分を見下ろすその男を目にして頭が覚醒した。
中分けで整えられたシルバーグレーの髪、目鼻立ちは高く、シャープ顎のライン、まるでハリウッド俳優のようなその男を忘れるはずもない。
「ダ、ダリル、パープルズ!」
「フハハハハ、また会ったな?」
肩から下は闇の瘴気へと変わっており、その存在はまるで幽鬼のようにも見えた。
その瘴気は部屋全体に広がり、アラタの体を締め付けていた。
「船ではやられたが、夜こそ私の時間だ。真の闇の力を見せてやろう」
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