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681 脱出 ③
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「あ、港が見えてきたよ」
シャノンが風魔法を使いボートを進ませていると、出発した時の港が視界に入ってきた。
「ファビアナの魔蝶のおかげで迷わずにすんだな。正直どっちに行けばいいか分からんかったからな」
ガラハドに褒められると、ファビアナは微笑みを返した。
脱出には成功したが、大海原で右も左も分からない状況だった。
だが、ファビアナの魔道具魔蝶は、偵察用である。
陸地を探して飛ばし、ボートを誘導していたのである。
「ありがとうございます。私は戦闘はできませんから、みんなの役に立てて良かったです」
「なに言ってるんだい?戦えないから役に立たないって事はないんだよ?実際、私はキミのヒールでこの通り完治した。ありがとう、ファビアナ」
今回の戦いで戦闘には参加しなかったファビアナが、自分は何もできなかったと口にするので、レイチェルが右手を掲げて見せた。
リコ・ヴァリンとの戦いで右半身が潰されていたが、サリーとファビアナのヒールで綺麗に元に戻っている。
「レイチェルさん、うん、それなら良かった」
「だから、レイチェルでいいって。ファビアナも真面目だね」
二人が笑い合ったところで、アラタは一つ気になっていたことを口にした。
「なぁ、レイチェル。気になってたんだけど、その剣って、あの女の剣だよな?」
アラタの視線に気付き、右手に持つ極限まで薄く鍛えられた透明の剣に目を向ける。
自分が意識を失っていた時も、決して離さないという意思を感じる程に、強く掴んでいたと聞いた。
「あぁ・・・アラタもあの女、リコ・ヴァリンと戦ったのなら知っているか。そう、これはリコ・ヴァリンの使っていたガラスの剣だ。死ぬ間際に私に持って行けと言ってきたのでね」
戦い敗れた相手に自分の愛用の武器を託す。
理解のできない感情ではなかった。きっとレイチェルとリコ・ヴァリンは、命を懸けた戦いの中で、ある種の繋がり、友情のようなものを感じたのだろう。
「・・・レイチェル、剣も使えるのか?」
「近接用の武器は一通り使った事がある。だから使おうと思えば使えないわけではないのだが、私はナイフが一番向いていると自覚している。だから、この剣を使いこなす事はできないだろう」
「そっか、じゃあその剣はしまって置くの?」
「いや、私はリコ・ヴァリンに、魂は連れて行くと約束したからな。この剣は使うつもりだ。だが、このまま私が使ってもガラスの剣の力を発揮できない。だからどうするのが一番いいか、帰ったら店長に相談してみるよ」
向こう側が空けて見える程薄いその剣は、武器と言うよりは芸術品に近い感覚があった。
ガラスの剣をじっと見つめるレイチェルは、その刀身の先に何かを追い求めているように見えた。
「・・・レイチェル、俺も帰ったら、また店長と話してみるよ。聞きたい事が山のようにあるんだ」
「そうか・・・そう言えば、帰って来たらアラタを鍛えてやるって言ってたな。いい機会だから、しっかり強くしてもらうんだな」
レイチェルの師匠である、レイジェスの店長、その正体はカエストゥス国の黒魔法使いウィッカー・バリオス。
確認したわけではないが、アラタとレイチェルの二人は、確信を持っていた。
なにより以前、アラタが店長に弥生の事を聞いた時の返答は、店長が自分はウィッカーであると認めたも同然だった。
長年自分の事には口をつぐんでいた店長が、なぜ急に正体を明かすような事を口にしたのかは分からない。
だがレイチェルは、店長が帰って来てから行動を共にする事が多くなり、ある変化を感じていた。
「・・・大丈夫、だよね・・・」
意識はしていなかった。けれど胸の不安が小さな呟きになって声に出ていた。
「ん?レイチェル、何か言った?」
「・・・いや、何でもない。アラタ、早くレイジェスに帰りたいな」
「・・・レイチェルがそんな事言うなんて、なんか意外だな。でも、俺も早く帰りたいよ。こういうのホームシックって言うのかな?」
「ハハハ、レイジェスを自分の家と思ってくれてるのなら、私はとても嬉しいよ。さて・・・港につくまで私はもう少し休ませてもらうよ」
そう話すと、レイチェルは会話の終わりを告げるように、腕を組んで目を閉じた。
アラタも何かを感じ取り、それ以上レイチェルに言葉をかける事はせず、少しづつ大きくなる港の景色に目を向けていた。
それから港に着くまでは静かな時間が流れた。
疲労から誰もが口を閉じ、時折聞こえてくるのは波の音だけだった。
ファビアナの魔蝶の誘導に、シャノンが風魔法でボートを進ませる。
