682 / 1,253
681 脱出 ③
しおりを挟む
「あ、港が見えてきたよ」
シャノンが風魔法を使いボートを進ませていると、出発した時の港が視界に入ってきた。
「ファビアナの魔蝶のおかげで迷わずにすんだな。正直どっちに行けばいいか分からんかったからな」
ガラハドに褒められると、ファビアナは微笑みを返した。
脱出には成功したが、大海原で右も左も分からない状況だった。
だが、ファビアナの魔道具魔蝶は、偵察用である。
陸地を探して飛ばし、ボートを誘導していたのである。
「ありがとうございます。私は戦闘はできませんから、みんなの役に立てて良かったです」
「なに言ってるんだい?戦えないから役に立たないって事はないんだよ?実際、私はキミのヒールでこの通り完治した。ありがとう、ファビアナ」
今回の戦いで戦闘には参加しなかったファビアナが、自分は何もできなかったと口にするので、レイチェルが右手を掲げて見せた。
リコ・ヴァリンとの戦いで右半身が潰されていたが、サリーとファビアナのヒールで綺麗に元に戻っている。
「レイチェルさん、うん、それなら良かった」
「だから、レイチェルでいいって。ファビアナも真面目だね」
二人が笑い合ったところで、アラタは一つ気になっていたことを口にした。
「なぁ、レイチェル。気になってたんだけど、その剣って、あの女の剣だよな?」
アラタの視線に気付き、右手に持つ極限まで薄く鍛えられた透明の剣に目を向ける。
自分が意識を失っていた時も、決して離さないという意思を感じる程に、強く掴んでいたと聞いた。
「あぁ・・・アラタもあの女、リコ・ヴァリンと戦ったのなら知っているか。そう、これはリコ・ヴァリンの使っていたガラスの剣だ。死ぬ間際に私に持って行けと言ってきたのでね」
戦い敗れた相手に自分の愛用の武器を託す。
理解のできない感情ではなかった。きっとレイチェルとリコ・ヴァリンは、命を懸けた戦いの中で、ある種の繋がり、友情のようなものを感じたのだろう。
「・・・レイチェル、剣も使えるのか?」
「近接用の武器は一通り使った事がある。だから使おうと思えば使えないわけではないのだが、私はナイフが一番向いていると自覚している。だから、この剣を使いこなす事はできないだろう」
「そっか、じゃあその剣はしまって置くの?」
「いや、私はリコ・ヴァリンに、魂は連れて行くと約束したからな。この剣は使うつもりだ。だが、このまま私が使ってもガラスの剣の力を発揮できない。だからどうするのが一番いいか、帰ったら店長に相談してみるよ」
向こう側が空けて見える程薄いその剣は、武器と言うよりは芸術品に近い感覚があった。
ガラスの剣をじっと見つめるレイチェルは、その刀身の先に何かを追い求めているように見えた。
「・・・レイチェル、俺も帰ったら、また店長と話してみるよ。聞きたい事が山のようにあるんだ」
「そうか・・・そう言えば、帰って来たらアラタを鍛えてやるって言ってたな。いい機会だから、しっかり強くしてもらうんだな」
レイチェルの師匠である、レイジェスの店長、その正体はカエストゥス国の黒魔法使いウィッカー・バリオス。
確認したわけではないが、アラタとレイチェルの二人は、確信を持っていた。
なにより以前、アラタが店長に弥生の事を聞いた時の返答は、店長が自分はウィッカーであると認めたも同然だった。
長年自分の事には口をつぐんでいた店長が、なぜ急に正体を明かすような事を口にしたのかは分からない。
だがレイチェルは、店長が帰って来てから行動を共にする事が多くなり、ある変化を感じていた。
「・・・大丈夫、だよね・・・」
意識はしていなかった。けれど胸の不安が小さな呟きになって声に出ていた。
「ん?レイチェル、何か言った?」
「・・・いや、何でもない。アラタ、早くレイジェスに帰りたいな」
「・・・レイチェルがそんな事言うなんて、なんか意外だな。でも、俺も早く帰りたいよ。こういうのホームシックって言うのかな?」
「ハハハ、レイジェスを自分の家と思ってくれてるのなら、私はとても嬉しいよ。さて・・・港につくまで私はもう少し休ませてもらうよ」
そう話すと、レイチェルは会話の終わりを告げるように、腕を組んで目を閉じた。
アラタも何かを感じ取り、それ以上レイチェルに言葉をかける事はせず、少しづつ大きくなる港の景色に目を向けていた。
それから港に着くまでは静かな時間が流れた。
疲労から誰もが口を閉じ、時折聞こえてくるのは波の音だけだった。
ファビアナの魔蝶の誘導に、シャノンが風魔法でボートを進ませる。
そして空がオレンジ色から、夕焼けの赤に染まった頃、ボートは港へ流れ着いた。
