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682 生還 ①

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「お嬢様!ご無事でしたか!よかった!」

「あ、マレスじゃないか。来てくれたんだ?」

港にボートが着くなり、人だかりをかき分けて、アラルコン商会の関係者が大勢詰め寄ってきた。
大型客船ギルバート・メンドーサ号の沈没を知って、全従業員が仕事も放りだして駆け付けたのだ。

アブエル・マレスはアラルコン商会の役員であり、シャノンの信頼厚い男である。

シャノンがこのクルーズ船に乗り込む際にも強く引き留めた。だが大海の船団との決着、そしてロンズデールの行く末を決めるこの船には、国一番の商会の跡取りとして乗らねばならない。
そのシャノンの覚悟を受け止めて、マレスはシャノンの不在の間は、自分が店を護ると誓いシャノンを送り出したのだ。

「あ、確か魔道具店の店員さんだね」

シャノンの後ろにいたレイチェルが、マレスを見て呟くと、マレスはレイチェルに顔を向けて会釈をした。

「アブエル・マレスと申します。レイチェル・エリオット様ですね。まずはお上がりください」

シャノンがボートから上がると、マレスはレイチェルに手を差し出した。

「・・・えっと、ありがとう。アラルコン商会の方は紳士だね」

勝気な性格と、日頃からレイジェスの男達に指示を出しているレイチェルは、思いもよらないエスコートを受けて一瞬言葉に詰まってしまった。

「足元にお気を付けください」

マレスの手を取ってボートから上がると、シャノンが面白そうに声をかけて来た。

「マレスはね、平民だけど貴族並み教養があるの。アラルコン商会の会長が見込んだ男で、徹底的に仕込んだのさ。私が留守にしててもうまく仕切ってくれるし、頼りになるんだよね。もう頼りになり過ぎて、アタシがいなくてもいいんじゃない?なんて思っちゃうくらい」

「へぇ、シャノンがいなくてもいいくらいねぇ・・・じゃあシャノンはクインズベリーに来たらいいんじゃないかい?今度支店を出すだろ?ロンズデールは彼に任せてさ。なんならレイジェスに移籍してもいいんだよ?」

「いやいや、私は跡取り娘だから本店に残りますよー。クインズベリーに行ったらレイチェルにいじめられそうだしね」

チラリと意地悪そうな顔を見せるレイチェルに、シャノンもニヤリと笑って言葉を返した。

「あははは、どうやら諦めるしかないようだね。まぁ、支店の話しはあとにしようか、みんなボートから上がったようだ」

「そうそう、アタシの引き抜きは諦めてね。あはは、うん、みんな大丈夫みたいだね・・・でも、リンジーはまだ寝てるか」

ガラハドの背には、まだ意識の戻らないリンジーが力無くその身を預けていた。

「心配はいらないだろう。サリーとファビアナの二人がヒールをかけて、後遺症も残らないと言っていたんだ。時期に目を覚ますさ」

「・・・うん、そうだね。本当にみんな無事で良かったよ」


「やっ!お互い生き残ったねー」

突然背中から声を掛けられ、シャノンとレイチェルが振り返ると、濃い金髪の女性、ラクエル・エンリケスが笑顔で立っていた。

「お前は、ラクエル・エンリケス・・・生き残ったのか」

「まぁねー、あんなとこで死んでらんないっしょ?赤髪、あー、レイチェルだったよね?そんな怖い顔しないでって。シャノンちゃんと休戦したから、ここまで何もなく帰ってこれたんだよ?カーンもアレだし、魔道剣士隊も解散じゃないかな?アタシもこの国出るしさ、最後にあんたと話しておきたかっただけなんだよね」

あっけらかんとした軽い調子に、レイチェルは毒気を抜かれてしまい、手持無沙汰に頬を掻いた。

「レイチェル、本当の事だよ。あんたが気を失ってた時、無事に帰るまで休戦して協力しようって話したんだ。だからあの乗客の人達もちゃんと帰ってこれたんだよ。話し方は軽いけど、けっこうしっかりしてるよね」

シャノンがラクエルの言葉に足して話すと、レイチェルも納得したように頷いた。

「・・・そうか、まぁ私もお前とわざわざ敵対するつもりはない。それで、国を出るって本当か?どこへ行くんだ?」

「別にあてはないよ。エマのママさんがさ、ちょっと訳アリっぽくてね。どこか新しい場所で新しい生活をしたいんだって。それでアタシも誘われてさ、一緒に行く事にしたよ。アタシも新しい生き方ってのしてみようかなって思ってさ」

そう話すラクエルの笑顔はとても晴れやかなものだった。
純粋に新たな道を歩もうとしているラクエルの気持ちを感じて、レイチェルは自然と右手を前に出していた。

「うん、そうか・・・それもいいと思う。応援するよ」

「マジ?ありがと!あんたには負けちゃったけど、不思議と悔しくないんだ。なんかスッキリしたって言うか、こんな気持ち初めてだよ・・・だからかな。行く前にもう一回会いたかったんだよね?」

ラクエルはレイチェルの手をしっかりと握ると、もう一度笑顔を見せた。
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