そして空がオレンジ色から、夕焼けの赤に染まった頃、ボートは港へ流れ着いた。
シャノンが風魔法を使いボートを進ませていると、出発した時の港が視界に入ってきた。
「ファビアナの魔蝶のおかげで迷わずにすんだな。正直どっちに行けばいいか分からんかったからな」
ガラハドに褒められると、ファビアナは微笑みを返した。
脱出には成功したが、大海原で右も左も分からない状況だった。
だが、ファビアナの魔道具魔蝶は、偵察用である。
陸地を探して飛ばし、ボートを誘導していたのである。
「ありがとうございます。私は戦闘はできませんから、みんなの役に立てて良かったです」
「なに言ってるんだい?戦えないから役に立たないって事はないんだよ?実際、私はキミのヒールでこの通り完治した。ありがとう、ファビアナ」
今回の戦いで戦闘には参加しなかったファビアナが、自分は何もできなかったと口にするので、レイチェルが右手を掲げて見せた。
リコ・ヴァリンとの戦いで右半身が潰されていたが、サリーとファビアナのヒールで綺麗に元に戻っている。
「レイチェルさん、うん、それなら良かった」
「だから、レイチェルでいいって。ファビアナも真面目だね」
二人が笑い合ったところで、アラタは一つ気になっていたことを口にした。
「なぁ、レイチェル。気になってたんだけど、その剣って、あの女の剣だよな?」
アラタの視線に気付き、右手に持つ極限まで薄く鍛えられた透明の剣に目を向ける。
自分が意識を失っていた時も、決して離さないという意思を感じる程に、強く掴んでいたと聞いた。
「あぁ・・・アラタもあの女、リコ・ヴァリンと戦ったのなら知っているか。そう、これはリコ・ヴァリンの使っていたガラスの剣だ。死ぬ間際に私に持って行けと言ってきたのでね」
戦い敗れた相手に自分の愛用の武器を託す。
理解のできない感情ではなかった。きっとレイチェルとリコ・ヴァリンは、命を懸けた戦いの中で、ある種の繋がり、友情のようなものを感じたのだろう。
「・・・レイチェル、剣も使えるのか?」
「近接用の武器は一通り使った事がある。だから使おうと思えば使えないわけではないのだが、私はナイフが一番向いていると自覚している。だから、この剣を使いこなす事はできないだろう」
「そっか、じゃあその剣はしまって置くの?」
「いや、私はリコ・ヴァリンに、魂は連れて行くと約束したからな。この剣は使うつもりだ。だが、このまま私が使ってもガラスの剣の力を発揮できない。だからどうするのが一番いいか、帰ったら店長に相談してみるよ」
向こう側が空けて見える程薄いその剣は、武器と言うよりは芸術品に近い感覚があった。
ガラスの剣をじっと見つめるレイチェルは、その刀身の先に何かを追い求めているように見えた。
「・・・レイチェル、俺も帰ったら、また店長と話してみるよ。聞きたい事が山のようにあるんだ」
「そうか・・・そう言えば、帰って来たらアラタを鍛えてやるって言ってたな。いい機会だから、しっかり強くしてもらうんだな」
レイチェルの師匠である、レイジェスの店長、その正体はカエストゥス国の黒魔法使いウィッカー・バリオス。
確認したわけではないが、アラタとレイチェルの二人は、確信を持っていた。
なにより以前、アラタが店長に弥生の事を聞いた時の返答は、店長が自分はウィッカーであると認めたも同然だった。
長年自分の事には口をつぐんでいた店長が、なぜ急に正体を明かすような事を口にしたのかは分からない。
だがレイチェルは、店長が帰って来てから行動を共にする事が多くなり、ある変化を感じていた。
「・・・大丈夫、だよね・・・」
意識はしていなかった。けれど胸の不安が小さな呟きになって声に出ていた。
「ん?レイチェル、何か言った?」
「・・・いや、何でもない。アラタ、早くレイジェスに帰りたいな」
「・・・レイチェルがそんな事言うなんて、なんか意外だな。でも、俺も早く帰りたいよ。こういうのホームシックって言うのかな?」
「ハハハ、レイジェスを自分の家と思ってくれてるのなら、私はとても嬉しいよ。さて・・・港につくまで私はもう少し休ませてもらうよ」
そう話すと、レイチェルは会話の終わりを告げるように、腕を組んで目を閉じた。
アラタも何かを感じ取り、それ以上レイチェルに言葉をかける事はせず、少しづつ大きくなる港の景色に目を向けていた。
それから港に着くまでは静かな時間が流れた。
疲労から誰もが口を閉じ、時折聞こえてくるのは波の音だけだった。
ファビアナの魔蝶の誘導に、シャノンが風魔法でボートを進ませる。
そして空がオレンジ色から、夕焼けの赤に染まった頃、ボートは港へ流れ着いた。
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