シャノンが風魔法を使いボートを進ませていると、出発した時の港が視界に入ってきた。
「ファビアナの魔蝶のおかげで迷わずにすんだな。正直どっちに行けばいいか分からんかったからな」
ガラハドに褒められると、ファビアナは微笑みを返した。
脱出には成功したが、大海原で右も左も分からない状況だった。
だが、ファビアナの魔道具魔蝶は、偵察用である。
陸地を探して飛ばし、ボートを誘導していたのである。
「ありがとうございます。私は戦闘はできませんから、みんなの役に立てて良かったです」
「なに言ってるんだい?戦えないから役に立たないって事はないんだよ?実際、私はキミのヒールでこの通り完治した。ありがとう、ファビアナ」
今回の戦いで戦闘には参加しなかったファビアナが、自分は何もできなかったと口にするので、レイチェルが右手を掲げて見せた。
リコ・ヴァリンとの戦いで右半身が潰されていたが、サリーとファビアナのヒールで綺麗に元に戻っている。
「レイチェルさん、うん、それなら良かった」
「だから、レイチェルでいいって。ファビアナも真面目だね」
二人が笑い合ったところで、アラタは一つ気になっていたことを口にした。
「なぁ、レイチェル。気になってたんだけど、その剣って、あの女の剣だよな?」
アラタの視線に気付き、右手に持つ極限まで薄く鍛えられた透明の剣に目を向ける。
自分が意識を失っていた時も、決して離さないという意思を感じる程に、強く掴んでいたと聞いた。
「あぁ・・・アラタもあの女、リコ・ヴァリンと戦ったのなら知っているか。そう、これはリコ・ヴァリンの使っていたガラスの剣だ。死ぬ間際に私に持って行けと言ってきたのでね」
戦い敗れた相手に自分の愛用の武器を託す。
理解のできない感情ではなかった。きっとレイチェルとリコ・ヴァリンは、命を懸けた戦いの中で、ある種の繋がり、友情のようなものを感じたのだろう。
「・・・レイチェル、剣も使えるのか?」
「近接用の武器は一通り使った事がある。だから使おうと思えば使えないわけではないのだが、私はナイフが一番向いていると自覚している。だから、この剣を使いこなす事はできないだろう」
「そっか、じゃあその剣はしまって置くの?」
「いや、私はリコ・ヴァリンに、魂は連れて行くと約束したからな。この剣は使うつもりだ。だが、このまま私が使ってもガラスの剣の力を発揮できない。だからどうするのが一番いいか、帰ったら店長に相談してみるよ」
向こう側が空けて見える程薄いその剣は、武器と言うよりは芸術品に近い感覚があった。
ガラスの剣をじっと見つめるレイチェルは、その刀身の先に何かを追い求めているように見えた。
「・・・レイチェル、俺も帰ったら、また店長と話してみるよ。聞きたい事が山のようにあるんだ」
「そうか・・・そう言えば、帰って来たらアラタを鍛えてやるって言ってたな。いい機会だから、しっかり強くしてもらうんだな」
レイチェルの師匠である、レイジェスの店長、その正体はカエストゥス国の黒魔法使いウィッカー・バリオス。
確認したわけではないが、アラタとレイチェルの二人は、確信を持っていた。
なにより以前、アラタが店長に弥生の事を聞いた時の返答は、店長が自分はウィッカーであると認めたも同然だった。
長年自分の事には口をつぐんでいた店長が、なぜ急に正体を明かすような事を口にしたのかは分からない。
だがレイチェルは、店長が帰って来てから行動を共にする事が多くなり、ある変化を感じていた。
「・・・大丈夫、だよね・・・」
意識はしていなかった。けれど胸の不安が小さな呟きになって声に出ていた。
「ん?レイチェル、何か言った?」
「・・・いや、何でもない。アラタ、早くレイジェスに帰りたいな」
「・・・レイチェルがそんな事言うなんて、なんか意外だな。でも、俺も早く帰りたいよ。こういうのホームシックって言うのかな?」
「ハハハ、レイジェスを自分の家と思ってくれてるのなら、私はとても嬉しいよ。さて・・・港につくまで私はもう少し休ませてもらうよ」
そう話すと、レイチェルは会話の終わりを告げるように、腕を組んで目を閉じた。
アラタも何かを感じ取り、それ以上レイチェルに言葉をかける事はせず、少しづつ大きくなる港の景色に目を向けていた。
それから港に着くまでは静かな時間が流れた。
疲労から誰もが口を閉じ、時折聞こえてくるのは波の音だけだった。
ファビアナの魔蝶の誘導に、シャノンが風魔法でボートを進ませる。
そして空がオレンジ色から、夕焼けの赤に染まった頃、ボートは港へ流れ着いた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる